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●第1章 1人で泳ぐぞコース開幕!

「優勝を狙っていくからには準備運動は欠かせないよね!」
 陽神 光(ひのかみ・ひかる)はパートナーのレティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)に手伝ってもらいながら、全身の準備運動、柔軟運動を始める。
 その後、水泳中にバテてしまわないようエネルギー摂取として、光がチョコバナナを食べている間に、彼女の筋肉をほぐすべくレティナはマッサージをしていた。2人して冒険に出ては光のマッサージをしているレティナは手馴れたもので、筋肉をほぐしていく。
「光、頑張ってください」
「もちろん! 一番で泳いでくるからゴールで待っててね!」
 レティナの応援に、光は頷いて、スタート地点へと向かった。


『位置について、よおおおおおい……』

――ピィィィィィッ!!

 大きなホイッスルの音と共に、『1人で泳ぐぞコース』に参加した学生たちが一斉に砂浜を駆け出し、海水の中へと入っていく。
 コースの先導役は、ヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)だ。
「私、体育0ですし……こんなことくらいしか。……ううん、こういうこと言うのなしですよね。歌います!」
 リズムの取りやすそうな歌を選曲して、応援歌として歌いながら、トップを泳ぐ学生たちより少し先を飛空挺で進んでいく。

 赤い褌に赤いゴーグルを装着した椿 薫(つばき・かおる)の進む先で、彼のパートナーのイリス・カンター(いりす・かんたー)が背泳ぎしているのを見て、ニヤリと怪しげな笑みを浮かべていた。
 スタート直前、薫はイリスに「途中背泳ぎすると疲れないでござる。それに、疲れたらおなかを上にして浮かんでいたらいいでござる」と告げていた。
 遠泳大会が何たるか……すら知らないイリスはそれを信じ込み、最初クロールで砂浜から離れた後、くるりと体の向きを変え、背泳ぎをし始めたのだ。
 波間に浮かぶは瓢箪島――ではなく、イリスの大きなバスト。
 その姿に、単独で参加していた男子学生が鼻血を吹く。
「大丈夫ですかぁ!?」
 紺色のスクール水着――『めいべる』と書いた名札が胸元にぬいつけられている――を纏ったメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がパートナー、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)――こちらも同じく纏うスクール水着の胸元には『せしりあ』と名札がぬいつけられている――と共に乗り込んだ借り物の飛空挺で、鼻血を吹いた男子学生の元へと近づいていく。
 男子学生を飛空挺に乗せている間にも少し離れたところで、またイリスのバストを見て鼻血を吹いた学生が発生し、メイベルとセシリアは慌ててそちらへと向かっていった。
「その調子で、ライバルを減らすでござる」
 その様子を見て、薫はくすと笑うのであった。

(9人、10人……うう、皆、早いなぁ……)
 鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)は自分のペースを守って泳いでいた。泳ぎ始めて以降、己を抜いていく学生たちの数を数えている。
 泳ぐからには上位入賞。抜かされていった数を覚えておいて、その人数だけでも追い抜くことも目標の1つだ。
 スタート前には準備運動をしっかりと行い、途中で力尽きてしまわないよう、糖分補給のために、受付横のテントで売られていたフルーツジュースを飲んできた。もちろん、泳いでいる途中に別の心配が増えてしまわないよう、飲み過ぎない程度の量を、だ。
 力まないよう、潮に漂うように。お腹を引っ込めてお尻を浮かしながら泳ぐことを心がけ、少しずつでも1人前との距離を開けない程度に泳ぐ。
 途中、幾人か脱落して救護班に助けられるのを見送りながらも距離を稼いでいくと、先に折り返し地点である岩場が見えた。
(よぉし、ここからペース上げていくよ!)
 翔子はそう思いながら、徐々にスピードを上げていけば、1人前との距離が縮まっていった。

(修行と思えば、悪くないからな)
 深草 蓮華(ふかくさ・れんげ)はそんなことを思いながら、泳いでいた。
 女の身であるがために、身体は小さいけれど、持久力だけは負けない。泳ぎにも自信があるのだ。
 スタート直後は、遅れを取らぬように周りで泳ぐ皆の様子を見て、上位者から引き離されないように適度なスピードを出して泳ぐ。
(初めから遅れてたら勝てないだろうからな)
 そう思いながら泳いでいるため、思惑通り、上位10人の中には入っているようで、時折、実況の声で己の名前が呼ばれているのが分かる。
 後方を見ることは出来ないけれど、脱落者も出ているようで、救護班へのヘルプの放送もされているようであった。
(あれを越えたら、もう少し上位に入ろうか)
 折り返し地点である岩場を捉えた蓮華は、そう思いながら徐々にスピードを上げていくのであった。

(あの娘、見ててくれるかな……?)
 元沢 一(もとさわ・はじめ)は後半にスピードアップすべく体力を温存して泳ぎながら、そんなことを思っていた。
 参加するからには優勝を、無理でも上位入賞をすることで、アプローチしたいのだ。
 アプローチしたい相手のことを思い描きつつ、辺りの景色も楽しみながら、泳ぎ続けた。