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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話
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quindecim キリアナ・そして龍騎士達

 エリュシオンへ帰ったかと思いきや、再び舞い戻って協力を請うたキリアナに、駆け付けた叶 白竜(よう・ぱいろん)は溜め息を吐いた。
「てっきり、無事にエリュシオンに着いているものと思っていました」
「堪忍どす。想定外の事態になってしまいまして」
 キリアナがサルヴィン川流域で騒動を起こしていたことを聞き、彼は更に目眩を感じた。
「セルウスを落っことす羽目になった、理由を聞かせてください」
「それが、うちにもよう解らなくて。
 突然何者かが追って来たんどす。
 アンデッドの龍の群れで、とりあえず切り抜けたんやけど、首謀者は逃がしてしもうて」
「……それは、こんな人物でしたか?」
 アンデッド、と聞いて、白竜は写真を取り出して見せた。
 彼は、黒崎天音から、アンデッドを率いていたという、不審な男の情報を得ていた。
 天音と共に、武闘大会でその姿を見ていたブルーズの、念写によるナッシングの像を、キリアナに見せると、頷く。
「こんなお人でしたわ。何者です?」
「解りません」
 不審人物とは聞いていたが、セルウスを狙う者だったか、と、エリュシオンまで護衛しなかったことを後悔した。

「ま、俺としては、またキリアナに会えて協力できるなら、嬉しいけどな」
 単純に上機嫌のパートナー、世 羅儀(せい・らぎ)の様子を、白竜は横目で見る。
 彼は疑っていないようだが、白竜は、恐らくキリアナは、見掛けの性別ではないのでは、と推察していた。
 それは、自分の胸の内にのみ秘めていることで、誰に言うこともしない。
 だが、護る事象が増えた、とは感じていた。
 武闘大会の時の捕り物では、キリアナの体に触れようした者もいたらしい。

「とにかく、セルウスを探しましょう。なるべく、横山ミツエには関わらない方が賢明です。
 確保次第、現場を離脱する方向で」
 合流地点を打ち合せ、キリアナに分裂エニセイを借りて、小型飛空艇で手分けして捜索することにした。



 キリアナへの協力者がミツエを妨害することは、即ちエリュシオンがミツエの妨害をした、という構図になると解釈をされると、後々に禍根を残すのではないか、と、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は危惧した。
「だから、キリアナさんは今回は動かずに待機、か。
 セルウスとドミトリエに味方する人達との区別なんてつかないだろうしね?」
 パートナーのクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)はそう言いつつも、捜索の為に分裂エニセイを借りると、エリュシオン関与と取られちゃうかなあ、と心配する。
「でも、ミツエ側は、エニセイの分裂能力のことを知らないか。
 キリアナの龍と同じだなんて思わないかな」
「直接俺達の誰かがセルウスを確保するより、セルウス本人がミツエ領から脱出する格好にできればいいんだがな」
 難しいが、できるだけやってみよう、と思う。

「……そういえば」
 色々と考えていてふと思い出し、クリストファーはキリアナに訊ねた。
「俺のパートナー、惚れた女性が実は男だったと知って、ショックを受けたことがあってね」
「……それは、災難でしたなあ」
 キリアナは、クリスティーを見て苦笑する。
「キリアナくんは、性別や戸籍の有無と恋愛って、どう思う?」
 問われて、キリアナは首を傾げた。ふう、と息を吐く。
「相手の素性を気にするかどうか、という話なら、うちは別に気にしまへんよ」
 問いの中に鎌をかけてみたのだが、気付いたのか気付いていないのか、キリアナはそう答えた。
「じゃあ、あとひとつ。
 アイリスが一人娘だと言っていたけど、蓮田レンの存在は、樹隷みたいにタブーなのかな?」
「別にタブーではないどす。
 あんまり一般的でないのは確かやけど。クリスはん、よくそのお人のこと知ってましたね」
 キリアナは逆に驚く。
 特に秘密というわけではないが、アスコルド大帝の息子は、広く知られた存在ではなかったからだ。



 なんかいい感じにカオスになってきたねぃ、と、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は楽しそうに、パートナーのゆる族、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)に言って呆れられる。
 それにしても、と、アキラは意味ありげに笑った。
「話に聞いたけど。
 お偉いさんとは思えないくらい腰が低くて冷静沈着で微笑が耐えねえキリアナさんが『げぇ!』とか言っちゃうなんて、あの横山ミツエとかいうのは、よっぽどのものなんだねい」
 あら、と、キリアナは口を押さえる。
 少しからかって満足したアキラは、キリアナから分裂エニセイを借りて、セルウスの捜索に回ることにした。
「ミツエやらの動きもあるし、キリアナさんは前には出られないんでしょ。
 シャンバラからコンロンに抜ける方面に先回りしておくのはどうかな」
 そうすれば、キリアナ自身がミツエ陣営と関わることもないだろう。
「そうやね。そうさせてもらえると有難いどす。
 なるべく、でけることはやらせてもらおうと思うてるけど……」
「ま、セルウス捜索は俺達に任せて!」
 アキラは請け負って出て行く。

