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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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イリヤ分校へ


「待て! 横山ミツエ!」
「あたしは、ほてやみつえよ」
 真正面から呼び止めた幻時 想(げんじ・そう)へ、ミツエは素っ気無く返して脇を通り過ぎようとした。
 その時、ミツエの足元が小さく爆発してミツエは驚いて倒れこむ。
 カッとなったミツエが想へ怒鳴ろうとしたが、彼女は素早く飛びのいて距離をとり高周波ブレードを構え、冷気をあふれさせていく。
 地面を氷結させながら疾走する冷気がミツエを襲った。
 当たったらそうとうのダメージだろうそれは、しかし周瑜 公瑾(しゅうゆ・こうきん)の爆炎波に真っ二つにされてしまった。
 風と蒸気に周瑜の髪が揺れる。
 眉をひそめる想。
「どうして邪魔するの? その人のせいで賞金首になったのに。僕はミツエを捕らえて、僕の知人や百合園生徒の恩赦を願い出たいだけなんだよ」
「待って。ちょっと待って。何か来るよ」
 秋月 葵(あきづき・あおい)の鋭くなった感覚が何かを捉え、想の話を遮った。
 立ち上がったミツエが辺りを見回すと、遠くの一点に砂煙が上がっているのが見えた。ついでにかすかな地鳴りも。
「あんたが騒ぐから面倒事が来たじゃない」
「僕のせいか!? 全部自業自得だろう!」
「二人とも喧嘩しないで。何とか逃げないとっ」
 葵がとりなすが、すでに賞金稼ぎの一団は目前に迫っていた。
「倒しながら逃げるしかないじゃろう」
 一行の殿につく水洛 邪堂(すいらく・じゃどう)
 その彼の頬を弾丸が掠めていった。
 挑発している。


 ミツエへの携帯も通じず、今回は前線に出ることはできないと苦渋の表情で孫権に断られ、それなら伝国璽を持つ女の子の情報を集めながらミツエを探し出そうとすれば、何故かそんな女の子が大量に見つかり、悪いものにとり憑かれているんじゃないかとうんざりしていたエルミル・フィッツジェラルド(えるみる・ふぃっつじぇらるど)だったが、
「あれを見ろ! 誰か襲われているぞ」
 という孫 堅(そん・けん)の声にハッとして顔を上げれば、数十人のパラ実生に追われている数人がいた。
「あの人達を助けます!」
 半ば自棄にも聞こえる声で宣言すると、エルミルはライトブレードをすらりと抜いて走り出した。
「江東の虎、孫文台! 参るぞ!」
 エルミルと孫堅が賊の側面から突き崩しにかかり、少し後ろからはシルト・キルヒナー(しると・きるひなー)の火術で生み出された火の玉が頭上から降り注いだ。
 奇襲に慌てふためく賊だったが、すぐに一部が三人に対応する。ただの烏合の衆ではなさそうだ。
「エルミル!」
 孫堅の呼びかけに、エルミルはそれだけで意を察するとシルトへ向けて手を伸ばした。
「シルトちゃん、偃月刀を!」
「行くよ〜!」
 馴染んだ重みがエルミルの手の中に現れる。
 エルミルは170センチほどのそれを自在に振り回して賊達を撹乱していく。刃はまだ出していないので、今は棍として使用していた。
「前ばかり見るなよ」
「はい!」
 エルミルの斜め後ろから斬りかかって来た賊を倒した孫堅に感謝をし、そして改めて未熟さを知ったエルミルだが、追われている一団で殿を務めていた男の体が傾いだのを見てしまうと、混戦の隙間を縫って助けに入るために走り出すのだった。
 後ろで孫堅が苦笑するのも知らずに。
 膝をついた男──邪堂に銃口が向ける賊と一瞬目が合う。
 賊はエルミルの棍では自分に届かないと踏んだ。
 が、次の瞬間、銃身が切断された。
 アッと叫んだ男を、孫堅のランスが打ち据える。
「切り札は最後まで隠しておくものですよ」
 棍のはずの先端からは60センチほどの光の刃が現れていた。
 エルミルは優雅に微笑んだ。
 そこに、エルミルより一回り小型の偃月刀で賊を切り倒して追いついたシルトは、かなりの手傷を負った邪堂に急いでヒールをかける。
 比較的統率のとれている賊の残りは、遠巻きにしてうかつに手を出しては来ない。
 邪堂を心配しながらその様子を見守っていたミツエに、不意にふわりとやわらかい布が被せられた。
「もう、ほてやみつえは通用しませんね」
 笑いを含んだ鬼灯 歌留多(ほおずき・かるた)の声。被せられたのは光学迷彩の薄い布だった。
 突然現れた歌留多にミツエは驚いたが、もっと驚いたのは彼女が虎に乗っていることだった。
 歌留多は口元に淡く笑みを浮かべたまま、腰の雅刀を静かに抜いた。
「次は、わたくしがお相手しましょう」
「目を閉じたままやろうってか! なめんなよ!」
「これはわたくしの事情です。お気になさらず」
 歌留多、エルミル、孫堅が前衛に立った。
 遠巻きにしていた賊も武器を構え、後方では魔法攻撃の体勢をとる者もいた。


