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パラ実占領計画 第三回/全四回

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パラ実占領計画 第三回/全四回
パラ実占領計画 第三回/全四回 パラ実占領計画 第三回/全四回

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パラ実・百合園合併の行方


 それなりに平穏だった百合園女学院校門前は、もはやその平穏のカケラも残っていなかった。
 百合園の制服を着てはいるがやたらスレた印象の女子生徒や、男の娘には逆立ちしてもなれないようなゴツい女子(?)生徒や……。
 彼らは全員パラ実生で、校長の石原肥満死亡の報告を受けたパラ実教職員組合が廃校を検討した後、合併先に百合園を指名したために編入しようと押し寄せて来たのである。
 百合園は当然、全力で拒否している。
 校門では白百合団の団員がそこを死守していた。
 しかし、中にはちゃっかり入り込んでいる者もいる。
 太平洋の孤島から急ぎ戻ってきた羽高 魅世瑠(はだか・みせる)とパートナー達だ。
 別行動をとっていた彼女達だが、わりとすぐに合流でき、魅世瑠が孤島での出来事を話す前にフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)が合併話を告げたのだ。
 再会を喜ぶ間もなかった。
「ちょっといない間にそんなことが……。てことは、あたしらは今日から百合園生か。さすがにいつもの格好じゃマズイよなぁ」
 魅世瑠達はふだんは裸で生活している。
 人前に出る時は、それなりに気遣いを見せているが、かなりの軽装だ。
 深窓のご令嬢が通う百合園女学院の生徒になるなら、せめて校舎内にいる間だけでも制服を着ていなければならないだろう。
「そう思って、制服用意しといたぜ! ほら、着替えて新校舎(百合園のこと)行こう」
 用意のいいフローレンスだった。
 そんなわけで、ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)も着替えて四人で登校した。
 授業も受けた。
「せんせいのいってること、よくわからないけど、べんきょうしてるって感じがするよ!」
「ラズはここが気に入ったのか?」
 フローレンスが聞くと、ラズはにっこりして頷く。
「しっかりしたやねやかべがあるって、てんきのわるいときでもべんりでいいよねっ。おひるごはんを取りに行かなくてすむのもいいね。ラズ、このままゆり園にかよおうかなぁ」
 パラ実の学生食堂は校舎壊された時に一緒に壊れてそのままだ。
 だからお腹が空けば自分で調達するしかない。
 しかし百合園には立派な食堂がある。
 食べるのが大好きなラズには嬉しいことだった。
「皆さんが賛成なら、わたくしもここに通おうかしら」
 アルダトも楽しそうだ。
 休憩時間にそんなことを話していると、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が生徒達の向こうからやや早足にやって来るのが見えた。
「ごきげんようでありおりはべりいまそかりですわ」
 自分の知る『お嬢様の挨拶』で優雅に膝を折るフローレンスに、歩は一瞬呆気に取られたが、すぐに笑顔で「ごきげんよう」と返す。
 そして、そのまま通り過ぎようとしてハッとなって引き返してきた。
「ちょっ、ちょっとみんな……もしかして、合併のお話しで?」
「そうなんだよー。ここ、いいところだねー」
 ラズの無邪気な笑顔に世間話に流されそうになるのをグッとこらえ、歩はまだ合併していないことを話した。
 百合園からすれば、いきなり宣言された一方的な話であることを知った魅世瑠達は、声をそろえて驚く。
「マジかよ……百合園っつってもいろんな例の奴がいるから、パラ実を抱え込んでも不思議じゃねぇかなぁ、なんて思ってたんだけど、違ったのか」
「うん……それでね、そのことで静香さんにちょっと相談したいことがあってね」
「そうか。じゃあこっちも教職員組合の誰かとか呼んで話し合いを……あっ、そいつらどこにいるんだ? セリヌンティウスに直接言うしかねぇか?」
 うーん、と魅世瑠が唸っている頃、校門前では……。

