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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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 海京西地区、国際会議場前。
「そろそろ到着する頃か」
 天御柱学院パイロット科科長イズミ・サトーは声を漏らした。
「ここで行われることを知っているのは?」
 彼女と視線を合わせたのは、教官長五月田 真治だ。
「政府から直接通達があった者だけだ。私達を含めてな。厳戒態勢ではあるが、警備の者達に詳細は知らされていない」
 政府はシャンバラ王国……厳密には学校勢力だが、その方針に異を唱えるものに対し「反シャンバラ」のレッテル貼りを行ってきている。休戦協定を結ばれたら、反シャンバラ筆頭であるF.R.A.G.を武力で潰すことが出来なくなってしまう。
 そう考える人は少なからずいるだろうと予想されるため、交渉の件は大々的には知らされていない。
「最も警戒すべきなのが身内とはな」
 五月田が漏らす。
 クーデターの影響により、海京への出入りは制限されている。天沼矛も封鎖されたままだ。
「科長、教官長!」
 そこに、一人の男が現れた。
「どうした、星渡?」
 星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)だ。学院で二人がここにいることを聞いたようだ。
「お願いがあります。F.R.A.G.との和平が成立した際は、第一部隊と共闘させて下さい」
 休戦協定を結ぶための交渉だということは公にしていない。しかし、学院での様子から何が行われるか悟ったようだ。
「それは、F.R.A.G.の部隊の中で立ち回るということか?」
「はい」
 生のF.R.A.G.を知っている彼なら、心配はいらないだろう。
「許可しよう。イコン部隊の運用に関しては後ほど連絡する。それまで学院で待機しててくれ」
 指示を出し、彼女達はF.R.A.G.の代表の到着を待つ。

* * *


(あれが、地球側の代表か)
 警備役の一人として着任していた橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、六人の男女の姿を捉えた。
「こちらへ」
 彼女らを控え室まで誘導する。
 その間、常に周囲に気を配ることを忘れない。
 推測するに、シャンバラはF.R.A.G.と何らかの協議を行おうとしている。何かあった場合、それが全て台無しになりかねないからだ。
 控え室の前で警備に当たっていたハーヴィット・カンタベリー(はーびっと・かんたべりー)と入れ替わりで持ち場につく。
 部屋の中に入ってもらう前に、室内を隈なく調べ上げる。ハーヴィットが何か仕掛けていないとは限らないからだ。
 とはいえ、監視カメラも回っている。彼が不審な動きをしていたらすぐに分かるだろう。あまり周りを疑いたくはないが、今は確実に安全だと言える者の方が少ない。自分自身も、同じように警戒されていることだろう。
 しかし、この建物の中で何かしでかそうものなら、すぐに強化型のPキャンセラーが発動し、パラミタ線の影響を受けている者は皆行動不能になる。もし危害を加えようとするなら、あらかじめ仕掛けておくものになるだろう。

(爆弾が仕掛けられていたりするかもしれませんからねぇ)
 パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)は施設を巡回しながら、主に不審物がないかを調べていた。
 パートナーがシャンバラ側の代表であるため、彼女はここで交渉が行われることを知っている。
 他の者達はその内容までは知らないだろうとはいえ、地球とシャンバラが歩み寄ることを良く思わない人間が何かを企んでいる可能性はある。
 そのため会議室の中だけではなく、そこに至るまでの通路や建物の基礎部分など、会場全体を念入りにチェックしている。一周して「異常なし」と気を緩めることなく、調べた後に仕掛けられている可能性も考え、巡回ルートを変えながら常に目を光らせた。

* * *


(あそこが交渉が行われる会議室か)
 エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)は、外から国際会議場を見渡していた。
 状況が状況なだけに、中にいる人間の方に注意が向きがちだろう。しかし、外部に敵が潜んでいる可能性を捨ててはいけない。
 会議室が窓のない部屋なら良かったが、残念ながらそこまで都合良くはいかなかった。「狙撃」される可能性は十分にあり得る。
(待機命令が出てるっつっても、上手く監視を掻い潜って来るヤツだっているかもしれないんだぜ)
 しかも、ここは高層ビルが立ち並ぶ海京西地区だ。狙撃手にとっては、絶好の場所である。
 しかし、交渉が行われる会議室を狙うとなれば、狙撃可能ポイントは限られてくる。そこに人を配置しておき、狙撃出来ないようにしておく。
 始まる時間になったら代表の一人であるパートナーから連絡が来ることになっている。それが来たら、狙撃ポイントを狙える場所に身を隠して待機するだけだ。
 もし、配置した人員を倒して狙撃しようとする者が現れたら、即狙いを定められるようにするためである。
 これが今後のシャンバラと地球の関係を大きく左右することになるだろう。
 気を抜くことは許されない。