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メインイベントその2 ハードコア王座争奪戦

――波乱のストロングスタイル王座争奪戦が終了し、リング回りでスタッフが忙しそうに動き回る。
 リングの周囲には先程には無かったパイプ椅子や長テーブル、梯子といった凶器が置かれている。その中でも一際観客の目を引いていたのが、数多の蛍光灯の束とガラスボードだ。
 次に行われるハードコア王座争奪戦はこれら凶器の使用が許可されているルールである。
 どの様な展開が繰り広げられるか、観客の期待を集める中会場が暗転。花道から選手が現れる。
 まず現れたのは現ハードコア王者の天野 翼だ。ハーフマスクで顔を半分隠した何時もの姿の他にチャンピオンベルトを腰に巻き、歓声を浴びながら花道を歩きリングへと上がる。
 チャンピオンベルトをレフェリーに渡し、自軍コーナーへ着くと続いて最初の選手の入場が始まる。
 花道から姿を現したのは、黒地のインナーと上下の白地コスチュームを纏ったセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)であった。
 リングインし、セレンフィリティが翼を見据える。笑みを浮かべているが、その眼は笑っておらず「負ける気などない」と語っているかのようであった。
 それは現王者とて同じ事。互いに視線を交わし、闘志を燃やす。今にも掴みかかりそうである。
 レフェリーはそれを感じ取ると、すぐにゴングを鳴らす様に要求。
 幕開けの甲高いゴングの音が会場に鳴り響いた。

 序盤からセレンフィリティは飛ばしていた。
 この試合形式はガントレットマッチ。勝ち残りが勝者となるルールである。
 初戦からの参加であるセレンフィリティが王者となるには全ての対戦相手に勝利する必要がある。
 故にセレンフィリティの取った戦術は短期決着。一試合にあまり時間をかけずに一気に決着を着けるというものだ。
 時間をかけた分だけ不利になる。そうセレンフィリティは割り切り、普段ならば大技小技をバランスよく配分する所を、そのバランスはある程度無視し、大技を要所要所で繰り出す事を考えていた。
 だが大技と言うのは威力が大きい分、隙も大きく決まりにくい物である。
 例えばセレンフィリティがボディブローでよろけた所にエクスプロイダーを放つがそれを翼は側転して着地、逆にドロップキックを食らってしまう。ダイヤモンドカッターを放とうとするが、仕掛ける瞬間突き飛ばされて技を抜かれた挙句にスクールボーイで丸め込まれあわや秒殺という展開。
 小技はある程度決まる物の、肝心の大技は決まるどころか逆に返し技を食らってしまう始末であった。
 ならばとチョークスリーパーを仕掛け体力を奪おうとするが、相手は王者。凶器の蛍光灯を手にされて頭を殴打され抜けられてしまう。
 徐々に蓄積されるダメージと攻め疲れによる疲労がセレンフィリティを蝕む。対して翼はある程度技を受けているが、ダメージにつながる物は一切ない。
 この状況がセレンフィリティに焦りを生じさせる。その焦りから、一気に勝負を決めようとセレンフィリティは動いた。
「まだまだ……まだまだこれからよ、お楽しみは!」
 奇襲気味にセレンフィリティが浴びせ蹴りを放つ。体重の乗った一撃にたまらず翼がダウンすると、セレンフィリティは場外へと降りガラスボードと蛍光灯の束を見比べ悩むが、持ち運びの容易な蛍光灯の束を持ち込む。
 束をリング中央に置くと、起き上がろうとする翼を捕らえボディブロー、更に地獄突きを連続して放ち動きを止めるとボディスラムのような抱え上げる体制に入る。
 セレンフィリティの狙いはボディスラムではなくエメラルドフロウジョンである。元々ダメージの大きい技である上に着地点には蛍光灯の束があり、食らっては一たまりもない。
「いくわよぉッ!」
 気合と共にセレンフィリティが抱え上げる――が、翼はタイミングを合わせて自ら跳び勢いをつけ背後に着地する。
 すると足払いの様にローキックを放ちセレンフィリティは尻餅をつく。すぐさま蛍光灯の束を拾い上げるとセレンフィリティに抱えさせ、翼は蛍光灯ごとその頭を蹴り抜く。
 破裂音と共に蛍光灯の破片が煙幕の様になり、セレンフィリティが包まれる。何とか手を着きダウンを免れるが、意識は一瞬飛んでいる状態だ。即座に翼はラ・マヒストラルで丸め込む。
 セレンフィリティが肩を上げたのは3カウントを数えてから。ゴングが鳴り響く中、一体何が起こったのかわからずセレンフィリティは唖然とした表情になっていた。
 だが徐々に状況――自身の敗北を理解すると悔しそうな表情を浮かべてリングを降りるのであった。

○天野 翼(5分29秒 ラ・マヒストラル)セレンフィリティ・シャーレット●