天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【2019修学旅行】やっぱ枕投げしなくちゃね!

リアクション公開中!

【2019修学旅行】やっぱ枕投げしなくちゃね!

リアクション


●第1章 枕投げin男子部屋

 女子部屋にて、小谷 愛美(こたに・まなみ)がパートナーのマリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)に枕を投げつけたことにより、キャッキャウフフな枕投げが始まった頃、男子部屋でも誰が投げ始めたか、宙を枕が飛び交っていた。



「さあ、枕投げが開始されたようじゃのう。解説はわし、太上老君が行おう」
 持参したビデオカメラで太上 老君(たいじょう・ろうくん)は、枕投げの様子を撮り始めた。
 読書やただ観戦しているものと違って、ビデオカメラという精密機械を持っている所為か、彼の方へ枕が流れてくることはない。
 時折、解説やインタビューを混ぜながら、彼は記録し続けるのであった。

 椿 薫(つばき・かおる)から男子制服を借りた初島 伽耶(ういしま・かや)は、浴衣の上にそれを着込んで男子部屋へと向かう。
(やっぱり男子の部屋にまぎれこんでこそ修学旅行だよね!)
 そう思いながら、男子部屋へ向かう途中、廊下で旅館の従業員らしき人とすれ違った。その人はちらりと伽耶へと視線を向けるけれど、男子制服を着込んだ上に、彼女がショートカットということもあってか、疑うでもなくそのまま自分の進路方向へと視線を戻して過ぎてゆく。
 伽耶はほっと胸を撫で下ろしながら、辿り着いた男子部屋の扉をノックし、ゆっくりと扉を開けた。
 一方、男子部屋にて彼女の訪れを待っていた薫はというと、胸を高鳴らせながら扉を見つめていた。部屋の中央では、枕投げが開始されているけれど、今のところこちらまで被害が及ぶ様子はない。
 扉がノックされた音がかすかに聞こえたかと思うと、ゆっくりとその扉が開かれ、隙間から男子制服を着込んだ伽耶が姿を見せた。
「お待たせ! 途中、従業員らしき人とすれ違って、バレないか心配だったよ」
「拙者も心配しながら待っていたでござ、る!?」
 笑顔を見せながら入ってくる彼女を出迎えようと、立ち上がった瞬間。薫の頭に柔らかな何かがヒットした。
「だ、大丈夫っ!?」
「そんなに痛いものではなかったから大丈夫でござるが……」
 慌てて入って来た伽耶に、心配ないと応えながら薫は、己の頭にぶつかり、足元へと落ちたそれへと視線を向けた。
 それは、部屋の中央にて、今まさに飛び交っている、旅館備え付けの枕だ。
「薫くんも参加するんだね? 頑張って、応援するから!」
 足元の枕を拾い上げた伽耶が無邪気そうに笑う。
 薫としては、時間の許す限り、2人で話すなどの和んでいたかったのだが、飛び交う枕はそれを許してくれないようだ。
「伽耶殿は拙者が守るでござる!!」
 手渡された枕を手にしながら、薫は意気込んだ。伽耶を背にして守る体勢を取りながら、また飛んでくる枕を叩き落す。
「負けるな! 敵は全て殺るつもりで反撃するんだ!」
 伽耶も薫から少し離れたところに飛んでくる枕を誰も拾わないことを確認すると、それを拾って薫へと渡していく。
 手元に枕が3つ溜まるたびに、薫は連続攻撃を繰り返すのであった。

