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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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18:00〜


・食事会、開始


「りょーり作るよ!」
「エミカさん、それ包丁じゃありません。紫電槍・参式です!」
 ガスバーナーどころかこの部屋吹き飛ばす気ですか、などとリヴァルトが突っ込みを入れる。そんないざ食事会だと張り切っている割に悪戦苦闘している二人をよそに、セシリア・ライトは手際よく料理作りに励んでいた。
「新鮮な果物も買ったし、これは頑張らないとね!」
 この時期はリンゴやイチゴ、みかんあたりが美味しい。そのため、それらを使って甘いお菓子を作る。
 アップルパイ、タルト、みかんゼリー。
 あとはまだ多少時間があるとはいえ、バレンタインデーも近付いていることもあり、チョコレートも作る。
「むむむー、甘いー匂いーですー」
 お菓子に釣られて、クリスタルがやってきた。
「こら、つまみ食いはダメだよ!」
 なんとか彼女に食べられないようにする。一口食べたらここにある全てを飲み込まれかねない。
 幼い見た目の割りに、大食らい(お菓子限定)なのである。もっとも、彼女は人間ではないのでエネルギー補給に必要だから、という理由なのだが。

 さて、ここで一応空京大学にいるPASDメンバーの顔ぶれを見てみよう。空京大学はパラ実空京大分校などと呼ばれていて過激なイメージがあるが、少なくともPASDにいる者達はそれなりに真っ当――

 司城 征:年齢不詳、性別不詳。実は古代の科学者。
 リヴァルト・ノーツ:元不良空気眼鏡。
 エミカ・サウスウィンド:美少女(笑)
 ガーネット・ツヴァイ:もっと熱くなれよ!
 アンバー・ドライ:電波(能力的な意味で)
 サファイア・フュンフ:クール系(笑)
 モーリオン・ナイン:見かけは大人、頭脳は子供(だった)

 前言撤回。ろくなのがいない。
 もっとも、他の五機精やら有機型機晶姫やらノインやら皆一癖も二癖もあるわけだが。
「……個性的な方々ですね」
 ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)のPASDでの第一印象はそれだった。メイベルから話は聞いていたが、実際に会うと違う印象を抱かざるを得ない。
「緊張しておるようじゃのう」
 アンバーが声を掛けてきた。
「いえ、なにやら皆さん慣れ親しんでいるようでして」
「まあ、こうして集まるのだって半年ぶりじゃからのう。元々、わらわ達には同類も少ないというのもあってな」
 彼女達のベースとなっているのは、人間の少女。その身体を半機械化し、機晶石を動力源として埋め込まれて稼動しているのが有機型機晶姫と五機精なのである。
 もっとも、その技術は失われ、現存しているのは彼女達だけしかいない。
「こちらは、出来立てですわよ」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が給仕を手伝っており、料理を運んできた。
「お、一ついいかな?」
 緑色の髪の少年のような少女、エメラルド・アインが顔を合わせてきた。
「たしか、エメラルドさんでしたわね?」
「そうだよ」
 彼女はイルミンスールに行ったと聞いている。
「ここ半年は色々あったなー。龍騎士だったりニーズヘッグだったり、何だかよくわからないことが向こうでは次々と起こったよ」
 そういえばイルミンスールは浮上しているとのことだが、どうやって彼女はここまで来たんだろうか。
 と考えそうになったが、エメラルドの『再生』能力があれば特に問題はないと気付く。
「皆さん、お菓子もどうぞ〜」
 メイベルがヴァイシャリー土産を配る。
「お、くれ!」
 ガーネットがそれを口に放り込む。
「おう、少しは明るい顔つきになったか?」
 彼女がヘリオドールを呼び寄せる。
「まだ大人しいところはありますが、いくらかは明るくなったのですぅ」
「……まあ、楽しいことも、あったから」
「あんまし、しけってんなよ! ちった笑え」
 相変わらずガーネットは豪快な性格だ。
 彼女達は皆平穏な日々を満喫しているようだった。

* * *


「サファイアさん、久しぶりなの」
「久しぶりね。元気にしてた?」
 朝野 未羅(あさの・みら)サファイア・フュンフと話していた。
「最近、何をしてたのですかぁ?」
 そう問うたのは朝野 未那(あさの・みな)だ。
 未沙がエミカと一緒に出歩いていたこともあり、彼女達もその流れでこうしてPASDの食事会にやってきたというわけである。
「普通に、大学生してたわよ。だけど、あんまり外には出なかったわね」
 今日はガーナと久しぶりに出かけたけど、と言った。
「で、空京で歩いてたらガーナがいなくなって……で、会ったと思ったらこっちが迷子扱いよ。ほんと、参ったわ」
「おい、突然いなくなったのはそっちだろ? ったくしばらく出ない間に空京の街も少し変わったからって……」
 離れたところからガーネットの声が飛んできた。
「まあ、たしかに認めるわ。私が方向音痴だってことは。でも、だからって街中で担ぐことはないじゃない? 恥ずかしいわ」
 何やら正反対の性格の二人は相性がいいのか悪いのかよく分からない感じだ。

