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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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「おう、追いついたか。よし、コンスタンスとレギーナはここで待機だ。俺と白河は周辺を探索してくる」
 カタフラクトのベーストラックを運んできたレギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると)を認めると、パワードスーツを着た三船 敬一(みふね・けいいち)白河 淋(しらかわ・りん)と共に遺跡周辺の調査にでていった。
 パワードスーツのジャンプ力を生かして、遺跡の外壁に沿って調べ、遺跡の全体図を把握しようとする。
『しかし、たった一つ以外入り口が見つけられないだなんて、建物としてはずいぶん奇異ですね』
『パラミタの遺跡としては珍しくもないだろ。それにしても、丸いな、この建物は』
『ええ。まるで、土に埋まったボールの一部が露出しているみたいです』
『確かにな。中に入った連中が、上下に移動すればもっとはっきりするんだろうが。きっちりと調べるには、掘り出すとかして、三次元的に把握する必要がありそうだ。とにかく、こいつがここに建てられた物じゃなくて埋まっているだけだとしたら、地面が一階というわけじゃないだろうからな。とんでもなく中途半端なところに扉があるかもしれんだろ』
『既成概念は忘れて探すとしましょうか』
 軽く遺跡表面を蹴って二段ジャンプでより高い場所へと移動しながら白河淋が三船敬一に言った。その足許で、何かが光った。
 一方、留守居組となったレギーナ・エアハルトは、希龍千里が綺麗に露出させた遺跡の壁に手を当ててそこを調べていた。
「古い、古いですね……。この表面に刻まれた呪紋。面白い。メモしておきましょう」
 ぶつぶつと小声でつぶやきながら、レギーナ・エアハルトが遺跡の外壁にびっしりと刻まれている呪紋を手帳に書き写していった。
「何か分かったのかな」
 パワードスーツに身をつつんだコンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)が、レギーナ・エアハルトに訊ねた。何かあった場合の遊撃隊としてここに残っている。
 問われて、レギーナ・エアハルトがずいとコンスタンティヌス・ドラガセスに書きかけのメモを突きつけた。
『魔法的な何か』
 書き殴られた不思議な模様の上に、そう但し書きが書いてあった。
「いったん報告に行ってくるか」
 三船敬一たちからの情報も受け取ったコンスタンティヌス・ドラガセスは、情報はこちらとメガホンを持って叫んでいる武神牙竜のところに行き、リーン・リリィーシアたちが纏めているデータベースに情報を追加した。
「受け取りました」
 それらデータを纏めると、有栖川美幸が共有データに登録した。
「なんなんです、このエネルギーの流れは」
 久我浩一が首をかしげた。模式図はほとんど真っ白だ。遺跡全体がエネルギーの流れにつつまれていると言ってもいい。これでは、解析のしようもなかった。遺跡全体が魔法エネルギーのタンクのようなものだ。あるいは、全体が魔法バリアのようなフィールドにつつまれているかだった。
 
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『えーっと、こちら湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)です。上空からの偵察画像送ります。遺跡に、変化があった模様です』
 リーン・リリィーシアや久我浩一が情報の解析に困惑しているときに、湯上凶司から新たな情報が入った。
「まったく、火事を消すだけだと思っていたのに、これじゃ、帰るに帰れない雰囲気ですよね。セラフ、映像は送れますか?」
 湯上凶司が、セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)に確認した。ネフィリム三姉妹は、パワードスーツを装着して遺跡を上空から調査していたのだ。
「現時点で、イコンの飛行音は各方向から聞こえるものの、戦闘の兆候はないようだねえ。エクスが直上、ディミーアが外周を調べているので、その画像を中継するねぇ」
 警戒役のセラフ・ネフィリムが中継点となって、妹たちからのデータを湯上凶司を通じてデータベースへ転送した。
「ここに、イコンがいた形跡があるわね。消火班のイコンかもしれないけど、やや整然としていて不自然だわ」
 ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)が、先に瓜生コウが発見していたイコンの形跡を見つけて映像と位置のデータを送った。本来であればその痕跡は隠すように隊長に命じられていたはずなのだが、内部に留まらずにわざと偵察にでた佐野 和輝(さの・かずき)や、隊長に不信感を持つシフ・リンクスクロウや閃崎静麻たちによってわざと残されたものだ。
「上空からの中継だよ。ああっ、なんか光ってる!」
 遺跡上空からの映像を送っていたエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)が叫んだ。遺跡全体にときどき稲妻のような模様が走る。それは、光で描かれた幾何学模様のようであった。それをなぞるようにして調べながら、三船敬一たちのパワードスーツが飛んでいく。
「この遺跡って、封印されてたんだよね……」
 それが破られたと言うことはどういうことなのだろうかと、エクス・ネフィリムがブルンと身を震わせた。
 ネフィリム三姉妹から送られた情報は、データベースに送られ、纏められていった。
 
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「なあ、本当に大丈夫なのか、信長? 交渉をするにしても和輝のイコンに通信をしたのが他の傭兵部隊に傍受されて、俺達がやろうとしていることがばれるんじゃないのか?」
 少し心配そうに桜葉忍が織田信長に訊ねた。
「忍よ、この私が何の準備もなしに交渉を行うと思うか? 私はテレパシーで和輝に話しかけて交渉を行う。これなら、イコンの通信機器を使わずとも互いに何度も面識があるから安全に話す事ができるのじゃ」
「おお、なるほど」
 その手があったかと、桜葉忍がポンと手を叩いた。だが、問題は、相手がこちらの申し出に乗ってくれるかどうかだ。
「それを交渉というのだ。まあ、黙ってみているんじゃな」
 そう言うと、織田信長が静かに目を閉じて意識を飛ばし始めた。
 
