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【アナザー北米戦役】大統領救出作戦

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【アナザー北米戦役】大統領救出作戦

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12 大統領救出!




 それから、激しい戦闘が繰り広げられた。契約者を始めとし、グレースも獅子奮迅の活躍を見せる。
 契約者とグレースが矢面に立ったおかげで米軍の被害は少なかったが、それでも少なからぬ犠牲者が、米軍にも発生していた。
「お前たち、思いだせ! 俺はなんて教えた。多数の敵がいるとき、強いやつから倒すべきか、それとも倒しやすいやつから倒すべきか。どっちだ!?」
 ピーターソンが、米兵たちに問いかける。
「とにかく数を減らせ。そうすれば攻撃に参加する数が減る。そうだろ、おやっさん!?」
 それに対し、米兵が答える。
「正解だ。特に、この場で強い敵は援軍の連中が相手をしているからな、俺達は倒しやすいやつから倒していくんだ。それが、全体の被害を抑えるんだ! 撃て、野郎ども! アメリカンスピリッツを見せてやれ!!」
「USA! USA!」
 米兵の援護を受け、契約者たちの戦いも激しさを増す。
「よし、頃合いだな。どうでしょう、少佐?」
 敬一が、そろそろ撤退の頃合いだと判断。ルカルカに進言し、ルカルカも同意する。
「大統領救出のための部隊を残し、全部隊は闘いながら後退。敵を引きつけて救出を援護!」
 そして、ルカルカの指令とともにドラグーンと獅子の牙、そしてその他の契約者や米軍たちは後退を始める。
 その一方で淵とルカルカ、それからα分遣隊のローザマリアたちと米軍の特殊部隊陰たちは、交代する彼らの援護を受けて敵陣を強行突破する。
「さーて、この奥かな?」
 淵が壁をすり抜けて中に入ると、そこには縄に縛られた挙句に手錠をかけられた大統領が、椅子に座っていた。
 大統領は突如現れた淵に驚きつつも、表面上は冷静に「何者かね?」と尋ねる。
「ハイナさんの協力者です。救出に来ました。今戒めをときますけど、まだ動かないでくださいね」
 相手が大統領なので、それなりに丁寧な言葉づかいをする。
 そして淵が戒めをとき、扉を中から開けると、ローザマリアに率いられた特殊部隊たちが入ってくる。
「ご無事ですか、大統領閣下?」
「あ、ああ……君たちは?」
「NavySEALs……TEAM−9 “α分遣隊”です」
 大統領の質問に、ローザマリアはそう答える。
「9番チーム……? なるほど。洒落たことをする」
 NavySEALsのチームは1〜10まであるが、9だけは欠番なので存在しない。それは一種の言葉遊びであった。
「さて、大統領。長きに渡る監禁生活でお疲れのことでしょう。少しだけ、お時間をくださいな」
 フィーグムンドもよそ行きの口調で大統領にそう言うと、大統領を含めたその場の全員に向かって命のうねりをかける。
「おお……! 力が漲るようだ。これはどんな魔術かね? ……いや、聞かないでおこう。それよりも、ここに長居するわけにもいくまい。脱出の算段はできているのかね?」
 大統領の質問に答えたのは、米軍の兵士だった。
「算段は出来ております。なお、ハイナ様がレッドグリフォンにて指揮をとっておりますが、閣下がお戻りになり次第、閣下につかって頂く予定です」
「ふむ……君は?」
「はっ! TEAM-4のファーガス・マク・スミスと申します」
「なるほど。君は本物か。その名前、覚えておこう」
「は、ありがとうございます。脱出は我らが先導いたします。閣下のための武器も用意しておりますので、お受取りください」
 そして、大統領は米兵が用意した銃を受け取った。
「ん……これは……」
「はい。60型の外見を再現しておりますが、中身は最新式となっております」
 その言葉に、大統領はニヤリと笑う。
「赤いハチマキはあるかな?」
「もちろんです」
 大統領の質問にすかさず答えつつ、米兵はハチマキを取り出す。
「パーフェクトだスミス君。これは勲章ものだな」
「有難き幸せ」
 そんなことを言いながら、大統領はハチマキを閉めると上着を脱ぎ捨てる。
「大統領、一体何を……?」
 そう尋ねるローザマリアに、大統領は眉を顰める。
「わかってないな。上半身裸に赤いハチマキで、60型を腰だめに構えて撃つのは、実にロマンあふれる行為じゃないか」
「は、はあ……」
 よくわからないローザマリアは、呆然とそんな答えを返すのだった。
「それよりも脱出をしよう。アメリカを取り戻さねば!」
「そのことですが大統領、こちらの回線は全軍につながっております。ぜひ、戻られたことを全軍に伝えてください」
 ルカルカが、そう言って通信機を大統領に渡す。
「おお、これはありがたい。……ごほん」
 そして、大統領は全軍に向かってスピーチを始めた。

