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パラ実占領計画(最終回)

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パラ実占領計画(最終回)

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荒野の結末


 ロケット組が人工衛星と戦っている頃──。

 ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は一人、東京に来ていた。
 風の噂に耳にした、地球派鏖殺寺院を裏から操っている組織を求めて。
 とはいえ。
(そんな闇の連中が、そう簡単に見つかるわけもないか……)
 いろいろ手を尽くしたが、手がかりとなりそうな情報を得ることはできなかった。
 だからといって、ここであっさり引いてしまうほど諦めの良い性格でもなく。
(出直すか)
 諦めたら、そこで負け。
 そんなことでは、その先に待っているかもしれない勝利は掴めない。
 ジャジラッドは来た道を戻り始めた。

卍卍卍


 シャンバラ大荒野。

 石原校長のもとに二人目の訪問客。
 彼女は、見えない人工衛星を見つけようとするように空を見上げて尋ねる。
「何故、今回の敵がが宇宙にいて、なおかつ脳だけの存在になっていることを知っていたのですか?」
「わしの情報収集力をみくびってもらっては困るのう」
 校長は底の知れない笑みをこぼす。
 質問した伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)は、特に表情に出した反応は見せず、そうですかとだけ返した。
 だが、今日校長を訪ねたのはこれを聞きたかったためではない。
「校長に、ひとつ提案があるのですが」
 切り出した藤乃に校長は目で先を促す。
「私を校長代理にする気はありませんか?」
「ほう。どういう意味かね?」
「今まさに、あなたを殺そうと体を捨ててまで挑んでいる者がいますね。校長がこうして表にいるから、今回や前回のような事件が起きたのでしょう。ならば、いっそのこと隠れてしまえばいいのではありませんか? ──例えば、死んだことにして、本当の意味で『裏側』の人間になるのです。そのほうが、今後動きやすくなるのでは?」
 少しの間、石原校長は何も言わなかった。
 藤乃の長い髪を風が何度か揺らした後、校長はゆったりと「否」と答えた。
「そこまでしてくれなくても、わしは大丈夫じゃ。心配はいらんよ」
 イコン並の大きさのメカに座す校長は、落とす視線の先の藤乃にやわらかな眼差しを向けた。
 それから、遠くのほうを見やり。
「そろそろ、こちらの決着がつくかのう」
 と、どんな結末になるか楽しむように目を細くした。

