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作れ!花火を!彩れ!夜空を!

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 第二章 構築・混乱・最戦線

「魔力を込めて作る花火か… 面白いものを作るものだ」
 花火玉制作機を見上げ、称賛の声を漏らしているのは薔薇の学舎のプリースト、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)である。
 花火玉制作機の高さは三メートルはあろうに思え、扉の先、電話ボックス十個分ほどの部屋に入りて、イメージを機械に読み取らせるようだ。パートナーのドラゴニュート、ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が部屋に入ってから十分が経過していた。
「ここはやっぱり、ウィザードのボクが頑張らなきゃ」
 部屋の中で目を閉じている、ファルは呼雪を想いて集中力を高めた。
 コユキは絵がすごーく下手なんだから、ボクがやるよ。そう言って呼雪を納得させた、それでも、ボクはコユキに伝えたい事がある。
「今度はボクがコユキを楽しい所に連れてってあげるからね」
 花火に込めるは思い出と想い。ファルは更に心を静めた。


「なるほど、ここで構築した花火玉とやらを空に打ち上げるのか」
 花火玉制作機の部屋の中を見渡すは、イルミンスール魔法学校のプリースト、エレート・フレディアーニ(えれーと・ふれでぃあーに)のパートナー、剣の花嫁のレトガーナ・デリーシャー(れとがーな・でりーしゃー)である。
「えぇ、それはもう、美しい限りですわ」
「ふむ、興味深いな」
 部屋の中央、エレートが肩の高さ程の柱の上には、大きな水晶玉が乗っている。
「レトガーナ、この水晶に手を触れて下さい」
「わらわも作るのか?」
「えぇ、イメージは私がしますので、心を静めて魔力を込めて下さい。協力して作りましょう」
「どのような模様にするのだ?」
「それは秘密です」
「協力者に、隠し事をするでない」
 エレートの妖艶な表情に、レトガーナは瞳を逸らしてしまった。まぁよい、花火玉が完成した後は砲台とやらを見せてもらうとしよう、今は。レトガーナは水晶に両手を当てて、魔力を込め始めた。


 水晶に手を当てるのはイルミンスール魔法学校のウィザード、日下部 社(くさかべ・やしろ)である。ゆる族のパートナー、望月 寺美(もちづき・てらみ)は社の後ろで踊っていた、その手には手持ち花火が握られている。
 目を閉じて思い描いて、大きくイメージして。跳ねるように、そう、跳ねるように。徐々に細部を思いてゆく、出来る限りに細かく鮮明に。バレリーナの如く、軽く着地して、手足はしなやかに。社は集中してゆく、心を静めて、社は一人集中してゆく…。
「って、集中できるかぁ、ボケェ」
 寺美はビクッと跳ねてから、動きをピタッと止めた。寺美の片足はしっかりと跳ね上がったままだった。
「その動きは何やねん、集中できんやろが」
 言われて寺美は口を押えて直立した。口を押さえるんかぃ! とジェスチャーでだけ表して、社は再び水晶に向き合った。
 大きく息を吐いて目を閉じる。呼吸を整えてから、力強く目を見開いた!
「楽しい花火を作ってほしいから、だから、楽しくなるように踊ったんだけど」
 ナッハァー。
「今かぃ!どんなタイミングで応えとんねん!」
「社〜、イルミンスールまで届くような、大きな花火を作るんだよ」
「分ぁっとるわ、大きぃ花火作るには集中せなアカンねん、少し黙っとけぇ」
 再び寺美は口を押えて直立した。寺美をじっと見つめてから、社はため息をついた。
「だいたいイルミンスールまでって、どんだけ離れてる思てんねん」
 これに寺美は動きも見せず。社は再び水晶に向き合って手を当てた。
 イメージする、心静かに。寺美は動きを見せないままに。思い描いて、集中して。部屋の中は静まっている。細かく、鮮明に、集中して。物音ひとつ無い部屋の中、呼吸さえも止まっているように静かに静かで、社は集中してゆく、静かな中で…。
「って、静か過ぎんねん、逆に集中できひんわぁ」
 卓袱台があれば返していただろうに。社と寺美の苦闘はまだまだ続く。


