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墓地に隠された秘宝

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墓地に隠された秘宝

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考古学チーム『宝珠』


「少しお聞きしたいのですが、よろしいですかな?」
 落ち着いた声で話しかけられ顔を上げた先にいたのは、声のイメージを裏切らない初老の紳士だった。
 トレンチコートに山高帽姿はうらびれたこのバーにはあまり似合わない。
 もう何日も飲み続けて正常に働かない頭のまま、話しかけられた男は適当に頷いた。
 セバスチャン・クロイツェフ(せばすちゃん・くろいつぇふ)と名乗った紳士は、男にゆる族の秘宝について聞かせてほしいと言ってきた。
 問われた男の顔が瞬時に青くなる。何日分もの酔いも一気に醒めてしまった。あの時のことを思い出したくないから、こうして呑んでいるというのに。
「ゆる族の秘宝のことはどなたからお聞きになったのですかな?」
「……そんなこと知ってどうするんだ? みんな伝説のお宝を狙ってた。その情報が手に入った。情報の出所なんて、どうして気にするんだ?」
 男の疑問に、セバスチャンはよくぞ聞いてくれたというふうに目を細めた。
「キナ臭いからですよ。今までどんなトレジャーハンターも手掛かりを掴めなかったのでしょう? それなのに急に入口が現れたり、鍵の存在が知れ渡ったり。不自然だと思いませんか?」
「考えすぎだと思うんだけどねぇ」
 と、呆れたふうに言うパートナーのグレイシア・ロッテンマイヤー(ぐれいしあ・ろってんまいやー)を無視して、セバスチャンは男の瞳を覗き込む。
 男はグラスから最後の一口をあおると、吐き出す息に紛らせて答えた。
「俺は地球から来た考古学チーム『宝珠』から聞いた。噂の出所がそいつらなのか他のやつなのかは知らねぇ」
「……そうですか。お時間を取らせましたな。こちらでまた飲み直してくだされ」
 セバスチャンはチームの名を覚えると、男に一杯分の代金を置いてバーを後にした。



