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葦原の神子 第1回/全3回

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葦原の神子 第1回/全3回

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3・赴

 優斗の意見で、皆が同じ布を身につけ印を書くとなった。それぞれが生え抜きの武将と共に陵山麓へ赴く。
「隠密によると、既に敵地に赴いている他校生もいるとのことです。印無きものが全て敵ではありませんが、同じ旗印を持てば士気も鼓舞するでしょう。良いかおのおの、まやかし共に真の武士道を見せるのです」
 皆を見送る房姫が激励を飛ばす。


 先鋒の大軍が城門を出て、陵山麓へと向かう。
 途中、蹲る女に出会う。結い上げた黒髪が乱れ、汗でうなじに張り付いている。着物の裾が肌蹴け、太ももの奥が覗いている。
 先頭を行く大将は、何事かと女に近寄った。
「産まれそうなのです」
 荒い吐息で女が言う。重い瞼が艶かしい。
「なんと・・今ここでか」
 頷く女は足を開く。刹那、目を逸らした大将が消えた。
 同行していた朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、大将が女の股間から出た白い触手に包まれた瞬間を見た。女の腹は見る見るうちに膨れてゆく。
 生暖かい風と共に、羊膜に包まれた塊が女から落ちてくる。
 大軍の前に先ほどまで大将だった男が、立ちはだかる。顔面は黒く爛れ身体は獣毛で覆われている。頭には何やら蠢くものが巣食っている。
 女は姿を消している。女の後を赤城 長門(あかぎ・ながと)らが追う。

「殿!」
 武者の一人が怪物と化した大将による。
 怪物は、刹那、元の姿を取り戻す。思わず駆け寄る武者。その首が宙に舞う。
「うはははははは」
 大きく開いた大将の口には無数の蟲が巣食っている。


「ありました!」
 その頃書庫では、「怪物を生み出す女」の名前をラムール・エリスティアが見つけていた。
「名は獣母。生きとし生けるものを自らの子として産み直し・・・どういう意味?」




4・獣母

 獣母が産み出した怪物は、先ほどまで配下だった者どもを次々と惨殺する。刀で切られるもの、食い千切られるもの。
 大将の口は血で染まり、一人殺すたびに眼窩はくぼんでゆく。
「オレが相手だ」
 橘 カオル(たちばな・かおる)は手にした木刀で、大将の足元を薙いだ。骨の折れたのか大将の足から不気味な音がする。
 痛みにもんどり打つ大将は元の姿に戻っている。
 己を取り戻したのかと、雑兵が寄る。そこでまた惨劇が起こる。再び怪物となった男がかつての部下を食らう。
「みんな、騙されちゃだめよ、もうここにいるのは人ではないのよ」
 剣の花嫁であるマリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)はグレートソートが手に雑兵を護るように立った。
「こしゃくな」
 片足の折れた大将は、自らの剣で両足を薙ぐ。
 壊れた膝下を切り取り、血溜りを滑るようにカオルににじり寄る大将。
「木刀だからって、あなどるなかれ。俺の研究した剣術はそんじょそこらのヤツとは一味違うぜ?」
 示現流を主体とした素早い動きで、カオルは大将の頭に木刀を打ち下ろす。
 大将の剣が反応する。
 二つに割れる木刀。
「これは御前試合ではないぞ。木刀で拙者に敵うと思うのか」
 大将の刀がカオルの喉元を狙う。
 素早く避けるカオル。再び木刀を構える。背中の竹刀袋にあった予備だ。
「もいちど、俺の太刀うけてみるか?その首落とすぞ」
 大将が刀を振り上げた、そのとき、グレートソートがうなる。
 マリーナが、大将の胴を払った。
「がははは、拙者は不死身ぞ」
 脇腹から血があふれても、尚、カオルに向かう。
「成仏してよ、お願いっ」
 マリーナが、爆炎波を向けた。焔に包まれる大将。
「さあ、みんな進んで。きっと祠も大変なことになっているわ」
 生き残った兵は、焔に焼かれる男を横目に進んでゆく。
 大将は全てが燃えつき、刀だけが残った。
「さあ、オレ達も行こう、あの女を倒そう!」
 女が逃げた方向へ走るカオルとマリーナ。

