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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

「話には聞いてたがコイツは……とんでもねぇゲテモノだな」
 星小隊のシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は【オルタナティヴ13】の中で、顔を歪めた。
 学院で閲覧できる過去の戦闘資料に載っていたが、実際に目の当たりにすると【マリーエンケーファー】の巨体がどれほど規格外かが分かる。要塞と言っても差支えがないだろう。
 ただ、以前とは若干仕様が異なるようだ。機体の正面にあるはずの主砲の姿がない。
(ま、アレがないだけ少しはマシか)
 戦闘データから想定された結果によれば、エネルギーをフルチャージの状態で放てば海京が消し飛ぶほどの破壊力となっていた。
「確か排熱口が弱点になってたはずだ。サビク、まずは確認だ」
「了解。最初は慎重に、だよね」
 【マリーエンケーファー】――改め、【マリーエンケーファー?】から放たれるミサイル群をかわしながら、【オルタナティブ13】が巨体の周囲を旋回した。外から見たところ、機体には四つの砲口が確認された。資料にはビームキャノンが二門とあったが、さらに二つ増えている。
『こちらスター1、デカブツの弱点だった廃熱口はなくなってるぜ。ただ、その分主砲を削らなきゃなんなかったみてぇだ』
 シリウスは小隊メンバーへの通信回線を繋げる。それと同時に、アペイリアーの放ったビームキャノンによる光条が、巨体に展開されたマルチエネルギーシールドに衝突するのが目に入った。
『こちらスター2。ビーム兵器は通じないみたいだ。みんな、コイツには実体剣や実弾兵器で攻撃するんだ』
 無限 大吾(むげん・だいご)から、通信が送られてきた。
『……問題は、実体武器でもそれなりの威力が必要そうだってことだよな』
『シールドそのものの強度に関しては、まだ何も言えないかな。少なくとも、遠距離では破れなさそう』
 西表 アリカ(いりおもて・ありか)の声が伝わってくる。
 ならば、やはり接近するしかない。
 【オルタナティブ13】が他の機体と共に、編隊を組んだまま【マリーエンケーファー?】の周囲を螺旋を描くように飛んでいく。敵の機体は、同じ位置に留まったままだ。全方位に対する攻撃、防御手段を持つため、動く必要がないということなのだろう。
 イーグリット以上の機動力があれば、ミサイルを撃墜するのは容易い。【オルタナティブ13】は実弾式汎用機関銃の引鉄を引き、弾幕を張った。
 だが、ミサイルに気を取られてばかりはいられない。爆発による煙の中から、アームのついたワイヤーが伸びてきた。
「しまった!」
 サビクが咄嗟に機体を傾けたが、【マリーエンケーファー?】の回転による遠心力で【オルタナティブ13】に巻きつこうとしてくる。
 ジェファルコンがブースターを全開にすれば、その機動力をもって振り切れないこともないだろう。だが、電流を流されると致命的なダメージを受けかねない。資料によれば、それが可能とされていた。
 が、ワイヤーが巻きつくことはなく、シリウスはそれが凍り付いているのを目視した。
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)織田 信長(おだ・のぶなが)が搭乗する六天魔王による冷凍ビームが命中したのである。
『こちらスター3。機動力のあるスター1、スター2、及びスター1のサポートとしてスター4は、前衛として先行してくれ。後ろは俺達に任せてくれ』
『忍、ミサイルが邪魔になる。嵐の儀式の準備をするのじゃ』
 操縦に専念している信長に代わり、忍が通信回路を通して呼び掛けてきた。
 最も射程距離の長い【六天魔王】が小隊を見渡せる位置に留まり、マジックパックを装備したプラヴァー、スター5が中距離を担う。それを受けて、残りの三機がマリーエンケーファーに接近し、攻略法を探し出そうというのである。
「サビク、後ろは任せても大丈夫そうだ。派手に引っ掻き回してやれ!」
 エナジーウィング展開。機体が前傾し、一気に加速していく。
