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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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 アトラスの傷跡の宇宙港を出発したフリングホルニの艦隊は、無事にゴアドー島のゲートに到着した。
 ただし、すぐにゲートには入れるというわけではなく、次のゲート開放まで待機ということになる。
 各艦の整備要員以外の者たちは、一端船を下りて空港へとむかった。
 到着と同時に、一番あわただしくなったのはウィスタリアだ。中央船体の左右に、前方に大きく開いた副船体があるため、そのままではゲートをくぐることができない。そのため、副船体を中央船体と並行になるように接合部で角度調整する必要があった。
「副船体、変形を開始します」
 アルマ・ライラックが、ウィスタリアの変形を開始した。
「後部接合部開放」
 いったん船体同士を接続している後部ジョイントが外れ、前部アームジョイントが角度を変えて、副船体が中央船体と並行になるように移動する。
「ウイング部収納」
 左右にあった四枚の安定翼が基部で折れ、船体にくっついて固定された。ちょうど、翼の先端が副船体の上に出る形になる。
「副船体部回転開始します」
 最後に、左右の副船体をささえているアームジョイントが90度下方へと折れ曲がっていった。副船体が完全に中央船体の下部に回り、スキー板のようにぴったりと合わさる。先に折りたたまれた安定翼がちょうど水平に外をむく形になる。
 それまでV字型であったウィスタリアが、槍状のシルエットへと変形していた。
「ウィスタリア、強襲モードへ変形完了……えっ、何?」
 突然の違和感に、機晶制御ユニット内のアルマ・ライラックがあわてた。
 確認すると、副船体部の上に、ちゃっかりと二機の大型飛空艇が乗っかって碇を下ろしている。ハーポ・マルクスとヒンデンブルク号だ。
「ちょ、ちょっと、ウィスタリアの膝の上で何をしているんですか!」
『ちょっと乗せてくださーい』
 叫ぶアルマ・ライラックに、ジョン・オークとオリバー・ナイツの声が返ってきた。
「知りませんよ。主砲を発射したら、そこだと木っ端微塵ですからね」
 そう言うと、アルマ・ライラックは深く溜め息をついた。
 
    ★    ★    ★
 
 空港には、遅ればせに駆けつけた者たちも合流していた。
「オリュンポスパレスでの実験は、みごと自爆してしまったのう」
「でも、想定内でしたわ」
 楽しそうに言う鵜飼衛に、ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』が悪びれずにすがすがしい笑顔で言った。
「さて、では、次の実験を……。おお、いたいた、あやつらじゃな」
 キョロキョロと周囲を見回した鵜飼衛が、ターゲットを発見して近づいていった。
「まったく、どこをどうしたら、エッツェルがエリュシオンの空母なんかで暴れるって話になるんだよ」
「ですが、貴重な情報です」
 困ったものだと言う緋王 輝夜(ひおう・かぐや)に、アーマード レッド(あーまーど・れっど)が言った。
「今度こそ……主公を……」
 ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)がつぶやいた。
 フリングホルニでエッツェル・アザトースが暴れたという話を聞きつけて、急遽駆けつけてきたのだ。それに、割のいい傭兵の話だったということもある。資金繰りは大切だ。ただし、支払いが薔薇十字社だというのが妙に引っ掛かるところではあるのだが。
「そこのお嬢さん、緋王輝夜殿とお見受けした。わしの名前は鵜飼衛じゃ。よろしくのう」
 そこへ、鵜飼衛が緋王輝夜に声をかけてきた。
「誰?」
 問い質す緋王輝夜に、鵜飼衛が自分たちの関わりを説明する。
 どうやら、以前、鵜飼衛たちは怪物化しているエッツェル・アザトースと戦ったことがあったらしい。
「さて本題じゃ。わしらは、あやつを引き戻す術式を持っている。だが、それはまた、あやつを滅ぼす力かもしれん。知りたいかな?」
 鵜飼衛の言葉に、緋王輝夜がコクコクとうなずいた。実際、藁にもすがるような状況であるのだから。
「では、そこの妖蛆に聞け」
「まずはこれを」
 鵜飼衛の言葉を、ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』が引き継いだ。何やら怪しげな写本と魔弾を渡す。
「これはわたくしの魔道書の一部の写本ですわ。内容は、魔術「絶叫による共鳴」。術者の魔力を込めた声から、術が発動します。現在体内には前回わたくしが撃ち込んだイグの魔弾が残っているはずです。その魔弾から邪神の情報を送り込み、対象を侵食する術です。現在、エッツェル様は外なる神に侵食されています。しかも大部分です。しかしそれを抑え込み、人間の部分を再び覚醒・顕現させることができれば……、もしかしたら彼の意識が戻る可能性はあるかもしれません」
 ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』が説明したが、はたしてそれが本当にどれだけの効果を持つものであるかは、試してみなければ分からない。
「レッド、いったいどう思う……、レッド!?」
 アーマード・レッドに意見を求めようとした緋王輝夜だったが、当のアーマード・レッドはそれどころではないようであった。
「なんという洗練されたフォルム。機能に特化された無駄のないデザイン。同じ機晶姫でありながら、そこにシビれる、憧れる。ぜ、ぜひ、わしと握手をしてくれんか」
 メイスン・ドットハックが、目をキラキラと輝かせながら、アーマード・レッドに手を差し出していた。どうやら、同じ機晶姫として、アーマード・レッドがいたく気に入ったらしい。
 いったいどうすればいいのかと、困ったアーマード・レッドが、救いを求めるように緋王輝夜の方にメインカメラをむけた。
「まったく……。すまんが、メイスンと握手してもらえんかのう。まあ、今回の謝礼代わりということで」
 やれやれというふうに鵜飼衛が言った。
 その程度でいいならと、アーマード・レッドがメイスン・ドットハックと握手をする。嬉しそうに、メイスン・ドットハックが舞いあがった。
 実際は、それで謝礼がそれですむというわけではなかったのだが……。
 結果は、まだ出てはいない……。