 その頃、別の賞金稼ぎのグループに鏖殺寺院の鮮血隊副隊長を自称する女がミツエの情報を求めてきていた。
 リーダーと思われるモヒカンの男が、ニヤリと笑って携帯画面を見せた。
「たった今ミツエ情報が来たぜ。てめぇも来るか? 3億Gだ。山分けも悪くねぇ」
「山分けか……いいぜ。連れてけよ」
 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)はリーダーとそっくりな笑みで頷いた。そういう彼女も1万Gの賞金首なのだが、いつもの服装から鏖殺寺院の制服へ着替えて(自称)鮮血隊副隊長だと名乗っただけで、彼らはごまかされた。
 スパイクバイクや馬の群の後方に位置し、トライブは白馬を駆る千石 朱鷺(せんごく・とき)と並ぶ。
 目だけでこれからの行動を確認しあった。
 やがて見えてきたのは別の賞金稼ぎのグループと、劣勢ながら頑張っているグループだ。
 ミツエが見えないからそこは素通りしていくのかと思えば、トライブの横の包帯だらけのモヒカンが声をかけてきた。
「あの中にミツエがいるらしい。合流した味方が姿を隠したって話だ。ま、全部潰せばいいだけだ。仮にも国を興したヤツが、仲間見捨てて逃げたりしねぇだろ」
「なるほど。じゃあ思い切りやれるな」
「鮮血隊副隊長サンのお手並み拝見だな」
 下品に笑って彼はバイクのスピードをあげて前に出ると、火炎瓶を投げつけた。
 トライブが雅刀を抜く。
 朱鷺もグレートソードを抜いたのを見ると、二人は前の賞金稼ぎ達へその刀と剣を振り下ろした。

 次々と投げられてくる火炎瓶をかわし、あるいはすぐに消化するミツエ達は現れた新手に戦慄した。
 今の敵から何とか逃げられるかと思った時の攻撃だ。
 くじけそうになるが、ここで負けたら連れていかれるのはミツエだけではないだろう。欲深い賞金稼ぎ達は、ミツエに味方した者達も生徒会に突き出すはずだ。
 そうなれば、イリヤ分校で待つみんなのもとへは行けなくなってしまう。
 何とかしなければ、と誰もが焦りを覚えた時だった。
 新手の一団の後方が突如乱れた。
 怒号と剣戟の中、白馬が脇へ飛び出しミツエ達のほうへ突進してくる。
 緊張が走るミツエ達へ馬上の女──朱鷺がグレートソードで一方を示し、
「あちらへ!」
 と、導いていく。
 ミツエ達は魔法で敵を近づけないように、かき乱し、距離をしだいにあけていき、一気に駆けた。

