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神々の黄昏

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 2.ミツエとスヴァトスラフ


 □1日目


 ……ドージェが戦いの中で携帯電話を掲げていた、同じ頃。
 今一人の渦中の人物・横山 ミツエ(よこやま・みつえ)は、教導団のイコンを駆って、フマナの荒野を急いでいた。
 急いで、急いで……急いで!
 とにかく3日間逃げなければならないのだ!

「あの変な、龍騎士とかいうストーカーからね!」
 
 ミツエはイライラと携帯電話を操作する。
 操作しながらイコンも操作するのだから、見ている方はハラハラものなのだが。
「ただのではないぞ、ミツエ」
「『七龍騎士』だとか『第2位』だとか、偉そうなことほざいていたぜ!」
スヴァトスラフとか言ってましたね? あのストーカー」
 ミツエの言に追従&補強したのは、お馴染の劉備 玄徳(りゅうび・げんとく)曹操 孟徳(そうそう・もうとく)孫権 仲謀(そんけん・ちゅうぼう)の3名。
 だが彼等の智略をもってしても、「逃げの一手」以外の策は思い浮かばなかった。
「もう! こんな時に!
 達也さんってば、どこ行っちゃったのよ!」
 ちなみに達也さんとはミツエのメル友で、本名をドージェ・カイラスと言う。
 ミツエは彼の危機に際して、戦場に駆けつけよう!
 ……というタテマエの、「乙王朝最終兵器を作るために、ドージェと戦って弱った七龍騎士倒して、レア装備剥ぐ!」という本音の下にフマナに来て、スヴァトスラフという最強のストーカーと出くわしてしまったのだった。
「もう! 何がどうなっているのやら、さっぱり分からないわ!
 何で、こんな目にあわなくちゃならないのよ!」
 きぃっ!
 歯ぎしりして、ミツエは携帯電話に八つ当たりをするのであった。
 
 ■
 
 その頃、スヴァトスラフはドラゴンにまたがり、のんびりとミツエ達を追撃していた。
 
「本気を出す? 七龍騎士の、我が?」
 彼は柔らかく頭を振った。
「それは我が『騎士道』に反する。
 御婦人相手ともなれば、尚更のこと」
 彼はドラゴンを止め、泰然とフマナの荒野を見渡した。
 冷静であるゆえ、彼ほどの歴戦の勇者であれば、この中にミツエを見出すこと等造作もないことだ。
「その気になれば、いつでも捕えることは出来る。
 だがミツエはか弱き御婦人なれば、暫し自由な時間を持たせてやっても良いだろう。暫し、な……」
 その見解は甚だ間違っているのだが。
 生粋の騎士であるスヴァトスラフの中では、ミツエも「いずれ守ってやらねばならぬ女性」の1人であった。
 
 彼が殺気に気づいたのは、見通しの良い砂地に出た時のこと。
 
「名のある騎士と見受けるけど、質問してもいいかな?」
「答えなくば?
 どうしようというのだ」
「決まっているじゃない。
 答えたくなるようにするまでだよ!」
 シュンッ。
 至近距離から弾丸が放たれた。
 とっさにドラゴンを御して向きを変える。
 ドラゴンは難なく弾丸を交わした。
「ちっ、外したか!」
 奪魂のカーマインと量産型パワーランチャーを持った桐生 円(きりゅう・まどか)は、ドラゴンの前で悔しがった。
「ならば、スナイプ発動! でどうだよ!?」
「娘、2度目はないぞ!」
 スヴァトスラフはドラゴンに何事か囁く。
 それだけで、ドラゴンは猛り狂って、円を襲わんとする。
 が、勝機が無い訳ではない。
「円、頑張ってぇー!」
「もう一度アタックだよ! しっかり!」
 龍騎士の面をつけたミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)は、オートガードで円達を支援する。
 面をつけぬオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は、ブリザードでドラゴンの足を止めにかかる。
「吹雪さーん、れっつごー」
 突如現れた吹雪は、ドラゴンを中心に吹き荒れる。
 オリヴィアはその後も、レプリカディッグルビーに【死と罪】・【絶対闇黒領域】を纏わせるなどして果敢に攻めた。ミネルバも盾となって、加勢する。
 だがパラミタ最強の生物にたった2人の攻撃では、結果は目に見えている。
「所詮は『人の子』よ。神にはかなわんな」
 スヴァトスラフは気の毒そうに片手を上げると、合図を送った。
 ごおおおおっと。お馴染の音を立てて、ドラゴンは火炎掃射を行う。
 それだけで、3人はいとも簡単に蹴散らされた。
「うっ、うう……っ」
 円達は目を覚ます。
 気絶していたらしい。
 傍にスヴァトスラフの気配を感じる。
 真の龍騎士かどうか、調べたのだろう。ミネルバの面はがされていた。
「ああ! 負けだよ、負け! 好きにすればっ!」
 円は上体を起こす。
 投げやり気味に両肩をすくめて、ちら見した。
 そこには立ち去ろうとしている龍騎士がいる。
「待って! うそうそ! 冗談だって!
 さっきのこと、どうしても聞きたいんだ!
 七龍騎士のキミじゃねければ、知らないことだよ!」
「我でなければ?
 何を聞きたいのだ?」
 興味を覚えたようだ。スヴァトスラフは円に向き直る。
パッフェル……、いや、十二星華ティセラを騙して、
 シャムシエルを送り込む計画を建てて実行した人だよ。
 誰だか知ってるかい?」
「……そういえば、“あの男”がそのような事、言っていたな」
 ふわぁと欠伸をした。
 大して興味が無さそうだ。
 ドラゴンの背に飛び乗り、スヴァトスラフは去って行く。
「剣の花嫁と神様じゃ、格が違いすぎるってことかよっ!!」
 円は七龍騎士の尋常ならぬ強さに絶句したのだった。

 日はとうに傾いていた。
「やれ、とんだ道草をしてしまったものだ。
 だが御婦人を無下にするのも気の毒なことだからな」
 ふむっと尊大に頷いて、スヴァトスラフはドラゴンに乗った。
 
 ドックンッ。
 
 心臓が不吉な鼓動を鳴らす。
 息苦しさに、彼は一時胸を押さえた。
「『保険金殺神』とは、よく言ったものだ。
 これは想像以上にやっかいな物かもしれぬ……」
 
 近くで飛行物が着陸する音がした。
 
「スヴァトスラフ……?」
「いかにも。だが、そなたは?」
「あ? ああ、オレは、如月和馬」
 【鏖殺寺院】(というグループ名)の如月 和馬(きさらぎ・かずま)は恭しく首を垂れる。
 眠そうな顔の男だ。
 使いものになるのか?
 だが、スヴァトスラフの心配をよそに、和馬は不敵な笑いを浮かべていた……。