『諸君。親愛なるアメリカの諸君。私アメリカ合衆国大統領アイザック・ウィルソンである! 私は今、諸君の奮戦のおかげで自由を取り戻した。これより私は私を救出してくれた勇士たちとともに脱出し、諸君と共に銃口を並べてダェーヴァなる怪物どもから私達のアメリカを取り戻すために戦うだろう。247年前、我々の先祖が自由を勝ち取るために戦ったように、我々もまた、自由と、権利と、平和と幸福を勝ち取るために戦うのだ。これから始まる戦争は、アメリカ合衆国にとって第二の独立戦争となり、この戦争に勝利した日に迎えるのは、アメリカ合衆国史上二度目の独立記念日だ!!』
 歓声が、通信回線をパンクさせる。
「カルキノス……」
 そんな中、ルカルカが輸送機で待機しているカルキノスに連絡を入れる。
「魯粛先生……」
 そして、退路を確保しつつ大統領の帰還を待っているトマスも輸送機で待機している子敬に連絡を入れていた。
 そんな連絡を受けてカルキノスの操る輸送機がハイナごとレッドグリフォンを収容する一方で、子敬の輸送機は基地の入口に近づきつつあった。

「よし、行くぞ諸君!」
 上半身裸で赤いハチマキを頭に締め、60型を模したマシンガンを構えた大統領の号令が、脱出口の始まりの合図となった。

「おかえりなさい、大統領閣下。ですが、お家に帰るまでが遠足ですよ。まだまだ油断しないでくださいね!」
 テノーリオがそう言って、大統領を迎える。
 周囲から襲い来る怪物やコープスを打ち払いながら、今まで我慢していたぶんの憂さを晴らすように戦っていた。
「大統領に敵を近づけないように!」
 ミカエラは周囲にいたカルカーの隊にそう伝えると、自身はトマスが情報を把握するためのサポートを行う。
「なるほど。そちらは順調ですか。こちらも概ね順調ですよ。では、魯粛先生をおねがいします」
 トマスは、子敬の輸送機の護衛をしているバンデリジェーロのパイロットであり旧友でもある大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)にそんな通信を入れて、輸送機を無事に基地入口に到着させるように依頼すると、ドラグーン全体の指揮をとりはじめた。
 そして、脱出口が順調に推移していた時に、その事故は起こったのだった。
「あああああああああああああああああっっっ!!!!」
 グレースが、突如として叫び声を上げる。
 驚いてグレースを見た契約者の中には、グレースの銀色の瞳が静脈後のように濁った赤に染まっていることに気がついたかもしれない。
「ぐっ……こんなところで……」
 辛そうにつぶやいたグレースは、腰から小剣を一本引き抜くとそれを自身の太ももに突き刺す。
「グレース!! 大丈夫かねグレース!?」
 大統領が心配そうにグレースに駆け寄る。
「大丈夫ですわおじさま……まだ飲み込まれるわけには行きませんもの……」
 切れ切れにしゃべるグレースの瞳は、元の銀色に戻っていた。
「それより、もうすぐ出口です。急ぎましょう!」
 グレースが歩き始めると、動きを止めていた米軍や契約者たちも動き始める。
 途中に出てくるダェーヴァの怪物はマシンガンを腰だめに構えて絶叫しながらフルオートで打ち続ける大統領に士気を高められる形で米軍が奮戦した。
 結局のところ捕虜から聞き出したダェーヴァの20メートル級対イコン兵器を格納している部屋や司令室、あるいは電源をコントロールしている部屋にたどり着くことは出来なかった。
 作戦の優先順位の中で大統領の救出が最優先である以上、分散して行動していた契約者たちもそれらに辿り着く前に撤退を始めざるを得なかったからだ。
 そして、ダェーヴァを駆逐しながら出口に到達。子敬が操縦する輸送機に大統領を何名かの特殊部隊員を載せて離脱し、輸送機はバンデリジェーロに護衛されながらカルキノスの操縦する、ハイナとレッドグリフォンを載せた輸送機との合流を目指す。
「あと3分以内にはカルキノスさんのジンと合流できます。今のところ周囲に敵影はなしです。味方が引き受けてくれています」
 そんなふうにオペレートするのは太輔のパートナーのレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)だ。レイチェルは増設した機内オペレーター席に座っていた。
「あ、そっちの敵のほうをお願いできる? うん、ありがとう。じゃあ、あとは任せますね」
 そんな風に機内オペレーター席に座りながら周辺の機体に指示をだすのはフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)だ。楽団の指揮と軍隊の指揮には通じるところがあるのかどうかはともかく、フランツはバンデリジェーロと子敬の操縦する輸送機{ICN0005629#ファルコ}に敵を近づけないように見方を配置しながら鼻歌でかつて自身が作曲した曲を奏でていた。
 そして、讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)はサブパイロットとしてバンデリジェーロの武器の操作を担当。とはいえ周囲に敵がいないので警戒しながらもそれらを使う機会に恵まれずにいるのだった。
 しばらくして、ジンとファルコが合流し、両機は安全が確認された地上にゆっくりと舞い降りるのだった……