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狙われた乙女~番外編~『休息プラン』

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狙われた乙女~番外編~『休息プラン』

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○    ○    ○    ○


「おーい、妖精さーん。いますかー?」
 蒼空学園のイーディ・エタニティ(いーでぃ・えたにてぃ)は、林の中から川沿いへと出た。
 人が沢山集まっているけれど、探している妖精は飛びまわっていない。
「本当にいるのかよ、妖精なんて……」
 葛葉 翔(くずのは・しょう)が、首を回す。
 大量の荷物を背負っているため、肩が凝る。リュックの中に入っているのは、殆どお菓子だ。
 このあたりに妖精がいるという噂をイーディが聞きつけ、探索に訪れたのだ。
「休憩しようかー」
 イーディが翔の背中に手を伸ばす。
「下ろしてからにしろ」
 ふうと吐息をついて、翔はリュックを下ろし、その中からイーディはチョコ棒を取り出した。
 ……とそこへ。
「お菓子?」
「おやつ……いいな、いいな……」
「マリザお姉ちゃん、おやつたべたいな……」
 小さな女の子達が物欲しげにイーディを見て、羽の生えた女性に強請っている。
「あ、あれ?」
 見えてはいた。ずっとこのあたりにいた、見えたはいた少女達だけれど……。
「お、お前達が噂の妖精じゃん?」
 イーディは驚きながら、チョコ棒を差し出してみる。
「もらっていいの?」
「いいの?」
「うん、お前達にあげようと思って持って来たんじゃん!」
 イーディは次々にリュックの中からお菓子を取り出していく。
「ありがとっ」
「じゅんばんじゅんばん」
「わたしも〜」
 羽を生やした小さな子供たちがぞろぞろとやってきて、イーディの前に並ぶのだった。
「マジ……?」
 翔は唖然とする。
 妖精がここに実在したという事実ではなく、その大きさに。
 小さくて可愛らしい幻想的な姿を想像していたのに。
 いや、小さくて可愛らしいことは可愛らしいのだけれど、地球人の子供とさほど変わりない大きさだった。
「この辺りに、秘宝があったらしいじゃん? お前達お宝のこと知ってる?」
 イーディが問うと、子供達は顔を曇らせた。
「……お宝ないよ」
「だいじなものは、おうさつじいんがぜんぶもっていっちゃたから……」
「あー、泣くな泣くな。これも食べろ。な」
 泣き出しそうになった子供達に、翔がマカロンを配っていく。
「飲み物もありますよ」
 蒼空学園のベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、飛空艇から水筒を取り出していく。
「色のついたお水〜」
「ちょうだい」
「はいどうぞ」
 子供達が差し出した手に、ベアトリーチェはお茶を注いだコップを渡していく。
「キャンディもありますよ」
 籠を取り出して、袋に入っていたキャンディを入れていく。
「みかんのがいい」
「わたし、りんご」
「ボクは、めろん」
 籠の中に手を入れてフルーツキャンディを子供達が楽しそうに選んでいく。
「私は葡萄にしよっかな」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)も、1つキャンディを手にとった。
 それから、小さな容器を取り出してストローを挿し、液体につけた後取り出して、口でふっと拭いた。
「わーっ。シャボン玉」
「おおきい〜」
 子供達がきゃあきゃあはしゃぎだす。
「ふふふっ。ところで、皆さん、なぜ地下で眠っていたのですか?」
 ベアトリーチェはキャンティを配りながら、十代前半くらいの比較的年長な少女に尋ねてみた。
「戦争が激しくなって、村が滅ぼされちゃったんです。私達だけじゃ、生きていくことは出来ないから、未来に使命のあるマリザさん達と一緒に、眠らせてもらうことになったんです」
「そうですか……。今も、決して安全ではありませんけれど、皆さんが平和に生きれる世界を地球の方々と共に作れたらいいですね」
 ベアトリーチェの言葉にこくりと頷いて、少女はキャンティを舐め始める。
「やってみる〜? 大きいのを作るのは、ちょっと難しいよ」
「やるやる」
「わたしもー!」
 美羽は子供達にシャボン玉の作り方を教えていく。
(秘宝、かあ……この子達の笑顔が秘宝ってことなのかな)
 美羽ははしゃぐ子供達に混じって、一緒に遊びながら、手に入らなかった秘宝のことを思う。
(一緒に楽しんで、この笑顔を大切にできたらいいな!)
 そっと息を吹いて、シャボン玉を膨らませて空に放つと、子供達が可愛らしい歓声を上げた。

