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栄光は誰のために~英雄の条件 第2話(全4話

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栄光は誰のために~英雄の条件 第2話(全4話

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 その頃、本校に戻っていたネージュは、輸送部隊の負傷者の救護にあたるように言われて、本校の敷地内を正門に向かって走っていた。
 「ネージュ、本当に大丈夫なの?」
 そんなネージュと並んで走りながら、楓は心配そうに尋ねる。本来なら研究棟の守備にあたらなくてはいけないのだが、ネージュのことが心配でついて来てしまったのだ。
 「だって、検査の結果はどこも悪くないって……楓も聞いたでしょ?」
 「そうだけど、でも、やっぱり心配だよ。それに……何だか、いやな感じがするんだもの」
 微笑むネージュに楓が言った、その時。突然、校舎の影から黒い機体が二人の目の前に現れた。楓もネージュも、悲鳴を上げて足を止める。
 「お、鏖殺寺院の飛空艇……」
 乗っていた、浅黒い肌に金の髪の少年……ルドラは、楓の後ろにいたネージュを見て驚きの表情を見せた。
 『……《最果(いやはて)の白》? そうか、そういえば君もここに居たんだったっけ。報告は受けていたけど、すっかり忘れてたな』
 ネージュが目を見開く。
 「ネージュ?」
 楓はネージュとルドラを見比べた。ルドラは楓のことは目に入っていない様子で、ネージュに語りかける。
 『君一人の力では僕たちを倒せない。でも、生かしておいたら鬱陶しいしね。……死んでもらおうかな』
 そして、ルドラはにっこりと微笑んだ。次の瞬間、
 「危ないっ!」
 少女の声がして、楓とネージュは思い切り手を引っ張られていた。二人がいた空間を、機銃掃射が薙ぐ。もしもそのまま立っていたら、二人とも命はなかっただろう。
 「あ、ありがとう」
 楓は、自分を助けてくれた相手を見た。
 「え!? えーと、な、ないすとぅーみーちゅー?」
 楓を抱きとめた一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)は、なぜか妙にうろたえてそう言った。危険も忘れて、楓は首をかしげる。
 「あ、あのっ、……うろうろしてたら危ないから!」
 月実は、楓の手を引っ張って走り出した。実は月実本人も、自分で炊いたかき釜飯をご馳走しようと楓を探してうろうろしていたのだが、自分のことは瞬時に遠くの棚に放り投げられてしまう。
 「ネージュさんも、早く!」
 月実のパートナー、剣の花嫁リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)も、ネージュの手を引いて走る。ルドラは圧倒的な優位にいるからか、からかうように、少女たちの足元めがけて機銃を撃ってきた。まるで、逃げられるものなら逃げて見ろ、とでも言いたげに。
 「あのっ、技術科の研究棟へ!」
 もつれる足を懸命に動かして走りながら、楓は月実に言った。
 「あそこが、一番安全だから!」
 「わかった!」
 月実はうなずいた。
 「おいっ、どうした!?」
 研究棟の入り口にはロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)とパートナーのヴァルキリーアリシア・カーライル(ありしあ・かーらいる)、剣の花嫁レナード・ゼラズニイ(れなーど・ぜらずにい)が居た。ロブとアリシアは『光龍』の搭乗メンバーだが、《冠》を守るためにあえて『光龍』を使わず、まだ《冠》が中にある技術科研究棟を守ることを選んだのだ。
 「入れてっ!」
 月実は短く叫ぶのが精一杯だったが、ロブは後ろから姿を現した高速飛空艇を見て、すべてを理解した。
 「うっわー、もしかしてすんごくヤバい状態?」
 レナードがロブに囁く。
 「だが、ここを退くわけには行かない」
 ロブは扉の前に設置してあった機関銃に手をかけた。
 「ここは私たちが。早く!」
 アリシアが扉を開けて、四人を中に入れる。
 「魔法で補助はするけど、戦闘では役に立ちそうにないし、頑張ってくれよ」
 レナード『パワーブレス』を使うと、さっさと二人の後ろに下がった。一瞬遅れて、高速飛空艇が機銃を撃って来る。
 「盾がないのがつらいですね……」
 スウェーで弾丸を避けながら、アリシアが言う。
 「ああ、早めに終わらせよう」
 ロブは精密射撃で、高速飛空艇の風防を狙った。同じ場所に弾丸を撃ち込むと、びし、と風防にヒビが入った。その向こうで、わずかにルドラの表情が動く。それと同時に、機銃掃射が止まった。
 『残念、弾丸切れだ。今日はこれで帰るよ。でもまた来るからね』
 ルドラはそう言い残して、高空へ離脱して行く。上空でまだ戦闘を続けていた他の飛空艇もそれに従うように去って行く。ロブはその姿を睨み上げ、小さく息をついた。