「入れないよ! いったん帰って! まだ正式なことじゃないんだからね!」
 生徒会執行部白百合団班長の秋月 葵(あきづき・あおい)が、後から後から押し寄せるパラ実生の群を強制退去させていた。
 完全武装で臨んではいるが、それは葵の心構えを見せるものであって直接パラ実生を傷つけるものではない。
 もう何度も繰り返したこの言葉でキマクに帰っていく生徒もいたが、そうでない生徒にはヒプノシスで夢の中に行ってもらい、用意しておいた馬車でお帰り願った。
 葵も魅世瑠と同様、太平洋の孤島に行っていたが、空飛ぶ魔法↑↑で一足先に百合園に戻ったのだ。そうしたらこの騒ぎだった。
「グリちゃん、モヒカン達を馬車に運んでね〜♪」
「わかったにゃー」
 葵の制止の呼びかけも押し寄せるパラ実生も目に入っていない様子で、お菓子に夢中になっていたイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)だったが、葵に頼まれるとすぐに手を止めて立ち上がる。
 そして、まとまって熟睡しているパラ実生の一団へ歩み寄ると、一人一人苦労して引きずりながらキマク行きの馬車に詰め込んでいく。
 引きずる時に足のほうを掴んでいたとか、馬車への詰め込み方がかなり無理矢理だったとかは葵は見なかったことにした。
 そこまで注意している余裕がなかったとも言うが。
「そこの人っ、そんな凄まじいモヒカンの女の子なんていないよ!」
「そんなバカなことあるか! だってここは男の娘はいるじゃねぇか! 俺が告白したあのヤローが……!」
 怒鳴り散らしていた百合園制服を強引に着たパラ実生の声が急に詰まる。
 見れば、何やら泣きそうに目が潤んでいるではないか。
 自分で放った言葉に過去の痛い記憶を刺激されてしまったようだ。
 だが葵は揺らいだりしなかった。それとこれとは別問題だからだ。
「とりあえず、今日は帰ってゆっくり休んで。ね?」
 苦すぎる初恋の思い出に傷ついていたパラ実生は、葵のやや投げやりな言い方にも気づかず、やさしいコだと胸を打たれておとなしく帰っていった。
「もう、きりがないよ……セリヌンティウス教頭!」
 葵は頬をふくらませると、携帯を取り出してボタンを押した。
 やがて出たのはセリヌンティウス。
「百合園女学院生徒会執行部白百合団班長の秋月葵です。あの、合併ってガセネタですよね?」
『本気だが』
「困りますよー。どうしていきなりそんな話になるんですか? 今までだって校長先生がいなくても、パラ実としてあったじゃないですか」
『……百合園にはズガーン!がおられる。夢のような立場だとダダダダダッ!か?』
 セリヌンティウスの声は、彼のいるところで繰り広げられているらしい激しい爆音や銃撃音に一部かき消された。
『人をやった。話し合ってくれ』
 聞き取れなかったところを葵が聞き返そうとした時、イングリットに携帯を奪われた。
「にゃー♪ 今度はサッカーで勝負にゃー。楽しいと思うにゃー」
『ボールを蹴るあのゲームだな? ……考えておこう』
 セリヌンティウスがぐらつく首の位置を直した……ような気がするイングリットだった。
 通話はそこで終わった。
 葵は聞き取れなかった箇所について考え、何となくこんな結論に至った。
 百合園にはセリヌンティウスが慕うアイリスがいる。もし合併が成ればセリヌンティウスは教師という立場からアイリスに近づくことができる。
「先生と生徒の禁断の恋狙い……!?」
 葵の顔色が悪くなった時、刺青のある大きな男がパラ実生を掻き分けて現れた。
「百合園との合併についてセリヌンティウスとの相談の上で提案があってやって来た」
 グンツ・カルバニリアン(ぐんつ・かるばにりあん)である。
 この人がセリヌンティウスが言っていた人か、と納得した葵はイングリットを桜井静香校長のもとへ走らせた。

