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嘆きの邂逅~闇組織編~(第5回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第5回/全6回)

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「こちらで封印を解くのはこれが最後になるんだろうな」
 続いて、高月 芳樹(たかつき・よしき)がパートナー達を伴い、鈴子の傍に歩み寄った。
「離宮対策本部で協力しているソフィア、おそらく離宮で解放されるであろうジュリオ。この2人は本部と対策に赴かれている人物の方が適任だろうからな」
「そう、なのですが……」
 鈴子が目をミルミの方へと向ける。
「ミルミにはあの女子がついておるからだいじょうぶじゃろう」
 鈴子の不安を感じ取った伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう) がそう言った。
「ええ、今は心配はしていません。ただ、ジュリオ・ルリマーレンの状態はまだ判明しておりません。もし、彼が封印を解除できる状態ではなかった場合、ミルミが離宮に向って解除を行う必要が出てくるかもしれません……」
 ミルミはジュリオ・ルリマーレンの直系の子孫であり、彼が持っていた特殊能力を受け継いでいる……はずなのだが、全く発動することが出来ていない。
 特殊能力を受け継いでいると判断できる理由は、ミルミは使えていないその神聖能力を、パートナーの鈴子が使いこなしているからだ。
 多分鈴子にも封印解除の資格はあるのだろうけれど、子孫のパートナーというかなり遠く薄い関係であることから、非常に厳しいものとなるだろう。
「現在、離宮との連絡が取れない状態なので、判断は出来ないのですが、ここから戻ったらミルミに説明をして離宮に行く準備をすることになるかもしれません」
 契約とは重いものだと、改めて芳樹は思う。
 パラミタにくるきっかけとなった自分のパートナー達、アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)、玉兎、それから6騎士のマリル・システルース(まりる・しすてるーす)――ひとりひとりに目を向けて、芳樹は頷いた。
 彼女達と契約をしたことに、後悔はない。
 ただ、契約をすることにより、自分の身に何かがあれば、パートナー達にも影響があることは明白であり、逆もまた然りだ。
 今まで以上に、しっかりしないと、と心に決めていく。
 だからといって、臆病になる必要もなく、慎重を期するようにすればいいだけだと、パートナー達、それから護衛対象を見ながら考えていく。
「それぞれパートナーごとに固まっていた方が対処しやすいと思う、そのように配置して下さいませんか?」
 アメリアが鈴子に提案をしていく。
「あと、隊の先頭と末尾で、常に感知を行っておくべきだと思うの。スキルを持った方を配置していただけないでしょうか」
 鈴子はアメリアの言葉に頷いた。
「そうですね。連携をする為にも、できるだけパートナー同士は傍にいた方がいいでしょう。感知系も必要と思われますわ」
「わらわ達は、団長周りの護衛がよさそうですじゃ。あの子もおるしのう」
 玉兎がそう言った。
 鈴子からそう離れていない位置に、アユナの姿もある。
「ええ、お願いいたします」
 鈴子がそう言い、芳樹達は鈴子とアユナの間くらいの位置につき、護衛を務めることになった。

「アユナさん」
 不安気な表情で歩いていたアユナは、優しい声に顔を上げて、声の主を見た。
 薄茶色の髪のハーフフェアリー……6騎士の1人、マリルだった。
「こんにちは……頑張ります……」
 アユナは弱弱しい声でそう言い、微笑んだ。
「マリザはかなり怒っているけれど」
 マリルは微笑み返して、一緒に歩きながらアユナに語りかけていく。
「ファビオは相変わらず『約束』に関しては守りきれないところがある。けれど、決して破るつもりはなかったことは確かよ」
「舞士様は、アユナ達に『この場所で、またね』って嘘をついたの。でも、謝ってくれた後、最後に顔を見せてくれて『さよなら。気高き乙女達』って本当のことを言ったの。多分、アユナとは約束してないんだ。さよならが本当だったんだと、思う……それに、気付いていたら、あの時止められたのかな……あの後、舞士様のところに駆けつけることが出来たのかなって、ずっと思ってるんだけど……」
「この場所でって言葉も、きっと嘘じゃないわ。月の最後の日にまたいつか必ず……あの場所で会うと」
 アユナの目を覗き込んで、マリルは微笑みかける。
「私達は彼が約束を果たしてくれることを信じてあげましょう。貴女のその想い、大切にしてください。彼はその約束を果たしてくれるでしょうから」
 アユナは複雑そうな面持ちのまま、首を縦に振った。
 マリルはそのまま彼女の護衛につく。
「怖い……ですかぁ? 私でよければ、手伝います、よぉ」
 一緒に歩いていた如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)がアユナにそう声をかける。
 日奈々は白百合団員ではないけれど、アユナが何か重要な役割を持っていることは理解していた。
「詳しいことは……わからない、けど……物騒な、ことばかり……起きているみたい、ですし……何が、起きるか……わからない、から……私も、手伝いたいんですぅ」
 盲目の彼女が真剣に自分を助けようとしてくれている姿に、アユナは拳を固めていく。
「大丈夫。アユナ頑張る。お友達と約束したから……皆、頑張ってるんだもん、ね……。無理しないでね」
「ありがとうございますぅ」
「日奈々にはあたしがついてるから平気だよ。勿論、皆も守るから」
 日奈々の隣で彼女を護衛する冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)が、アユナ達にそう言う。
「うん。日奈々ちゃんのことよろしくね。アユナも戦闘とかちょっと無理だから……何かの時はどこかに隠れちゃうかもしれないけど、頑張るところではちゃんと頑張るから……っ。皆も、絶対無理しないで」
「はい。超感覚で……周囲に、気をつけておきますぅ」
「大丈夫大丈夫。任せといて」
 日奈々と千百合の言葉に、アユナはこくりと頷く。
 そして百合園のお友達を見回していく。
「皆、大事……だもんね」
 いつも一緒にいてくれる親友が、今日は一緒ではないけれど、ここにいない彼女の為にも頑張らないとと、アユナは思うのだった。
 
