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黒く染まる翼

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黒く染まる翼

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第四章 城内戦闘開始

 華やかな舞踏会が行われている頃。
 城内に入りこんだ宮辺 九郎(みやべ・くろう)たちはスケルトンの出迎えを受けていた。

「……退屈、させないでくれよな?」

 威圧的な笑みを浮かべて、九郎がスケルトンを見る。

 その隣には九郎と同じくセイバーの姫宮 琴美(ひめみや・ことみ)が立っていた。

「手加減はしないっすよ!」

 出迎えにうれしそうな琴美を見て、ティナ・ノワック(てぃな・のわっく)は小さな溜息をついた。

「あっちに手加減してもらいたいとかそういう発想はないのかなあ」
「手加減なんてしてもらったら、面白くないッ!」

 そう言いきる琴美を見て、それぞれの評価をみんなが口にした。

「その心意気や良し」
「琴美のそういうところはいいと思うけれど、無茶はしないでね。無茶してもヒールをするけれど」
「はい、3人ともセンセーが後ろについてるから、危なくない程度に頑張るように」

 最後の言葉は蒼空学園の保健医である氷堂 樹(ひょうどう・いつき)の言葉だ。

「罠と解って居ながら来る事になるとは……俺も積極的になったものだ」

 そう思う樹だったが、先生の立場として、戦いに赴く生徒たちを放っておけなかったのかもしれない。
 蒼空学園の生徒である3人を見渡す位置にいつつ、樹は彼らを心配する。

「保健室のベッドは少ないのだから、無理は禁物だよ」
「はい!」
 
 樹の言葉に琴美は元気に答える。

「良い返事だ」

 微笑む樹の前で、九郎が武器を手にした。

「さて、城の中を進む奴らの露払いといくか」

 九郎が向かってくるスケルトンの脚を狙い、カルスノウトを大きく振るう。
 一閃。
 見事に足にひびが入り、スケルトンの動きが止まる。

「ちょっと遊んであげるよ!」

 琴美は向かってきたスケルトンにカルスノウトを向け……る振りをして、その腰骨を蹴り飛ばした。

「セイバーだから、必ず剣で戦うと思ったら大間違いっ!」

 倒れるスケルトンに爽やかな笑顔を向け、そばに襲いかかってきた次のスケルトンを、豪快な動きで叩いた。

「いえ〜いフルスイーング!!」
「あんまり派手にしすぎると体力を使っちゃうよ」
 
 ティナは心配するが、全然、琴美は気にしていない。

「まぁ、あたいが剣の花嫁だって言うのに、光条兵器も使わない型破りな子だから今さらか……」

 ティナは苦笑しつつ、琴美のそばを守るように立つ。

「スケルトンっすか、フライにしようにも身がないッスね!」

 挑発的に戦う琴美が無事でいられるのも、実はティナのおかげなのかもしれない。

「おっと……まずいな、うちの生徒よりも、お子様組が危ないか?」

 樹は火術を唱え、アピス・グレイス(あぴす・ぐれいす)に襲いかかろうとしたスケルトンにそれを放った。

 スケルトンは動きを止めかけたが、根性で、というべきか、まだ動こうとしている。

「……火が燃え移ったらコトだ」
 
 光条兵器を手に取り、スケルトンの頭を狙いに行こうとした樹だったが、その前に二つの影が動いた。

 石動 和希(いするぎ・かずき)のリターニングダガーが飛んで、スケルトンを足止めし、そこに赤嶺 皐月(あかみね・さつき)が火術を叩きこんだ。

「よし、当たり!!」

 皐月が元気な声を上げる。
 そして、珍しい薔薇の学舎のローグである和希は、イルミンスールの魔法少女に小さく手を振った。

「うまく連携できたね。おつかれー。次行こうか」
「もちろん!」

 あいつには負けない、と常々思っている皐月は、派手に動き回った。

「おや……?」

 樹は皐月の姿を見て、誰かを思い出した。

 思い出したその人物と、名前が、樹の中で合致しなかったが、それは蒼空学園にいる皐月の兄、赤嶺霜月だった。

 皐月が必死に戦っているのは、その兄が原因なのだが、そこまでは樹も思い至ることができなかった。

「大丈夫そうかな?」

 樹がそう声だけかけると、皐月が二体目のスケルトンを倒しつつ、大きな声で答えてきた。

「全然平気!」
「了解」

 小さく笑った樹が和希を見ると、和希も頷いた。

「ま、めんどくさい……ってのがあるけれど、でも、普通にみんなをパーティに誘えないリンスレットのために迷惑蒙ってる人を助けないとね」
「そうか、いい子だ」
「でも、きつくなったら助けてね」

 和希は何でも自分で出来るとは思っていない。
 だからこそ、ローグらしく物陰に隠れて戦っているし、人と同じものを攻撃したりするのだ。
 なので、樹にも素直に支援をお願いする言葉を口にできた。

