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彼氏・彼女のはじめの一歩

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彼氏・彼女のはじめの一歩

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chapter4 運命の友達
「マリエル、早く早くー!」
 新しい友達に会いたくて仕方ない愛美は、マリエルを急かしながらカフェへ向かっていた。
「マナ急ぎすぎだよー、私トイレ行きたーい」
「もー、先行っちゃうよぉ?」
 すぐにでもカフェに行きたかった愛美だったが、マリエルのトイレに付き合ったためタイムロスとなった。
「マリエルながーい、ほら、行くよー?」
「あ、ごめんマナ、教室に忘れ物しちゃった、一緒に戻ってくれない?」
「えー、もう何やってんのマリエルー!」
 マリエルと一緒に教室まで戻るはめになった愛美。
「ごめんごめん、じゃあ、そろそろ行こっ?」
 大幅に時間を喰ってしまった愛美は、足早にカフェへと向かった。カフェの入口にたどり着いた愛美だったが、そこに違和感があった。いつも開けっ放しになっているカフェのドアが、なぜか閉じているのだ。
「えっ、まさか今日の放課後って閉店……?」
 不安そうな顔になる愛美。と、横道から翔と詩穂、リリィが現れた。
「お待ちしておりました、愛美様」
「お待ちしておりましたーっ!」
 翔の後に続く詩穂とリリィ。
「え? え? どういうこと?」
 わけがわからず戸惑う愛美。そんな愛美の前で3人がドアを開けた。おそるおそる中へと入る愛美。一歩足を踏み入れたその瞬間、パアン! と大きな音が弾けた。同時に通路の両側から発射される紙吹雪。びっくりして目を閉じた愛美が再び目を開けた時瞳に映ったのは、見事に飾りつけられたカフェテラスと、ずらりと並んだ料理、そして昼休みに会った数多くの生徒たちだった。牙竜が大きく息を吸い、せえの、と言うとその場にいた全員が声を揃えて続いた。
「ありがとう、マナミン!!」
 言葉が何も出てこず、ただ驚く愛美。翔子と桜がマイクを通して喋る。
「ボクたち、マナミンのみんなで友達をつくろうっていう、あの行動に感激したんだ!」
「それがきっかけで、みんな友達が増えて仲良くなれたしね。そんなわけで……よっ、と!」
 舞台からくるっと宙返りをして飛び降りる桜。綺麗に着地を決めて、
「みんなでお礼しようってことで、内緒で企画してたんだ」
「遠慮なく楽しんでってね、マナミン!」
「えーっ、マナミン、お礼されるようなこと何もしてないのに、びっくりだよぉ!」
 まだ夢うつつ状態の愛美。はっと気付いて後ろを振り返ると、マリエルがにやにやと笑っていた。
「マリエルっ、もしかしてこれ知ってたの!?」
「マナがお昼休み中いろいろ口説かれてる時にこっそり打ち明けられてたんだ、黙っててごめんねマナ、でもいいサプライズになったでしょ?」
「もうっ、なんかおかしいと思ったよ! いつもはマナミンより先に教室出て早く帰りたがるくせに、今日に限ってすっごい時間かけるんだもん!」
「ごめんごめん、ここにみんなが集まるまでの時間稼ぎ頼まれてたんだぁ」
「詩穂ちゃんたちも知ってたのぉ!?」
「あははは、ごめんねぇ、愛美ちゃん」
 謝りながら愛美の前に出る詩穂。同時に翔も前に立つ。
「愛美様、改めてご挨拶させていただきます、私、執事の本郷翔と申します。本日は私と」
「私、メイドの詩穂が……」
「愛美様にお遣えいたします」
 最後は声を揃えた詩穂と翔。
「えぇっ、い、いいよぉそんなの!」
 愛美の言葉を聞かず、料理を取り分けてくるふたり。
「うー……マナミンそんなキャラじゃないのにぃ」
 頬を膨らませる愛美。カフェ内に、翔子と桜の声が響く。
「では、みなさんも思い思いのパーティーを楽しんじゃってくださーい!」
「……司会って、もうここからいらなくない?」

