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ハードコアフェスティバル

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リアクション

――そのリングは異様を呈していた。
 本来あるべくロープは全て取り払われ、全て有刺鉄線へと変えられている。
 有刺鉄線に囲まれたリングの上には、安全の為ゴーグルなどを装着したレフェリーと選手が4名。
 顔を引き攣らせたリアトリスと鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)、そしてドヤ顔のコスプレスラー海音☆シャナこと富永 佐那(とみなが・さな)と頭に『P』という文字が書かれた布袋のようなマスクを被った阿部プロデューサーが選手としてリングに立っていた。
 これから行われる試合はデスマッチの形式として有名なノーロープ有刺鉄線電流爆破マッチである。
「「いやいやいやいやいや! 何でこんな試合形式!?」」
 リアトリスと貴仁が叫ぶ。元々この2人はエキシビジョンマッチを希望していたのだ。
「いや、リアトリスさんの場合は対戦相手が居なかったので仕方なく。貴仁さんは私との対戦を希望していたようですが、この人もそうだったもので」
 阿部Pはそう言ってシャナを見る。相変わらず背中にチャックのついたオーバーボディを着込んでいるようだ。
「ふっふっふ、サフィがやらかしてくれました」
 シャナがドヤ顔でリングサイドにいるグリーンのウィッグにブルーのカラーコンタクトを装着した霙音☆彡サフィことソフィア・ヴァトゥーツィナ(そふぃあ・う゛ぁとぅーつぃな)がやはりドヤ顔で頷いた。
 元々シャナはハードコア王座争奪戦への参戦を希望していた。しかしその際凶器として【電流爆破用有刺鉄線】を持ち込み電流爆破マッチとして行いたいという希望を出したのだが、大掛かりなリング変更を途中で行うのはどうかという理由でスタッフに却下されたのである。
 ならばとシャナはエキシビジョンで電流爆破マッチを行い、その際の対戦相手は阿部Pを希望したのである。こちらの希望はすんなりと通った。
 そして貴仁も阿部Pとの対戦を希望し、ルールは何でも構わないと回答していた為一緒に組み込まれることになったのである。
 リアトリスの場合はエキシビジョンを希望するも、対戦相手が居なかった為開催不可能になりそうだったために一緒に組み込まれるという措置を取られたのだ。
「い、一体何でこんな事に……」
 リアトリスががっくりと首を垂れる。相手を探せなかったのだから仕方ない。
「俺もスポンサーにちょっとサービスするつもりが……」
 貴仁も頭を抱えていた。ナラカTVがスポンサーとなっていると考えた貴仁はいい機会とばかりにナラカのテレビ番組『キリングタイム』の宣伝としての試合をするつもりであったのだが、何故こうなった。
「っとそうだ。試合前でなんですがうちのばっちゃん、リンゴ農家やってまして……この間大量に送られてきましたのでどうぞ」
 ふと思い出したように貴仁が何処からか取り出したリンゴを阿部Pや他の選手達に配りだした。
「これは御丁寧に。では早速」
 リンゴを受け取った阿部Pがリンゴに噛り付く。マスクを被ったまま。一体どうやって食っているかは不明である。流石ソウルアベレイター、人間辞めてる奴は違うな。
「おお、これは……!」
 感嘆の声を上げ、リンゴを貪る阿部P。あっという間に芯だけにしてしまった。
「うん、これは美味い!」
 そう言って芯を投げ捨てる阿部P。投げられた芯は有刺鉄線に当たった。

――直後、リング上を覆うのではないだろうかと言う程の大爆発が起こった。

「「え……えええええええええええええええ!?」」
 爆風に吹き飛ばされ、リアトリスと貴仁が目を丸くして叫んだ。
「ちょ、ちょっと威力強すぎませんか!?」
 シャナがサフィに向かって言う。この有刺鉄線のセッティングをしたのはサフィとスタッフである。本来ならば電流爆破といっても見た目と音と演出重視の威力を抑えた物のはずである。
 だがサフィも今の爆発で驚いたように目を丸くしながら、自分も知らないと首を横に振って否定する。
「ああ、ちょいとばかし威力は上げさせてもらいましたよ、ナラカ風に」
 阿部Pはそのように言った。流石地獄は違うな。
 目を丸くしていた選手達であったが、今更リングを降りる事は出来ない。腹をくくった様に表情を変える選手達。そして地獄の始まりを告げるゴングが鳴り響いた。