* * *


「久しぶりだな、芹沢さん」
「元気にしてたか?」
 原田 左之助(はらだ・さのすけ)は芹沢との再会を果たした。
「この通りだ。芹沢さんも元気そうだな」
「ったりめぇだ。ま、シラフで話すってのもなんだ。飲もうぜ?」
 まだ少し早いが、酒瓶をドン、と置く。
「しかしよ、お前の連れなんか雰囲気変わったか?」
 芹沢が料理にがっついている椎名 真(しいな・まこと)の方を見遣る。
「なかなか美味いな、これ……」
 こちらに見向きもしない辺り、そう思われても仕方ない。
「まあなんだ、今真は奈落人に憑依された状態でな。しかも、英霊嫌いだからあんな感じなんだ」
 今の真が椎葉 諒(しいば・りょう)に憑依された状態であると告げる。
「なんだか面倒くせぇな」
 憑依されている真としては一体どんな心中なんだろうかと、芹沢は考えているらしい。

(せっかく久しぶりにあまり話が出来なかった人達とかに挨拶してみたかったんだけど……この状態じゃなあ。まさか、こんな状態で芹沢さんとかPASD面々へマジバトル仕掛ける人はいないよな? いたら、なんだかんだ言いつつ諒が文句言いながら止めそうだけど……根はいい人なんだよな……やさぐれてるけど)
 憑依されて身動きが取れないまま、真は場の様子を見守っていた。
 実際、マジバトルを仕掛けたら仕掛けた側が気の毒な目に遭いそうだ。芹沢は単身でも相当な強さであり、五機精達は特殊能力持ち、エミカに至っては紫電槍でこの会場ごと吹き飛ばしかねない。
(って諒、とりあえず食べ過ぎないで……頼むから、なぁ! 後でウエイト戻すの大変なんだから!)
 人の身体というのもあり、パートナーは自重しない。
 しかも周りに英霊が多いとあっては、食べることしかやることがないような感じである。
「甘い物が好きなのです?」
 そんな真、もとい諒にクリスタルが声をかけてきた。
 じーっと、白いロリな女の子が彼を見上げている。
「プリンは好きだ」
 すると目の前の少女が目を輝かせる。
「仲間ですー、これを食べるのです!」
 どこから持って来たのか分からないが、バケツプリンが用意される。
(諒、待って! それ全部食べたら体重が!!)
 だが目の前に大好物が出されて指をくわえて見ていられるわけがない。

