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リアクション
●イナテミス:ウィール砦
「伊織さんの苦しみを、私は理解することは出来ないかもしれません。でも、受け止めることは出来ます。
……私は、伊織さんの力になりたいんです」
「はうぅ……なにがどーなってあーなったですか……」
ウィール砦の自室にて、土方 伊織(ひじかた・いおり)は頭を抱えていた。魔族の残党がイルミンスール上空を制圧していた頃、ウィール砦割譲のいざこざで精神的に参っていた所にセリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)がやって来て、とても優しい言葉をかけてもらった所までは覚えているのだが、そこからの記憶がさっぱりだった。そして気付けば、セリシアと一緒のベッドで眠っていたとなれば、混乱はより一層強くなる。
「こ、これじゃ順番が……ってちがーうです、そーじゃなくって……」
じゃあどうなんだ、と自身に問いかけて、浮かんでくるのはセリシアの微笑む姿。最中のことは記憶になくても、目を閉じれば包み込まれているような、たとえるなら木漏れ日の温もりのような、そんな温かさを思い出すことが出来る。
「……はわわ、どーすればいいのです? どーすればいーのですぅー」
自分がこの上なく喜んでいることが自覚出来てしまって、伊織はあたふたともがく。
「あらあら……お嬢様はどうなされたのでしょうね?」
「ふむ……セリシアの事で相当、てんぱっておるのう。まあ、我々は見守ろうて。伊織がこれからどうするか、その結果セリシアがどう受け取るか、楽しませてもらおうではないか」
「確かに、これはこれで見ていておもしろ……コホン。
では、私は撮影の準備をしてきますので。お嬢様に何か動きがありましたら、お伝えください」
一礼して、デジカメを取りに行くサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)に、サティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)がうむ、と頷く。それからしばらくして、伊織はウィール砦を出、セリシアに会いに行くために一路ウィール遺跡へと向かう――。
●イナテミス:ウィール遺跡
「伊織さんの方から誘ってくれるなんて、嬉しいです。最近は色々あって、こうしてゆっくり過ごせる時間がなかなか取れませんでしたから。
……あの、もう大丈夫ですか? 砦の事で色々と大変ではないですか?」
「だ、大丈夫です。べディさんとサティナさんがやってくれたみたいです」
ウィール遺跡から少し離れた森の中を、セリシアと一緒に歩く伊織はもう既にいっぱいいっぱいであった。
(はうぅ、恥ずかしーのですぅ。……でもでも、このままうやむやーはだめだと思うのです。
それに、ちゃんと想いは言葉にして伝えないと、受け止めて貰えないと思うのです)
そう思ったからこそ、伊織はセリシアの下を訪れたし、「お話がしたいです」とセリシアをこうして連れ出してきた。今勇気を出さなくてどうする、頑張れ伊織……自分にそう言い聞かせるようにして、伊織がセリシアを向いて口を開く。
「えっと……セリシアさん、この前はどうもありがとうございますです。セリシアさんにはいっぱい、いっぱい、助けられてるです。
変なこと言ってるって思うかもしれないですけど、僕はセリシアさんと居ると、楽しい、って思うです。出来ればずっとセリシアさんと楽しく居たいって思うですけど、僕はただの人間なので、精霊さんなセリシアさんと何時までも一緒にいられないのです。きっと、最後にはセリシアさんを悲しませるだけなのかもしれないのです。
それでも、最後までセリシアさんと一緒にいる事はできないですけど、何時か別れるその時まで、一緒に思い出を作っていく事はできると思うのですよ。
こんな、自分勝手で、だめだめーな僕ですけど……死が二人を分かつその時まで、僕にセリシアさんの時間を分けてくださいです」
言い終え、不安と期待を一緒にした表情でセリシアを見つめれば、突然のことに驚いた顔から、やがてふふ、と声を上げて笑う顔へと変わる。
「ふふふ……伊織さん、まるで告白みたいですよ」
「ほぇ? ……はわわー本当ですぅー!」
思わぬ指摘に完全にテンパった伊織が、あたふたと取り乱す。
「はわわわわ、せ、セリシアさんのこと好きじゃない訳じゃなくって、どちらかと言うとすっごく好きだと思うですから、告白じゃない訳じゃない訳じゃ――」
もう何がなんだか分からなくなりそうな所に、ふわっ、と包み込むような感触を覚え、伊織が落ち着きを取り戻す。セリシアと伊織は並ぶと、頭半分くらいセリシアの方が高い。そのセリシアに抱き締められると、全身をすっぽり温かく包み込まれているような感じを覚える。
「嬉しいです……伊織さんが私のことを好きって思ってくれて。私も伊織さんのことを、好き、と思っていましたから」
「あっ……」
セリシアの想いを聞いて、伊織は喜ぶでもなくどちらかと言えば、先に告白させてしまったことを悔やむような顔をする。するとセリシアは身体を離し、どことなく悪戯っぽい笑みを浮かべると、きょとんとする伊織に言う。
「私からのお願いです。……伊織さんの口から、聞かせてください。たった二文字の、とても大切な言葉を」
「――――」
伊織はもうなんだか、恥ずかしさと情けなさで埋まりたくなる気に駆られる。
……ここまで尽くされたなら。僕は全身全霊、この人を愛そう――。
「セリシアさん。僕はセリシアさんのことが……好き、です」
二人が再び身を寄せ合い、気持ちを触れ合わせる――。
……さて、このようなおいしい……コホン、素敵なシーンに、ベディヴィエールとサティナはどうしていたかというと――。
「これは……セリシア様にしてやられましたね。私達の行動を読んでいたのでしょうか」
「むぅ、我が妹ながら食えん奴と思っとったが、これは一本取られたな。
だが、ここからが本当の勝負じゃぞ? 我は既に数歩先を行っておるでな、追いついてくるがよいぞ」
決定的瞬間を捉えようと張り込んでいた二人を、蔦が絡め取り吊り上げてしまう。もちろん持っていたデジカメは没収である(後でちゃんと返された)。
(セリシア、どうか、お幸せに)
蔦を操った人物(まあバレバレだが、ヴァズデルである)が、セリシアと伊織の幸せを願う。