 試合が始まり、選手達は有刺鉄線に近寄らない様に戦っていた。
 リアトリスはモンゴリアンチョップを叩きこみ、貴仁はダメージ重視の重いミドルキックを、シャナは鋭いナイフのようなチョップを、阿部Pはエルボーを中心にダメージを与えていく。
 その中でも積極的に動いていたのはシャナであった。自身が持ちこんだ試合形式であるため、威力の方は予想外であったが覚悟はできているのだろう。
 積極的に相手を有刺鉄線にスルーしようとするが、こんなもの食らってはひとたまりもないと他の選手は寸前で踏みとどまったり、敢えて自ら倒れ込んだりして徹底的に阻止する。
 序盤はどの選手も動きがぎこちなかったが、徐々に慣れてきたのかそれともさっさと試合を終わらせたいのか、大胆な動きを見せ始める。
 有刺鉄線へのスルーを狙うシャナに対して、リアトリスが反撃に出た。モンゴリアンチョップから軽い助走での真空飛び膝蹴りを叩きこんだのだ。
 これに対しよろけたシャナは有刺鉄線にもたれこむ形に倒れ、大きな爆音と爆風に包まれる。
 爆風による煙が晴れると、黒こげになったシャナが倒れ込む。だが背中のファスナーが開き別の格好をしたシャナが姿を現した。
「ふぅ……オーバーボディが無ければ即死だった」
 そう呟くシャナであるが、リング上では別の戦いが起こっている。
「くらえぇッ!」
 リアトリスが貴仁に飛びつき、フランケンシュタイナーを狙う。
「食らうのはそっちだぁッ!」
 だが貴仁は飛びついたリアトリスを受け止めると、そのままリングにパワーボムで叩きつける。
 それを好機と見たか、シャナが走り出しレッグラリアットを放とうと飛び上がる。
 しかしその姿を貴仁は見ていた。迎撃する様にその場から飛び上がりドロップキックを放つ。吹き飛ばされたシャナは再度有刺鉄線に触れ、爆風に包まれる。
 今度こそ駄目か、と思われるもシャナの背にはまだファスナーがついていた。ファスナーが開き、また別の格好のシャナが姿を現す。
「オーバーボディが(以下略)」
 シャナが一息ついている間に、貴仁がリアトリスにスリーパーを仕掛けた状態でリンゴを無理矢理食べさせようと口に押し付けていた。それに対し阿部Pがカット。
「そういうことすると視聴率が下がりますよ!」
 カットしてきた阿部Pに対して貴仁がそう叫ぶと、視聴率低下と言う言葉に反応したのかびくりと動きを止める。その一瞬を狙い貴仁が阿部Pにアックスボンバーを叩きこんだ。
 阿部Pは吹き飛ばされるが、寸での所で有刺鉄線に触れずに済んだ。
 そこで一瞬気を緩めた貴仁にリアトリスが真空飛び膝蹴りを叩きこむ。たまらず倒れる貴仁の両足を抱えたリアトリスの右目が龍の瞳になっていた。【ドラゴンアーツ】を使用しているのだ。
 その状態でリアトリスは貴仁をジャイアントスイングで振り回す。勢い良く振り回し、そのままリングへと貴仁を叩きつけた。
 目まぐるしい展開で会場が湧く中、シャナが動いた。必殺技で一気に勝利を奪おうと考えたのである。
 スタミナは十分、狙い通りに動けることを確認し、シャナはコーナーに上がろうとする。
 この時シャナはコーナーから必殺の360°シューティングスタープレスやダブルローテーション・ムーンサルトプレスを狙おうとしていた。
 そして気づいていなかった――コーナーにも有刺鉄線が巻かれている事に。
 上ろうとして有刺鉄線に触れたシャナには勿論電流と爆破が襲い掛かり、衝撃でシャナの身体が吹き飛ばされる。
 吹き飛ばされたシャナに、リアトリスがぶつかる。そして立ち上がろうとしていた貴仁、阿部Pも巻き添えを食らった。

――結果、全員が有刺鉄線に突っ込むことになった。

 再度巻き起こる大爆発。リング上を爆風が包む。
 事故にも近いこの状況に観客からざわめきが起こる中、爆風が晴れてくる。
 リング上に転がるリアトリスにシャナに阿部P。死屍累々という光景の中、ただ一人貴仁だけが立っていた。
 観客から歓声が湧く中、貴仁は笑みを浮かべてこう言った。

「普通では観られないこんな過激な試合も観られる。そう、『キリングタイム』ならね」

 それだけ言うと貴仁は顔面から倒れ込んだ。
 その状況にレフェリーが最初カウントを取っていたが、誰も動く様子がない事から黙って首を横に振り、ゴングを鳴らす事を要求したのであった。

エキシビジョンノーロープ有刺鉄線電流爆破マッチ
(13分24秒 全選手TKO)
※参加選手はリアトリス・ブルーウォーター、海音☆シャナ、鬼龍 貴仁、阿部P