「さすがに機銃程度じゃビクともしないか」
 シールドに肉薄し、【オルタナティブ13】が機関銃による銃撃を行うが、シールドで阻まれてしまう。そこに、今度は【マリーエンケーファー?】の方からバルカン砲による砲弾が飛んできた。
 シールド付近の迎撃はそれでまかなっているようだ。
 この程度なら、ブルースロートである【メテオライト】による補助でエナジーウィングを盾として展開すれば、十分に防げるレベルである。
 だが、それは避けきれない場合だ。再びバルカン砲が火を吹くが、【オルタナティブ13】がそれを避け、一旦距離を取った。

「バルカン砲の発射口は全部で十。ワイヤーはまだ全部確認出来てないけど、最低でも十ヶ所以上から出せるみたいだよ」
 アリカの報告を受け、大吾はその位置を頭に叩き込んだ。
 スピードでは天学のジェファルコンやブルースロートについていけない。しかし、【アペイリアー】も決して遅いわけではない。回避性能だけでいえば、素体であるイーグリット・アサルトの大元であるイーグリットといい勝負だ。パイロットの負担を度外視すれば、十分第二世代機と並んで戦うことも出来るだろう。
 実際、前衛として敵の攻撃を引き付けるのは大吾の駆る【アペイリアー】の役割だ。
 飛んでくるワイヤーの姿が目に入る。それを避けようとしたところで、相手はそれを動かし軌道を変えるだけだ。
 ならば、とシールドを構え、鉄の守りをもってそれを受け流した。
「大吾、まだ!」
 引き戻されるワイヤーの存在をいち早く感知したアリカの声を受け、ブースターを吹かせた。
 ちょうど【アペイリアー】がいた位置をワイヤーが通り過ぎていこうとするが、ギリギリのところでシールドに激突してしまう。巻き戻る勢いによって、シールドが弾き落とされてしまった。
 それでもまだ、もう一枚シールドが残っている。
「……さて、一応パターンは掴めてきた。ここからは反撃させてもらうぞ」
 【アペイリアー】がガトリングガンの照準を合わせた。
「確かにこの世界では、たくさんの過ちが繰り返されてきた。だがな、だからと言って神を気取って粛清しようとしてるその行動、それ自体が過ちなんだ」
 だから、止めてみせる。俺達の未来を守ってみせるぞ、と大吾は意気込む。
「みんな、みんな、この世界で精一杯生きてるんだ! それなのに、勝手にボク達の未来を消そうなんて、ふざけないでよ! 行くよ、アペイリアー! この星の明日を守るためのスクランブルだ!」
 アリカもまた、意志を決めているようだ。
 【マリーエンケーファー?】のマルチエネルギーシールドギリギリまで機体を進めた。それは、ビーム及びプラズマ兵装のエネルギーを無効化するばかりか、ガトリングガン程度では実体兵装であってもほとんど通用しない。だが、間違いなく隙はある。そこを狙えるかどうかが問題だ。
 ミサイルポッドの中身を射出し、ガトリングガンによる弾幕援護で敵からの攻撃を相殺した。それによって、【オルタナティブ13】と【メテオライト】が再度シールドの前まで辿り着く。
 予想が正しければ、敵がバルカン砲を撃つときがチャンスだ。
「そこだ!」
 スラスターから光が発せられ、一気に【マリーエンケーファー?】との距離を縮めた。
 そして、ガトリングガンの攻撃は敵のバルカン砲に命中した。
 常時シールドを展開したままでは、攻撃が行えない。こちらに向けて撃つときは、「バルカン砲で発せられる程度の砲弾」がシールドを突破出来るように、弱められている。
 だが、それはほんの一瞬――砲弾が抜けるその瞬間だけしかない。そこを見計らわないと、【アペイリアー】の武装でダメージを与えるのは厳しい。
 だが、敵の攻撃を阻害出来ていればそれで十分だった。装甲強度が高い機体の場合は武器も同様でそう簡単に壊せない。しかし、バルカン砲を破壊したとき、周囲の装甲もダメージを受けていたことからすれば、【マリーエンケーファー?】の装甲強度はかなり低いということになるだろう。敵機の火力自体はそれほど脅威ではない。シールドの攻略法さえ見つかれば、勝機は十分にある。

「シールドの防御力は驚異的。ですが、これならどうでしょう」
 プラヴァーに搭乗している志方 綾乃(しかた・あやの)は、両肩に搭載されたマジックカノンを放った。
