リアクション
第5章
全てのショーが終了した。
打ち上げの準備をしているその横で、英希は舞台の片付けを黙々とこなしていた。
「たまには……誰かと協力するのも良いかもね……」
ちょっと呟いて、空を仰いだ。
「そうであろう?」
「い、居たのかよ!」
誰も居ないと思って呟いた言葉をジゼルに聞かれてしまった。
そのまま黙ってジゼルは片付けの手伝いをした。
片付けも打ち上げの準備も整い、全員にジュースと飲める年齢の人にはビールが行き渡った。
ケーキや食べ物の手配はエースとクマラが手配したものが出た。
立食形式で椅子はほとんど出ていない。
「では、ヒーローショーの無事終了、お疲れ様でしたー!」
「お疲れ様でした!!」
タノベさんが音頭を取ると、あちらこちらでグラスを上に上げる仕草が見られた。
乾杯が終わるとそれぞれ談笑に入った。
「子供達の楽しそうな顔……忘れられないな」
牙竜は冷たい緑茶のグラスを回して言う。
「そうだな……」
武はビールを片手に持ち、しみじみと言うと持っていた飲み物に口を付けた。
「武はホイップにキスもらってたようだな」
「ぶっ……ああ、ショーの中の事だ」
少し吹き出してしまったビールを拭き、答えた。
「怒る相手はいないのか?」
「いないさ。牙竜には……リリィが居るな」
「なんでリリィ? 俺には……」
お茶へと視線を落とすと想いだけをどこかに寄せているような表情を作った。
「まっ、色々あるよな」
「そうだな」
お互い顔を見合わせ、軽く笑う。
「けけけけ、ケンリュウガーとパラミアントだ! さ、さ、サイン下さい!」
握手会では近付けなかったクマラが2人を見つけ、興奮して駆け寄ってきた。
「ああ、良いぜ」
「チッ……ホラ、色紙だせ」
「はうーーん」
歓喜のあまり頬を上気させている。
「ショー、とても楽しめましたよ」
クマラの後ろにいたエースは2人ににこりと笑いかけた。
このあと、書いてもらったサインを大事そうに抱え、他のヒーローのサインをねだりに行くクマラの姿が確認されている。
「ダークワーカーのボスお疲れ様〜」
エリスに近づいたのは蒼だ。
「蒼もシャイニングブルームーンお疲れ様です」
エリスは蒼のりんごジュースのグラスに自分のアイスティーのグラスを軽く触れさせる。
グラス同士がぶつかる澄んだ音が出た。
「衣装の髑髏とか凄かったね! フェイスペイントも落とすの大変そう〜」
「ああ、衣装はタノベさんに用意してもらったんですよ。フェイスペイントもタノベさんが取り扱っている物で汗には強いけど、お湯につけると直ぐに落ちる物を使ったんです」
「へ〜。そんなのがあるんだ!」
「主、私も会話に加わって良いだろうか?」
「勿論です。蒼さん、こちら元譲さんです。元譲さん、この方は蒼さんですよ」
お互いにぺこりと頭を下げる。
「今回は組む事は無かったけど、もし鉢合わせしたら宜しくね!」
「ええ」
「勿論」
新しい友情が生まれたようだ。
「ホイップ殿、女優デビュー素敵だったぞ」
「へっ!?」
いきなり視界をピンクの薔薇に奪われた。
「あ、黎さん! わっ! 素敵な薔薇。良い匂いがする〜」
「受け取ってくれ、我が育てたローラを品種改良したものだ」
「有難う! 嬉しい!」
20本以上はありそうな薔薇の花束を抱きかかえた。
「確かに良くやっていた。疲れただろう?」
そう言うと、呼雪は近くにあった椅子を持ってきて、ホイップへと勧める。
「そうだ、俺とファルのバイト代だ。借金返済に充ててくれ」
「そんな! 悪いよ! ダメダメ! 絶対ダメ!」
「お前は頑張り過ぎる、少しは甘えたらどうだ? 俺はお前になら甘えられても不快には思わない」
「へっ……!?」
「もう! また誤解を与えるような言葉だよ!」
聞いていたファルがツッコむ。
「そうか? いや、今はそこじゃなくて、これを受け取ってくれ」
「ううん。私、皆にいっぱい甘えさせてもらってるよ。だからこれは受け取れないよ」
「……そうか」
黎はそんな様子のホイップを嬉しそうに見つめていた。
側にいたサンダー明彦もバイト代を渡そうか悩んでいたのだが、言わなくて良かったと胸をなでおろした。
「ホイップちゃん、お疲れ様!」
「エルさんもお疲れ様!」
「で、お疲れ様デートしようよ! この前、カードにも書いたのに反応ないんだもん」
「え……っと……本気だったの?」
「当たり前じゃないか!」
(むぅ……どうしよう……エルさんには意外とお世話になってるし……断るのは失礼だよね……でも)
「エルさん、デートは好きな人と一緒に行かないとだよ?」
「うん、だからホイップちゃんと」
「へっ!?」
まるで顔を茹でダコのように赤くして固まってしまった。
「よーし、そこに正座するんだ。この屋上から紐なしバンジーという貴重な体験をさせてやろう」
黎が笑顔でエルへと近づく。
「そ、それは勘弁!」
「待て! ……ああ、ホイップ殿」
追いかけようとしたが、何かを思いついたのかホイップへと耳打ちし、呼雪にも同様にする。
「良い案だな」
「それなら良い! エルさん、デート良いよ! しよう!」
「えっ! 本当!! やったーーー!」
この後、浮かれたエルは走り回っていた。
そろそろ帰る、と牙竜は慣れない事で疲れて眠ってしまったリリィをおぶり帰っていくのを皮切りに自然解散となった。
ホイップの事を送っていくと言ったエルは、送り狼になりかねないと黎、ファル、呼雪も付き添ってホイップを送っていったのだった。
後日。
「ホイップちゃん、まだかなぁ〜。どんな服着てくるのかなぁ〜」
あまりにうきうきしすぎて早起きしてしまったエルが空京の公園の時計の前で待っていた。
「あ、エルさ〜ん!」
「ホイップちゃ……ええ!?」
ホイップの後ろには当日参加していた皆の顔があった。
エルの楽しみにしていた服装はベアトリーチェが作った衣装を普通に着られるように仕立て直したブレザーとミニスカートだった。
「服は可愛いけど……そうじゃなくて! 保護者どころか皆が一緒だなんてデートじゃないよっ!」
何はともあれ、皆で楽しい1日を過ごしたのでした。
■今回の返済■
借金
−84,300G
報酬
11回×800G
8,800G
今回の合計
−75,500G
シナリオ参加有難うございました!
今回はいかがでしたでしょうか?
ヒーローショーのシナリオも気合いが入っているように思いました。
それを書いていくのもまた楽しかったです。
称号はほとんどの方が舞台用というのがついていますが、元からヒーロー設定の方にはついていません。
舞台用を取りたい方はアクションで頑張って下さいね!
それと、今回怪人やヒーローの名前が無かった方には申し訳ないですが、つけていません。
リアクションの裏話やシナリオの予告を『蒼い予告編』というブログでやる事にいたしました。
興味のある方はどうぞ、検索してみて下さい。
では次のシナリオでお会いしましょう!
追記
12/9
5頁目 呼び方を修正致しました。