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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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(ここは……これまで辿ってきた道を鑑みるに……大体この辺りになるか)
 辺りにデュプリケーターや他の脅威がないのを確認して、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が現在地の確認を行い、地図に書き込んでいく。他の契約者が見つけた、【C】エリアへの道を進み、今は【C】エリアの【2a】、【C2a】に来ているようであった。
(このエリアは、どこに繋がっているんだ? 確かうさみん星と、天秤世界の南の方で発見された入り口以外は明らかになっていなかったな。
 ルピナスの拠点が怪しいという話を聞いたが……まさか、この先がそうなのか?)
 自然と、唯斗の身体に緊張が走る。ルピナスの実力は、あれだけ多くの巨大生物やデュプリケーターを抱えている事から、決して弱いわけではないだろうと思い至る。現状ではもし万が一遭遇したとしても、よっぽどルピナスが弱っているかでない限り、退くべきであろうと唯斗は考えた。
(そもそも、戦闘なんかしてる場合じゃねーっての。この世界の謎を解かないと根本的に解決出来ないだろ?
 だったら、取り敢えずは最奥部目指して隠密先行あるのみ! だな)
 発見されたという地図には、4つの入口とそこから先のフロアは書いてあったが、その先からはプツリ、と途切れていた。後のことは実際に足を運んでみないと分からないだろうが、とりあえずは4つのフロアと、そこから先に通ずる道を発見することが第一であろうと唯斗は考え、調査を行う。
(他の奴らとも連絡を取って進めるべきだな。向こうもこっちの事を知っているといいが……)
 そう考えた矢先、所持していた端末に連絡が入る。それは同じく【C】エリアを探索していたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)からの通信であった。


「どうもこの上に、別の階層があるようなんだ。
 俺の居る所からは道を見つけられなかった、良ければあなたの居る所で道がないか探してもらえないか」
 ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)と『深峰の迷宮』を調査する中、辿り着いた【C】エリアの【3b】にて、グラキエスは自分達の居る階層より上に別の階層があるのではないかという推測に至った。それは彼の中に蓄えられた知識と、ウルディカとの息の合った調査によって導き出されたものであった。
「……よし、協力を取り付けることが出来た。
 俺達も調査を再開しよう――っと」
 通信を終わり、歩き出そうとしたグラキエスがよろめき、ウルディカが傍に寄って彼の身体を支える。
「大丈夫か、エンドロア」
「……あぁ、大丈夫だ。少しふらついただけさ」
 顔をやや青ざめさせつつ、それでも笑ってみせるグラキエスを見、ウルディカは思う。
(エンドロアの中にある狂った魔力は消えていない。今では“核”を失い、エンドロア自身の制御も殆どない。
 魔力が暴走するのが先か、体が限界を迎えるのが先か……)
 今は自分が施した術や制御装置によって、辛うじて普通の暮らしを送れているグラキエスだが、それも永遠に続くわけではない。1日後か1か月後が1年後か、このままではいつかグラキエスは、不幸な結果を迎えてしまう事になる。ウルディカはその一つの結果、グラキエスが災厄となった世界からの来訪者であり、グラキエスを同じような目には遭わせまいと、『深峰の迷宮』に手がかりを求めてやって来たのだった。
(災厄となる狂った魔力を消し、かつ、エンドロアを消させない秘宝や秘術……この地で得られるだろうか)
 一瞬過ぎる不安を、ウルディカは目を瞑って打ち消す。グラキエスにこのような感情を悟られてはならない。
「俺が守る。離れるな」
「あぁ、頼りにさせてもらう。……もう大丈夫だ、調査を再開しよう」
 グラキエスがウルディカから離れ、迷宮探索を再開する。ウルディカも彼に続き、迷宮の構造や仕組みを解き明かすべく付近の様子に気を配る。

●イルミンスール:校長室

「炎龍の一件で、『世界樹はその地域で起こっている事件を最終的に解決する』。そう聞きました。
 ですが、これまで起きた危機は人々の力で解決されてきました。
 先の言う所の『最終的』とはどの段階か。その力は『どこまで』有効なのか。それを知りたいのです」
 グラキエスとウルディカが『深峰の迷宮』を調査している頃、ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)はイルミンスールに赴き、『深緑の回廊』を見張っていたコロン(ミーナは現在、『天秤世界』にリカインと行っていた)に質問をする。情報を集め、新たな発見に結びつけ、それがグラキエスを救う手がかりになればとの思いからであった。
「うーんとね……これはわたしたちの感覚だよ? ロアさんが思ってるのとは違うかもしれないけど、予め分かっておいてね。
 ロアさんは人々の力で、って言ったけど、わたしたち世界樹の立場から言うと、世界樹が密かに力を送ったことがきっかけになって、という事があったりするの。もちろん全部がそうじゃないけどね。
 世界樹はなるべく、その世界に住んでいる人が解決するように働きかける。世界の人が何か行動を起こせるようにするの。
 具体的にこうするよ、っていうのは色々ありすぎてまとまりがなくて言えないんだけど、世界の人がよし、こうしよう、っていうきっかけを作ったりする。……でも、それでもダメで、何をやっても世界の人が行動を起こせなくなったと判断した時に、世界樹が事件を解決しちゃうの」
 そのように話した上でコロンは、今回の『天秤世界』の場合は、契約者が常にどうするか考え、行動をし続けている限りは言う所の『世界樹による事態の強制リセット』は起きないだろう、ということであった。


 ●『名も無き街』近く

 最初に『深峰の迷宮』の情報が見つかった、『名も無き街』の近くにある入口は、大きな崩落が起きたのか瓦礫や土などで塞がっていた。
 しかし、そこも迷宮の入口であることに変わりはない。それもあってか、入口を掘り返して先へ進もうという契約者が居た。