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「動きが激しいですね」
「うん、ここからだと、イコンの動きもよく見えるよね」
 高高度にグレイゴーストを位置させながら、佐野和輝とアニス・パラス(あにす・ぱらす)が目視とレーダーで地上を観察していた。
 この高さからだと、地上のイコンからも広範囲レーダーに切り替えないと察知されにくい。イコンの形状特性から一箇所にとどまれないのが難点だが。
 上空から俯瞰で見ると、遺跡と世界樹イルミンスールの間では、頻繁な行き来があった。遺跡の中にいる傭兵部隊に残された時間は少ないだろう。もっとも、隠密行動を捨てるのであれば、時間はいくらでもあるのかもしれないが。
 他の学校方面からも、遺跡にむかうイコンの姿があった。おそらくは、配備されたばかりの新型であろうか。
 破壊されたオベリスクの方でも、少数の動きがある。どうやら防衛していたイコンは無事だったらしいが、行き先は遺跡ではない。そのへんは、遺跡方向からオベリスクにむかってのびているビーム砲の跡を見れば一発で分かる。だが、高空から見ると、遺跡とオベリスクを結ぶうっすらとしたラインが地上に浮かびあがっていた。ビームに焼かれた後でも、道路というわけでもないのだが、何かしらのラインが二つの地点の間を結んでいたようだ。
「あれ、遺跡がおかしいよ?」
 アニス・パラスが、画像モニタを見て言った。
 上空からは球形に見える遺跡に、微かに発光が見える。俯瞰で見ると、全体が淡く光条につつまれているかのようだ。
「イコンバリアのようなものですか?」
 発光の意味を計りかねていた佐野和輝の頭の中に、突然誰かの声が響いた。聞き覚えのある声だ。意識を集中させると、はっきりと声が聞こえた。
「織田信長ですか……。どうやら、すでに俺たちの存在はうすうす感づかれてしまっているようですね。さて、何か知っているなら協力したいときましたか。これは、協力しろという……、勘ぐりすぎですか? そこまでは言ってはいないと。また口のうまい……」
 テレパシーでの会話は頭の中だけなので、端から見ているとまるで独り言のようだ。
「ねえねえ、どうしたの?」
 よく分からなくて、アニス・パラスが佐野和輝に訊ねた。
「俺たちは、これから傭兵隊長を裏切って、みんなの方につくということですよ」
 まったく悪びれた顔も見せずに佐野和輝が言い切った。
「えっ、裏切り? う〜ん、悪いことだけど……アニスもあの隊長嫌いだから、別にいいや。それにアニスは和輝のこと信じてるから、判断はお任せ〜♪」
 あっけらかんと、アニス・パラスが言った。
「じゃ、情報を渡すから、後はそっちで吟味してくれ。タイミングはこちらで計るから気にするな」
 テレパシーでそう告げると、佐野和輝は偵察飛行を続けた。
 
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「そうか、平面で考えるからおかしいんだわ。立体でデータを整理し直せば……」
 メモリーツリーに新たなタグを付加して、リーン・リリィーシアが情報を三次元処理していく。
「これは、内部って、かなりシンメトリックな構造じゃないのか?」
 部分のデータのパターンに気づいて久我浩一が予測データをルーチン化してみる。
 遺跡内の模式図が姿を現し、コンピュータが予測データで道の部分を埋めていった。
「これは、いったいこの遺跡はなんなの?」
 浮かびあがった全体図を見て武神雅が目を見張った。そこに書き表された物は、完全な球体であったのだ。しかも、推測ではあるが、各フロアを複雑に走る通路自体が魔法陣となり、それが幾層にも組み合わさった上に、いくつかの隔壁がルーンベルトとなってそれらを結び、巨大な魔道回路を形成している。
「これにエネルギーの流れを重ねると……」
 武神雅の言葉で、推測マップに魔道レーダーで拾ったエネルギーの流れが重ねられた。すると、遺跡の内部のあちこちで突発的にエネルギーが発生し、それが中央と遺跡の各部にある広い空間に魔法陣のサインを描きながら伝導されていった。だが、不思議なのは、それがまた逆流するかのように他の場所に移動していくことだ。だが、閉ざされた空間の中を移動するだけなので、最終的には中央部に集められていくようであった。
「内通者からの情報では、傭兵の隊長は未知のイコンを探すためと称して、この場所の封印をしていたオベリスクを破壊させて茨ドームを焼き払わせたそうじゃが」
「オベリスクが茨ドームが防いだエネルギーを循環させて制御していたとするなら、この火事自体、茨を排除すると同時に遺跡にエネルギーを補充するための物だったのかもしれないわね」
 織田信長の言葉に、武神雅が付け足した。オベリスクにいた者たちからの情報がそれを裏づけてもいる。
「いずれにしろ、傭兵たちのほとんどは、利用されていたと言えるわけじゃな。だとすれば、こちらに取り込むのが得策。どうにも、この遺跡は胡散臭すぎるからの」
 織田信長の言葉に、一同がうなずいた。