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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション

「いかにもデートって感じですよね、2人でこんな日に出かけると」
 薄茶の髪を靡かせ、月見里 渚(やまなし・なぎさ)が笑顔を見せる。
 パートナーのセイリオス・リート(せいりおす・りーと)はそんな渚に「転ぶなよ」と声をかけながら、少し後ろからついていく。
 今日は『いつか好きな人とバレンタインデートする時の予行練習』として、2人で街に出た。
 しかし、街に出た渚はそんなことも忘れ、ウインドウショッピングを楽しんでいた。
「見てください、あそこの雑貨屋さん、すごい可愛い!」
「どこだ?」
「あそこです、あそこ。中に入ってみていいですか?」
「聞く前に足が動いてるだろうが」
 セイリオスは小さく苦笑しながら、渚と共に雑貨店に入った。
 といっても、セイリオスは中をふらふらする渚を見守るように、出入り口に立ち、見終わるのを待っていた。
「セイルがあそこにいてくれるなら、はぐれることはないですよね」
 渚は安心して、お店を見てまわった。
「あ、このクローバーのチャーム可愛い……」
 気に入ったものを手にとって、一通り見て回る。
 そして満足すると、渚はセイリオスに声をかけにいった。
「……あれ、セイル?」
 さっきまで出入り口にいたはずなのに、と思って渚がきょろきょろしていると、そこにセイリオスが戻ってきた。
「どうした、なぎ」
「あ、ううん。セイルがいないなって思ってたの」
「そうか、それは悪かった。もう見るのはいいのか?」
「うん、十分!」
 渚は笑顔でそう答えると、セイリオスと一緒に歩き出した。
 
 その後も、渚が目に付いた店に入り、中を見て……と繰り返し、足が疲れた頃に、2人はカフェに入って一休みした。
 飲み物が来て、一段落したとき。
「はい、ハッピーバレンタイン!」
 渚がセイリオスに手作りのチョコレートを渡した。
「……えっ」
 ワンテンポ置いて、セイリオスが驚く。
「あれ? うれしくない?」
「いや、俺にチョコを用意してるとは思わなくて……。店で開けるのはあれだが、味見してみてもいいか?」
「う、うん」
 緊張しながら、渚はセイリオスが食べる様子を見つめた。
 自分の瞳の色と同じ空色のリボンを取り、白い包装紙を開けて、長方形の箱に入った甘いトリュフを一つ摘んで口に運ぶ。
 セイリオスは口の中でチョコを溶かし、少し笑った、
「……そんな心配そうに見なくても、十分うまい」
「本当ですか? ……おいしいですか?」
「ああ。1つ食べてみるか、ほら、あーん」
「あーん、て……い、いいですよ、そんなの。恥ずかしいです!
 セイリオスが差し出したチョコを渚が照れながら避ける。
 そんなことをしていると、いかにもカップルっぽいのだが、2人はまったく気づいていなかった。
「それじゃ俺からもハッピーバレンタイン、だ」
 差し出された袋を開けた渚は、クローバーのチャームを取り出し、驚いた。
「えっ、これ……」
「キラキラした目で見ていたからな」
 先ほどの雑貨店で、渚が欲しいと思っていたクローバーのチャームだ。
「驚きました。とてもうれしいです。大切にしますね」
 へにゃっとした笑顔を見せる渚を、セイリオスは思わず撫でた。
「そんなに喜ばれるなら、買った甲斐があったよ」
 やっぱりなぎは、笑ってる方が良い、と思いながら、セイリオスはカップに口をつけるのだった。