「明日香さん、前に出すぎては危ないですよ」
「大丈夫ですぅ」
 カルロ・デルオール(かるろ・でるおーる)の声に振り向いて、神代 明日香(かみしろ・あすか)は強い笑みを、見せた。
「こう見えても腕に自信があるんですぅ」
「サポートしますと言いたいところですが……」
「はい〜。カルロさんは感知に集中して下さい〜」
「気をつけて下さいね」
 自ら最前線を行く明日香を気にかけながら、カルロは周辺を探る。
 封印の石が置かれている場所は、ヴァイシャリー郊外の遺跡に間違いはないと思われる。
 遺跡周辺にも普通に民家が存在し、人々が生活をしているため生命力がいくつも感じられる。
 カルロが感知できるのは、生命力の強弱や性質くらいであり、悪意を持っている人物が付近にいるかどうかまでは判らなかった。

〇     〇     〇


 雑草が生い茂った広場のような場所に、その遺跡は存在していた。
 地上部分は随分と崩れてしまっており、荒らされた形跡もある。
 周囲に警戒をしながら、一行は敷地に足を踏み入れて、カルロの指示の下、奥へと進んでいく。
「そこから、地下に進んでください。足元には十分注意してくださいね」
 カルロの言葉に返事をして、明日香、野々の順で階段を下りる。
 清掃などはされていないこともあり、地下には水が溜まっており害虫も沢山見受けられた。
(そ、掃除してしまいたい……)
 つい、そんなことを思う野々だったが、情報を得るために今は汚れも害虫も見えなかったこととし、明日香の後に続いていく。
 明日香は超感覚、殺気看破で警戒をしながら、ゆっくりと足を進めて、カルロが指示をする部屋へと入る。
 重いドアを開けた先は――特に何もない部屋だ。
「この真下あたりですね……」
「もっと下の階に続く階段がどこかにあるのでしょうか」
 カルロ、鈴子、そしてマリル、芳樹達も部屋へと入って来る。
 アユナと日奈々達は地上で残りのメンバー達と待っているはずだ。
「いえ、壁を通過できる魔術だと思います」
 言いながら、マリルは芳樹と探して、ぼろぼろの絨毯の下にいつもの魔法陣を見つけ出す。
「盟約の時来たれり――解」
 キーワードを発っすると、魔法陣が一瞬光を放つ。
「取ってくるわね」
 羽根を持っているマリルが、そのまま下へと降りていく。