 天貴 彩羽(あまむち・あやは)スベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)の搭乗するイコン、『スクリーチャー・マオルヴルフが、まずは入口を塞ぐ瓦礫や土、岩を一通り掘り返す。どうやら元々は洞穴だったのが、天井から崩れる形で埋もれてしまったようだった。
「縦穴の所まで埋まっていたら、掘り返すのは大変ね」
『そうでござるな。アルラナ殿は何と?』
「彼と彼の技士が言うには、「横穴の部分は完全に埋まっているが、縦穴の方は大きな岩に塞がれているので、それを破壊すれば進める」みたいね。
 まずはこの辺りの瓦礫を取り除いちゃいましょ」
『了解でござる』
 外で、土木・建築に詳しい技士と情報を交わしながら指示を出すアルラナ・ホップトイテ(あるらな・ほっぷといて)の指示に従う形で、彩羽とスベシアの搭乗するイコンは作業をこなしていく。
『そろそろ、大きな岩が見えると思いマス。それを破壊すれば先へ進めマス』
 アルラナが通信を送ってくる、その通りに目の前には、岩にしては随分と形の整った、まるで扉だったような雰囲気の岩があった。
「何か模様のようなものが刻まれているわね。ここに住んでいた種族が掘ったのかしら、それとも元々から?」
『それがしには分かりかねるでござるな。気になるのであれば持ち帰って調べてみるのも手では?』
「……そうね。どのみち壊さないと先へ進めないけど、なるべく原型を留めるように破壊しましょう」
 後で欠片を回収しやすいように配慮しつつ、『スクリーチャー・マオルヴルフ』に装着された掘削用ドリルが岩を削り、砕いていく。

(イコンなる物のパワーは流石だな……これでこの入口は使用可能になるだろう)
 後方からイコンの作業状況を監察していたグレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)が、そのパワーに感心していた所へ、新たに生じた瓦礫や岩をゼノビア・バト・ザッバイ(ぜのびあ・ばとざっばい)がショベルカーを操縦して運んでくる。
「ゼノビア、その岩の一部は保管願いが出ている、我が預かる。
 残りの瓦礫に関しては取り決めた通りの処理を」
 グレゴワールの指示に、ゼノビアはさも不愉快という雰囲気を隠さない。現に心の中では、
(まさか、あのバケツ頭に指図されることになるとは思いませんでしたね……。
 まあ、流石は人様の土地を好き勝手に荒らしていっただけはありますね。殊、血腥い部類の事柄に関してはアレに及ぶ人はそういないんじゃないんですか?)
 などと零していたが、口にしていないのは横でシャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)がこの手の作業を珍しくやる気になって行なっているからであった。
「シャノン、大丈夫? 疲れてるみたいだけど」
「……はっ! ……あはは、ダメですね。このくらいの作業で疲れちゃうなんて」
 舟をこいでいたシャノンが慌てて、ゼノビアに苦笑を浮かべる。普段は「力仕事なんて」と適当にやるかサボるかしていたが、今回に限っては積極的に瓦礫の除去に携わっていた。
(やっぱり力仕事はしたくないけど……でも、みんなの足手まといにならないためにも、少しでもいいから力をつけておきたいですしね)
 脳裏に、落ちてきた岩からグレゴワールが自分を守ってくれた時の事が思い出される。これからこの世界ではそういう事が起きてしまうかもしれない、その時に何度も守ってもらってばかりでは二人の足を引っ張ってしまうことになる。そうならないためにも、ちょっとは力を付けておいた方がいいかな? と思った。
(まあ、一朝一夕で身に付くとは思っていませんが)
 やっぱり明日筋肉痛になるかな、そんな事を思いつつシャノンはもう一つ、気になっていることを思案する。
(ゼノビアさんはグレゴさんのこと嫌っているみたいですけど……)
 先ほどのやり取りを見ても、到底仲がいいとは思えない。過去に因縁のある二人だからということは分かっているが、今はこうして二人とも自分のパートナーなのだから、友人とまではいかなくとも少しは仲直りしてほしいな、と思う。
(あたしが出てどうこうできることじゃないですけど……)
 それでも、二人の仲を案じるくらいはしてもいいですよね? と思うシャノンであった。

「ご協力、どうもありがとうございました。
 後のことはあたしたちでやりますので、皆さんは探索の方、頑張ってください」
 粗方開通作業が終わった所で、シャノンは協力者に礼を言って後のことは任せてほしい旨を伝える。迷宮探索をするには自分たちの力は及んでいないという判断の下、出来る事を考えた上の判断であった。
「……ふぅ。やっぱり疲れたなぁ」
「だったら休憩しましょ。シャノンの好きなバーガーも用意してあるから」
「ホント? ゼノビア、気が利くぅ」
「……シャノン殿は最近バーガーを食べ過ぎているように見えるが。
 折角運動不足を自覚したというのに、これでは前と変わらぬでのはないか?」
「いいじゃない、今日はシャノンだって頑張ったんだから。
 まあ、体力バカ様は仰ることが違いますね。物足りないならどうぞお一人で作業を続けられてはどうですか?」
 ゼノビアとグレゴワールの間に、バチバチ、と火花が散るのを見て、慌ててシャノンが間に入ってとりなす。
「ほ、ほら、行きましょう。グレゴさんも、ね?」
「……シャノン殿がそう言うのであれば、な」
 実に嫌そうにため息をつくゼノビアと、黙って付いてくるグレゴワールを交互に見て、シャノンは前途多難だなぁ、と心の中で嘆くのであった。