 装飾された広いカフェテラス内を、それぞれが自由に動き始めた。
 茶柱と多神がカフェの様子を感慨深そうに見つめる。
「自分たちが加わった時はほんの4〜5人だったのに、いつの間にかこんな大きな輪になってましたね」
「きっと、拡声器なんてなくてもあの子なら大丈夫だったのかもしれません」
 そこに、愛とアスラン、にみてるがやってきた。
「どうもー、なーにしんみりした空気出してんのっ?」
 真っ先に絡んでいく愛。
「いやぁ、しんみりというか、人の繋がりってすごいなぁと思っていたんです」
 しみじみと答える茶柱に、アスランが同意した。
「あっ、それすごく分かる〜! 私たちも最初少ない人数だったけど、どんどん増えてったんだよねー!」
「あぁ、きっかけはあの子だったな! ほんと感謝だぜ」
 にみてるの言葉に、多神も静かに頷いた。

 カフェテラス内でキョロキョロしているのは、ディックだった。お昼からずっとパートナーが見つからず迷子の彼は、誘われるがままに来たものの、人の多さに混乱気味だった。そんなディックに話しかけたのは、アクアだった。
「どうしたの? 迷子かな?」
 ディックは困り果てた様子で言う。
「やばい、ここどこだろう……? ていうか、パートナーがいない……!」
 ディックのその一言で、アクアはずっと忘れていた大事なことを思い出した。
「あっ! そういえば私もパートナーとはぐれたんだった!!」
 アクアは、ついさっき自分で言った言葉がそっくりそのまま自分に当てはまってしまったのが、恥ずかしくてたまらなかった。

 真人と隆樹、そしてゆあは料理出しや食器片付けに追われていた。そんな3人の元へ、自己紹介で目つきが怖いと言われた大和、イルインスールの星次郎、そして沢のパートナーのドゥドゥの3人がやってきた。
「忙しそうだな、手伝うぜ」
 大和が洗い物をしようとキッチンへ入ろうとする。するとその大きな体がカウンターに置いてあった皿に触れ、パリンと割れてしまう。
「……すまない」
 割れた皿を片付け、改めて皿を洗おうと洗い場に向かう大和。するとものの数秒で、またもやパリンと音が聞こえた。
「……本当にすまない」
洗い場から戻ってきた大和は真人たちに再び頭を下げるのだった。その近くで、黙々と空いてる食器を下げるドゥドゥ。
「……パートナーがひとりでこんなことやっててもいいのか?」
 隆樹に聞かれるとドゥドゥは諦めたような口調で答えた。
「あいつ……沢はこんな場ではどうせ俺がいてもどこかで拾い食いしてるだろう、だったら俺はその分手伝いをして少しでもあいつの迷惑分を相殺しないとな」
「……パートナーの鑑だな」
 キッチンでは星次郎がオリジナルのハーブティーをつくっているところだった。
「わぁ、いい匂いです〜」
「他所の学校なのに混ぜてもらったからには、このくらいしないとな」
 淹れたてのハーブティーを星次郎はカウンターへと持っていく。
「蒼空は、いい学校だな」
 メガネの奥で、星次郎の目が少しだけ笑っていた。
 そんな星次郎の様子を、同じイルミンスールのケイとユーニスが見ていた。
「珍しいな、あいつがあんなことするなんて」
「お昼に食べた和食が、よっぽどおいしかったのかもね」
「おぉ、たしかにアレはうまかった! また食いに来てえよな!」
「……キミはもうちょっと感謝の気持ちを示すべきだね」

 盛り上がる会場の隅の方で料理をつついていたユエは、その視界に今まで見たことのないものを捉えていた。
「……キミ、吸血鬼?」
 突然話しかけられたのは、悪食丸のパートナー、ジョージだった。
「うむ……その通り、吸血鬼だが、君はどなたかな?」
「あぁ、失礼、私は望月ユエ。初めて吸血鬼を見て、つい話しかけてしまったんだ」
「ふむ、つまり、我輩に興味を持ったということでいいのかね?」
「興味……ん、まぁ、そうなるね」
「おいおい兄弟よ! ジョージよ! 何してるんだ?」
「おぉ悪食丸、この子がどうやら、我輩に興味を持ったらしいのだよ」
「なにぃ!? なあ、じゃあ俺はどうだ? さあ、どうだ!?」
「……美しくない」
 ユエはもちろん、ジョージに恋をしたわけではなかった。姿形の整ったその外見に、美的要素を見出しただけだった。