 一方、楓、ネージュ、月実、リズリットの四人は、研究棟の分厚い扉を閉めて、その場にへたり込んだ。背後で、扉に機銃の弾がはぜる音がしたが、扉が破られることはなく、外はやがて静かになった。
 「終わったぞ」
 扉を開けて、ロブが言う。
 「敵は去った。弾丸切れだそうだ」
 「……ネージュ」
 息を整えながら、楓はパートナーを見た。
 「さっきのあの男の子の子のこと、知ってるの?」
 ネージュは混乱を隠し切れない表情で、首を横に振った。
 「あの人のことは知らない……でも、誰だかはわかる、と思う」
 そこへ、明花や太乙が駆けつけて来た。
 「何があったの!」
 楓と月実は、ルドラに襲われたことをかいつまんで教官たちに説明した。
 「ネージュ」
 話を聞いた明花は、腕組みをして、座り込んでいるネージュを見下ろした。
 「あなたが知っていることを、あらいざらい話しなさい」
 「はい……あの、信じてもらえないかも知れませんけど……」
 ネージュは目を伏せる。
 「この状況で、たちの悪い嘘や冗談を言うとは思えないわ。とにかく話してごらんなさい」
 明花は厳しい表情で言った。ネージュは小さくうなずくと、口を開いた。
 「ルドラは多分、《黒き姫》のパートナーだと思います。わたしが記憶を持ってたみたいに、鏖殺寺院側にも誰か……ルドラ本人じゃないかも知れないけど……あの時のことを知っている人がいるんだと思う。《工場》が作られた時のこと。シャンバラが滅んだ、あの戦いのことを……」
 「記憶を持ってるって!」
 楓はネージュの肩を掴んで、自分の方を向かせた。
 「思い出したのはついこの間、あの声が聞こえるようになってからなんだけど……。あの……わたし本当は、このあいだから聞こえていたあの声が、何て言っていたかわかってたの」
 消え入りそうな声で、ネージュは言った。
 「『つとめを果たせ』って……。『目覚めの時は来た、つとめを果たせ』って」
 「どうして、ちゃんと全部言ってくれなかったの!」
 楓は叫んだ。
 「だって、そんな声が聞こえるなんて変でしょ? 機晶姫が耳鳴りなんて変だって思ったから、もしわたしがどこか壊れてて、声が聞こえるんだとしたら、知られたら楓の側に居られなくなっちゃうかなって、思って……」
 ネージュはしょんぼりとうつむく。
 「ネージュ」
 楓は、床に置かれていたネージュの手を取って握り締めた。
 「どんなことがあっても、私はネージュを信じるよ。だって、パートナーでしょ? 何も言ってくれない方が心配だよ」
 「ごめんなさい……」
 ネージュは謝ると、顔を上げて皆を見た。
 「わたし……《最果の白》は、《最先(いやさき)の黒》を復活を止めるために作られたの。正確に言うと、『復活させてはいけません』って後の世の人たちに伝えるため……かな」

 かつて《工場》は、古代シャンバラの極秘研究機関の研究所だった。鏖殺寺院に対抗するための、技術や兵器を開発するために作られた場所だったのだ。
 だが、その存在は、やがて鏖殺寺院の知るところとなった。最終兵器として完成間近だった機晶姫《最先の黒》……カーラは、鏖殺寺院の手によって汚染され(ネージュの言うところによると、コンピューターがウイルスに感染するようなものらしい)、起動したら最後、人間を殺し続ける殺人姫としての意識をすり込まれてしまう。彼女を作った技術者は、起動実験の直前にそのことに気付いたが、手を打つ前に、鏖殺寺院はカーラを奪うべく《工場》を襲撃。カーラを破壊する方法がなく、また、鏖殺寺院の襲撃で負傷し、殺人姫としての意識を消去する時間もなかった技術者は、カーラのエネルギーを《冠》経由で吸い出すという方法でカーラを封印すると同時に、資料を処分し、《工場》の防衛システムに侵入者排除の命令を下した。そして、血文字を残して息絶えたのだ……。