「まあ、場の空気が悪くなるようなことはなさそうだ」
「違ぇねぇ」
 芹沢との話に戻る。
「葦原での生活はどうだ?」
「悪かねぇ。もうちっと骨のあるヤツがいりゃ面白ぇんだけどな」
 最近では学生からも第四階梯が出たらしいが、それでも彼から言わせればまだまだらしい。
「やっぱり、酒はよく貰うのか?」
「さっきものんびりとした嬢ちゃんから貰った。一緒に飲んでみるか?」
 ドン、と一升瓶を置く。
「やっぱり、酒好きは変わらないんやね、鴨さん」
 そこへ、七枷 陣(ななかせ・じん)が声をかける。
「それにしても、賑やかやな」
 まだこの辺の面子しか酒は入ってないはずだが、かなり盛り上がってるようだ。
「かーもさーん、それちょーだーい」
 そこへエミカがやってくる。
「エミカちゃん、大学生だって未成年は未成年。それに、日本酒はキツいっしょ」
「えー、あたしお酒飲める歳だよ」
 美少女は少女ではなかった。
「おう、あんたは酒飲まないか」
 豪胆そうな赤髪の女性が近付いてくる。
「あ、オレ酒ダメなんで……あれ、あなたは?」
「あたいはガーネット。ガーナって呼ばれてる。あとは五機精ともな」
 なるほど、彼女があの五機精の一人か。
「オレは七枷 陣。よろしく。話には聞いてたけど君らがねぇ」
 他の子達にも視線を送る。
「なあ、おっさん。せっかくだから飲み比べしようぜ!」
「おい嬢ちゃんよぉ。俺に勝てると思ってんのか? 後悔すんぜ?」
 というか機晶姫ってアルコール飲んで大丈夫なのか。というか酔っ払ったりするのかという疑問が沸くが、その様子を見守る。
「っとそうだ」
 思い出したように陣は声を発した。
「藤堂さん、どうしてるか聞いとらん? なんだか結構前にコンロン辺りで見かけたって人がいたらしいけど」
「ああ、旦那の話じゃ、今ちょうどシャンバラに戻ってるみてぇだぜ?」
「会わないんすか? ってかここに呼べばいい気もすんやけど」
 芹沢が首を横に振った。
「まだ会えねぇってよ。ま、龍騎士とやらには勝てるようになったみてぇだし、俺の前に現れる頃にはどうなってっか楽しみだけどな」
 にやりと芹沢が笑った。藤堂が成長して戻ってくるのを楽しみにしてるようだ。
「お初にお目にかかる」
 そんなとき、陣のパートナーである仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)が芹沢に挨拶をした。
「おう……へえ、同類か」
 芹沢は磁楠が英霊であると一目で見抜いた。
「仲瀬 磁楠。あんたとは違って無名の英霊という奴だよ、私という存在はな」
「何であれ、こうして存在してるってこたぁ。並大抵じゃねぇ修羅場を潜り抜けたヤツってこった」
 ぐい、と酒を飲む芹沢。
「頼みがある。一度手合わせ願えないだろうか」
 試合を申し込む。
「折角だし良いんじゃないッスか? あ、そこなクソ英霊フルボッコにしてくれて良いんで」
 一瞬磁楠に睨まれるが、ニヤニヤしたまま煽ってみる。
「んあ? ちっと待ってろ。酒が入らねぇとやる気が起きねぇ」
 ぐいぐいと酒瓶を空けていく。
「っつてもな、こいつを見ろ?」
 取り出された鉄扇にはヒビが入っていた。
「どうしたん、これ?」
「いや、真昼間によ。ちょいと知り合いの嬢ちゃんに誘われてな。逢引ってヤツだ。そんで激しくやり合ったらこうなったってわけだ」
「何を激しくやり合ったんスか?」
「何、互いの得物で激しくぶつかりあったってだけだ。ったく最近の女は過激すぎんぜ」
「は、はあ……」
 何にせよ、相手の女も只者ではないだろう。
 芹沢が立ち上がった。
「ってぇわけでコイツの代わりにこっちを使わせてもらう。何、鞘から抜きゃしねぇ」
「一本先取、ってことでいいだろうか?」
「構わねぇ。始めようぜ」
 二人が向かい会う。
「さあ、始まりました! 壬生浪士組初代筆頭局長相手に何秒もつのでしょうか?」
 ゆらり、と磁楠が動く。
 手合わせとはいえ、本気だ。
 封印解凍。一気に間合いを詰める。
「よっと」
 キン、という音が響く。片手で鞘だけ前に出して受け止めている。続いて、芹沢がそれを軽く振るうと、容易く払われた。
「さあ、ここから磁楠がどういうフルボッコ展開にされるのか実に楽しみです」
 陣がさらに茶化す。
「どした? かかって来いよ」
 芹沢はそこから動かない。
 むしろ、じっと構えて相手の出方を窺っているようだ。
 磁楠が正面から剣を振るう、と見せかけて寸止め。そこからすり足で移動。背後に回り込もうとする。
 芹沢が首を後ろに向けた瞬間、反対方向へとスライドする。
 そして正面から喉元に向けて剣を突き立てようとするが。
「見え見えだ」
 腕だけでそれの前に刀の鞘を出して受け止める。
 そのまま芹沢が身体を回転させ、同時に鞘で剣をはねる。そしてバランスを崩した磁楠に足払いをし、彼がしようとしたように喉元に鞘を突き立てる。
「死合ってりゃここで死んでんぜ?」
 勝負はついた。
「ププ、あんだけかっこつけといて手も足も出ないなんて!」
 陣が笑う。
「小僧、笑うな」
「ま、悪かねぇな。それに、その戦い方はお前の本分じゃねぇだろ?」
 元々、魔法の方を戦いの主体に取り入れているのが彼だ。
「うっし、飲むぞ。酒だ、もっと酒持って来い!」

