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リアクション
比島 真紀(ひしま・まき)とパートナーのドラゴニュートサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)、天槻 真士(あまつき・まこと)とパートナーの守護天使セラフィス・ローレンティア(せらふぃす・ろーれんてぃあ)、大岡 永谷(おおおか・とと)とパートナーの剣の花嫁ファイディアス・パレオロゴス(ふぁいでぃあす・ぱれおろごす)は、補給部隊の護衛として樹海の中を行軍していた。
「今のところは順調ね。このまま、何も起きないといいのだけど」
『禁猟区』が使える真士はリラックスした表情で、さくさくと歩いて行く。アサルトカービンも背負ったままだ。
「セラ、敵が来た時には、間違っても前に突っ込んじゃ駄目よ。……蜂の巣になりたかったら別だけど」
「なりたいわけないじゃないっすか!」
セラフィスはぶんぶんと手を振る。他の生徒の緊張を和らげたくて言っている軽口なのだが、危険を感じ取る技能がない生徒たちは、やはりいつどこから敵が来るか……と身構えざるを得ないので、少々すべってしまっているようだ。永谷は無言で、明花から借りた盾をしっかりと構えているし、ファイディアスも微妙な表情で真士とセラフィスを見ている。
樹海の中に、かん高い音が響いた。
「鳥……ではないでありますよね?」
真紀は空を見上げた。
「指笛、だと思う。そう言えば、前に敵が攻めて来た時にもあんな音がしたよね」
サイモンは周囲を見回したが、指笛を吹いたと思われる人影はない。だが、
「……敵、来るわよ」
打って変わって表情を引き締めた真士が銃を構えた。
「拠点まで無事に、とは行かなかったっすね。どうします、補給部隊は先に行かせるっすか?」
あまり役に立たないような気がしつつホーリーメイスを握り、セラフィスが訊ねる。
「輸送部隊だけでも、無事で拠点に到着させたいものでありますが……」
真紀が補給部隊を先に行かせよう、と言おうとしたその時、
「いや、この先にまた別の敵の集団が居ないって保証はない。俺たち全員が残れば、これから来る敵をしのげても、俺たちが追いつくまでの間、補給部隊は裸になる。かと言って、誰かが残って誰かがついて行くんじゃ戦力が分散する。ここは、護衛全員が輸送部隊と一緒に居た方が良いと思う」
永谷は首を振った。
「なかなか勉強しているようではありませんか、永谷」
ファイディアスが微笑した。
「皆様、ここは永谷の作戦に従って頂けませんか。失敗した時には、わたくしが責任を持って調教……いえ、お仕置きいたしますので」
その時、藪をガサガサとかき分けながら、何かがこちらに近付いて来る気配がした。
「来たっす!」
セラフィスが叫ぶ。永谷は一番前で盾を構えた。同時に、ゴン!と鈍い音がして、盾が内側から見ても一目でわかるくらいに凹んだ。藪から現れたオークが、持っていた銃を投げつけて来たのだ。
「あなたたち鏖殺寺院?……って、聞くまでもないか。それに、正体が何だろうが、とりあえず攻撃して来るんだから敵よね」
現れたのがオークとゴブリンなのを見て、真士は引金を引いた。
「……ところで、こいつらって息止めてもいいのかしら」
撃ってから、パートナーに向かって振り返る。
「蛮族はいいんじゃないっすか? 生け捕りにしても話聞けそうにないっすし。それより、指笛吹いてる奴を捕まえたいっすね」
メイスを握って待機中のセラフィスが答える。
「そうよね。じゃ遠慮なく!」
真士は再び引金を引いた。ゴブリンやオークも銃を撃ち返して来たり、そのへんにある石だの倒木の破片だのを手当たり次第に投げたりして応戦する。
突然、補給部隊の方から悲鳴が上がった。
「しまった、集中し過ぎだ!」
永谷が叫ぶ。
「後でお仕置きですわよ!」
言い残して、ファイディアスが治療役として補給部隊の方へ向かう。セラフィスも戦線を離脱して、治療に回った。
真紀とサイモンが慌てて悲鳴が上がった方に駆けつけた。木陰から、まるでジャグリングのように銀色にきらめくものが飛んできては、また戻って行く。そのたびに鮮血が舞い、補給部隊の生徒たちが手や足を押さえてうずくまる。しかも良く見ると、銀色のもの……おそらくは刃物は、一回ずつ違う場所から投げられている。敵が複数なのか、あるいは移動しながら投げているのか。
「これ以上好き勝手はさせないのである!」
真紀は『弾幕援護』を放ち、相手の攻撃を押さえ込んだ。サイモンがドラゴンアーツの遠当てで、敵が潜んでいると思われる藪を吹き飛ばす。それと同時に、藪の中から二つの黒い人影が、頭上の木の枝へ飛び上がった。
「待てッ!」
真紀は精密射撃で人影をとらえようとしたが、どこに隠れたか、人影は既に見えなくなってしまっていた。
「だめだった?」
「逃げられたのか?」
蛮族を始末した真士と永谷が駆け寄って来た。真紀はうなずいた。
「こっちは全部片付けたわ。……なぜだかは判らないけど、弾をあまり持っていなかったみたい」
真士の言葉を仕草で止めて、真紀は人差し指を唇に当てた。
「何か、聞こえるであります。……呻き声?」
真士と永谷は顔を見合わせた。
「セラ、ちょっとこっちへ来て! ……あなたはここをお願い」
真士は、怪我人の治療をしているパートナーを呼ぶと、永谷に声をかけ、真紀と一緒に声のする方へ向かった。そして、自分たちより先に襲撃された紅龍と熊猫を発見したのだった。
その後、ヒールされた紅龍と熊猫も合流した補給部隊は、どうにか遺跡までたどりついた。自分が何人敵を倒すかではなく、補給部隊を無事に遺跡に送り届けることが大切だと思っていた永谷は、ほっと胸を撫で下ろす。
「ふーむ……思ったより状況が悪いな」
紅龍や永谷、真士から話を聞いた林は唸った。
「敵は小さな隊に分かれて、こっちの哨戒をかいくぐって浸透するつもりなんだろう。その黒い奴らは、おそらく二人ともレベルの高いローグの技能を身につけてる。こちらの動きを見ながら、洗脳した蛮族に指笛で指示を出して誘導してるんだろう。テロリストと言うよりゲリラだな」
面倒くせえ、と呟いて舌打ちした林に、永谷が訊ねた。
「どういうことでしょうか?」
「こういう見通しの悪い地形で部隊を小さく割られて潜伏されると、全容の把握が出来ん。作戦は立てにくいは、掃討が完了したかどうかの判断は難しいは、こちらが不利になる材料ばかりだ。これが見通しの効く地形なら格好の各個撃破の的なんだが、障害物の多い地形で、しかもローグが居るとなると、おそらく既に浸透されまくりだろう。かと言って、現状の戦力で樹海をローラー作戦で索敵掃討して行くわけにも行かん。防衛しなければならないポイントに戦力を集めていれば、とりあえず負けることはないだろうが……」
「勝つことも出来ない可能性がある、ということですね」
真士の言葉に林はうなずき、盛大にため息をついた。
「樹海に火をつけちまえば楽なんだろうが、そういうわけにも行かんだろうしなぁ……」
その後の教官の呟きを、生徒たちは聞かなかったふりをした。
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