 「わたしを作ったのは、当時《工場》の外にいたけれども、《工場》の事情に詳しかった技術者の一人です。《工場》が襲撃されたこと、内部から封印されたことを知って、その人は私を作り、未来の人々に宛てたメッセージを、記憶の奥底に隠しました。《工場》が発見されて、カーラが目覚める危険が迫った時に、危機を伝えるために」
 「他に何か覚えてないんですか? 特に、あの巨大人型機械に関することとか、《冠》の製造方法とか!」
 一条アリーセがずずずい、とネージュに迫る。だが、ネージュは首を横に振った。
 「技術的な知識は、わたしの中にはありません。わたしを作ったのは、《工場》の技術者本人ではありませんから、技術的なことを詳しくは知らなかったのかも知れませんし……わたしが鏖殺寺院に見つかった時に危険だと考えたのかも知れません」
 「なるほど、ねえ……」
 明花は大きくため息をついた。その時、再びサイレンが校内に鳴り響いた。明花も、太乙も、生徒たちも緊張した表情で、状況を説明する放送を待つ。

 「……む、あれは……?」
 ヒポ谷で見張りをしていた英霊童元 洪忠(どうげん・こうちゅう)は、眉の上に手刀をかざし、目を細めて晴れ渡った空の一点を注視した。
 「……飛龍!」
 「第三師団かな?」
 パートナーの久多 隆光(くた・たかみつ)も空を見上げる。
 「いや……違うな、あれは……」
 飛んで来る一団の飛龍の群れ、その背に乗っているのは教導団や他校の生徒ではなく、黒いボディスーツの人影だ。
 「鏖殺寺院!!」
 洪忠は叫んだ。周囲の生徒たちがざわめく。その間に飛龍の群れはかれらの頭上を通り越し、本校がある方角へ飛び去って行った。
 「ソアー、お願いじゃ。乗せておくれ!」
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)は、数日前に出来上がって届いたばかりの鞍を置いたヒポグリフに駆け寄った。走り出したヒポグリフの背にひらりと飛び乗ると、ヒポグリフはカナタを乗せて、そのまま空へと舞い上がる。他の生徒たちも、われ先にと自分が仲良くしているヒポグリフの背に乗せてもらい、空へ駆け上がった。
 「……何ですかな、あれは……」
 ヒポグリフの背から地上を見下ろしたセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)の口から、くわえていた芋ケンピがぽろりと落ちた。
 数え切れない人数の蛮族の兵士たちが、岩山を登って来る。ところどころに黒い人影が居て、蛮族たちを煽動しているようだ。蛮族の軍団は、先刻の飛龍と同様、本校の方角へ向かっている。
 「これは、大変なことになったぞ……」
 レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)が呟く。

 そして、《工場》では、林偉がものすごい形相で携帯に向かって怒鳴っていた。
 「あぁ!? 何だと? ちょ、燭竜(しょくりゅう)、おまっ……!」
 「何事ですの?」
 切れたらしい携帯を深刻な表情で睨みつけている林に、沙 鈴(しゃ・りん)が尋ねる。林は携帯をしまい、厳しい表情で生徒たちを見回した。
 「本校に居る俺のパートナーから、連絡があった。本校が鏖殺寺院の襲撃を受けている。蛮族を中心とする連隊規模の部隊が押し寄せている上に、飛龍を使った飛行部隊も出て来ているらしい。本校から補給部隊が出せなくなったから、後はそっちでどうにかしろ、だそうだ。……李!」
 「はい」
 進み出た鵬悠に、林は言った。
 「ここはいったん任せる。俺はとりあえず、本校の様子を見て来る」
 「了解しました」
 敬礼する鵬悠に背を向けて、林は軍用バイクに飛び乗った。

