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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第1回/全3回)

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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第1回/全3回)

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第9章 百合園女学院校長室

「失礼いたします。白百合団からの報告を纏め――」
 報告に校長室を訪れた生徒会執行部、通称白百合団の団長桜谷鈴子(さくらたに・すずこ)は、来た場所を間違えたかと一瞬言葉を失った。
「あ、いや……鈴子さん、助けて」
 桜井静香(さくらい・しずか)が助けを求めてくるも、別に困った様子ではない。
 ただ、静香は何故か、日本のくノ一の姿をしているだけで。
「亜璃珠さんが用意してくださいましたの。静香さんの出身国の服だけあり、似合いますわね☆」
「う、うん。確かに可愛いけどね」
「でしたら、次はこの服は如何でしょうか?」
 続いて崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が取り出したのは、魔女っ子の衣装だった。
「賛成〜っ。桜井校長はいつもこうしてラズィーヤ様と遊んでるの? リアル着せ替え人形なんて、羨ましい。毎日どんな風に、戯れてるのかしら〜?」
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)が、怪しい笑みを浮かべながら、静香に楽しそうに問いかける。
「いや、遊んでるというか、ラズィーヤさんは服沢山持ってるから、喜んで貸して貰ってるんだ。たまに変な服も着せられるけどね……」
 静香は遠い目をした。
「変は服ってどんな服でしょうか? 詳しく教えて下さい。写真があったら、拝見したいのですけれど」
 ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)は、静香に問いかけた後、ラズィーヤに目を向ける。
「とっておきの写真もありますのよ、静香さんの悩殺的なお姿とか」
「や、ややややや、めて。そ、その話はーっ!」
 静香が慌ててラズィーヤの口を塞ごうとして、服の裾に躓いて転びかけてしまう。
「危ないっ。気をつけてーっ」
 遊雲・クリスタ(ゆう・くりすた)が小さな体で精一杯静香を支える。
「ありがと」
 静香はなんとか体勢を立て直して、遊雲の頭を撫でた。
「服、着るのはいいんだけどね。えっと……そう、男性もいるし、着替えるの大変だから、あとはハロウィンの時に着るよー」
 拒否しながらも、乗せられて既に6着ほどお着替えをさせられた静香であった。
「校長で遊ぶのはほどほどにしてくださいませね」
 鈴子が微笑みながら近付いて、書類を皆が集まるソファーのテーブルの上に置き、失礼しますと断りを入れた後、腰かけた。
「ご覧のとおり、こちらは平和です。鈴子さんが離れてらした時にも何事も起こりませんでした。予告日のハロウィンまではまだ時間もありますし、今から何かが起こっては困りますけれど」
 そう言い、お茶を取ろうとしたオレグ・スオイル(おれぐ・すおいる)の足がぴしっと叩かれる。
 隣に座るブネ・ビメ(ぶね・びめ)が軽く睨んでいる。
 少し開いていた足を閉じると、ブネは満足そうにうなづく。
 女性になりきるのはなかなか難しい。オレグは軽く吐息をついて、紅茶を戴く。
「予告状が届いていたラリヴルトン家に向かった団員は、怪盗舞士と接触を果たした模様です。ガラスの欠片を受けた者もいましたが、負傷者は出ませんでした。怪盗には攻撃は殆ど避けられはしたものの、僅かに手傷を負わせたようです」
 鈴子は副団長の優子や、団員達からの報告について掻い摘んで説明をする。
 報告書の他に、桜月 舞香(さくらづき・まいか)桜月 綾乃(さくらづき・あやの)が撮った音声と画像のデータも並べられた。
 それから、笹原 乃羽(ささはら・のわ)が拾った怪盗のアイマスクの欠片も。
 怪盗舞士――その人物は、光の翼を持つ長身の男性であった。
 能力は風を操る力と、高速移動。身体を消す力。
 何れも、アイテムによる能力の可能性もある。
 身体能力は高いものの、神がかりではなく、白百合団の乙女達であっても、2人がかりで、かすり傷程度を負わせることは可能であった。
 怪盗自身が攻撃を仕掛けてくることはなく、落下しかけた団員の1人を救出したとの報告も出ていた。
「優れた能力の持ち主ではありますが、白百合団でラズィーヤ様の大切なものをお守りすれば、守りきれるものと思いますわ。ただ、何が狙われているのかが判らなければ、守りようがございませんけれど」
「空京に迎えにいった団員、それから新たに届いたというミルミ・ルリマーレンの別荘にある秘宝を盗むという予告状。こちらについての調査結果についても、皆で共有した方がよさそうですわね」
 衣装を全て片付けて、亜璃珠も普通に会話に混じっている。
「被害状況があまり明らかにされていないのですね。公に出来ないものが盗まれたということでしょうか。先日の事件で盗まれたのは高級万年筆1本、ですのね……」
 亜璃珠はテーブルの上の資料を捲りながら呟いた。
 ラズィーヤは紅茶を飲みながら、考えを巡らせるも。
「わたくしには、そのようなものありませんし、大切なものといったら静香さんと過ごす時間でしょうか」
 微笑む彼女は、微塵も恐れてはいないように見えた――。