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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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・ノヴァ


 天沼矛内、イコンハンガー。
「ペルラ、早くイワンさんのとこ行こうよー!」
 ミルト・グリューブルム(みると・ぐりゅーぶるむ)は自機の整備を済ませ、モロゾフの元に急ぐためにペルラ・クローネ(ぺるら・くろーね)を急かしていた。
「分かりましたけれど、最後に整備後の起動チェックだけさせて下さいな」
 パネルを操作し、コックピットへ入るためにリフトを降ろす。そのままコックピットの高さまで上がり、ハッチを開く。
 そのまま縦列複座式の後部座席に座り、メインスイッチを入れる。それによってメイン照明が点灯する。
 次に、パイロット認証ためにカードキーを差し込む。あくまでも起動チェックなので、単独認証の方を選択。機体を100%の状態で動かすには、パイロット二名共に認証しなければならない。
 モニターに表示された各パラメーターをチェックし、異常がないかを確かめる。データは、ペルラのカードキーに記録されたパイロットデータを元に、自動的に出力、調整が行われる。
 そしてジェネレーター起動。コックピット内のコンソールに明かりが点る。出力チェック、次いでセンサー類の確認をして異常がないかを確認する。
「異常なし。オールグリーン」
 機体を停止させ、コックピットを降りる。
 ミルト達がハンガーを出ようとしたところ、今度はサクラ・アーヴィング(さくら・あーう゛ぃんぐ)山葉 聡(やまは・さとし)とばったりと出くわした。
「サクラー! こんにちはっサクラも整備にきたの?」
 ぎゅーっと抱きしめるが、違和感に気付く。
「サクラって結構たくましい腹筋だね……って聡じゃん!」
「おいおい、いきなり何するんだよ」
 ひらりとサクラが華麗に避けたため、聡に抱きついてしまったのである。
「この時間はちょうど空き時間なので、自機の整備に来たのですよ」
「つっても、二人ともパイロット科だから自分達だけじゃ出来ないんだけどな」
 そのため、整備依頼をしに来たということらしい。
 最終チェックだけは自分でやらなくてはいけないのだが。
「担当が整備教官長だけにはならないで欲しいもんだぜ」
「……何か言ったか、山葉」
 いつの間にか、ツナギ姿の整備教官長が彼の背後に立っていた。
「げ……いつの間に」
「ちいと面貸しな」
「聡さん、生きて帰ってきて下さい……」
「おい、サクラ、助けてくれー!!」
 さすがにサクラも歯向かえない相手なのか、そのまま聡は整備教官長に引っ張られてフェードアウトしていった。
 その姿を見届け、天沼矛を降りていく。
 天沼矛の海京側の入口付近で、ミルトはヴェロニカの姿を発見した。
 午後からはプラント見学に行くということなので、おそらくここが集合場所となっているのだろう。
「こんにちは、転入生だよねっ?」
 ちょっと驚いた様子だったが、すかさず続ける。
「ボクはパイロット科のミルト・グリューブルムです。こっちは、パートナーのペルラだよ」
「宜しくお願いしますわ」
 今度はヴェロニカの番だ。
「ヴェロニカ・シュルツです」
 その名前に、ピンときた。
「あれっドイツ人? ボクも半分そうだよー。イコンがあるところにヴェロニカって何だか尾も知れ老いね。これから仲良くしてね!」
 と、ヴェロニカの手を握って、ぶんぶんと振る。
「ちょっとミルト、引いてますわよ」
「い、いえそんなことは……」
 あはは、とヴェロニカが苦笑している。
 挨拶はそこまでにして、モロゾフと会うために今日のところは別れる。
「またねー」
 手を振り、彼女の姿が見えなくなったところで、ふと考える。
「あのときは気付かなかったけど、ウゲンの声の主はゴーストイコンを操っていた人の声と同じだと思う。それに何だか、前に博士に聞いた、全ての超能力を使えた子の話を聞いておかなきゃいけない気がするんだよね」
 海京に現れたという、敵の総帥の噂を思い出す。ノヴァの存在を。

 海京分所に着いた彼らは、モロゾフを呼び出した。
「イワンさーん、今大丈夫ー?」
「ええ、何でしょうか」
 まずは思い出したことを伝える。
「そういえば、ゴーストイコンを操っていた子供の声を思い出したんだ。ウゲンっていうタシガンの領主の声と同じな感じがするよ」
「あの吸血鬼のいる島のですか」
 大して反応しないところを見ると、ウゲンのことは知らないらしい。
 そこで、噂の人物のことを聞く。
「ノヴァのこと、何か知ってる?」
 あまり動揺することのないモロゾフの表情が険しくなる。
「ベトナム行きのチャーター機の中で話した子です。純粋な地球人でありながら、今の契約者以上の力を持っている超能力者。もっとも、今のノヴァの力は未知数ですが」
「ノヴァって強化人間じゃないの?」
 それを、あっさりとモロゾフが否定する。
「ノヴァが契約を交わしたのは、八年前です。その相手はあの銀色のイコンの中に収まっていた少女。それが何者なのかは分かりませんが、調律者曰くその少女もまた『ジズ』であるとのことです」
 どうやら、ウゲンと直接的な繋がりはなさそうだ。
「ありがと、イワンさん」