担当マスターより

▼担当マスター

瑞島郁

▼マスターコメント

 前回に続き、大変遅れてしまい申し訳ありませんでした。第2回のリアクションをお届けいたします。

 まずは業務連絡です。

●『光龍』部隊の方へ

 『光龍』の運用についてですが、次回実戦投入より以下のローカルルールに従って判定します。

 出力は低・中・高の三段階。低でも土塁を吹き飛ばす程度の威力があるため、屋内では使えません。また、PCが持っている光条兵器と違い、鎧を斬らずに中の人を斬るようなことはできません。通常の兵器同様、命中した場所にダメージが行きます。
 出力低での使用1回につきSP3点、中なら5点、大なら10点を消費します。ちなみに10点分以上注ぎ込もうとすると砲が壊れます。《冠》装着者のSPが0になれば失神してしまいます(失神の判定に地球人パートナーのSPは合算されません)。
 《冠》の使用には装着者・パートナー共に集中力が必要となるため、《冠》使用中にSPを回復して連続使用しようとした場合でも、装着者・パートナーのうち「音楽」の値が低い方の1/2(端数切捨て)と同じ回数までしか使うことが出来ません。また、一度SPが切れたり使用回数の上限が来ると、SPを回復しても6時間以上休息しなければ復帰はできません。
 SPの回復については、1つの手段につき1回のみ有効とします。例えば、『SPリチャージ』と『SPルージュ』は重複して使えますが、『SPリチャージ』を何回使っても、1回分しか回復しません。

 『光龍』部隊のPCは少尉待遇とし、運転及び砲手を機甲科のNPC一般生徒に依頼することができます。ただし、NPCに運転手・砲手以外のことをさせることは出来ません。また、《冠》装着者以外のLCや《冠》装着者ではないPCで運転手や砲手の希望者が居れば、そのような内容のアクションをかければ認めます。(他のプレイヤーのPCを運転手・砲手にする場合は、グループアクションとしてください)
 『シャープシューター』『スプレーショット』などのスキルは、砲手が持っている場合に限り使用可能とします。NPC砲手は一応技能持ちですが、息をあわせるという点ではPCに劣ります。

●ヒポグリフ部隊の方へ

 ヒポグリフは基本的に一人乗りで、鞍も一人乗り用しかありません。LCも参加させる場合、LCも一頭ずつヒポグリフを使うことが出来ます。
 キャンペーンシナリオですので、前回及び今回に参加していなPCを次回以降にヒポグリフ部隊に参加させた場合、騎乗の習熟度に差をつけて判定します。前回から継続してヒポグリフ隊にいるPCは、次回からヒポグリフに乗って戦闘に参加することが出来ます。その場合、専用の軽量防具(ヘルメットと全身用プロテクター)を借りることが可能です。ただ、この防具をつけていても、高度が高ければ、転落すれば無事には済みませんのでご注意ください。
 自分の乗るヒポグリフに名前をつけたい方は、次回以降アクションに記入して頂ければ反映いたします。


 以下は判定関係の注意事項です。
 個別に質問されたものもありますが、全体にアナウンスした方が良いと思われましたので、ここで一括して書きます。

 まず、「アクションを書く時、天候を考慮に入れる必要はありますか?」というご質問があったのですが、私のシナリオでは、前回のリアクションやシナリオガイドに天候の情報がなければ、考慮に入れる必要はないと考えてかまいません。少なくとも、天候に関する情報が何もないのに、急に天気が悪くなって判定に不利になることはありえませんので、ご安心ください。ただし、この時期この地域ではこういう天候になることがあるよ、と言う情報がアクションを書く時点で提示されている場合は、アクションによっては考慮に入れる必要があります。
 (今後もしも天候を操れるような魔法やアイテムが出た場合には、この限りではありません。また、『天候が変わるのを待って何かをする』というアクションをかけたい場合は、シナリオごと、アクションごとにケースバイケースの判断になると思われます)

 これは以前にもどこかで書いたような気がするのですが、『禁猟区』は、レーダーのように敵の数や方向を正確に教えてくれるものではありません。危険が迫った時に予兆という形で教えてくれるものです。

 機晶姫は短時間の空中移動は可能ですが、飛行機のように自由に空を飛ぶことはできません。自由設定に飛行機のような形をしている、飛行機に変形する、などと書いてあっても同じです。

 アシッドミストで、アクションによって生成する酸の種類を指定することは出来ません(魔法の霧であって化学的なものではないので)。調節可能なのは濃度だけです。また、長時間に渡って継続的に霧を漂わせておくことは出来ません。霧吹きの霧のように、攻撃の時に一回だけ噴射するものとお考えください。野外か室内か等、場所的な条件で若干異なりますが、数秒経てば効果はなくなります。

 煙幕ファンデーションは、広範囲に煙幕を張れるものではありません。人一人を隠せる程度です。

 次回はいよいよ、鏖殺寺院と全面戦争です。参加をお待ちしております。