 その頃、朝霧 垂(あさぎり・しづり)は女と対峙していた。
「俺はシャンバラ教導団第四師団メイド隊長、朝霧垂だ。倒す前にお前の名を聞いておこう」
「母じゃ」
「なんだと?」
「皆の母じゃと申した。そちも我が子になれば全ての望みが適うぞよ」
 女が地面に手を付く。
 刹那、先ほどの白い触手が垂に向かう。鞭で払いのける垂。
 触手は背後の桜の巨木へと向かう。巨木は根から引き抜かれ、女の太もも奥へと引き込まれてゆく。
 苦痛に顔を歪ませる女、腹が膨らむ。
 宙に舞った花が地面に落ちるころ、太ももを血が伝い、獣が落ちた。無数の足を持ち、体躯の洞から樹液を出している。
「獣母、感謝いたします。齢二百年、いつか歩ける時が来ると信じておりました。このものたちは私にお任せください」
 獣母の周りに桜の花びらが舞う、疾風が吹き、花びらだけが残り獣母は消えている。
 垂の前にいるのは、奇怪な化け物だ。
「これは幻影か?」
 ディテクトエビルで警戒を怠らないライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)に問う垂。
「わかんない、でも囲まれている気がするんだ」
 垂は、殺気看破を使う。
「どうも現実のようだ、実体がある」
 不審な空気に周りを見やる垂。桜の花びらが宙を舞っている。芳香は消え獣臭が漂う。
 一つが垂を襲い、頬を掠めた。薄らと血の滲んでいる。
 優雅に舞っていた花びらが一斉に攻撃を始めた。
 垂の携帯から、魔道書朝霧 栞(あさぎり・しおり)が飛び出してくる。
「ここは俺に任せろ!」
 栞は、アシッドミストを使い、花びらを撃退する。
「手裏剣みたいだよっ!」
 光条兵器の、大人数人の身を隠せるほどの「大傘」で花びらの攻撃をかわすライゼ。
「こっちです」
 髪が発光し、腕や脚から淡い光が溢れ戦闘モードになった夜霧 朔(よぎり・さく)が、背中のバックから取り出した星輝銃と機晶姫用レールガンを獣に向け乱射しながら、援護に回る。
 花びらに銃弾が当たると弾けるように消滅する。
「朔、援護を頼む!」
 垂の言葉に、フルバーストアタック状態(全銃身解放)となり、武器として装備した「機晶キャノン・レールガン・星輝銃・二つの6連ミサイルポット」による「クロスファイア・スプレーショット・チェインスマイト・シャープシューター」の連続攻撃を行なう朔。朔の巫女装束が、銃から履き出される火薬臭に包まれる。
 朔の「弾幕援護」で、花びらの攻撃から抜け出た垂は、獣に向かう。
 足を短く折り、戦闘態勢をとる獣。回りには花弁が舞っている。
「よく聞け、桜の化け物!お前は俺には敵わない」
 獣が牙を剥く。
 臆せず言葉を続ける垂。
「逃げろ、悪さをしないと誓うのなら見逃してやる」
 獣が笑う。
「私は母の言いつけには逆らいません。あなたを倒して、その後に世界を回ります」
 複数の足が地面を蹴る。獣が宙を舞う。
 走る垂、封印解凍を行なう。
「援護を頼む!」
 垂の落ちた防御能力を補うために、ライゼ、栞、朔が垂を取り囲むように援護、攻撃してくる花びらを銃で撃ち落す。
 獣が垂の有効射程距離に入る。奈落の鉄鎖にて獣をその場に留めて、ヒロイックアサルト・八犬士を放つ垂。
「成仏してくれ」
 則天去私で獣の胴を薙ぎ払う。
 獣であったものが、光り輝き飛び散った。元の芳香が戻っている。
 地面に落ちた桜の花びらを手に取る垂。
「獣母、許せない」
「垂、行こう、あっちだよ」
 ライゼが指差す方向では、焔が上がっている。


 祠が近くなってきている。先の、500名もの守備隊を殲滅させた戦で産みだれた怪物や魔獣の類が獣母を出迎える。
 刃を持つ花や巨大化した鼠や蚤、獣母に取り込まれたことで魔物となった元兵士など、様々な容姿のものが集まっている。面妖な画だが、それぞれに親子の情愛を確かめているようだ。
 その後、皆は散り散りにわかれ、獣母は一人、祠への道を行く。
 明倫館の赤城 長門(あかぎ・ながと)は、一人歩く獣母を見つけた。ほっそりとした柳腰で、とても獣を産む様には見えない。
 長門は、先ほど大将が飲み込まれる様を見ている。
「あのようなおなごがのう」
 視力の劣る長門は、あの触手が出てくる時の、女の恍惚とした表情もその後の残忍な顔も見えていない。
「じゃけん、捕らえてみるか」
 モンクである長門は、ヌンチャクを手に女に一直線に駆けてゆく。
 獣母の前に踊りでる長門。
「許して下され」
 しおらしく震えている。
「わるさをしちゃいけん、あんたぁ、誰かに騙されてこげなことしてるのかのう」
「私は子を八鬼衆に人質に取られているのです」
 よよと獣母は泣き崩れる。
「困ったことじゃ、ハンナ様に相談してみるけん、オレに任せてないかのう」
 育ちの良い長門は、女の言葉を信じた。
「おなごの産む怪物で八鬼衆を倒してみてはどうじゃ、オレらも助太刀するぞ」
 獣母は頷く。


 その頃、祠まで一里とない場所で、先鋒の大軍は人数を減らしていた。
「見えない刀を使う侍」が現れたのだ。