 ようやく敵の最後の一人が諦め、それからさらに走ったところでやっとミツエ達は足を止めることができた。
 追っ手や新手の気配がないことを確認した朱鷺はポケットから携帯を取り出し、ミツエ達に背を向けてどこかへかけた。まだ追いついてこないトライブへではないようだ。
 光学迷彩の布を下ろしたミツエや仲間達が見つめる中、話はしばらく続き、やがて朱鷺の小さなため息と共に通話は切られた。
「残念です……校長先生方にイリヤ分校への救援要請をしようと思ったのですが……」
「今はどこの学校も自分達のことで手一杯なのよ。気にしないで」
 ミツエはそう言うが、やはり朱鷺は残念に思った。
 前回の董卓の反乱の時、パラ実生徒会と鏖殺寺院が手を組んだ危機を訴え、六校会議で保護下に置くことになったイリヤ分校に応援を頼み、生徒会の牽制をしてもらえないかと自校校長の御神楽環菜へ相談したのだが、ミツエの言った通り蒼空学園も今は他校の危機にまで手は伸ばせない状況だと言われたのだった。
 と、そこにようやくトライブが追いついた。わずかに顔をしかめているのは、どこか怪我しているのかもしれない。
 バイクから降りたトライブはまっすぐミツエの前に立つと、
「何だその格好?」
 と、苦笑した。
 そしておもむろに手を伸ばし、ミツエのメガネを外す。
「真面目そうな委員長キャラのコスプレなんて、あんたにゃ似合わないと思うんだけどな……うん、可愛い可愛い」
「ちょっと、メガネがないと見えないんだけど」
「嘘つけ。伊達じゃねぇか」
 自分でメガネをかけて笑うトライブ。
「それに俺、メガネ属性ないし」
「……あんたの属性なんて聞いてないわよ」
「ははは、ま、そういうことだ」
 明るく笑うとトライブは、ふと目つきを鋭くさせて来た方向を振り向いた。
「まったく、休む暇もねぇな」
 そっとミツエの傍に寄った歌留多が、ミツエの手の中の光学迷彩布を手に取り、再び被せた。
「イリヤ分校への道は、わかりますね」
「朱鷺はミツエと行け」
 反対しようとした朱鷺だが、それを飲み込んで頷いた。
 足止めを買って出たトライブと歌留多を残し、ミツエ達はたいした休息もないまま出発することになった。
「分校で待ってるわ! 途中でくたばるんじゃないわよ!」
 ミツエは手を振ると馬の腹を蹴った。

卍卍卍


 ミツエを隠したまま一行は急ぎ足で荒野を行く。
 その途中、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)がアッと叫んだ。
「ケイ! キリンを見つけたんじゃな!」
「カナター!」
 相手が豆粒くらいにしか見えない距離があいているが、カナタはしっかりパートナーを見つけた。
 ケイと虹キリン、高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)、それから彼らが途中で会ったサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)諸葛涼 天華(しょかつりょう・てんか)が加わっている。
 合流後、虹キリンの元気な姿にミツエが、
「これで運はあたし達が掴んだわ!」
 と、叫ぶ。
 姿の見えないミツエの突然の大声に、虹キリン達がびっくりしたのは言うまでもない。

 吉兆を再び取り戻し進む彼らは、続いて迷子のように彷徨っていたテレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)ミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)を拾った。
 勢いづき分校へ雪崩れ込むぞと意気が上がった時、ノヴァ・ノヴータ(のう゛ぁ・のう゛ーた)から諸葛亮に入ったメールがそれに影を落とした。
「……優斗殿、光太郎殿、玄奘殿が捕らえられたそうです」
「何ですって!?」
 思わず光学迷彩布をはいでしまうミツエ。
 しばらく彼女は難しい顔で考え込む。
「……今の状態で金剛に乗り込むことはできないわ。分校へ行くわ」
 それからミツエは想を見やる。
「あんたはどうするの?」
「この人達、みんな仲間なんだよね? さすがにここで何かしようとは思わないよ。それに……」
 と、想は葵と天華を見る。
「少し考えさせて。だから、ついていくよ」
「ふぅん」
「では急ぐぞ」
 天華が光学迷彩布をミツエに被せ、一瞬抱きしめた。