「やっと、やっと会えたよ」
 イルミンスールのカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は妖精達の姿に涙の出る思いだった。
 振り返ってみれば、別荘に謎の秘宝があると聞いて、カレンはパートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)と共にやってきたのだ。
 それが何故か、別荘の掃除をして。
 何故か、鏖殺寺院のバイオテロを阻止しに行くことになり。
 その結果、生き埋めになってしまうという。散々な目に遭った。
 ホントなんでそんなことになったのか。謎は深まるばかりだ!
 当初の目的を思い出してから別荘付近を探し回り、カレンはようやくマリザの元まで辿りついたのだった。
「どうぞ〜」
「ありがと」
 カレンがティータイムで用意した紅茶を渡すと、マリザは微笑んで受け取り、丸太の上に腰を下ろした。
「あんな不衛生な所に住んでいたとは、さぞつらかったろう……」
 ジュレールは子供達に憐れみの目を向ける。
「ん? ねてたからわかんないんだよ。あ、飛んでいっちゃう〜」
「よし、追いかけよう」
 ジュレールも涙を隠しながら、幼い妖精達のシャボン玉遊びに付き合って、一緒にシャボン玉を追いかけ始める。
「ルリマーレン家の別荘が上に建ってたけど、当時はあそこどうなってたの?」
「……焼け野原だったわ。鏖殺寺院の襲撃のせいで。仲間のジュリオ・ルリマーレンの子孫が復興に尽くしてくれるんじゃないかと少しは期待してたんだけど……せめて、家くらいは建っているだろうと思ってたけど。なんか酷い状態だったわよね」
 紅茶を飲みながら、マリザが深く溜息をつく。
「ああ、子孫のミルミって子がね、今回の件取り仕切ってたんだけど……ッ」
 カレンは力を込めて、包み隠さずミルミの諸々の行状をマリザに説明していく。
「そういういい加減な大人になってはいけない。友達を大切にな」
 一緒になって話を聞いている子供に近付いて、ジュレールが吹聴する。
「ん? うん。おうさつじいん大嫌いだけど、みんなのこと大切にするよ、わたし」
 そう言った子供をジュレールは優しく撫でてあげた。
「……というわけで、散々な目に遭ったんだ。それなのにミルミはまともに謝りもしないし!」
「……」
 一通りカレンの話を聞き終えたマリザはすごおく嫌そうな顔をして、遠くを見つめる。
「ふ……っ、先行き不安だわ」
「あまいにおいするよー」
「あっちの方。でもあっちはダメなんだよ」
「吸血鬼とか出るしねっ!」
 なにやら子供達が騒ぎ出す。確かに甘い匂いが漂ってくる。
「もらっちゃった、もらっちゃった〜」
 そちらの方向から、女の子がべっ甲飴を手に飛んでくる。
「こら、1人で出歩いたらダメだってば」
「あめ?」
「うん、べっこうあめっていうんだって」
「いいなーいいなー」
 マリザが注意をするも、女の子は聞いてはおらず、他の子供達に羨ましがられている。
「っと、こんなところに集まっていたんだね!」
 甘い匂いを漂わせながら木々の間から現れたのは、イルミンスールのエル・ウィンド(える・うぃんど)だった。
「蜂蜜を使って作ったべっ甲飴だよ。お1ついかが、お嬢さん」
 エルは子供達より先に、マリザに歩み寄り黄金色の飴を差し出した。
「ありがとう、戴くわ。……でもなんだか情けないわね、私。物乞いしているみたいで」
「美しい女性に貢のは男として当然のことだから、気にしない気にしない」
 苦笑するマリザの隣に、エルはちゃっかり腰掛ける。
 手を回そうと試みたが、ぴしゃりと叩き落とされる。
「子供達もおいで。女の子優先だよ」
 そう声をかけると、子供達も嬉しそうに近づいてきて、順番にべっ甲飴を受け取っていく。 
「さて、女の私が来ましたよ。私は女ですからね」
 そこに、蒼空学園の島村 幸(しまむら・さち)が大きな鍋を持って現れる。
「お菓子もいいですが、温かいものも食べたいでしょう? 食べられる山菜や茸を採ってきましたからね」
「あっ、地下にいた男のひとだ」
 べっ甲飴を舐めながら、言った少女の言葉に、幸は眉をぴくりと揺らすも、我慢して耐えちょっと引き攣った微笑みを浮かべる。
「さて、スープ作りましょね。料理は女のたしなみですからね」
「そんなに女だってことに拘らなくても。見かけは変わらないし。にじみ出る本性は変わらないものよー」
 くすりと笑うマリザ。
「……う……っ」
 幸はそんな言葉にもぐぐっと耐え忍び、水を汲んで火をつけて、鍋に洗った野菜と茸を入れて煮込んでいく。
「ワタシも落ち着くまで、ご飯くらいでしたら手伝いますよ〜。あ、作るのは別行動中のパートナーですけれどぉ。他にも何か出来ることがあったら、手伝います〜」
 幸と一緒に訪れたイルミンスールの晃月 蒼(あきつき・あお)は、料理は苦手なので、何か他に出来ることはないかと辺りを見回す。
「それじゃ、別荘跡地に、一緒に花壇を作らない? あの辺りに何か建設するようだからさ」
 立ち上がってエルがさささっと蒼の元に歩み寄った。
「花壇か、いいわね。花大好きよ私達」
 マリザが微笑みを浮かべる。
「それじゃ決定だね!」
「うん、花壇作りなら手伝えるかな〜」
「何か悪いわね……」
「気にしない気にしない。キミ達には本当に花が似合いそうだからね。さ、行こうか。ボク達二人だけの共同作業をしに〜」
 マリザにそう答えると、エルは蒼の手を引いて、別荘跡地へと向かっていく。
「行ってくるねぇ〜」
 蒼が妖精の子供達に手を振ると、子供達は両手を開いて手を振り返す。
「さーて、そろそろ食べられますよー」
 幸が器にスープを入れていく。
「ありがとー。お兄ちゃん」
「お兄ちゃんじゃなくて、オンナノヒトなんだよ」
「んー。ありがとう、オンナノヒト」
「ありがとう、オンナノヒト」
「…………」
 なんだか変な呼び方をされているが、男といわれるよりマシと幸は笑顔を返し、子供達に温かなスープを提供するのだった。