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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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【2】 ROUNDABOUT【1】


「どうやら留守のようですよぉ……」
 研究室の扉をノックしたが、返事はなかった。
 ここは天御柱学院普通科校舎。その教授である大文字勇作(だいもんじ・ゆうさく)の研究室の前だ。
 遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)は一緒に調査に来た仲間に見張りを頼むと、銃型HCを扉に繋ぎ、ロックの解除を始めた。
 作業に集中する彼女をしめしめと見つめながら、コンクリート モモ(こんくりーと・もも)は気配を消して背後に回る。
「海京の惨事におやつが出ないのは、クルセイダーが来たせいだー!」
「はわわわわっ!」
 飛び出そうになる心臓を飲み込んで、寿子は振り返った。
 モモはアフロヘアーにノクトビジョン装備と言う出で立ちで立っていた。
「お、驚かさないでよぉ……って、なんでアフロなの?」
「だって秘密のアフロを調べに……」
フロアだよぅ!
 食い気味に突っ込んだ。
「あ、そう……アフロ関係ない……」
 はしゃぎ過ぎて先生に注意された小学生のように、モモはシュンとしてアフロを服の下にしまった。

 モモは、寿子の作業を邪魔しないよう少し離れ、ハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)と一緒に見張りを始めた。
「……それにしても、クルセイダーって不思議な奴らなのにゃ」
「何の話よ?」
「奴らが未来人って言うのがほんとなら、奴らは未来を変えるためにこの時代に来てるわけでしょ。でも、歴史を変えてもパラレルワールドが生まれるだけなのにゃ。奴らの未来には影響がないのにゃ」
「未来ってそんなごっそり変わっちゃうもんなの?」
「少しでも変化があれば、それはもう違う未来なのにゃよ。まぁでも、G計画で開発されてるものが多層次元の未来にすら影響を与えるほどのものにゃのかも……。もしかしたら、何かを開発してるのではなく別次元にゲートを開く計画だったりして」
 ギルティは窓の桟に座り込んで、頭をこねくり回した。
「G……G……、まさかこのGってグランツ教の”G”?」
「猫の癖にインテリぶって、可愛くないわ……」
 モモはうんざりした様子である。
「グランツ教ってあれでしょう、クルセイダーと繋がってるって噂の」
「そうにゃ」
「未来から来た宗教団体って触れ込みらしいわよね。未来がわかってりゃ万馬券買って大儲け出来るし、羨ましいわぁ」
「まぁにゃあ」
 とその時、モモの脳裏にぴんと来るものがあった。
「てか、奴らをふんじばって聞き出せばいいじゃん!」
「奴らってクルセイダー?」
「そうよ!」
「……いや、クルセイダー自爆するの見たでしょ」
「あ、そっか……。きっとあいつら万馬券の秘密を守るために自爆してるんだわ……」
「そんにゃ馬鹿にゃ」
 呆れた目でモモを見つめた。
「と言うか、金金って……。あなたの口癖”金ならあるのよ”でしょうに……」
「ええい、うるさい。お前も入れ!」
「にゃ!」
 ギルティを服の下にしまった。ぽんぽんとお腹を叩き、ふと視線を廊下に向けたその時、こちらに来る大文字が目に入った。
「ま、まずいわ……!」
「はうぅぅ、教授の研究室に忍び込もうとしたのがバレたら最悪退学かも……」
「なんだ退学程度か、せいぜい大荒野に放り出されるだけでしょ?」
「それを世間じゃ最悪と言うんだよぉ!」
 軽口を叩くモモだが、勿論彼女とて退学はご免こうむる。寿子にロックの解除を急がせ、モモは大文字の前に立ちはだかった。
「……ん?」
「……う、生まれるーー!!」
 呪詛に侵されたが如き壮絶な形相を見せ、ギルティをしまったお腹を押さえた。
 次の瞬間、アフロに絡まりモジャモジャの塊と化したギルティが産み落とされた。
「にゃにゃ!?」
 戸惑うギルティを、モモはつま先で突つく。
(ほら、逃げるのよ)
(わ、わかったにゃ)
 かさこそとギルティ……なんだか、アフロ……なんだか、よくわからない物体は逃げていった。
「あ……、あたしの秘密のヘアー……。先生、お願い追っかけて!」
「へ? 私が?」
「早くぅ!」
「わ、わかった……!?」
 その場の空気に流されて、大文字は謎の物体を追いかけて階段を降りて行った。

「……あ、開いた」
 解錠コードを入力し終えると、研究室のロックが解除された。
 しかし、寿子が見張りをしていた仲間を呼ぼうとしたその瞬間、イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)の声が廊下に響き渡った。
「こら、何してるの!」
「うわあああああああああ!!」
 イーリャは普通科でイコン工学の教鞭をとる講師。学院側の人間だ。つまり今、寿子が見つかったら非常にまずい人間なのだ。
「勝手にロックを開けて……。何考えてるの、寿子ちゃん。教授の部屋に勝手に忍び込むなんて、とんでもない事なのよ。研究者の研究成果は財産なんだから」
「ち、違うんです! これは会長に言われて……あ、それ言っちゃダメなやつだ!」
「会長? 生徒会が絡んでるの? 詳しく話しなさい」
「はううう……!」
 寿子は仕方なく事情を話した。
「なるほど。大文字先生の隠し事を暴こうって話ね……」イーリャは視線を漂わせ「……じゃあ、私も寿子ちゃんの方につかせてもらおうかしら?」
「へ?」
「だって、こんな美人の同僚に何も言わず秘密の研究なんてシャクだもの」
「い、いいんですか? 研究成果は研究者の財産なんじゃ……?」
「素晴らしい研究成果は全人類の財産にしないとね」
 ふふふ、と笑う。
「それじゃ私は、先生が研究室に戻って来ないよう引き止めるから、寿子ちゃんたちは調査をお願いね。ちゃんと調べてくるのよ」
「は、はい!」