卍卍卍


 それぞれ指示された各地で戦っていたハスターだが、ロケットが打ち上げられてしまったため、いったんレンのもとに集まるという動きに出ていた。
 が、わざわざ面倒になるそのような動きをパラ実側が許すはずもなく──。
 集団の先頭の何人かの足が銃弾に撃ちぬかれた。
「行かせないよ」
「何者だてめぇは!」
 マシンピストル片手に前方に立ちふさがる男を、殺気立った目で睨みつけるハスター。
「S級の国頭だ」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)が静かに名乗った瞬間、ハスター以上の鋭い視線に彼らは息を飲む。
「オレを討って名を上げたい奴からかかってこいよ」
 不敵な笑みを見せて挑発すると同時にもう片方の手が刀を抜く。
 武尊の空気に呑まれかけたハスターだったが、すぐにそれを恥じるように態勢を整えた。
 武尊の横には木刀『風林火山』を担いだ猫井 又吉(ねこい・またきち)がいる。
 相手はたった二人だというのに、ハスターは動けずにいた。
 武尊と又吉へ攻撃をしかける隙が見出せなかったからだ。
「来ないなら、こっちから行くぜ!」
 武尊が地を蹴り突撃し、手始めに先頭に立っていた男に栄光の刀で斬りつけた──とはいえ、刃のほうではなく峰のほうでだが。
 男は年季の入った鉄パイプで受け止めたが、武尊の膂力に態勢が揺らぐ。
 武尊は二撃目で彼を打ち倒した。
「やりやがったな、こいつ!」
「囲んでフクロにしちまえ!」
「太平洋に捨ててやるぜ!」
 その他、口汚く罵りの言葉を投げつけてくるハスターに、又吉が怒鳴り返した。
「うるせぇ! ハスターの糞蝿ども! バラ肉にしてやらぁ!」
 武尊を背中から襲おうとしていたハスター数人を、又吉の木刀の連撃で武器を持つ手を壊す。
「降参すりゃ許してやるぜ!」
「ナメたこと言ってんじゃねぇ! てめぇこそマタタビ食ってラリってろ!」
「……徹底的にヤッてやる」
 降伏勧告が拒絶されるのはわかっていたが、酷い罵声に又吉の背中の毛が逆立つ。
 と、同時に、心の片隅で、決して裏切らない子分を持ったレンをうらやましいとも感じていた。
 シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)はやや離れたところから武尊と又吉の奮戦を見ていた。
 戦いの前に二人にパワーブレスをおくっておいたが、後で自分の役目があるからとはいえ、心配になってしまうのは仕方がない。
「女性に心配させるなど、いけませんね」
 ふとかかった声に顔を向ければ、朱 黎明(しゅ・れいめい)だった。
 彼はシーリルに微笑みかけると、戦いの場を抜け出しレンのもとへ行こうとする一団の足元に銃弾を放つ。
 シーリルのもとを離れ、彼らの前に歩み出ると今度は眉間に向けて両手の拳銃を構えた。
「そう簡単に行かせるわけがないでしょう。あなた達、いま荒野から出て行ってもまた来るでしょう? 二度とそんな気が起きないようにしませんと」
「ハッ、一人で止められると思うなよ!」
「ひとりじゃないよー」
 ハスター数人が放った火術を、サンタのトナカイで滑り込んできたラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)がファイアプロテクトで緩和する。
 そのままラズはソリをハスターに向けると忘却の槍を振りかざし、突撃した。
「みんな、ちゃんとついてきてねー!」
「後ろは任せな!」
 と、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)が続いた。
 魅世瑠達がここに着いたのは、一言でいえば勘だった。
 ロケット打ち上げ後に感じたままに動いた結果だ。
 黎明は、魅世瑠達が打ちもらした者を戦闘不能にしていった。
 しかしハスターも必死だ。
 特にS級四天王と名乗った武尊は集中的に狙われていた。
 彼を倒すことができれば、パラ実生の士気を大きくくじくことができるからだ。
 戦いの激しさに、背中合わせにあったはずの武尊と又吉はいつしかはぐれてしまっていた。
 乱闘の場も広がりつつある。
 武尊を掠めるスタンガンや魔法。あるいは近接用武器。
 四人でまとまっていた魅世瑠達も、しだいに分散されようとしている。
 その時、元気の良い通る声が戦いの音の中に響き渡った。
「パラ実のみんなーッ、がんばるっスよー!」
 高くマイクを掲げたウェディングドレス姿のサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)だ。
 突然の花嫁の登場に、ハスターも呆気に取られて振り上げた拳がその場で止まる。
 サレンは周りを見渡して微笑むと、大きく息を吸い込んだ。

♪大好きなあなたのために 私もいっぱいがんばっちゃうわ

 料理のことならまかせておいて コックを引っ捕まえてきちゃうから
 掃除のことならまかせておいて 全部ナラカに捨ててきちゃうから♪

 ノリの良いメロディと歌詞に武尊や魅世瑠がクスッと笑う。
 サレンはドレスの裾を翻し、挑発的な目をハスターに向けた。

♪お金のことならまかせておいて 私が代わりにカツアゲしちゃうから
 喧嘩のことならまかせておいて 先に私が闇討ちしてきちゃうから

 だからあなたは何も心配しなくていいの
 一緒にいてくれればそれでいいの

 大好きよ ダーリン☆♪

 歌う間、サレンも攻撃対象にされたが、時には煙幕ファンデーションで姿をくらまし、時には軽身功で襲い掛かるハスターを飛び越え、下りた先の又吉が怪我をしていればヒールで癒した。
 そして、歌いすぎて唇が乾いた時は、ちゃっかり黎明の背に隠れてSPルージュを塗りなおす。
「ふふ。みんなの力をひとつに合わせて、勝利を掴み取るっスよ!」
 パラ実が負けることなど塵ほども想像していない笑顔で、サレンは再び戦いの中に飛び込んでいった。
 歌が仲間の心を奮い立たせるように。
 サレンが歌うたびに、純白のウェディングドレスは砂色を帯び、擦り切れていく。
 それでも彼女の歌声はどこまでも透明でまっすぐだった。
 が、さすがにいよいよきわどい姿になってくると周りが止めに入ったのだった。
 その中にはハスターも数名混じっていたとか。