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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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第1章 その男、天上天下天地無双につき・その6



「我が二尾より雷嵐がいずる!」
 玉藻 前(たまもの・まえ)の声と共に天空が裂けた。
 青白い雷光は八方に別れ、シリウスと睨み合うハヌマーンを閉じ込めるように、湿原に降り注ぐ。
 稲妻の檻に閉じ込められたボスに気付き、スーパーモンキーズがわらわらと救出に向かってきた。
 しかし、そうは問屋が卸さない。
「……我が一尾より煉獄がいずる! 邪魔だ猿共が! 我が炎に飲まれてくたばれ!」
 地獄の天使で飛行する玉藻は、ファイアストームで邪魔者どもを薙ぎ払う。
 その下では、契約者の樹月 刀真(きづき・とうま)とハヌマーンが睨み合いをしている。
「こんな檻まで作ってご苦労なこった、今度はてめぇが俺様の相手をしてくれるのか?」
「俺にはこんなことにかかずっている暇はない。すぐに決めさせてもらうぞ」
「あんだとコラ……」
 殺気に満ちた目で睨み付けるが、刀真は乾いた瞳で見つめ返すばかり。
 御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の死から、彼の心は彼女の亡骸同様冷たく凍てついたままである。
「……わからねぇな。女一人助けるのにどうしてそこまで必死になる?」
「俺がやりたいからやる……、ただそれだけだ」
 正しさなどと言う使う人間の主観で変わる言葉に自らを預ける気はない、環菜を蘇らせることの成否などもはやどうでもいいことだった。ただ、自分の腕の中で死んでいった環菜の記憶が、彼を黄泉へと至る旅路に駆り立てたのだ。
「俺が環菜を助ける、絶対にな……!」
 刀真はバスタードソードを腰だめに飛び出した。
 一気に間合いを詰める最中、金剛力で筋力を引き上げて、ヒロイックアサルトで更に身体能力を向上させる。
 その突撃に合わせ、パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が後方からマシンピストルで援護する。
「狙い……、撃つ!」
 膝元から下を狙う。再生能力のあるとは言え、被弾した時の衝撃は隙を生む。
 それを察知したハヌマーンは、時間をかけるのは得策ではないと考え、速攻で勝負を決めようとする。
 しかし刀真が轟雷閃を纏った大剣でスウェーの構えを取ると、電撃を警戒したのだろう、動きが止まった。
 迂闊に攻めることが出来ず、円を描くように動きながら隙が生じるのを窺う。
 しばらくして、刀真と月夜が一直線上に並ぶと、月夜はラスターガンにすぐさま持ち替え引き金を引いた。攻撃対象を選べる光条兵器の特性がここに生きる、向こうは刀真の身体が死角になって背後の月夜の動きに対応出来ない。
 ライトニングウェポンで雷気を纏い、刀真の身体を通過した光弾が、ハヌマーンを直撃し怯ませる。
 その瞬間、刀真は袈裟切りに斬り掛かった。
「……もらった!」
 回避が叶わないと悟ったハヌマーンは左腕を犠牲にしてその太刀を受ける。
 やはり電撃が弱点らしい、今までに見せなかった苦痛の表情を、左腕を切断されて初めて見せた。
「ちくしょう……、モロに食らうよかマシだが……、い、痛てぇ!」
「くそ……!」
 刀真は武器を捨て、風天がしたように組み伏せようとするが、二度も同じ手を食らうハヌマーンではない。
 疾風の如き高速の回し蹴りが、着込んだハーフプレートを粉砕する。
 咄嗟に防御したおかげで致命傷は避けられたが、左肩の関節が脱臼、このまま戦闘を続行するのは難しい。
「こ……、これほどとはな……」
「惜しかったな。いいセンいってると思うぜ……」
 ハヌマーンは腕を拾い上げ繋ぎ合わせるが、再生力が弱まっているらしく、完璧には接合出来なかった。
「おい、狐女。決着は着いた、俺様に殺されないうちにこの檻を解きやがれ」
「……いや、まだ解くには早いようじゃぞ」