 二度目の襲撃は、ごろつき連中というよりも傭兵集団といった雰囲気だった。
 ウェイル達が必死に逃げ道を作ってくれたおかげで、コタとクラリッサは危機を脱することができたのだが。
「あの人達、大丈夫かしら……」
 クラリッサは何度も後ろを振り返る。
 しかし、次のコタの言葉に前に集中せざるをえくなくった。
「なぁに、彼らなら心配いらないっスよ。それよりこっちに追加っス」
 エンジン音が聞こえてきた。
 待ち伏せでもされていたのだろう。トラックが二人の前を塞ぐように回り込んで停車し、助手席からヒョロッとした小男が、荷台から武装した男達が降りてきて武器を向けてきた。
 小男はいやらしい笑みを浮かべて言った。
「初めまして。私は地球の考古学チーム『宝珠』の八坂という者だ。我々はこの大陸にとても強い関心を持っていてね。その歴史を追っているのだよ」
 ピクリと、コタの丸い肩が震える。
「ゆる族には素晴らしい遺産があるらしいね。ぜひそれを調べてみたいのだが、どうやらそう簡単には調べさせてくれないようだ。……君はその遺産に難なく触れることのできる鍵を持っているとか。我々に協力してはくれんかね?」
「いやっス」
 即答したコタに八坂が鼻白んだ時、よく通る女性の声が響いた。
「その通りですわ! そのような者達の言うことなど聞く必要はありません!」
 声のした方を見れば、少し離れたところにある大きな岩の上に人影が二つあった。一つは腰に手を当てて立っており、もう一つはしゃがみこんでいる。声を出したのは立っている方だろう。
 とうっ、と勇ましい掛け声と同時に身軽に飛び降り、アリシア・スターク(ありしあ・すたーく)は八坂を胡散臭そうに睨みながらコタの方に歩み寄ってくる。
「協力を求めながら武器を向けるなど卑怯者のすること。その『宝珠』とやらはロクなチームではないでしょう」
 アリシアが足を止めたのはコタの前。コタとクラリッサをかばうように。
 そして、八坂に向けてシッシッと手を振る。
「あなたに用はありませんわ。さっさと地球にお帰りなさい」
「アリシアさん、挑発してどうするんですか」
 続いて大岩から滑り降りてきた水神 幽也(みかみ・ゆうや)がアリシアの腕を引いて咎めるが、おだまりと一蹴された。
 しかし挑発されたのは八坂ではなく、その後ろの傭兵風の男達の方だった。
「小娘が生意気な!」
「少し痛い目にあわせてやるか?」
「痛い目にあうのはあなた達ですわ」
 ブンッ、とランスを振るうアリシア。幽也は懐に手を入れ、アリシアとコタ達の間に身を滑り込ませた。
 八坂は一人冷静で、わざとらしいくらいの微苦笑を浮かべてみせた。人数で勝っている者の笑みだ。
 ところが。
「はいはい、そこまでですよ〜」
 またしても大岩の上からの声だった。
 エンシャントワンドを振りかざすのは比良坂 桃与子(ひらさか・とよこ)。他にも何人かがいた。
 わざわざ岩の上に登る必要はないのだが、何となく登りたくなる高さと位置なのだろう。
 二度も見下ろされたのが気に障ったのか、傭兵風の男達から罵声があがる。
「生意気な小娘の次はクソガキか! 泣きべそかく前に家に帰ってぬいぐるみとでも遊んでろ!」
「ギャハハハハ! それとも売り飛ばすか? よく見りゃ整った面してんじゃねぇか。ガキがいいって奴もいるしな!」
 さらに続こうとする声があったが、何か言う前に桃与子の火術が彼らを襲った。
「やれやれ。せっかく邪魔なのを振り払ったと思ったのに、またかね」
「やっぱり待ち伏せだったっスか」
 コタの呆れにも八坂の表情は涼しげだ。
「比良坂、ここは頼んだ」
 久途 侘助(くず・わびすけ)が桃与子に言い残してレオナーズ・アーズナック(れおなーず・あーずなっく)アーミス・マーセルク(あーみす・まーせるく)と共に大岩を飛び降りていく。
 その頃にはコタ達の方は戦闘が始まっていた。
 レオナーズもアーミスも魔法が得意なので、距離を置いて火術で応戦することにした。
「レオナ、ワタシ達は後衛だよ。わかってるよね?」
「当然」
「標的はちゃんと見るんだよ」
「わかってるって」
 アーミスはよくこうやって年上ぶった態度を取り、レオナーズはうるさそうにするが決して邪険にしているわけではない。彼女の実力は認めているのだ。
 二方向からの炎の攻撃に傭兵風の一団はたちまち浮き足立った。
 その様子に、余裕かなと思ったがすぐに反撃の銃弾が飛んできて、慌てて気を引き締めた。
 そんな中でも八坂は不気味なほどに落ち着いていた。
「カネにものを言わせて雇った人達っスか? たいした財力っスね。いったいどこから作ったお金やら」
 嫌味のこもったコタの言葉に、八坂のこめかみがピクリと震えた。
 アリシアの死角から襲い掛かってくる敵を排除しながら、幽也はその会話を聞いていた。
 そしてもう一人。
 背中に硬いものを押し付けられ、ハッと目を見開く八坂。
「手を引いた方がいいんじゃない? だいぶノックアウトされてるぜ」
 笑みを含んだような侘助の言葉に、八坂が目だけで周囲を窺うと、雇った男達はほぼ半分に減っていた。遠距離から火術で攻められ、近距離ではランスに突かれ、また戦闘に未熟な者達が相手だと侮っていたせいもあり、予想外の強さに逃げてしまったのだ。
 侘助は混戦を利用して八坂の背後を取ったのだろう。
 初めて八坂は表情に険しさを見せると、ギロッと侘助達を睨みつけて撤退を叫んだ。
 侘助達に逃げる者を追う気はない。
 それぞれ武器を収めるとホッとした顔をしながら集まってきた。
 相手が戦闘に慣れていたせいか、無傷というわけにはいかなかった。特に最初に現れて挑発したアリシアは集中攻撃を受けていたせいで、怪我も疲労も多い。おかげで他の仲間は攻撃しやすくなり、コタも助かっていたのだが。
 コタは幽也に傷薬を渡した。
「これを塗ってやるっス。ちょっとしみるっスが、効き目は抜群っスよ」
「私からもお礼を言います。ありがとうござい……!?」
 ランスを下ろして進み出たクラリッサに、突然侘助がデリンジャーを押し付けた。
 侘助は真っ直ぐにクラリッサを見て言った。
「何故、鍵を持つ存在が知られることになった? 命を狙われても捨てたくない鍵なのか、秘宝はそんなに大切なものなのか?」
 侘助の瞳に、自分を疑う色を見たクラリッサは、突然過ぎて否定したいのに言葉がなかなか出せなかった。驚きが大きすぎたのだ。
 代わりにコタが侘助に言った。
「クラリッサは何も怪しくないっス。鍵のことを『宝珠』に密告したのは、オイラの昔のパートナーっスよ」
 疑わしげに眉を寄せる侘助に、コタははっきりと頷いてみせた。
「高崎 竹という人っス。まあ、もう死んでしまった人っスから、ごちゃごちゃ言うのはナシっスよ。そういうわけだから、クラリッサは何も悪くないっス」
「そうか……そりゃ悪かったな」
 裏切られたとはいえ、パートナーとして過ごしてきたのだから、とコタを思いやり侘助はクラリッサからデリンジャーを下ろした。
 そして次に彼がとった行動に、コタとクラリッサはまたしても驚かされる。
 侘助はその武器をクラリッサに差し出したのだ。
「ぶっちゃけ俺さっきのだけで疲れたし、他にも頼りになる仲間もいるから、後は楽したいなー……なんつって……」
「えぇえ? でも、それは……」
「渡すっつったら渡す」
 半ば無理矢理に押し付けられ、戸惑いながらも受け取るクラリッサ。
 さらにレオナーズが話をまとめようとする。
「それじゃ、行こうか。目的地はあるのかな?」
 一緒に行くのは当たり前、と言うような穏やかな微笑みを見せるレオナーズに、コタは数秒呆気に取られた後に「ないっス」と答えた。
「オメー達の前にもそう言ってついてきてくれた人達がいたっスけど、途中で八坂のもう一つの追っ手に襲われてオイラ達を逃がしてくれたっきりっス。やめた方がいいっス」
「そう言われましても、もうついていくってみんなで決めちゃったんです〜。諦めてください」
「あなた達は将来のわたくしの臣民ですわ。これを見過ごすのはスターク家の名折れですの」
「ようするに、諦めろってことです」
 桃与子に続いてアリシアと幽也にまで言われ、コタは今回も道連れができてしまったのだった。