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恋人たちのバレンタイン2

 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は友人の宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)からもらったチケットを手に、バレンタインコンサートへ向かった。
「久しぶりですね、ルカルカ」
 なかなか任務で一緒に行動ができないので、真一郎はルカルカと久しぶりに会うのを楽しみにしていた。
 しかし、ルカルカの方はきょとんとした顔をした。
「あれ、久しぶり……かな?」
 アクティブなルカルカからすると、そういった感覚はないらしい。
 もう少し子供な相手ならば、寂しいとかの不満を漏らすであろうが、大人な真一郎はルカルカに優しい笑みを向けた。
「ルカルカが楽しく暮らしているようならば、何よりですよ」
 それでは入りましょうか、と真一郎が促し、二人はコンサート会場に入った。
 座席に座ると、真一郎は服装のことを話題にした。
「こうやって正装のようなものを着ると緊張しますね」
 真一郎は黒いシャツに黒いベストを合わせ、ルカルカからもらった白いマフラー姿で、今日のコンサートに来ていた。
 ルカルカはそんな真一郎に会ってすぐから見惚れていたらしく、素直に賞賛した。
「でも、すごくかっこいいわ」
「ありがとうございます、ルカルカ。ルカルカも……こういう言い方は語弊があるかもしれませんがかっこいいですよ」
 今日のルカルカは真一郎とお揃いの白いマフラーに黒いスーツで来ていた。
「真一郎さんが男装が好きって、友達から聞いたから」
 ルカルカの黒のスーツに、真一郎がプレゼントした羽のペンダントがキラッと光る。
「よく似合っています」
 2人は開演のブザーが鳴ると、おしゃべりを止め、音楽に聞き入った。
 亡き父を思い描かせるような雄大な曲が流れると、真一郎は思わず涙が溢れそうになった。
 ルカルカに気づかれないように、真一郎はこっそりと涙し、そのまま何事もなかったかのように、コンサートに集中した。

 コンサートが終わると、2人は真一郎が予約しておいた日本料理店に入った。
「本日は冬の旬のものが中心となっております」
 着物姿の店員さんの言葉通り、机には戻り鰹のたたきや真イカ、カンパチの刺身に甘海老が並び、机の中心にはズワイガニの鍋が置かれた。
「わあ、おいしそう。お鍋にふきのとうとかキャベツを入れるんだ」
「ええ。なかなかに美味ですよ」
 真一郎に勧められ、ルカルカは箸をつける。
「……おいしい!」
「それは良かったです」
 2人は先ほどのコンサートの話や一緒に行くことのできなかった任務についての意見交換などをし、食事を勧めていった。
「雪山どうだった?」
 ルカルカの質問に、真一郎は小さな苦笑を見せた。
「自業自得な人がいてヒヤヒヤしたり、ルースさんと意見の食い違いで殴ってしまったり……大変でした。俺は傭兵上がりですから、ああいう場面になると、軍属に慣れてないのが出てしまうのかなと思ったりしたものです」
「そうだったんだ……でも、雪はいいよね、行ってみたいな、スキー」
「そうですね。今度何か小旅行のようなものとか、一緒に体を動かすようなイベントに行ったりしましょうか」
 そこで真一郎は小さな笑みを見せる。
「体を動かすといえば……ルカルカとダリルさんの薔薇の学舎でのイベントの活躍聞いてますよ〜」
 からかい気味の真一郎の言葉に照れながら、ルカルカは真一郎に冬のバトルフェスティバルの報告をした。
「羽子板に出場をして、ダリルが優勝で、ルカルカが準優勝だったの。淵もダリルもすっごく強かったよ」
「ほう、さすがですね」
「あ、妬ける? うふふ、バカね。ダリルは相棒よ。真一郎さんの姜維さん達と同じ家族よ☆」
「家族ですか。家族といえば弧狼丸が俺に似てるといわれました」
「似てるって?」
「何でも食べるトコとか……そうそう、可奈も遊びたがってるから今度一緒にまた出掛けましょう、姜維も淵さんと会いたがってましたよ」
 2人はそんな風に楽しく話を続け、気づくともう夜遅くになっていた。
 真一郎はルカルカを送り、ルカルカは真一郎にデートの最後にチョコ色の手編みのカーディガンをプレゼントした。
「甘いもの苦手って聞いたから」
 その言葉と共にキスも贈る。
 唇が離れると、真一郎は真剣な面持ちで、ルカルカを見つめた。
「ルカルカ……これを受け取ってくれますか」
 真一郎が差し出したのは、ルカルカの誕生石でもあるダイヤの婚約指輪だった。
「え……」
 夜の闇に光るそれを見て、ルカルカはうれしそうに笑顔を見せた。
「ありがとう、真一郎さん」
 真一郎はルカルカのお礼の言葉を聞き、ルカルカの左手の薬指に婚約指輪をはめてあげた。
「……うれしい」
 キラッとルカルカの瞳に涙が浮かぶ。
 そんなルカルカを、真一郎は優しく抱きしめるのだった。