 前衛の状況を見ても、このシールドを破壊しない限り有効打を与えるのは難しいだろう。ならば、一点集中で徹底的に攻めるしかない。ビームやプラズマを拡散させることで受け流しているため、それらの兵装ではいかに強力だろうと無効化されてしまう。
 ならば、魔力を利用した魔術兵装ならばどうだ? 少なくとも、それらよりは高い威力を発揮するはず。それが綾乃の考えだった。
 だが、それは甘かった。
「ち、どうやらあのシールド、実体を伴う物理攻撃以外はことごとく受け流しちまうみてーだぜ?」
 ラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)がそれを知らせてきた。
「まだ諦めるのは早いですよ」
 ぐっ、と拳を強く握り締める。
「それに……今まであまり活躍出来ませんでした。みんなの役に立つことも。ここでやらずして、どうするのですか!」
 プラヴァーにワイヤーが迫ってくるが、それをマジックソードが薙いだ。
「そう言って少しでもいい所見せようってのは死亡フラグだぜ?」
 ラグナから指摘された。
 しかも、いつの間にか切っておいたはずのサポートシステムが再起動されている。これでは、機体の動作に制約がついてしまう。
「その心配はありません。ちゃんとみんなで帰って、行きつけの空京の店でパインサラダを食べるんですから」
 再び、サポートシステムを切る。
「みんなっていう以上、もちろんお前も俺もな。あと、俺は野菜が嫌いだ」
 プラヴァーがミサイルが一ヶ所に固まるように誘導しながら、旋回した。そこに向かってトリガーを引く。魔力による一筋の光が、ミサイルを飲み込んで消滅させた。
「これ、持ってて下さい」
 紅蓮のペンダントをラグナに託そうとした。不安なときはそれを握り締めて心を落ち着かせていたものだ。
「これまでで一番厳しい戦いのはずなのに、なぜかまったく不安を感じません。絶対に大丈夫だって、そんな気がします。もう何も怖くない!」
 なぜか視線を移す度にサポートシステムが入ってしまっているが、今の私にそんなものは必要ないと、また切った。
「馬鹿、勇敢と無謀は違うぞ。気を引き締めろ」
 と、ラグナに釘を刺されてしまった。
「俺達の仕事は、あくまで前衛の砲撃支援だ。それを忘れるな」
 彼女の言葉を受け、目標に照準を合わせ直した。
 
「信長、起動準備完了だ」
「うむ。邪魔なものを一掃するぞ!」
 【六天魔王】が嵐の儀式を発動した。
 もちろん、それだけで【マリーエンケーファー?】の巨体が乱れるわけではない。風を起こすことで、ミサイルやワイヤーを蹴散らすのが狙いだ。
「どうじゃ?」
「前衛がうまく対処してくれてる。けど、あのシールドを破るには並大抵の攻撃じゃ駄目だ。マジックカノンでさえあまり効いてないところを見ると、魔力耐性も高いみたいだ」
 そこへ、敵機から光が放たれてきた。ビームキャノンである。
 それを【六天魔王】がかわすが、予想以上に弾速が速い。ただのビームキャノンとはいえ、あのサイズになるとライフルのような感覚で撃ち出せるのだろう。
「ならば、強力な一撃を与えるだけじゃ。忍、ヴリトラ砲のチャージを開始せい。貫通は無理でも、一時的にシールドを破るくらいなら出来るはずじゃ」
 多少のリスクはあるが、一瞬の隙があればそれでいい。前衛の【アペイリアー】からの通信によれば、どうやらシールドは強力だが、巨体の装甲は脆いらしい。
『星小隊各機へ。これからヴリトラ砲の準備に入る。それまで敵の攻撃を食い止めて欲しい』
 味方にしばらく攻撃を引き受けてもらっている間に、照準を合わせる。前衛がすぐにシールドの内側に飛び込めるように、ポイントを計算した。
「信長、発射準備完了だ!」
「了解じゃ!」
 黒いエネルギー弾が【六天魔王】から放たれた。
 ヴリトラ砲から発せられたそれが、【マリーエンケーファー?】のマルチエネルギーシールドと衝突する。
 だが――。
「……なんじゃと!?」
 ヴリトラ砲はナラカの気をエネルギーに転換して発射されるものだ。つまり、シールドによって受け流される対象となり得るのである。
 強力な実体兵器が少なく、魔法と機晶エネルギーが主体となっているシャンバラにとっては、まさに鉄壁の守備を誇っていた。