* * *


「どうもお久しぶりですー」
 ひなは司城に挨拶した。
「おや、久しぶりだね。彼女達も元気そうでよかったよ」
 司城がジャスパーやルチルを見遣る。
 立食パーティーのような様相で、各々が自由に会話を楽しんでいた。
「盛り上がってるのですっ。何かあったら遠慮なく言って下さいね〜、力になりますのでー」
「はは、助かるよ」
 今のところは大丈夫そうだ。
 ただ、一部がおかしなことになっている。
「リヴァルトー、めがねー、だてめがねー、あははははー」
「おいこらエミカ、人の勝手に取ってんじゃねえぞ。あと、そいつは伊達じゃねっつってんだろが!」
 酔っ払ったエミカとリヴァルトが追いかけっこしている。
「……ほんと、あの二人には困ったものだよ」
 さすがに司城は苦笑せざるをえないようだ。
「おっと、へりおがいたのですー」
 ちょうどヘリオドールの姿が目に入り、ジャスパーとともに駆け寄っていく。
「久しぶり、元気にしてた?」
「……うん」
 もの大人しげなのは相変わらずだが、前よりは大分顔つきが明るくなったように感じられる。
 そのまま二人の間にひなが入って、ヘリオドールの頭を撫でる。ルチルにしてもヘリオドールにしても、今回は友人の都合がつかなかったらしいので、その分彼女達で楽しませようとあれこれしている。
「甘いお菓子が多いですねー」
 理由は分かった。クリスタルだ。
「食べ物を粗末にすんなです、このやさぐれプリン男」
 何やらクリスタルはバケツプリンに顔を突っ込んでいる男にご立腹なようだが、どうしてそうなったのかの一部始終は分からない。
「ちょうどタルトがあるのですっ。ジャスパー、あーん」
 ジャスパーの口に運ぶ。
「うん……美味しい。はい、ひなちゃん」
 今度はジャスパーがお返ししてくる。

 一方、ナリュキの方はといえば、ルチルと一緒に五機精を呼び集めようとしている。
「ごきしょー、勝負じゃ!」
「しょーぶだー!!」
 しばらくして、全員が集まる。
「で、何をするの?」
「わー、面白いことかな?」
「ふむ、勝負なら負けたくはないのう」
「あたいに勝てっと思ってんのか……ひっく」
「負けないのです」
 ガーネットは何やら酔っ払っている。
「もちろん罰ゲーム付なのじゃ。勝負のお品書きは以下の通りかの」
 ナリュキが提示したのは、

・じゃんけん
・腕相撲
・にらめっこ
・あっちむいてホイ
・パフェ早食い

の計五つ、総当りだ。
「ルチル、罰ゲームの準備じゃ。負けたら奈良漬1Kgを強制的に流し込むにゃあ」
「らじゃっす! 先輩」
 それにしても、ノリノリである。
「じゃあ、ボクからいくよ!」
 最初はエメラルドだ。
「じゃーんけん、ぽん」
 エメラルドがグー、ナリュキがパー。
「まずは一人じゃ」
 ドザーっと流し込まれる。そして、すかさず携帯カメラでぱしゃり。
「あたいの番だぜ」
 ガーネットと腕相撲だ。
 これはさすがに勝てない。相手はパワー型だ。
「ふふ、負けぬぞ」
 にらめっこはアンバーとだ。
「ぶ、おぬし、それは、はははははは!」
 ナリュキの圧勝である。
「クリス、パフェは任せるわ」
 あっちむいてホイはサファイアだ。
「じゃーんけん、ポン。あっちむいて……ホイ」
 あっさりと負けるサファイア。
「ふ、残念ね。私の能力を忘れたのかしら?」
 サファイアの能力は破壊。触れたものを分解する力。
「わらわが何も考えてないと思うかの」
 ガチャリ。
 サファイアの手に手錠が嵌められる。
「それー!!」
 そこに奈良漬が流し込まれる。
「そう、そうなのね」
 手だけ出ているのは無様だ。だが、声をなんとか発する。
「あなたがこの楽しい宴の邪魔をするというのなら、まずはそのふざげたげ――」
 ルチルが顔面に一気に流し込む。
「サフィー、それ以上言ったらいけない。確かに力的には似てるけど」
 そして最後はクリスタルだ。
「甘い物で私に勝とうなど、5000年早いのです!」
 がーっとクリスタルがパフェを飲み込む。
 結果、五機精相手に三勝した。
「まあ、半分に勝てれば上出来かの」
 そして負けた三人はこの後晒されることになる。

* * *


「加わらないのかい?」
「我の柄ではない」
 そんな様子をノインは静かに見つめていた。
「せっかくだから、ちょっと、ね!」
「って、お……」
 モーリオンに引っ張られ、ノインもまた宴の中へと無理矢理飛び込まされた。
「……こういう日が、もっと続けばいいのにね」
 優しげな瞳で、司城がそう呟いた。