 人だかりの中では、湊が昼に愛美から渡された飴玉の袋を持って周りを見ていた。おそらく今さら必要のないアイテムだが、渡された以上誰かに配りたいという人情故の行動だった。とりあえず湊は近くにいた幸兔とファリーに飴玉を配ることにした。
「よかったらこれ、どうだい?」
 なんのためらいもなく貰った飴玉を口に入れる幸兔とファリー。途端に、ふたりの顔が変わった。
「ご……ごっつ酸っぱい」
「今まで舐めたことのない酸っぱさですぅ!」
 そんなふたりのリアクションを見て、湊もひとつ舐めてみる。するとすぐに口の中が唾液で満ち、体の芯がぶるっと震えた。
「ごめん、まさかこんな味だと思わなかったんだ! ごめんな!」
 ふたりに平謝りしながら、湊は愛美を見かけたら思いっきり文句を言ってやろうと決意を固めるのだった。

 様々なケーキが並んだテーブルを次から次へと移動していたのは、つまみ食いの達人沢、そして十四郎とそのパートナー、フィルディアだった。
「……十四郎」
「なんだ、フィルディア」
「あそこに、拙者たちの好敵手がいるでござる」
「んん〜、めんどくせえなぁ、けど、行ってみるかぁ?」
 沢のいるテーブルへと移ったふたり。そこでは派手にフードファイトが始まったのだが、勝負はすぐに沢が吐血して十四郎の不戦勝となった。
「おいおい、吐血姫の通り名は伊達じゃないねぇ」
 繰り返すが、吐血姫の知名度は今や飛ぶ鳥を落とす勢いなのだ。

吐血騒動で少しざわついたカフェテラス、その中心から少しずれたところで、アカネと渚が話していた。
「アカネ、今日はいっぱいいろんな人と話したね」
「そうやなー、めっちゃ楽しかったわ〜」
「けど、ナンパにはほんと気をつけなきゃ駄目だよ?」
「えー、おもろいのになぁ。ま、けどなんやかんや言うて渚と喋るんが1番楽やわ」
「……えっ?」
 ぴたっと動きが止まる渚。
「うん? どうしたん? あっ、これ食べへんなら貰うで〜」
 普段通りのノリで、渚の料理をパクつくアカネ。渚はアカネの見えないところで、こっそりと溜め息をついて呟いた。
「アカネは、気付くわけないよねぇ」
 当のアカネは、料理をおいしそうに頬張っていた。

 ざわつくテラス内で、ひよりと那由多のいる空間だけは別世界のように気品に満ちた空気だった。那由多のパートナー、テイワズの存在も加わり、より高貴な雰囲気を醸し出していた。
「ひよりさん、ご趣味は……?」
「はい、私、乗馬が趣味でして……おふたりは?」
「私は生け花を」
「私はお琴を」
「素敵なご趣味をお持ちで……」
「いえいえ、そちらこそ……」
 お嬢様トークは、続いていく。

 カウンター奥。コップを拭いていたウィングと真人の前に、にゃん丸が現れた。
「どうかしましたか? お飲み物ですか?」
 尋ねるウィングに、にゃん丸はバツが悪そうに話を切り出した。
「いやぁ、ほら、昼にさ、いたずらで大量にケーキつくらせてしまって、悪かったかなと思ったんでね」
 真人と苦笑するウィング。真人が言う。
「他の人から話を聞いて、意地悪なだけの人かと思っていたけど、そうでもないんですね」
「もし遊び心を持て余しているのであれば、私たちの部活に入ってみませんか?」
「……部活とかは柄じゃないねぇ」
 ただ、と付け加え、手を洗い始めるにゃん丸。
「迷惑かけた分の皿洗いくらいは、させてもらおうかね」
 眠そうにそう言うと、にゃん丸は奥の洗い場へと歩いていった。
 ウィングと真人は、笑顔でまたコップを拭き始めた。

 和やかなこの場で、彗星、修也、隆樹の3人の発するオーラは、いつでも戦闘できるぞ、といわんばかりのものだった。その中でもまだ幾分穏やかそうな修也が彗星に話しかける。
「……で、ドッキリは未遂に終わったってわけか」
「元々、そこまで大事なことではなかったさ」
 彗星はパーティーが始まって最初の方に、愛美に話しかけていた。そこで、愛美にドッキリ話を持ちかけたのだ。愛美が連れ去られたという嘘の情報を流し、その間愛美には隠れていてもらう。その時の他の生徒の対応で、誰を仲間として信じるべきか判断しようという寸法だった。しかし愛美に「そんな試すようなことはよくないと思うな」と言われ、実行はできなかった。
「分からなくもないけどな、そういうのも。こんな浮ついた場所じゃ、誰が心強い仲間なのか判断し辛いのはたしかだ」
 隆樹が漏らす。
「イベントは起こせなかったが、今でも充分分かったぜ。おまえらふたりは、なかなか強そうだ」
「ははは、まさか年下にそんなことを言われるとは思わなかったな、ま、褒め言葉と受けとっとくかな」
 修也が微笑む。隆樹もまんざらでもなさそうな様子で、キッチンへと戻っていった。

