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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

リアクション

  
世界樹班とブルタさんと魔王軍
 
 魔王軍を招聘して、人数の膨れ上がった世界樹班。今や総勢17名。
 喧々諤々とユーレミカを目指す。
「いい。PMR見習いのカナリーちゃんでーす。まおーぐんのひとたちは頭を柔らかくして、聞くんだよ」
 カナリーが自信満々に胸を張れば、シオンがくわと牙を剥く。
「貴様っ! 魔王様に対してなんという態度っ。許さない!」
「頭固いなぁ。もう。いい? 世界樹・西王母は桃じゃなくて人参果だったんだ!」
「「「「な、なんだってー!」」」」
 周囲でそれを聞いていたメイベル、セリシア、フィリッパ、ヘリシャが一様に大袈裟に驚いてみせる。
「違うよー。まだ早いよー。続きがあるんだからー」
 
 そんな遣り取りの隣では、魔王と軍師が腹の探り合いに忙しい。
「招聘――とのことだ。何か俺に聞きたいことでも?」
「あなたはイルミンスール生。先だって確保したブルタさんも元はイルミンスール。御するにはお力を借りるが上策であります」
「……なるほどな」
「それに――」
「――それに?」
 ダリ髭を扱きながらマリーが意味あり気に笑えば、ジークフリートも不適な笑みで先を促す。
「シャンバラの世界樹インスミールを冠する魔法学校の学生であれば、世界樹がどれほど大事なものかはお解かりのはず。
 隣国の危機に乗じ、その力を我が物とせんとする輩が出るようなら一大事であります。協力いただけるでありますな?」
「――ええ。それは勿論」
 ジークフリートは協力者の仮面を被り直して、上辺だけの笑顔で応えた。
 
「……いったい、どうなるのでしょう」
 不安そうな面持ちでグロリアは呟いた。
 マリーに従って従軍してきたはいいが、心の中にはもやもやと形にならない何かがある。
(薔薇の学舎、パラ実……インスミール……エリュシオンの龍騎士……そして、私達)
 自分が把握しているだけでこれだけの勢力が世界樹のあるユーレミカに向っている。
(そして、ユーレミカの軍閥は西王母を守っているはず……もし、何かの行き違いで敵対されてしまうと)
「……戦闘になって、火事とか……それで世界樹が焼けたり……こ、困ります。」
 自分の考えを否定するように、グロリアは思わず声を上げていた。
「ふひひひ。困るよ。ボクも困っちゃうんだよ」
 隣から上がった声にグロリアはビクリと身を竦ませる。
 吊られたまま、にたりと笑うブルタと目が合った。
「な、何がですか?」
「このままだと西王母を守れないからだよ。ふふふ……」
「え?」
 それはどういう意味なのだろうか。
 グロリアの中で再びもやもやが動き出そうとした刹那、ぐいと強い力で手を引かれた。
「……」
「――レイラ」
 そこには無言で首を横に振るパートナーの姿があった。
 無言のまま。けれどグロリアの返事も待たずに、レイラはグロリアを連れてその場から離れる。
 けれども、一度芽吹いた何かはグロリアの中から消えることはなかった。
(……全てを灰に……いけない……でも、それはそれで――あぁ。内なる声に負けてしまいそうです。マリーさん)
 
「ふふふ……このままじゃ終わらないよ……」
 引き摺られていくグロリアを見送りながら、ブルダはビン底眼鏡の下で目をぎらつかせた。
 ザシュ――頬に当たる不穏な感触にブルタは視線を動かす。
「確かにこのままじゃ駄目だよねー」
 右手にフレイル。左手に名古屋コーチンを持ったカッティの笑顔がそこにはあった。
「食材はちゃんと下拵えしないとねっ!」
「な、なんの話なのかな? ふふ、ふふふ」
 冷や汗がつぅと丸い頬を伝う。
「豚料理も美味しいんだけど。――それは本格的に遭難した時だね!」
 喰われる。ホントに喰われる。笑顔に潜む本気の食欲にブルタは悲鳴を上げた。
「ヒィィィィ!!」
 喰われるくらいなら、頬に突き刺さる鉄球や撲殺の痛みなど屁でもない。
 どうか迷わず雪原を抜けられますように――ブルタは心の底から旅の無事を祈った。
 
 白いマントが風に靡く。
 一行から十数歩送れた場所に立つ人影が一つ――ナインだ。
 マントで身を包むようにして、離れていく仲間を見送る。
 ちなみに、お腹が冷えたために離脱したわけではない。
 その証拠にナインは一行が進んでいた進路から斜め三十度ずれて前進を始めた。
(――大人数での行軍は目立ちすぎる。ここからは単独行動に入らせてもらうわ)
 仲間がいることが力強いこともあるが、一人の方が有利に働くこともある。
 西王母に関する情報を入手する場合、ナインの中では後者に軍配が上がった。
(素早く、慎重に行くわよ)
 白いマントに包まれた細い身体は雪原に紛れてあっという間に見えなくなった。
  
 どこまでも続くかのような暗く重たい灰色の空。
 それはまるで長い長いトンネルのようだ。
 いつまで経ってもそれを抜けることはなく、視界いや、世界はどこまで行っても白い雪国。
 そう。終わりのない雪原が続き、そりはどこまでも轍を引いて駆けて行く。
 と、その歩みが止まった。
 イレブンが手綱を繰り、行軍を止めたのだ。
 行く手に緑を湛えた土地が見えた。
 その奥に一際大きな何かがそびえ立つ。灰色の空と舞う粉雪に全貌を確かめることは叶わない。
「あれが……ユーレミカ」
 一行はついにユレーミカの目と鼻の先までたどり着いたのである。