 ◇◇◇


 そう、戦いをおわらせるにはまだ早い。
 ハヌマーンの前に多くの仲間が倒れていったが、最後の挑戦者七枷 陣(ななかせ・じん)がまだ残っている。
 しかしながら、ハヌマーンはため息まじりに呟いた。
「……どんな奴が出てくるか思えば、俺様にボコボコにされた奴らじゃねぇか」
「ちょっと待て、ボコられたんは磁楠だけや。オレと真奈は別にやられてへんやろ」
「そのしなくてもいい訂正はやめろ」
 陣を黙らせ、前回ハヌマーンに敗北した仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)が前に出た。
「前回は不覚を取ったが今回はそうはいかない」
「ああ、てめぇか。この短時間でそう成長してるとは思えねぇが……、まあ軽く相手をしてやらぁ」
「……その余裕面がいつまで続くかな」
 カッと目を見開くと、聖剣エクスカリバーを携え、一気に迫る。
 そして、前回も見せたチェインスマイトを特に工夫することなく普通に繰り出した。
 それを見たハヌマーンは嫌悪を露にする。
「てめぇ……、脳みそちゃんと詰まってんのか、ああ? 俺様は戦いが好きな野郎は強かろうが弱かろうが、それなりに一目置いて扱ってる……、けどなぁ、学習能力のねぇ馬鹿は大っ嫌いだ! 戦場にいるのも目障りなんだよぉ!」
 怒りに吼え、前回同様あえてその攻撃をその身に受けた。
「これ見てまだわからねぇのか、ボケッ! てめぇのチンケな技なんか避ける価値すらねぇんだよ!」
「……ハッ、学習しないのは貴様の方だ」
 剣はハヌマーンを両断するには至らず、その身に深く食い込んだところで止まっている。
 そこに磁楠は轟雷閃を流し込む。
「ぎ、ぎゃあああああああ!!!」
 油断。
 それは戦いにおいて決してしてはならない行為である。
 慢心と軽蔑が油断を生む、ハヌマーンは磁楠の行動に油断した、それが全て計算された布石だとも知らずに。
「あえて、だ……。一度通用しなかった技を何の勝算もなく使うはずがないだろう……」
 強烈なダメージに膝をついたハヌマーンを一瞥し、磁楠は陣に視線を向ける。
「あとは任せたぞ、小僧」
「あいよー」
 そう言うと、おもむろに煙幕ファンデーションで周囲を煙で覆う。
 煙はあっという間に広がり、稲妻の檻の中は一寸先も見えないほど、要分煙な空間になってしまった。
 そこに小尾田 真奈(おびた・まな)がメモリープロジェクターで陣の映像を投影する。
 声と共に飛び掛からんとする映像だ。
「く、くそがぁ……!」
 ハヌマーンは苦悶の表情を浮かべつつも、映像を撃退しようとそちらに向き直る。
 その瞬間、背後から陣の声がした。
「……残像だ、なんてな」
「な……!?」
 すかさず後頭部にアイアンクロー。
 ゼロ距離から放たれるサンダーブラストがハヌマーンの全身で青白くスパークを繰り返す。
「ハ〜ヌマ〜ン♪ 電撃だっちゃ☆」
「うおおおおおおおおっ!!」
 ぷすぷすと黒煙を上げながら倒れると、陣はすぐさまマウントを取って追い打ちをかける。
 だがしかし、ハヌマーンもナラカの有力な奈落人の一人、むざむざ大人しく好き勝手をさせるほど寛大ではない。
「ど……、どきやがれっ!」
 繰り出した鉄拳が陣の顔面をブッ飛ばす。
 弱っていてもその威力はメガトン級、大切な前歯が2本どこか遠いところにすっ飛んでしまった。
「こ……、このエテモンキー、やっぱめっちゃ凶暴やな……!」
 暴れ出すハヌマーンをボコり伏せるべく、魔力全開で雷電魔法を叩き込む。
「ハヌマーンッ! お前がっ! 負けを認めるまでっ! 電撃るのを止めない!」
「ぐおおおおおおおおおっ!!!」
 雷術からサンダーブラスト、そこから天のいかづちに繋がる鬼の雷撃コンボが、流石の白猿大将をも黙らせる。
 全てを連続で叩き込み終えた時には、尋常じゃない放電によって、周囲の草木が焼き払われていたほどである。
「……はぁはぁ、こ、これでどうや?」
 反応はない。
 尻の下に敷いたハヌマーンを見ると、完全に白目を剥いて気絶している。