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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第1回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第1回

リアクション


(・侵食)


 前衛で戦っている茉莉は、連携を意識することを忘れ始めていた。
 目の前にいる寺院の機体を殲滅する。
 そのくらいの力がなければ、あの青いイコンは倒せない。
(くく、興奮してくるのだ)
 ダミアン・バスカヴィルの気分が高揚しているのを、茉莉は感じ取った。それだけではなく、その意識が自分の中に流れ込んでくるような感覚がある。
 敵機を見る。
 固まっているシュメッターリンクに向かって、サイコキネシスによって弾速を上げた機関銃の弾丸を放つ。
 相手からの反撃も構うことなく。
 それらはシールドを展開することで、ダメージを軽減する。
『RIGHT NOW! RIGHT NOW!! RIGHT NOW!!!』
 次第に内側からこみ上げてくる破壊衝動を抑えられなくなってくる。
『こちらコルヴス3。コルヴス4、コルヴス5、少し脳波が乱れてるよ、注意して!』
 御空からの通信が入るが、それを聞き流してしまう。
 関係ない。
 とにかく、目の前にいる敵を全て消してしまえればそれでいい。
 近接戦になった敵の機体に、ビームサーベルを突き立てる。コックピットにだ。そのまま横にサーベルを薙ぐ。
 敵を破壊することに、茉莉は次第に強い快感を覚えるようになっていった。
 だが、そんな自分達よりも敵を蹂躙している機体があった。
 勇輝達だ。

* * *


(ユーキ、ユーキ!!)
 最初に異変に気付いたのは、早紀だった。
 BMIを介して彼とのやり取りを行っていたわけだが、途中から彼の声が途絶えた。にも関わらず、機体はそれまで同様に戦闘を行っている。
 そんな早紀の中に、ユーキの意識が流れ込んできた。
(ユーキ、ダメ、自分を見失わないで!!)
 だが、早紀も次第に意識が混濁していく。

 俺は弱くない。
 落ちこぼれなんかじゃない。
 全部、「俺一人」で倒してやる。
 俺だけでいい。
 俺が最強だ。
 俺以外は必要ない。
 みんな消えてしまえ。
 強いのは俺だけで十分だ。

 負けず嫌いであることが彼の本質だ。誰にも負けたくはない。そのためには、自分が最強であることを証明するしかない。
(違う、そこまでしなくていいんだよ!! もう十分証明出来たよ。だから……止まって! お願い!!)
 目の前が暗くなっていく。
 その中で、BMIのシンクロ率の数値を見た。
 40%で止まるはずの数字が上昇していく。
 50。
 60。
 70――

* * *


「あの機体、BMI20%以上出てるんじゃないの!?」
 烏丸機の様子がおかしい。
 杏がその機体を見た。
 今のところ、敵と戦っているが、あれはイコンの戦い方ではない。
 まるで、肉食獣が暴れているかのような無茶な戦い方だ。
「――――っ!!」
 勇輝達の機体の一定範囲内に入ると、強い頭痛が起こった。
「何よ……これ……?」
 まるで、精神波を受けているかのような感覚だ。
 パイロットの持つ超能力が制御を失い、機体の外にまで影響を及ぼしているようであった。
 レイヴンの漆黒の機体が、赤黒い光に包まれている。
 覚醒もしているらしい。
 そして、ビームライフルを敵の一個小隊へ向け、放った。
 桁違いの威力だった。ライフルから放たれた光は、射線上にある敵機をまとめて蒸発させてしまう。
 同じ覚醒状態のコームラントによる大型ビームキャノンの砲撃でさえ、そこまでの威力は出ないだろう。
「なんて威力だ……」
 これがレイヴンに秘められた力なのか。
 今度はその銃口が、クルキアータに向けられる。
「やめろ!!」
 しかも、それは隊長、ダリアの【マモン】へと一直線に向かっていった。
 コルヴス小隊では間に合わない。

「覚醒めて、アイビス!」
 そこへ割って入ったのは、アスク小隊の【アイビス】と【ズルカルナイン】だ。二機とも覚醒を起動して、レイヴンのビームから【マモン】を守る。
 【アイビス】の二挺拳銃によるライフルの威力に、コームラントの【ズルカルナイン】の大型ビームキャノンによる砲撃で後押しする形で。
「間一髪、ってところだな」
 とはいえ、完全に威力を相殺出きたわけではない。覚醒したイーグリットとコームラントを合わせても、今の一撃の威力には及ばなかったのだ。
 それでも、なんとかF.R.A.Gへ当たらずに済んだ。
『生憎、こちらの不手際で敵対することになるのは避けたいんだ。身内の始末は、身内でつける』
 智宏がダリアに伝える。
『後で詳しく聞かせてもらうわ』
『今は、寺院の方は任せる』
 また、もう一機の方のレオがヴィクウェキオールの力を借りてテレパシーを行う。相手はコルヴス小隊だ。
(一体何が起こってるんだい?)
(烏丸機が「暴走」している。さっきから、テレパシーでも通信でも一切応答がない)
 御空から報告を受ける。
 その間も、暴走したレイヴンは寺院のイコンを蹂躙し続けている。
 ビームサーベルを突き刺し、動力炉を貫く。すると、奇妙なことにレイヴンの光が強くなった。
(エネルギーを吸収してる……?)
 破壊した敵の機体から、機晶エネルギーを吸い出しているようにしか見えなかった。そうすることで、エネルギーを補充し覚醒状態を維持しているのだ。
 それはおぞましい光景だった。
(とにかく、早くあれを止めないと、取り返しがつかないことになる!)