 イルミンスールのナイト、羽瀬川 セト(はせがわ・せと)は大きく大きく息を吐いていた。
 水晶に手を当てて、魔力を込める事に意識を集める。
「オレもイルミンスール生のはしくれです。多少の魔力は練れます」
 同じく水晶に手を当てるのは、セトのパートナー、ウィザードのエレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)である。心配そうにセトを見つめている。
「セト、大丈夫かの」
「えぇ。でも複雑なモノや大きな花火は無理でしょうから、思い出の川だけをイメージする事にします」
「そうかぃ、上手くいくと良いのぅ」
 わらわだけなら複雑なモノもデカイのも作れるが。そうじゃ、セトが川をイメージするなら、それに干渉する色を加えるとしようかのぅ。
 水晶に向かう思いは一つ、二人の合作、一つの花火を作り上げること。魔力の膨大な差を越えてゆくのだ。


「おぅ、おおぅ、おおおおおおぅぅ…」
 水晶に当てた手を震わせて、目を血走らせているのは蒼空学園のローグ、椿 薫(つばき・かおる)である。元々に魔力は微量である。故にどれだけ頑張ろうともに小さい花火しか出来ないのだが、それでも薫は挑戦するのだ、皆に伝える為に、そう。
「イリスの声がキレイだという事を皆に伝えるのでござる」
 単調なイメージで伝えるには、「♪」が良い。
 ようし、浮かんできたぞ、鮮明に。「♪」「♪」「♪」をイメージしてゆく。
「薫ぅ、頑張れですわ」
 薫のパートナー、シャンバラ人のナイト、イリス・カンター(いりす・かんたー)が薫の背に抱きついた。
「おうっ」
 薄い浴衣越し、イリスの胸の感触が背中に…。
 イメージを保つのだ、「♪」「♪」「♪」「∞」「∞」「∞」…。


 端正な顔立ちのウィザード、高月 芳樹(たかつき・よしき)は鮮明にイメージを構築していた。
「アメリアと出会って色々な冒険をした、これからも楽しい思い出が作れるように、アメリアと過ごした日々の記念に、花火玉を作って一緒に見るんだ。アメリアを封印していた箱、アメリアにとっては忌々しいものなのかもしれない、でも、僕にとっては宝の箱だったんだ」
 少しの揺れも波も立たずに、静まり返った、そのままに。最後まで冷静を保っていた。
 花火玉制作機、部屋の外では、パートナーのヴァルキリー、アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が腕組をして待っていた。
 そこへ芳樹が部屋の中から出て戻ってきた。
「終わったの?」
「あぁ、終わったよ。簡単だ」
「何をイメージしたのよ」
「言ったら面白くないだろ、ほら、行くぞ」
 夜の打ち上げ会まで、時間はたっぷりある。浴衣を選ぶ時間もたっぷりある。
 芳樹とアメリアのように構築作業を終えた者も居れば、花火玉制作機の数が限られているだけに、順番待ちをして列に並んでいる生徒達も多く居るのである。


「はい、みなさん、列を崩さずに並んで下さい」
 噴水の付近にラグビー弾の保管庫がある。ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)とパートナーのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)は保管庫の前に陣取り、花火玉制作機の順番待ちをする為に列を作らせて管理していた。制作機が空けば順の生徒に弾を渡して誘導する。誘導するのはもちろん、ベアだ。そのベアが、何やら汗だくで走って戻ってきましたよ。
「ベア! 遅い!」
「無茶、言うな、全力だっ!」
コンスタントに、時間制なら或いはであるが。花火玉の構築作業がほぼ同時に終わる事もあるわけで、そしてそれが幾つも重なることもあるわけで。
「はい、次っ、お願いね」
「鬼か… 。… はい、行きましょうか」
 笑顔を作りて誘導する。警備の人間を回してほしいと、ベアは心から願っていた。


 列に並んでしまえば、通常見えるのは前の生徒の背中に、うなじ。まぁ、それも悪くないのだが、こう時間が長くては目も重たくなってくる。吸血鬼のローランド・セーレーン(ろーらんど・せーれーん)は、きょろきょろと落ち着きのないパートナーの水渡 雫(みなと・しずく)を見て、ため息をついた。
「あっ、ほら、また人が機械に歩いていくよっ!どんな花火を作るのかなぁ」
 浴衣を着たのは良い、が、なぜに淡い灰色なのか。黒縁眼鏡に加えて余計に地味さが溢れてるだろうが。それなりの格好をすれば、それなりに、なるというのに。
「どんな花火を作ってくれるのです?」
「どんなって。何かないのか、何か」
「ローランドさんのお好きな形で」
 丸っきりに投げられた。それも期待されている、心から楽しんでいる。
「好きなもの、と言われてもねぇ…」
 どっちでもいい、何でもいいと言われると、試されているような心地がしたなら、汗が出る。