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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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幕間劇 電波塔 ひなと沙幸と、時々、横綱



 続きを描く前に、すこし話を脇道に逸らそう。
 折しもその頃、菩提樹前駅の西方に続く線路上を歩く二つの影があった。
 桐生 ひな(きりゅう・ひな)久世 沙幸(くぜ・さゆき)である。
 おにぎりはたくさんある、そして目の前には見知らぬ世界、ならばすることはひとつ、ピクニックだろう。
 とは言え、あえて列車の進行方向とは逆側に探検に繰り出した二人だが、景色は列車が向かったほうと大して変わらなかった。立ち込める腐臭と奇々怪々な植物群、足元は工場の廃液を思わせる淀んだ紫色の水が溜まっている。
「せんろがつづくですーどこまでもー」
「湿地帯かぁ……、ちょっと臭いけど、ナラカにもこんな自然があるなんて知らなかったなぁ」
 お世辞にも愉快な場所じゃないが、二人はそれなりに楽しそうである。
「あ、見て見てひな、ほら、あそこに建物があるよー」
 沙幸の指先に堂々そびえ立つ鉄塔が見えた。
 あれこそ霊界通信の要にして、現代文化のシンボル的存在、最近ナラカにおっ立ったと言う電波塔だ。
 随分と歩き通しだった二人はそこで休憩を取ることに決めた。
「はらへった、なのですよー、お弁当にするですっ」
 ランチョンマットを敷いて水筒を置くと、ひなはドミノを並べるように大量のマヨおにぎりを並べ始めた。
 一方沙幸はと言うと、ぎゅるぎゅる〜とお腹を鳴らしてその様子を見ている。
「どうしたのですー?」
「実はお弁当持ってきてなくて……、だって菩提樹前駅に売店なかったんだもん……」
「そーゆーことなら、さゆゆにも分けてあげるです〜」
 その言葉にパッと表情を明るくさせた。
「わーい、ありがとう。ツナマヨおにぎりって私大好きなんだよね」
「マヨおにぎりが嫌いな女子なんていませんっ」
 ニコニコしながら、更にマイマヨネーズをトグロを巻くようにおにぎりにかけた。
「増し増しは基本ですよー、さゆゆもどうぞ?」
「わ……、私はいいよ。そんなにおにぎりの上に乗っけたらマヨネーズの味しかしなくなっちゃうんだもん……」
 食事を終えるとひなは写真を撮ろうと言い出した。
 古今東西、旅の思い出にはやはり形に残るものが欲しいものである。
「……あ、しまったのですっ。このカメラ、タイマーがないのです、二人で並んで写真が撮れないのですよー」
 おろおろしていると、不意に声がかけられた。
「良かったら、横綱が撮るでごわすよ」
 そこに立っていたのは、作業着を着た大男だった。
 やたら恰幅がいいがおそらく死人だろう、わずかに露出した肌の血色が酷くよくない。
 しかし、そんなことぐらいで臆するような彼女たちではない、特に気にも留めず普通に写真を撮ってもらった。
「……見たところ死人ではないようでごわすが、どこから来たでごわすか?」
「向こうの菩提樹前駅からだよ」
「菩提樹……、ああ、ナラカの世界樹のことでごわすな」
 二人は顔を見合わせた。
「世界樹って、あの菩提樹が世界樹なの?」
「ちと名前は忘れてしまったでごわすが、あれがナラカの世界樹だって話でごわす。横綱が昔いたシャンバラにも世界樹があったでごわすが……、いやはや、意外と世界樹ってのはどこにでも生えてるもんでごわすなぁ」
「おじさんはシャンバラの人だったの?」
「生前はタシガン空峡でその名を知らない奴はいないと言われたものでごわすが……、ま、昔の話でごわす」
 そう言うと、感じのいい死人は点検道具を抱えて、電波塔に登っていった。
「今は電波塔の点検労役を課せられた死人でごわすからな」
「あ、おじさん。写真のお礼なのですよー、マヨおにぎりを差し上げるのですっ」
「あとほら、お茶もあげる」
 おにぎりと水筒を放るときょとんとしたが、やがて、ゆっくりとおにぎりを美味しそうに頬張った。
「……かたじけないでごわす」


 ※このシーンは完全別行動のため、情報共有されませんので、あしからず。