「皆、お疲れ〜って言えるようにがんばるよ」

 何かに負けたくないと思うゆえに、ちょっと無茶しがちタイプっぽい皐月を心配しつつ、和希は援護を続けた。

 そして、樹の火術で助けられたアビスは「ありがとう!」と樹に言いつつ、今度は確実にスケルトンを仕留めた。

「あなた、じゃまだわ。 私の前からきえなさい!」

 柄をかなり長くしたランスを振り、さらにもう一体のスケルトンを粉砕する。

 自分の背丈よりも長いランスだが、騎士であるアビスには振るうことができる。

 お嬢様学校である百合園だが、実は百合園騎士というのは意外と強いのだ。

 しかし、まだまだ、7歳と小さなアビスを心配し、同じ百合園のお姉さまである伊達 黒実(だて・くろざね)がそのそばに付いた。

「後ろは任せなはれ。存分に力を振るって大丈夫」
「お姉様」

 アビスは黒実に感謝し、向かい来るスケルトンを一気に叩くべく、ドラゴンアーツを使った。

「……砕け散るといいわ!」

 ドラゴン特有の怪力に、アビスのランスが加わり、高い破壊力で、スケルトンを砕く。

 その後ろで、黒実は京美人らしい柔らかな笑みを浮かべていた。

「しょうもあらへんなぁ……啼いて許しを乞うたら考えてやりおすわ」

 くすくすっと、傷跡のある顔に笑みを浮かべて、黒実がスケルトンを見つめる。

 しかし、物言わぬスケルトンはそれに答えることもなく、つっこんでくる。

「残念」

 ちっとも残念でなさそうな口調で、黒実は構えたアサルトカービンの引き金を引いた。
 スケルトンの腕や足を狙って射撃をする。

「手ぇは難しいどすなぁ。ま、これも修行と思って……」

 のんびりした態度をした黒実だったが、そこに撃ちそびれたスケルトンが襲いかかる。

「黒実お姉様!」

 アビスが声を上げるが、そのスケルトンはメイドさんによって倒された。

「やばいところだったな」

 メイドさんでありながら、そんな口調なのは、大野 愛佳(おおの・あいか)が男のメイドさんだからだ。

 しかも、薔薇の学舎でメイドという、非常にレアな存在だ。

「世の中にはいろんなメイドがいるんだね」

 代々政治にかかわる家系に育ったアピスだったが、男性メイドというのは初めて見たようだ。

「さて、まだまだ来るわよ、みんな」

 フィロレント・ネル(ふぃろれんと・ねる)が弓を構えながら、みんなに声をかける。

 フィロレントの弓は光条兵器の弓だ。
 
 魔力の高いフィロレントだが、弓が趣味で、動いてる的を射るのが好きだった。
 そんなフィロレントにとって、光条兵器の弓というのは、うってつけの武器と言えた。
「炎に焼かれるのと、矢で射抜かれるの、どちらがお好み?」
 
 フォロレントは小さな体であるが、魔力依存の光条兵器の弓なら軽々引ける。

 そして、矢を撃ち放ってすぐに、今度は火術も叩きこんだ。

 小さい体と眠そうな目をしたフィロレントだったが、戦い方はシビアだった。

 ただ、長中距離攻撃だけでは、迫る敵もある。

 それは、愛佳がハウスキーパーで掃除し、黒実が光条兵器でスケルトンの膝の部分を斬りつけたりして倒した。

「まだ来そうどすなぁ」
 
 黒実はスケルトンの様子を眺め、みんなをいったん下がらせた。

「ちゃんと寝る時間は確保した方がいいどすぇ?」

 おやすみの言葉をかけて、黒実はスケルトンたちにスプレーショットを使った。
 スケルトン全体が掃射攻撃を受け、それにさらにフォロレントの弓が追撃に入る。

「皆、がんばっているな」
 
 松平 岩造(まつだいら・がんぞう)はみんなの戦いぶりを見て、感心していた。

 最初、岩造はみんなに先んじて、スケルトンを叩き、戦い方を見せた。
 といっても、彼が思うような【戦闘教官】としての立場が取れたわけではなく、単にまず戦うのを見せたと言うだけであるが。

 岩造のそばでフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)もみんなの動きを見ていた。

「無事にこれからも戦っていけるといいですね」
 
 フェイトの赤い瞳は優しく彼らを見つめていた。

 彼らが戦うそばを香川成美が通りかける。

「さ、行くぞ」

 アレッサンドロが促すが、成美はおろおろしている。

「でも、みんなが戦ってるのに……」

 足を止めかける成美を九郎が叱咤した。

「……とっとと、行け……てめぇらにゃ、てめぇらのやるべきことがあるんだろ?」
「あ、ありがとう。みんなもがんばって……」
「おう、後ろは振り返るなよ」

 九郎は城の上階に行く人たちを急き立て、見送った。