「来たみたいねぇ〜。正当防衛だもの、仕方ないわよねぇ」
 リナリエッタが黒薔薇の銃を構える。
 バイクがこちらに走りこんでくる。……パラ実生の暴走族に見える。
「お宝こっちに渡してもらうぜ、ヒャッハー!」
「帰り道、開けてもらわなきゃね!」
 トレジャーセンスで辺りを探っていたレキが飛び出し、突っ込んできた男にシャープシューターで狙いを定め、タイヤを打ち抜く。
「威勢のいい女だ、ヒャッハー!」
 次々に武器を持った男達が遺跡の中に突入する。
 組織の者……というより、この仕事の為に組織に雇われた者達のようだった。
「降参じゃ、お宝はこっちじゃ」
 遺跡の影から帽子が覗いている。
「ヒャッハー! 大人しく出しやがれ〜!」
 バイクを降りて男が近づいたことを確認すると、帽子の主、ミアは氷術を放って男の足を凍らせる。
「捕まえる必要はないかもね」
 皆が付近にいないことを確認し、レキはクロスファイアを放つ。
 男達が「ぎゃっ」と声を上げた後、体の火を消していく。
「可愛い顔して、恐ろしい術使うじゃねぇか!」
 形相を変えて、男達はバイクを捨て武器を手に襲ってきた。
「何が目当てだ!」
 剣を手に、芳樹が地下から飛び出す。
「すげぇお宝が眠ってるんだろ? さっさと出しな!」
 男が大剣を芳樹に叩きつけてくる。芳樹は翼の剣で応戦し、爆炎波を放つ。
「ぐぎゃっ」
 男は再び体を焼かれて仲間の下へ敗走する。
「手加減はしないわよっ!」
 アメリアも轟雷閃を放ち、迫り来る男を退けた。
「大した数ではないですじゃ!」
 敵の数を確認した後、玉兎は地下に向って大声を上げる。
 地下入り口付近に待機していたアユナと日奈々、千百合が玉兎の後ろから外へ顔を出す。
「……渡しま、せん……っ」
 日奈々は奈落の鉄鎖を迫り来る者に放った。
「キミ達には必要のないものだよ!」
 千百合は動きの鈍った敵にランスバレストを打ち込む。
 それから、ディフェンスシフトで皆を守っていく。
 鈴子、封印の玉を手にしたマリル達も地上へと戻ってくる。
「大丈夫、これくらいの人数、全然大したことないよ」
「そうね〜」
 ミルミとアルコリアは少し離れた柱の影に一緒に隠れていた。
「どうする!?」
 シーマが応戦しながら鈴子に問いかける。
「いせきのかべもパシャ。ちかもパシャ。ゴツゴツのおじさんたちもパシャ」
 眞綾はこんな時でもマイペースで写真を撮っていた。
 初めて取った写真の中の、とっておきの一枚を、メッセージを添えてミルミに贈るつもりだった。
「離れるでないぞ。……しかし、毎度このようなことになるとは、嘆かわしいことじゃのう」
 そんな眞綾を背に庇いながら、ランゴバルトはバニッシュを敵に放った。
「ヴァイシャリー軍に連絡をしました。バイクを狙って移動手段を無くして下さい。攻撃は最小限としてあまり大きな怪我を与えないようにしてください」
 甘いなーと思うも、シーマや一行は従うことにする。
 神楽崎優子なら死なない程度に打ちのめせくらいのことは言いそうだ。
「これを見ろ」
 シーマはメモリープロジェクターで、人物を投影し、敵を軽く惑わせる。
「白百合団員と協力者の方々は退路を確保してください。撤収します。百合園生はこちらに集まってください」
「はい」
 その間にアユナや日奈々達は鈴子の方へと集まる。
 続いてレキが銃を撃って道を作ると、出来た道に向って走っていく。
「眠らせるために撃ってるのよぉ」
 そう言いながら、リナリエッタは鈴子の傍につけて、黒薔薇の銃で敵を撃っていく。
「マスター、轟雷閃、打ちます……」
「お願いねぇ」
 そして、こちと共に壁を破壊して敵の足を止める。鈴子の指示通り敵をなるべく傷つけない方法をとる。
「あ……っ」
 千百合が小さく悲鳴を上げた。
 腕から血を流している。……狙撃されたらしい。
「千百合ちゃん……っ」
 即座に日奈々がヒールをかけて癒す。
「パラ実生は陽動!?」
 言いながら、狙撃のあった方向にレキが銃を撃ち込んでいく。
「通さねぇぜ! 宝はおいていきな!」
 足が止まった一行の前をパラ実生達がふさいでいく。
「突破しますぅ」
「のわ!?」
 闇術で敵の視界を閉ざした後、明日香は幻槍モノケロスで足を突いた。
 先陣を切って、道を開いていく。
「眠っていて下さいねー」
 野々は子守歌を歌い、敵を眠りへと誘っていく。
「早く、お2人の後に続いてください」
 鈴子が百合園生達に指示を出す。
「あっ」
「人質でもとるかー。ヒャッハー!」
 柱の影から現れた男がアユナの方に迫った。
 ……と、その時。
「アユナさん伏せて……!」
 聞きなれた声に、アユナは振り向きながら、指示通りに伏せた。
 炎が通過をして、前を塞ぐ男の服を燃やしていく。
「怪盗マジカルエミリー、かわいい女の子を守るため只今参上っ♪」
 続いて、明るい声が響いたかと思うと、雷術が男達に飛んだ。
「繭ちゃん……エミリアちゃん……」
「アユナさん……ぁあはははは……わ、私は稲葉繭ではなく、ミラクルコクーンですっ!」
 仮面を被った少女が、耳まで真っ赤に染めて言う。
 声もその仮面もよく知っている。アユナの大切な友達だ。
「学院に、帰りましょう」
 ミラクルコーンが手を伸ばす。
「うん」
 アユナは今日始めてきちんと笑みを浮かべた。そしてその手をとって、皆の後に続き外へと駆け抜けていくのだった。