リアクション
幕引き――にして、次なる幕開け
「何とか無事だったようでありますな」
「ですね」
突如遺跡が崩れ始める、という状況に、拠点から手に汗を握って見守っていたマリーと永谷が、全員の帰還を確認して、揃って溜息をつき、スカーレッドと氏無も、手放しとは言えないようだが張っていた肩の力を抜いたようだった。
「万事とは行かないけれど、任務完了といったところかしらね」
「……さぁて、ね」
氏無は煮え切らない表情だったが、永谷が上げてくる各種報告や、事後処理のこともあって、のんびりもしていられない。理王からデータを受け取りながら、氏無は溜息を吐き出した。
「悪いけど、ここはキミとルレンシア女史に任せるよ。ボクはちょっと、「煙草を買いに」行かなくちゃ」
「了解」
スカーレットは頷いて、事後処理の連絡や手続きを行うために、通信機を手に取った。
一方、ハーポ・マルクス上で待機していたエカテリーナは、接舷を完了したシグルドリーヴァから出てきたドミトリエの姿に「……ふぅ」とか細く息を吐き出したかと思うと、余韻に浸る間もなく、モニターを起動させると『さ、約束なのだぜ』と切り出した。
『こっちは終わったんでしょ? だったらさっさと、カンテミールに一緒に帰るんだぜ。急がないと……』
「判ってる」
言いかけたエカテリーナを遮って頷きつつも、どこか気もそぞろで、後ろ髪を引かれるようにドミトリエはセルウスの方を振り返った。
その視線の先では、遺跡から何とか脱出し、ハーポ・マルクス上へ帰還した契約者たちと共に、睨むようにし見上げるセルウスと、彼をを見下ろすようにして、ブリアレオスの肩から、荒野の王がパチ、パチ、と観客のように拍手を贈っていた。
「命があって何よりではないか。まあ、この程度で死なれるようでは興ざめであるがな」
馬鹿にするような物言いに、流石にセルウスもむっとしたように眉を寄せる。
「こんなところで、死んでたまるもんか」
憤然と言い返したが、荒野の王は風ほども感じた様子も無い。そんな彼らのやり取りを遮るように、祥子は「それより」とセルウスに声をかけた。
「覚醒は? どうなったの?」
その問いは、その場の皆全員の関心だったが、先程までの威勢がしゅんとしおれるように消えたかと思うと、珍しく戸惑ったように、セルウスはふるふると首を振った。
「……わ、わからないんだ。途中で手が離れちゃったし……」
脱出の時のどさくさの中でも、ミカエラが抱えた状態で何とか秘宝は持ち帰ったものの、今こうして人の手にしている状態では、セルウスがいくら集中しようとしても応えてくれないらしい。その様子に、皆が難しい顔をする中で、荒野の王はくっくと喉を震わせるようにして笑った。
「残念であったな。まぁ、貴様ごとき、どの道余の敵にもならん。逆にこれを幸いと、大人しく身を引くが良かろう」
一層見下した物言いとなった荒野の王に、悔しげにしながらも、セルウスはぎっとその目に睨み返した。
貫禄では圧倒的に負けるセルウスだが、その目に抱く光のは、真っ直ぐ強く劣らない。初めて、荒野の王はその目に敵意らしきものを覗かせて、セルウスを射殺すばかりの強さ睥睨する。ばちばち、と互いの間に、無言の火花が散った。その時だ。
「両者それまで!」
突然声が割り込んだ。キリアナだ。
「状況は聞いとります……おおきに」
白竜に軽く頭を下げ、エニセイを舞い降りさせたキリアナは、睨みあうセルウスと荒野の王の間に割こむと、両者に交互に視線をやると「今は諍いおうとる場合やないんどす」と強い口調で諌めた。
「……アスコルド大帝が崩御されましたんや」
その言葉がその場に与えた衝撃は大きかった。ある者は息を呑み、ある者はぎゅっと拳を握りこんだ。沈痛な空気の流れる中、キリアナは荒野の王へと目をやると頭を下げた。
「荒野の王……ヴァジラはんどすな。オケアノス選帝神ラヴェルデ・オケアノス様より、葬儀に参列せよとの要請が出ております」
「承知した」
荒野の王が頷くのを見届けて、キリアナは、崩御の知らせに戸惑っている様子のセルウスに、目を細めた。
「それから……セルウスはん。アスコルド大帝の遺言や……候補となりうる者を、呼べて……」
複雑な顔をするキリアナは、一度目を伏せると、正面からセルウスを見やって続ける。
「せやから、ウチは……セルウスはんを迎えにきたんや」
パラミタ最大の勢力であるエリュシオン帝国の皇帝、アスコルド。
その崩御は、その数時間後には、パラミタ全土に知られることとなる。
二人の皇帝候補、そして様々な者達の思惑の中で、エリュシオンは今、大きく歴史が動こうとしているのだった。
ご参加くださいました皆様、大変お疲れ様でした
物語の幕開けとなります今回の冒険は、いかがでしたでしょうか
久方ぶりにイコンの活躍するシナリオとなりましたが
相変わらず、皆さまの拘りの機体を楽しませていただきました
今回の結果は以下の通りになっております
■遺跡内部への突入……成功
■遺跡の状態……崩壊
■小型龍の掃討……成功(封印呪縛を受けているものを除く)
■秘宝の確保……成功
■遺跡からの脱出……成功
■セルウスの覚醒……不完全
■ナッシング……討伐成功/逃亡(オリュンポスと同行)
■外部への被害……無し
■調査団への被害……無し
■判明したこと
・ドミトリエはカンテミールとミルザムの遺伝子を受け継いでいる
・ドミトリエとエカテリーナはカンテミールの選帝神となれる「可能性」がある
・欠片同士は、何らかの状況下で反応を示すことがある
・ブリアレオスは荒野の王が搭乗していない状況でも動く
……ということで、ややセルウス側に厳しい状況となっております
野暮な話になるので、判定の細部基準についてはマスターページで触れる予定です
さて、アスコルド崩御の知らせも届き、キリアナも合流することとなりました
次回からは、舞台はコンロンからエリュシオンに移りまして
セルウス、ドミトリエ、そして荒野の王、それぞれ違う舞台へと広がってまいります
長い旅路となりますので、お忘れ物の無いようにご注意ください
思惑入り混じる物語ではありますが、全四回、お付き合いいただければ幸いです