 すっかり司会の仕事がなくなり、手持ち無沙汰になった翔子と桜。そんなふたりの元へチャンスとばかりにやってきたのは、周とエドワードだった。
「刺激的なチャイナドレスだな! 俺への愛情表現か?」
「やぁお嬢さん方。こんな子供は放っておいて、私とオールナイトでパーティーはいかがかな?」
 ふたりが言い終わると同時に、それぞれのパートナー――レミとファティマがふたりの頭を小突く。そのままずるずると引きずられていく周とエドワード。残された翔子と桜はただぽかんとするばかりだった。
「なんだったんだろう?」
「ま、春だからね」

 その頃愛美のパートナー、マリエルは、ロクハ、幸、凪紗、蒼穹らと会話を楽しんでいた。
「愛美さんもそうですけど、マリエルさんもかわいらしい方なのですね?」
 凪紗に褒められ、恥ずかしくなったマリエルは照れを隠そうと、幸に話を振った。
「そうそう、幸ちゃん、最初びっくりしたよ! お昼にマナが女の子に囲まれてる中、割って入ってく男の人がいるー! って思っちゃってたから」
「マナミンにも最初驚かれたよ、結構ショックだったなあ」
 言って、笑い合うマリエルと幸。
「そういえば……」
 ロクハに話しかけられるマリエル。
「マリエルは、あのストラップを持ってないのか?」
「あぁ、アレが好きなのはマナだけなんだ。時々マナって、変なのを気に入っちゃうんだよねぇ」
「……変なの、か……」
「あーっ、ごめんごめん! 別にロクハくんの趣味を否定してるとかじゃなくてね!」
 再び笑いが起きる。その様子を見ていた蒼穹が呟く。
「たまにはこんな和やかな空間も、いいものだな」
「蒼穹ちゃんの学校は、こういう感じじゃないの?」
「騒ぐ時もあるが、軍事校だからな……やはり雰囲気は違うものだよ」
「そっかぁ、でも今日はせっかく来たんだから、もっと気軽に楽しんでも大丈夫だよ!」
「ふ、そうだな……ありがとう」
 盛り上がるマリエルたちの輪に、ベアとパートナーのマナが近付いてきた。
「やあみんな、あれ、愛美さんはいないのかな?」
「あー、マナならそのへんでわいわいやってると思うよ?」
 マナ、という言葉にぴくりと反応する剣の花嫁のマナ。
「あぁ、彼女が自分のパートナーなんだけど、彼女の名前も偶然マナなんだ。そうだ、マナ、せっかくの機会だから、昼に聞けなかったこと聞いてみたらどうだ?」
 マナは内気な性格なのか、おずおずと前に出てきて、じっとマリエルを見た。
「……?」
 不思議そうに見返すマリエル。
「……思い出せないか?」
 ベアの問いにこくりと頷くマナ。
「ごめんな、マナが、何か記憶にひっかかるものがあるらしくてさ」
「う〜ん、私はよく分からないし思い出せないけど、何か手助けできることがあったら言ってね!」
「……ありがとう」
 マナは口を開き、微笑んだ。