 校長室では、歩がある提案を静香に持ちかけていた。
「ただ帰れって言っても限界があると思うんです。だから、優子さんの分校の若葉分校に行ってもらえるよう呼びかけてみるっていうのはどうでしょうか?」
「若葉分校か……でも、いきなり大勢押しかけても入りきらないだろうし、向こうも困っちゃうんじゃないかなぁ」
 静香はしばらく唸りながら思案する。
 歩と魅世瑠はじっと見守っていた。
 魅世瑠達がここにいるのは、万が一校門が突破されて調子に乗ったパラ実生が校長室に乗り込んできた時に備えてのことだ。
「やっぱり、分校の総長の優子さんか番長の竜司さんに話しを通してからのほうがいいと思うな。でも優子さんはすぐに返事をもらうのは難しいし、番長さんは……」
「今頃天沼矛だと思うぜ。しかもガイアで手一杯だろうな」
 魅世瑠の説明に静香は「うぅ」と呻いた。
 力になれなくてごめんね、と申し訳なさそうに静香は歩を見る。
 イングリットが駆け込んできたのはそんな時だった。
 セリヌンティウスの使いの人が来た、と聞き全員が興味を示したが、その人物が男だとわかるとイングリットと葵の携帯を借りて話し合いが行われることになった。
『貴校とパラ実の合併が無茶なことはわかっていました』
 携帯から漏れるグンツの出だしの言葉に、静香達は大きく安堵する。
 何とか収拾がつきそうだ、と。
『そこでこちらで新たに学校を設立し、百合園と姉妹校として提携を結びたいのです』
「姉妹校? 校舎を新しくつくるの?」
『いえ、それではパラ実生達はまだご迷惑をかけ続けてしまうでしょう。種モミの塔に話しを持ち込もうと思っています。学校名は、種モミ女学院です』
「種モミ女学院!?」
 静香は声をひっくり返して驚き、歩は呆然とし、魅世瑠はこけた。
 グンツの話はまだ続く。
『無事、学校設立となった時はぜひ交換留学生制度を結ばせてください。そして、泉美緒さんを』
 通話は不自然なところで切れた。
 話しが不穏な方向へ流れ出したのを察した葵が切ったのかもしれない。
 静香は困り顔でみんなを見回す。
「交換留学生の話は今はいいよね……? 種モミの塔に教室を持てるかもわからないし」
 美緒を心配する静香の言葉はもっともだ。
 それはそうと、と魅世瑠が次の問題を挙げる。
「合併とか新設校とか、振り回されたあたし達パラ実の不満はどこにぶつければいいんだ?」
「え? ラズたち、おいだされちゃうの? ウソつかれてたの? だれがそんなひどいことを?」
 せっかく素敵な学校に通えるようになったに、と落ち込むラズ。
 魅世瑠は彼女の言葉に何かに思い当たり、ニヤッとした。
「悪いのは、チーマーとヤクザだ。あいつらがこんなデマを流したんだよ」
「そうだな。あたし達を混乱させようとして、百合園を巻き込んでこんなことを仕組んだんだ」
「それなら、きっちりお礼をしないといけませんわねぇ」
 魅世瑠の意図に気づいたフローレンスとアルダトが、そっくりな笑顔で目を交し合う。
「外のパラ実生は任せな」
「校長先生、ごきげんようでございますことですわ」
 頼もしげな笑みで校長室を後にする魅世瑠に続き、複雑な挨拶でフローレンスが退室する。ラズもアルダトも手を振って出て行った。
「あたも一緒に行きますね。失礼します」
 ペコン、と頭をさげてから歩も魅世瑠の後を追いかけた。

 外では、アルダトが「わたくし達はチーマーやヤクザに踊らされていたのですわ!」とパラ実生を盛大に煽っていた。
「奴らの居座る種モミの塔に新しい学校つくるぜ! 百合園との姉妹校、種モミ女学院だ!」
「うそつきな悪ものたちをやっつけるよー!」
 魅世瑠とラズの掛け声に、騙されたと怒るパラ実生達が応じる。
「女学院生かぁ。笑い方はやっぱこんな感じかな?」
 と、高く髪を盛った女子生徒が「オホホホホホ!」と、キンキン声で笑った。
「もっと楽でいいんだよ」
 追いついた歩が言うと、パラ実女子は珍しいものでも見るように凝視してきた。
「うわー、マジおじょーサマじゃん!」
「そんなんじゃないよ」
「これから校舎ぶん取りに行くんだけど、一緒に行くかい? 究極の体験ができるぜ。あっ。そのナリじゃ目立っちまうな。アタシがわからないようにしてやるよっ」
「え? えっ!?」
 戸惑う歩をよそに、一方的に話しを進める彼女はあっという間に歩の髪を自分とそっくりにセットし、化粧もしてしまった。
 それでも育ちの良さというものは滲み出てしまうもので。
「ま、いいか。なァ、おじょーサマの真髄ってのを教えてよ」
 このパラ実生は百合園に通うお嬢様に憧れがあるようだ。
 歩は微笑むと、基本の挨拶から教えていった。
 種モミの塔に向かう中、いつの間にかパラ実生の間に「ごきげんよう」が流行りだしたりしていた。
 歩も逆にパラ実の日常の挨拶を教えてもらったり。
「ねーねー、校舎が手に入ったらみんなで野球やらない?」
 七瀬 巡(ななせ・めぐる)の呼びかけに、パラ実生達は乗ってきた。
「【瞑須暴瑠】か……いいな!」
 応じたモヒカンがバットをスイングするポーズをとる。
「百合園にも野球チームあるんだよ」
「じゃあこっちも女だけでチーム作るか?」
「俺……アタシ達もチームに入れやがれでございますわ!」
「キモッ。一生ベンチやってろ」
 ぎゃあぎゃあ騒ぎ出すモヒカンと女子生徒。
 モヒカンの一部がリボンで結われている。種モミ女学院に入る気満々だ。
 女学院って言っても、パラ実だからそこらへんは大雑把なんだろうな、と歩は思った。