 ルカルカがデートをしている頃。
 パートナーであるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)と夜景の見えるレストランで食事をしていた。
「うれしいですわ、ロシア料理のフルコースなんて」
「気に入ってもらえたなら良かった」
「はい。ダリルさんにはお正月にもお土産を頂いて、本当にありがとうございます」
 エレーナは笑顔を見せ、楽しく食事が進み、その後、2人はスカイバーに行ってお酒を酌み交わしつつ、剣の花嫁の在り方について話した。
「王国が滅んで久しい。地球とも繋がった変化する世界の中で、剣の一族の在り様も変わるだろう。だが、人として生きるのは案外難易度が高い……そう思わないかエレーナ」
「人としてですか?」
 ダリルの質問にエレーナは不思議そうな顔をする。
「ああ、エレーナは将来どうしたい?」
「将来ですか。幸せな家庭を築きたいですわね」
 エレーナの回答にダリルは表面上は平静を装ったが、内心は自分でも意外なほどに動揺した。
「幸せな家庭……か?」
「ええ。イリーナは家庭を築くってタイプではないので、あの子が戦いに疲れて帰ってきたら、休めるところが作りたいんです」
 花のような笑顔を浮かべ、エレーナはダリルの顔を覗き込んだ。
「ダリルさんもずっと戦いの毎日になるでしょう。だから、戦いが終わったら、どうぞ戻ってきてください。ダリルさんが好きなものを何でもお作りして待っていますわ。あ、作っておいて戦いに一緒に行くのでもいいですが」
 どうせイリーナが戦いに行けば、わたくしもついていくことになるでしょうし、とエレーナが付け加える。
 だが、ダリルにとって問題なのはその点ではなかった。
「家庭を築くということは、そのような相手が……?」
 エレーナにはいるのか、と聞こうか迷う前に、エレーナの後ろから黒いオーラが立ち上った。
「ふふふふふ……、幸せな家庭といっても1人で築くことになりそうですけどね。ふふふふ……」
「エ、エレーナ」
「あ、いえ、すみません。ダリルさんは将来はどうしたいというのがあるのですか?」
「俺は人として……と言う思いがあるが、だが、しかし……」
「では、ダリルさんは剣の一族として戦うだけでなく、人として楽しんだりもするということですね」
 ニコッとエレーナが笑顔を見せる。
「それじゃ、春になったらみんなで遊びに行きましょう」
「う、うむ……」
「うれしいですわー、ダリルさん、そういう遊びには乗ってくれないかなあと思ってましたので」
 遊びに行くという言葉に慣れていなそうなダリルを尻目に、エレーナはうれしそうな顔をする。
 しかし、エレーナの笑顔を見ていると、そんなにうれしいならいいのかなと、ダリルは思うのだった。
 タクシーでエレーナを送り、ダリルは手作りの洋酒入りチョコの箱と薔薇の花を渡した。
「またこうして会ってほしい」
 その言葉にエレーナは不思議そうな顔をして、確認する。
「それは2人でってことでしょうか?」
「…………」
 先ほどみんなで遊ぶという約束をしたのに重ねて聞かれたせいかもしれない。
 ダリルが返答を考えていると、エレーナはすっと自分のチョコをダリルに差し出した。
「喜んで。今日はありがとうございました、ダリルさん」
 エレーナはダリルからもらったチョコとバラの花を大事そうに抱え、帰っていった。
 ダリルが戻ると、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が出迎えた。
「初デートお疲れ」
 ニヤッと笑うカルキノスにダリルは「バカモノ」とだけ呟き、ダリルは部屋に入っていった。
「いい竜族の女でもいりゃ、アプローチすんだけどな」
 カルキノスはそう呟きながら、他人に……ルカルカの恋人である真一郎にすら興味を持たない……ダリルがエレーナに興味を持ったことを面白く感じていた。
「さて、剣の一族に真の感情はあるのか、それは成立しうるものなのか……」
 これからも興味深く観察させてもらおうと、カルキノスは密かに思うのだった。