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リアクション
クラーク 波音(くらーく・はのん)とプレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)の2人はちょっと緊張しながら、手を繋いで一緒に夜のコンサートホールに入った。
「コンサートってクラシックだったんだねぇ」
プレナは周囲の大人っぽい人たちを見ながら波音に声をかける。
波音はうんうん頷きながら、ニコッとプレナに笑顔を見せた。
「せっかくだし、まったりと楽しもう」
「うん、そうだね〜」
プレナたちは緊張したが、バレンタインということもあって、クラシックでもわりと聞きやすいものが揃っていた。
1時間半ほどして、休憩が入ったので、プレナと波音はロビーに出た。
「かっこいい人っていないかなぁって思ったけど、ヴァイオリンの人とかかっこよかったねぇ」
「うん、来てるカップルさんも素敵で、いつかあんなふうにあたしもデートできたらなーって思ったよ」
「はのんちゃんならきっとできるよ!」
「んっふっふ〜、そしたら、Wデートしようね、プレナお姉ちゃん!」
2人は曲や楽団の話、カップルさんたちの話をしながら、盛り上がった。
そして、波音はプレナにバレンタインチョコをプレゼントした。
「一生懸命作ったんだ!」
気に入ってくれるといいなと思いながら、波音はプレナが箱を開けるのを見つめた。
中には波音の顔くらいある大きなチョコが入っていて、その表面にはホワイトチョコで大きく『プレナお姉ちゃんいつもあそんでくれてありがとっ♪』と書かれていた。
そして、そのチョコと一緒に波音がお小遣いを貯めて雑貨屋さんで買った、うさぎさんのヘアピンが入っていた。
「わあ、ありがとう〜」
プレナは喜び、髪にうさぎさんのヘアピンをつけてみた。
「どう、似合う?」
「似合う似合う!」
プレナにはちょっと子供っぽい感じもあったが、精一杯選んでくれた波音のために、プレナは今日はずっとこのうさぎさんヘアピンをつけておくことにした。
そのプレナの方も友チョコを持ってきていた。
洋酒とハチミツで煮込んだ林檎を、ホワイトとビターのチョコでコーティングしたアップルチョコだ。
「マグに手伝ってもらってがんばって作ったの」
お掃除ならば右に出るもののいないプレナだが、料理もお菓子作りも苦手だった。
しかし、金色の花柄模様の包みに、透明セロファンと青リボンでラッピングされたそれを見て、波音は心躍った。
中を開けると、アップルチョコがあり、波音は喜んでそれを手に取った。
「わぁ!」
するとチョコをあげるのと同時に、シャリンと音がした。
包みの中に、スワロフスキービーズで作った、プレナ手作りのクチナシの花のチャームが忍ばせて合ったのだ。
「すごーい!」
プレナの手作りと聞き、波音は尊敬の眼差しでキラキラと見つめる。
クチナシの花言葉は『喜びを運ぶ』であり、波音のブレスレットに付けて、波音にたくさんの喜びが運ばれますように、自分が親愛なる友にありったけの喜びを運んであげますように……という願いを込めて、プレナは贈ったのだ。
波音は早速、それをブレスレットにつけ、笑顔を見せた。
「これからもよろしくね、プレナお姉ちゃん」
「うん!」
2人は笑顔で頷きあい、コンサートの後半を聞くため、仲良く手を繋いで席に戻った。
沢渡 真言(さわたり・まこと)と三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)はバレンタインに毎年2人でお茶会を行っていた。
今年のお茶会はお互いのパートナーもいたので、賑やかなものになった。
しかし、その賑やかなお茶会が終わった後、真言とのぞみは二人だけのお茶会を改めて行っていた。
「今日は本当に賑やかだったね」
のぞみの言葉に頷きながら、真言はのぞみの前にすっと小箱を置いた。
もうチョコレートはみんなでたくさん食べているので、小ぶりなトリュフチョコレートだけが入っている。
そして、小箱の上には透き通った真紅のガラスに蒼い花の描かれたペンダントが置かれた。
「これ、あのときのと色違いの……」
のぞみが見上げると、真言はこくりと頷いた。
紅葉の季節から、ずっと色々と考えていた。
一流の執事になるためには、自分の気持ちに区切りをつけなければとその頃の真言は思っていた。
でも、自分はまだのぞみに何も伝えてなかったことに、真言は気づいたのだ。
「あの……」
真言が口を開いたとき、同時にのぞみも口を開いた。
「あのね、真言」
のぞみが何か言い始めたのに気づき、真言は口を閉じる。
あっ、とのぞみも気づいたが、真言が「どうぞお先に」というので、紺色の着物を寄せて座り直し、執事服の真言を自分の前に座らせる。
真言の首元には、あのときのペンダント。
のぞみは真言の前にシンプルなミルクチョコが入った小箱と、雪の結晶の飾りの付いた銀のタイピンを差し出した。
「これ、プレゼント」
すぅっとのぞみが息を吸う。
今までは冗談めかしてしか言わなかったけれど、今日はいつものボーイッシュな服でなく、着物を着て、真摯に自分の気持ちとそして、真言と向き合おうとのぞみは思ったのだ。
真言から贈られたペンダントをぎゅっと握り、のぞみは茶色の瞳でまっすぐに真言を見て、想いを伝えた。
「あたしが真言のご主人様になる」
その言葉に、真言は驚いて、一瞬、時が止まった思いだった。
のぞみはもう一度ハッキリと真言に伝えた。
「あたしが……真言のご主人様になる!」
ずっと一緒に居たいから、のぞみは想いをはっきり伝えた。
くす、くすくす、と真言が普段にない笑いを見せた。
「……真言?」
のぞみが覗き込むと、真言は笑いを収めて言った。
「いえ、先回りされてしまいましたと思いまして」
真言は姿勢を正し、のぞみの言葉に答えた。
「私が主を探して毎日修行しているのは、いつも貴女の側にいても、誰にも文句を言われないような貴女にふさわしい執事になりたいから」
「……それって?」
主を探すという言葉と、貴女にふさわしい執事になりたいという言葉が、相反する気がして、のぞみは首を傾げた。
すると、真言はそれに気づき、噛み砕いて答えた。
「貴女にふさわしい執事になりたいといいながら、貴女の前で主を探してるなどと言う行動をしてしまい……反省しています。おかしな表現かもしれませんが、恋人になりたいと思っている相手の前で『誰か恋人になってくれる素敵な人がいないかな〜』と言っているようなものです。これでは、私はまだまだだなと思います。でも」
「でも?」
「貴女はそんな私に手を差し伸べてくださった。主になってくださると」
微笑が、真言の顔の上に浮かぶ。
「よろしくお願い致します、ご主人様」
真言のその言葉に「こちらこそ」とのぞみは柔らかな笑みを見せたのだった。