 うーん、と、キリアナが何か気にしている様子なのを見て、どしたの、と羅儀が訊ねる。
「……うち、腰が低いやろか」
 ぱちくり、と、羅儀は目を見開いた。
「えーと、……いい人だなーと思うけど」
「こう……、滲み出る高貴さ、みたいのがあったりなんか、しません?」
 高貴さ……?
 羅儀と白竜は顔を見合わせる。
「高貴さっていうか……」
 羅儀は言葉を濁し、白竜も、困ったように言い淀んだ。
「…………魅力的、とは、思いますが」
 ぷっ、と途端に羅儀が吹き出した。
 じろ、と白竜が睨み付けた先で、羅儀は体を折り曲げて、くくくと笑いを堪えている。
「ぱ、白竜……精一杯すぎる」
 二人の様子を見て、キリアナもくすりと笑った。
「けったいな質問してしまいました。堪忍どす」
「いや、いや」
 羅儀はまだ笑ったまま、ぱたぱたと手を振る。
「うん。魅力的だと思うよ」


 何を気にしているのか知りませんが、と樹月 刀真(きづき・とうま)はキリアナに言った。
「横山ミツエなんてペッタンコのちんちくりん、そこまで恐れる理由が分かりません」
 キリアナを上から下まで見て、うむ、と頷く。
「安心していい。色々と君の勝ちです」
 と、彼の両側から、パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が耳を引っ張った。
「痛っ」
「どうせ私は貧相よ。何、鼻の下伸ばしてるの、刀真!」
「月夜……別に月夜の胸のことなんていたたたたっ」
「刀真さん〜」
 白花も非難の眼差しを向けている。
「痛い、イタイ!
 こら二人共、別に鼻の下は伸ばしてないから!」
「朴念仁はん……」
 キリアナは、引っ張られて行く刀真を見送りながら苦笑した。
「ほんまに、朴念仁やなあ」
 二人共、頑張って、と、キリアナは手を振りながら、月夜と白花にエールを送った。

「全く、刀真さんはキリアナさんを気にしすぎです。
 私達だって平気なわけじゃないんですからね?」
 白花の批判に、刀真は、
「彼女に協力すると決めたのだから、最後まで協力するだけだ」
 と、他意は無いことを主張する。
「……でも、白花もスタイルいいよね……」
 じっ、と見つめられ、白花は両腕で胸を隠した。
「何処を見ているんですか、月夜さんっ」
「……おふざけはともかく」
 刀真が居住まいを改める。
「俺と月夜は、セルウスの捜索をします。
 白花は、連絡の為にキリアナの側に残っていてください」


 そうして、小型飛空艇に乗ってセルウスの捜索に向かった刀真、クリストファー、アキラ、白竜、そして辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)達の一方で、白花とキリアナ、キリアナの護衛を引き受けた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)も移動する。

 じー、と白花はキリアナを見た。まだ刀真との話を引きずっている。
「キリアナさんはスタイルいいですよね」
「そうですか? 胸は無いですけど」
 キリアナは肩を竦めて笑う。
「私も、もう少し露出の激しい服を着たら、刀真さんは手を出したくなるのでしょうか……」
「白花はんも朴念仁はんが好きなん?」
 ぽつりと呟いた白花は、キリアナに問われて、はっと我に返る。
「あ、いえ! えーと一般論でですね」
 確かに、好きは好きですが。慌てる白花に、キリアナはくすくすと笑った。



 アキラは、まずはミツエが陣を張る場所へ赴いた。
「どうも、こんにちは〜」
 情報提供者、と名乗って、ミツエに面通りする。
「セルウスの情報ですって?」
「そうそう、お得な情報だぜぃ!
 セルウスには、クトニウスっていう親代わりの頭蓋骨と、ドミトリエっていうドワーフに育てられた兄貴分がいる」
「……ふうん」
「まずはこの二人を抑えちゃえば、セルウスも大人しく契約に応じてくれると思うぜ」
「将を射んと欲するならまず馬を射よ、ってわけね」
「そうそう」
「で、頭蓋骨っていうのはアレ?」
 ミツエが指差した方を見ると、ミツエの配下が持っているのは、ツァンダの武闘大会で見憶えのある頭蓋骨。
「あれっ?」
「で、」
 と、ミツエは二人のパートナーを見る。
「配下にすべきだと思う? それとも人質?」
 劉備は溜め息を吐いた。
「言いたくはありませんが」
「人質であろうな」
 と、曹操は笑う。
「あれっ?」
「連れて行きなさい」
 がし、と両脇をミツエ配下の者に捕まえられる。
 幸いにもその二人は雑魚だったので、連れて行かれる途中で振り切り、逃げることができた。
「うーん、クトニウスって既にミツエ陣営におちてたのか、しまった」
「どうするネ?」
「とにかく、セルウスを探し出して挽回しよう」
 草むらに隠れていた分裂エニセイを呼び出し、アキラ達はセルウスの捜索に戻る。

「こっちの混乱を狙ったんでしょうけど、情報自体は多分、嘘じゃないわね」
 ミツエの言葉に、恐らく、とパートナー達も同意した。
 クトニウスが、あんな奴は知らンとぶつぶつ文句を言っているが、無視である。
「さてと、面会希望は、まだいるのよね?」
「あと一人、東朱鷺と名乗る人が」
 風祭優斗が頷いた。