 一方、パーティーの主役である愛美は、何人かと絡んだ後、なぜか舞台上に上げられていた。舞台上には愛美の他に3名の男。陸奥、グラフトン、遊良のメンツだ。舞台脇から翔子と桜がマイクでテラス内に告げる。
「みなさんお聞きください! なんと今から勇敢な3名の男性が今回の主役、愛美さんに告白するようです!」
 みんなが舞台を向き、大きな歓声を上げた。
「告白するのはご覧の3名! さあ、ではさっそく告白タイムといきましょう!」
 まず、陸奥が1歩前に出た。
「今朝ぶつかったあの時から、俺はおまえの運命の人……いや、運命の奴隷だと感じたんだ! 俺の女王様になってくれ!」
 笑いが起きる場内。
「おぉっと、1発目からいきなり変化球が来ましたね〜! では次の方、どうぞっ!」
 続いて前に出たのはグラフトン。
「昼に君を見た時、君しかいないと思った。君の運命の人は俺だ。俺なら君を、幸せにしてやれる」
 場内からピィーッ、と指笛が聞こえた。
「今度は打って変わって直球です! さぁ最後、3人目です!」
 最後に前に出たのは、遊良。遊良は翔子と桜の方に向かって歩き、翔子からマイクをとった。スイッチを入れ、声を響かせる。
「オレ以外で愛美に近付こうとするやつはかかって来い! オレは負けないぜ!」
 マイクをポイと投げると、遊良は懐から指輪を取り出した。それを渡しながら、愛美に思いを告げる。
「愛美、おまえの笑顔がオレに元気をくれた。だから今度はオレがおまえに愛をやるぜ!」
 盛り上がる場内。慌ててマイクを拾った翔子が声を通す。
「さぁっ、全員の告白が終わりました! 果たして愛美さんは誰を選ぶんでしょうか!?」
 少しの沈黙。
 しばらく考えた愛美は、遊良から渡された指輪を握ったまま、遊良の前に立った。
「ごめんなさいっ!」
 頭を下げ、指輪を返す愛美。
「あーっと、まずひとり脱落っ! さぁ、残るのはどっちだ!?」
 愛美はそのまま横に移動し、グラフトンの前に立った。
「ごめんなさいっ!」
頭を下げ、一歩下がる愛美。
「おーっと、まさかのイケメンふたり連続脱落! ということは、そういうことなんでしょうか!?」
 陸奥の前に立ち、頭を下げる愛美。ゆっくりと頭を上げながら、その口を開いた。
「……よろしくお願いしますっ」
 わっと歓声が上がるカフェテラス。翔子と桜が舞台に上がり、マイクを愛美に向ける。
「愛美さん、なぜ陸奥さんを選んだんでしょうか?」
 愛美は申し訳なさそうに答えた。
「えっとね、マナミン、かっこよすぎる人ってなんか苦手なの」
 愕然とするグラフトンと遊良。あとね……と愛美が付け足す。
「陸奥くんとは今朝登校途中にぶつかっちゃったんだけど、やっぱりそういうのって運命だと思うの!」
「おめでとう陸奥くん! あなたが愛美さんの運命の人でーすっ! では、喜びのコメントをどうぞ!」
 マイクを受けとり、陸奥が話す。
「えー、嬉しくて、すごく震えてます! これからはおまえの奴隷として、一生下僕でいることを誓います! 靴だって、喜んで舐めます!」
 笑いと歓声が同時に起こる場内。と、舞台上で愛美が陸奥からマイクを受け取った。
「えっと、あの……すっごく言いにくいんだけど……」
 静かになった場内に、愛美の透き通った声が響く。
「やっぱり、ごめんなさいっ!」
「えぇぇーっ!?」
陸奥が、司会のふたりが、その場にいた全員が声を上げた。
「今気付いたんだけど、マナミン、そこまでSじゃないっていうか、どっちかっていうとMだなって思ったの」
 こけた姿勢から立ち上がった司会のふたりが、どうにか締める。
「えー……、ということで、今回は残念ながら愛美さんの運命の人は現れませんでした! けれど、ここで出会った友達はこれからもずっと付き合っていける、運命の友達になることでしょう!」
 拍手が起こる場内。
「それでは最後に、記念撮影をしましょう! みなさん、横に並んでくださーい!」
「牙竜、用意できてる?」
 その場にいる全員が整列し、その前に立つ牙竜。リリィが軽く茶化す。
「はいチーズ、って言うんだよ? 牙竜」
「うっせえ! そんな恥ずかしいセリフ言えるかよ! おいてめえら、5秒やるからさっさと笑え!」
 そんな牙竜の言葉で、5秒もかからず全員が笑った。

 愛美とマリエルの友達100人計画 
 本日の友達 54人
 うち、涙をのんだ男性 3人

担当マスターより

▼担当マスター

萩栄一

▼マスターコメント

今回のシナリオにご参加いただいたすべての方、ありがとうございました。
至らぬ点も多々あると思いますが、みなさんに少しでも楽しんでいただけたら幸いです。