「兄さん、烏丸さん達が」
「分かってる、あいつを助けるッスよ!」
 【トニトルス】がレイヴンに向き直る。
 だが、暴走した今の状態を止めるには、悔しいが自分達だけでは不可能だ。
『今からあいつを誘導する。その間に、頼むッス』
 対処出来る機体は、レイヴンの暴走を抑えるため、烏丸機を包囲する。

(御空、あまり近付くとこちらも『飲まれ』ます)
(分かってるよ。でも……)
 レイヴンの暴走を止められるのは、同じレイヴンだと思っていた。だが、近くにいけば暴走した精神的な力場に巻き込まれ、下手をすれば自分達も暴走する。
『やめろ、俺達は敵じゃない! 戦いに飲まれて自分を見失っちゃ駄目だ!!』
 ビームライフルを狙って、スナイパーライフルで狙撃を行う、【ホークウィンド】。機晶エネルギーを吸収することから、そのエネルギー由来である大型ビームキャノンは使えない。
 だが、銃弾は機体の周囲に展開された力場によって弾き返される。
 その姿を見た、【ウィッチ】はブースターをフルにして烏丸機へと突っ込んでいった。

「見つけた……殺す、今度こそ、絶対に!」
 なんとか自我を保ってはいるものの、茉莉はほとんどレイヴンに意識を飲み込まれていた。
 烏丸機が、ベトナムで遭遇した青いイコンに見えている。
「死ねぇぇえええ!!!」
 ビームサーベルを抜き、相手の力場の内側へと飛び込む。その際の加速は、本来20%で出せる性能を明らかに超えていた。
 互いの力場が干渉し合い、二機は反対方向へと弾き飛ばされる。
 茉莉はまだ気付いていなかった。
 自分もまた、暴走しかけていることに。
 リミッターがかかっているはずのBMIシンクロ率が30%を超えていることに。

* * *


「景勝さん、行きますよ」
 同じレイヴンが烏丸機を引き付けている間に、リンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)が覚醒を起動しながら接近していく。
 常時その状態を維持するのではなく、解除も行いながらメリハリをつける。
『おい、勇輝ちゃん。お前さん、おかしくなってるから一旦戻ろう? なっ?』
 桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)は呼びかけるだけ呼びかける。
 だが、やはり反応はない。
 無力化して、捕縛するしかなさそうだ。
『援護するぜ』

 そんな景勝達を、笹井 昇(ささい・のぼる)デビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)が援護する。
 シールドにはさらに、実弾を反射する力が備わってしまっている。ならば、当てにいくのではなく、あくまで牽制。
(まさかこれほどとは。いや、むしろパイロットの意識がないのに、どうして機体が動いている?)
 昇にとっては分からないことばかりだ。
(一体、学院は何を考えている? 私達はどこに向かおうとしている……?)
 疑問を浮かべながらも、景勝の後ろから牽制を行っていく。
 そのとき、レーダーに新たな反応があった。
「なんだ、あの機体は?」

 レイヴンを押さえようと戦っている中、そこに新たな機体が現れた。
 クルキアータの同型機に見える。しかし、それに比べわずかに曲線をかいたような女性的なフォルムで、レイピアを装備した白いイコン。
「F.R.A.Gの援軍か?」
 寺院のシュバルツ・フリーゲやシュメッターリンクをものともしない様子で、撃墜しながら暴走したレイヴンに向かってくる。
 確執が生まれるのも承知で、天御柱学院のレイヴンを止めに来たのか。
 だが、暴走した機体の銃口は、その白いクルキアータに向けられている。
 先にこちらが撃ったら、そちらの方が問題だ。
 咄嗟に景勝の機体がビームの前に出る。その威力ゆえ、アサルトライフルとショットガンでは防ぎ切れない。
 アサルトライフルを捨て、ビームサーベルに切り替えてレイヴンからの攻撃を両断した。
『早まらないでくれ。すまねぇが、あれでも仲間なんだ。助けられるなら助けたい。もう少しだけ、チャンスをくれねぇかなぁ?』
 すると、相手は潔く引いた。
『相変わらず、お優しいですわね』
 その声には聞き覚えがあった。だが、まさか……
「景勝さん、暗号通信です。『これで助けられるのは二度目ですわね』。
 間違いありません、あのパイロットはメアリーさんです!」
 まさかの事態に、頭がついていかない。
「なんでメアリーちゃんが……?」
 だが、F.R.A.Gに与しているとしても、今は敵じゃない。
 とにかく、この場は勇輝達を何とかするのが先だ。

* * *


(精神波が弱まってきましたね……チャンスは今、ですか)
 ただでさえ覚醒でエネルギー消耗が激しい上に、あれだけ超能力を使い続ければ精神がもたない。
 今なら「飲まれる」ことなく、接近出来る。
(コルヴス1、援護するわよ)
 【ポーラスター】が力場が弱まったことを感知し、コックピットへと狙撃を行う。だが、回避されてしまう。
 そこへ、【ホークウィンド】が狙撃を行い、ビームライフルを破壊する。
 そして、【コキュートス】がワイヤーで拘束し、電撃を送り込む。
 だが、それだけでは完全に破壊し切れなかった。烏丸機がビームサーベルを抜き、ワイヤーを切断する。
『まだだ!』
 そこへ、ようやく景勝達が到着した。
 弱っているレイヴンの前にグレネードを投げ、ショットガンで起爆する。
 だが、それはめくらましだ。
 直後、ビームサーベルで烏丸機の腕を相手のサーベルごと斬り落とす。その上で、ワイヤーを使って捕縛する。
 これでようやく、暴走は止まった。
 そして、通信が入る。
『あたし達は……一体……どうなって……』
 衰弱した早紀の声が伝わってきた。
『ユーキ? ねえ……しっかりして……ユーキ』
 だが、パートナーの勇輝の声はいっこうに聞こえては来なかった。