 枕投げが開始される少し前。
『私は引かぬ、媚びぬ、省みぬ!』をモットーに、イギリス競馬界における伝説の競走馬の英霊でもあるパートナーのエクリプス・ポテイトーズ(えくりぷす・ぽていとーず)に乗った織機 誠(おりはた・まこと)は、同じイルミンスール魔法学校の学友と共に、蒼空学園の生徒たちが泊まっている旅館へ楽しみを求めてやって来ていた。
「お客様、当旅館はペットを連れての入館は出来ません。申し訳ありませんがお引取りいただくか、外の軒下などに繋いでおいていただけませんか?」
 旅館の入り口にて、従業員がポテイトーズを見るなりそう告げてくる。
「あ、馬入れないんですか? すみません裏に停めときますね」
 モットーは何処へやら。速攻で、従業員へと媚びていた。
 かくしてポテイトーズを外に残したまま、残る2人で中へと入る。
 途中で、旅館の浴衣を拝借して着替えると、蒼空学園の生徒と見分けはつかなくなり、男子部屋へと向かっても怪しむものは居なかった。
「きゃっほー! テメーらまとめてお布団の海に沈めてやりますよっ!」
 部屋へと入るとシルヴィット・ソレスター(しるう゛ぃっと・それすたー)がはしゃいでいるのが目に入ってきた。
 飛んできた枕をドッジボールのように上手いことキャッチして、……何故だか投げ返すことはせず、そのまま持って走り回っているようだ。
 彼のパートナーであるウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)は、入ってきた2人に気付いて、自分たちが陣取る布団の傍へと来るよう招く。
 ちょうど窓際であったため、誠は喜んでその招きに応じた。
「……って誠? おい、どこへ行った? ルールは布団1枚分の移動だぞ!」
 作戦のために、布団に上がる前に閉まっているカーテンを開けに行く誠に、七尾 蒼也(ななお・そうや)は声をかける。
「分かってます。ただ、カーテンを開けに行っただけですよ」
 カーテンを開ければすぐに戻ってきながら誠が蒼也に応えた。
「それなら構わないんだけど、なっ! よっと!」
 蒼也も応えながら飛んできた枕を交わし、更に投げ返す。
「旅館だから、当然浴衣なんだよね」
 枕を交わしながらウィルネストは、誠と蒼也の姿を見て、ぽつりと呟く。
「よし、やろうかな! えいっ! 男子のパンツチラ見え精神ダメージ☆」
 ウィルネストは1つ頷いたかと思うと、誠の浴衣の帯を引っ張った。
 帯が解けることにより、前方で合わせていた浴衣が肌蹴てしまう。
「ぐはっ!」
「おわぁっ!?」
 誠と相対していた男子が、女子のパンチラなら兎も角として見ても嬉しくない男子のその姿に、精神的にダメージを受けて、持っていた枕を取り落とす。
 そして、帯を抜かれた誠も慌てて肌蹴た浴衣を手で戻しながら、振り向いた。
「ウィルネストさんっ!?」
 帯を取り替えそうにも、既にその帯はウィルネストの氷術で固められ、棒状にされてしまっている。
 仕方なく、手で押さえたまま、棒状にされた帯で叩き落された枕を2人へと渡していく。
 精神的ダメージを受けた男子はというと、今だ立ち直れないで居た。
「必殺! 爆弾枕ーっ!!」
 そこへシルヴィットが逃げ回りながら仕込んだコショウ入り枕がぶつかり、目や気管にまでダメージを受ける。
「何故、俺……ばかり……」
 呟きながらその男子は、シルヴィットの宣言どおり布団の海へと沈んでいった。
 一方、外に取り残されたままのポテイトーズはというと、男子部屋を見つけると窓際に立ち、光精の指輪の効果を発動させた。
 放たれた光は首下からポテイトーズの顔を照らし出す。
「ぎゃーっ!?」
 窓際に浮かぶ、馬の生首――に見えるだけで、実際は身体もきちんとあるわけだが――、それを見た男子部屋の中の男子たちが驚いた。
「2人とも、いまですっ!!」
 サポートしながら、その作戦が実行されたのだとちらりと視線だけで窓の外を見た誠は、蒼也とウィルネストに声をかける。
「必殺! 氷枕!」
「それは危険です!」
 氷術で枕を固めて、投げようとする蒼也を止めて、普通の枕を渡した。
 お化けが出たと騒ぐ男子たちに、ウィルネストと蒼也が投げる枕が思い切り当たって、布団の海へと沈んでいくのだった。

 飛び交う枕の中、1人、投げ返すことなく、只管枕を交わし続けている生徒が居た。
 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)だ。
 ウィザードになったことで、以前使用していた回避の術は使えなくなったけれど、身体が少しは回避することを覚えているようだ。
 周りの生徒たちの気配、視線などから飛んでくる枕の軌道を素早く読み取り、少しでも余裕を持って避けれるよう続けている。
「ははは、あたらな〜い。そんなもの私にはあたらないですよ」
 続けざまに飛んできた2つの枕に、余裕を持って回避したウィングは、口元に笑みを浮かべながら言う。その隙を突いて飛んできた枕も振り上げた腕で叩き落とし、回避の練習を続けるのであった。

 翌日もまた朝早いのだろう。
 そう思いながらも寝る前に読書タイムを、と荷物に入れてきた本を片手に、御凪 真人(みなぎ・まこと)は、部屋の隅に避難していた。
 暫しの間、本に集中していた真人であったが、部屋の賑やかさに、ふとページをめくる手を止め、顔を上げた。
 枕投げはまだ続いている。
「やれやれ、あきませんね。皆さん」
 くすと微笑んで、また本に視線を戻すなり、彼の頭へと柔らかな何かがぶつかってきた。
 そのまま、本を持つ手に落ちてきたのは、枕だ。
 その枕を手にして、暫くの間、真人は飛んでくる枕を弾き返していたのだが、枕投げがエキサイトしてしまっているようで、飛んでくる枕も多くなってきた。
「邪魔をするなら、容赦しませんよ?」
 読みかけのページに栞を挟んだ真人は本を置いて、枕を手にしたまま、ゆらりと立ち上がる。
 そうして、彼もまた枕投げに参戦した。

「アレがあそこに行くとコレがああなって枕がどどどどっとな!」
 ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)は、ただ枕を投げつけるのではなく、枕を使ってトラップを仕掛けようとしていた。
「まぁ普段から伊達にトラップに引っかかってるワケじゃないって事を教えてやるぜ」
 枕を積み重ねたりしてトラップを仕掛け終えると、準備は万端だと枕が飛び交う方を向く。
「さぁ皆の衆、枕の貯蔵は十分か!? いざ開戦……ってうぼぁーーー誰だこんな所に罠を仕掛けたのはっ!?」
 振り向いた途端に自分が仕掛けたトラップに引っかかり、枕の山に埋もれてしまうヴェッセルであった。