 ひとしきり話した後、渚はもらったクローバーのチャームをつけ、元気に立ち上がった。
「さあ、そろそろ散歩を再開しましょう。まだバレンタイは始まったばかりですよ!」
 元気なことだと思いながら、セイリオスはまた渚と一緒に歩き出した。
 街は本当にバレンタイン一色で、可愛いハートのアドバルーンが浮かぶお店では、女の子がチョコを買おうと群がっていたりした。
「わあ、ここすごいですねぇ……あっ」
「きゃん!」
 立ち止まっていた渚に小さな子がぶつかってきて、転がった。
「だ、大丈夫ですか?」
 渚は驚いてその子を引き起こす。
 すると、その子の声に気づいた女性が振り返った。
「あら、シェルティちゃん」
「良かったー、ファレナさんに会えたのー」
 ファレナ・アルツバーン(ふぁれな・あるつばーん)に声をかけられ、シェルティ・セルベリア(しぇるてぃ・せるべりあ)が笑顔で走り寄る。
「お姉さんもありがとうー。シェルティね、イリーナにお使いをたのまれて来たの」
「イリーナさん?」
「え?」
 シェルティの言葉にファレナと渚は同じように驚き、お互いのことを話して、同じ教導団の人同士だとわかった。
「シェルティちゃんのおかげでお知り合いが増えましたね。……と、それでおつかいって?」
「うん! はい、イリーナから惑星さんのチョコ」
「え?」
「惑星さんのチョコが綺麗で素敵でしたって、前にファレナさんが言ってたからーって」
 それは太陽を最初に水星、金星、地球と並んでいくチョコだった。
「ありがとうございます、大事に飾っておきますね」
 ファレナはお礼を言い、笑顔を見せた。
 すると、渚はファレナのそばにいたシオン・ニューゲート(しおん・にゅーげーと)に気づき、こう尋ねた。
「バレンタインのデートですか?」
 その言葉に、そんな風に見えるとは思わずに買いもの連れてきたつもりだったファレナは驚いて、少し顔を赤くする。
「ち、違います。私、チョコが大好きで、この時期になると限定パッケージとか普段は手に入らない珍しいブランドのチョコとか種類も豊富で可愛くてなチョコがあるので、動物チョコとか薔薇とか菫のお花チョコとか色々買いたくて……」
 弁解をしようとして、普段大っぴらには言えないことまで、ファレナは口にしてしまっていた。
「あ、それと、そのお世話になってるイリーナさんとかルカルカさんとか、それからレオンハルトさんとか佐野さんとかに友チョコを買っていってお裾分けしたいなーと思ってまして……みんなデートなので今日は会えないかもですが、後日にでも渡せれば……と」
「僕にはー?」
 シオンが自分の名前が上がらないので、冗談で聞いてみる。
 しかし、聞かれたファレナはきょとんとした。
「シオンさんに?」
「……無いならいいけどー、別にー」
 ぷいっと横を向いていいんだ、いいんだーいとシオンが拗ねる。
「チョコなんてなくても生きていけるもん、ふーんだ……」
 そんなシオンをシェルティがなでなでする。
「シェルティちゃんはいい子だねえ……。でもいいんだ、僕、さびしー独り者だから、人の恋話が好きだって言う変わり者のパートナーについてきて、とりあえず街に出てきただけだし……。ファレナがあんなにチョコ中毒だったって知らなかったから、一つ学べて良かったと思うことで……」
 ぶつぶつとシオンが嘆き、そして最後に袋いっぱいのチョコを持つファレナを見た。
「一人でそんなに買い捲って食べてると……太るよ?」
 ぼそっと呟かれた言葉にファレナは一瞬ピクッとしたが、当方は一切関知しませんと言う顔をした。
「元々太り難い体質ですから、私っ!」
「ふうん……」
「あ、でも、これくらいはあげてもいいですよ」
 ファレナは先ほど買ったうちの一つをシオンに差し出した。
「ただのおすそ分けですけどね。お世話になってますし」
「ふうん……」
 じーっとファレナの顔を見ながら、シオンはチョコを受け取った。
(本当は僕も、色恋なんて興味は無いんだけど)
 でも、やはり気にかけてもらえるのがうれしくて、シオンは「ありがとう」と言った。
「どういたしまして。代わりにお買い物したチョコを持ってもらいますので」
「えー」
 そんな感じでやりあう二人を渚はくすくすと見て、礼をした。
「それでは、失礼いたしますね。チョコ買い物道中がんばってください」
「あ、はい。月見里さんもデートを楽しんできてください」
 ファレナの何気ない言葉に、渚は頬を赤くした。
「デ、デートだって……そう見えるのかな」
 恥ずかしがる渚に、セイリオスはくすりと笑った。
「予行練習だし、それでいいんじゃないか?」