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秋の夜長にすることは?

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秋の夜長にすることは?

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スポーツの秋

 読書の秋、音楽の秋なら大人しくて怪我人も出そうにないが、スポーツの秋ならまだしも夜の校舎で大騒ぎしている生徒がいないかどうか、養護教諭の藍乃 澪(あいの・みお)と補佐のフローラ・スウィーニー(ふろーら・すうぃーにー)は見回っていた。
 しかし、大半の生徒は大人しく課題に取り組み、ルミーナの監視下のもと準備をしていたりと怪我人や病人が出ている様子はなかった。
「図工室のみなさんにもぉ、注意をして救急セットを届けましたから〜……あら?」
 あとは、体育館でスポーツによる怪我がないかと様子を見に来たのだが、体育館は予想以上に静かで1つのボールが跳ねている音しか聞こえて来なかった。
「スポーツの秋という人は、少ないのでしょうか? 澪ねぇの邪魔をしないのは有り難いです」
「でもぉ、先生としては見過ごせないですぅ。ちゃあんと全部の教室を見て、困ってる人がいないか確認しないといけませんねぇ」
 さすがです! とフローラが感動しているのをニコニコ見つめながら体育館のドアに手をかける。すると――
「あぶないでっ!」
「え? きゃああああっ!」
 突然の声にドアの方を向けば、勢いよくバスケットボールが飛んでくる。2人は反射的にしゃがんでなんとか避けたが、ボールは廊下の向こう側まで飛んでいってしまったようだ。窓ガラスが割れなかったことが、不幸中の幸いだろう。
「まさか、人が来るなんて思えへんかったから……かんにんな」
 駆け寄ってきたのは一乗谷 燕(いちじょうだに・つばめ)で、どうやら体育館には彼女1人でいたようだ。それでは驚かせてしまったのは澪の方だろう。
「ごめんなさいねぇ。先生、見回りのつもりだったんだけどぉ」
「ウチこそ気ぃつけてへんかったし……先生ぇが謝りはることあらへんよ」
 しかし、校舎内とは言え遅い時間に女生徒を1人にしておくことに抵抗があった澪は、今までの様子を思い出す。
(怪我人も出そうにないくらい、みんなしっかりものだったからぁ……大丈夫ですよねぇ)
「じゃあ〜先生たちとバスケットしましょうかぁ。1人だとぉ、つまらないでしょう?」
「ホンマに? でも忙しゅうしてはるんなら、気ぃ遣ってもらわんでもええんどすえ?」
「大丈夫です! 自分が見回った限り、怪我人は出そうにないです」
 燕にとっては嬉しい申し出だが、3人だとチームを別けることも出来ない。ここは、1対1で1人審判か思っていたところに、勉強を終わらせた月里フィリップを連れてやってきた。
 どうしても身体を動かしたかったらしく、一定課題が終わったところでお願いをしたのだ。
「あの、良ければ私も混ぜて頂けますか?」
 がらんとした体育館の中、月里の元気な声が響き渡る。その声に燕が笑顔で振り返った。
「おおきに! ちょうどな、人が少のうて困っとったところやったさかい嬉しゅうおます」
 燕の言葉にありがたく参加させてもらい、燕と澪、月里とフィリップで組み、フローラを審判に任せてバスケをすることにした。
 少ない人数ながらもスポーツの秋を楽しみ、夜の冷えた空気も感じなくなっていた。



 その頃、イーオンの指示で中庭に出ていたアルゲオフェリークスは、ひたすら無言で花を摘んでいた。
 アルゲオとしては、フェリークスとよく話してみたいと思っているのだが、何分彼女は口数が少なすぎる。先程からいくつか話題をふってみたのだが、たった一言の返事で終了してしまっている。
(き、気まずいですね……)
 なんとか続く話題はないものかとフェリークスの方を見れば、指示された花と違う物がいくらか混じっている。
「フェリークス、頼まれたのはこちらの花です。違う花も混ざっていますよ」
「……すまない」
 言われて手を止めるが、じっと摘んだ花を眺めるだけで分別作業は行わない。
「もう随分暗くなってきましたし、見えにくいですか? 手伝いますよ」
 フェリークスは確か目が悪かったはず。通常の視力があっても夜目がきかない人もいることを考えれば、彼女には辛い作業環境だったろう。
「いや、これくらいは……」
「遠慮しないでください。私たちは互いにイオのパートナー、仲間なんですから」
「…………」
 やっぱり会話は難しい。そう思いながらフェリークスの手から不必要な花を抜き、これはこれで花束にしようとまとめていたときだった。
「ありがとう、アルゲオ」
 呟くような感謝の一言。必要最低限の言葉だけれど、嫌われていないことにホッとしたアルゲオは満面の笑みを浮かべる。
「さ、早く作業を終わらせましょう。きっとイオも準備を頑張っているはずです」
 腕一杯に花を摘むまで戻れませんよ! と張り切っているアルゲオを見て、フェリークスも静かに微笑むのだった。