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VSゴブリン7

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VSゴブリン7

リアクション

【2・聴覚対決!】

 所変わって、音楽室。
「さて、第二の勝負。聴覚対決を始めたいと思います。代表者、前へ!」
 白井さんの声で、のろのろと出てくるグリーン。
「はぁ……めんどい……もうさっさと負けて終わらせようかなぁ」
 対する生徒側は、橘 カオル(たちばな・かおる)羽高 魅世瑠(はだか・みせる)フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)那那珂 那那珂(くになか・ななか)の6人。
「では皆さん、まずはこちらの目隠しを……」
「あの〜、質問があるんだけど」
 手を挙げた魅世瑠に注目する一同。いや、彼女をはじめパートナーの三人は、全員なんとも面積の小さい服装でいかにも蛮族という出で立ちなため、はなから注目を浴びていたが。男性のカオルは元より、女性の那那珂も若干直視できず頬を赤らめている。
 だが当人達はまるで気にせぬまま続ける。
「あたしたちはパートナーと合わせて四人で相手するつもりなんだけど、その場合間違えたら次と交代、って感じでもできるのかな?」
 その問いに白井さんはチラリとグリーンに目を向けるが、そちらは『ん〜? べっつにいいんじゃね、どーでも』という様子なのを悟り、
「ええ。構いませんよ」と、承諾していた。
「オッケ、じゃあラズ。先鋒は任せた」
「ん! がんバるよ!」
 そんなやり取りの後。
「ではルールの説明を。この勝負は単純な音当てクイズです。楽器音、なにかを叩く音、機械から発せられる騒音、とにかく様々な音色を聞き分けてください。音を聞いてから考える時間は十秒、先程と同様回答は同時にお願いしますね」
 グリーン、ラズ、カオル、那那珂はそれぞれアイマスクをして椅子に着席する。
「それでは第一問、これは何の音でしょうか?」

チリ〜ン

 静寂の中に、一音が響き渡る。金属の鳴物とわかるそれの正体は……。
「では皆さん、お答えをどうぞ」
 白井さんの合図と同時に、
「鈴だな!」と、カオル。
「えっと、これは鈴の音だと思うよ」と、那那珂。
「カナモノで、振るとチリンチリン鳴る丸いヤツ!」と、語彙不足で説明の長いラズ。
「……鈴音だろ……こんな簡単なの答えさせんなよ……」と、やる気ゼロ調子グリーン。
 答えは全員一致であった。
「はい、皆さん正解です」
「ヤッタ、やったヨ!」
「……ラズさん。喜んでいるところ恐縮ですが、なるべく正式な名称でお答えくださいね」
「あ、はーイ」
 白井さんからの注意を受けるが、当のラズはたいして気にした様子もなくぴょんぴょん跳ねてはしゃぎっぱなしだった。
「てか鈴も知らないって、どんだけ言語に乏しいんだよ……」
「ム。失礼なやつだナ」
 そんなグリーンに、ラズはスキルの適者生存を使い、醸し出すオーラでプレッシャーを与え気押していた。だがグリーンの方は涼しい顔で……というよりも、何も考えてなさそうなボケッとした顔で次の問題を待っていた。
「いいですか? それでは第二問です」

チーン

 今度響いたのはなにかの機械音。
 特徴的なその音に、挑戦中の皆がこれはあれだな……という雰囲気になる中。唯一ラズだけが、? というような表情になった。待機中の魅世留やフローレンス達も、まずい、というような顔つきになる。
「それでは皆さん、お答えをどうぞ」
「電子レンジの音」と、那那珂。
「電子レンジがチンし終わった音だな……」と、グリーン
「電子レンジだ。っていうか、なぜ音楽室にそんなものが?」と、カオル。
「え、ア、うぅ……わかンないヨー」と、ラズだけが時間切れになってしまった。
 結果、
「はい、正解は電子レンジの音でした。そちらの方は残念ですが、お下がりください」
 脱落しすごすごと下がるラズ。
 実は野生狩猟民あがりのラズにとって、文明の利器は知識の範囲外だったのである。
「ふぇーん、ごぶリンに負けたー、悔しいヨー。アルダトは分かっター?」
「ええ。でも今のは問題の相性が悪かったのだから、気にすることはありませんわ。後は任せてくださいませ。うふふ、『アルダトイヤーは超感覚』よ」
 ラズと交代でアイマスクをつけ着席するアルダト。
「では、第三問です」

ピ〜♪

 続いての音は、明らかに楽器とわかるものだった。白井さんの合図で、
「リコーダーだな」「リコーダー吹いた音ね」「笛の音ですわね」
 生徒達はまだまだ余裕ありげに答え、そして、
「ソプラノリコーダーの『ファ』……」
 グリーンも声こそ覇気がないものの、それでも正確に答えを叩き出していた。
「はい、笛、もしくはリコーダーで正解です。しかしグリーンはさすがですね、どの音かまで把握しているとは」
 白井さんの賞賛にもグリーンは特に表情を変えなかったが、生徒達はさすがに少し緊張感を高めていた。
「ボクとしては、相手があんな調子だから楽に勝てるかとも思ってたけど。ぼぅっとしてるのは見かけだけだ、簡単にはいかないみたいだね」
「心配無用ですわ。わたくしはジャタの森が誇る蝙蝠型の獣人。音に関しては自信がありますの、超音波さえ聞くことができますわよ」
「オレだって動画編集でSE集をよく聞いてたから音判断には自信があるぜ。あ〜、何を作ってたのかはナイショだけどな。とにかくなるようになるさ。ま、適当にいこうや」
 緊張している那那珂に声をかけるアルダトとカオル。勝負を通じ結束を高めていく生徒達をよそに、勝負は続いていく。
「では次の問題です。そろそろレベルをあげていきますよ」

ゴォオオオ……

 参加者達は、グリーンも含め一斉に少し難しい表情となる。
 特徴的な音でありながら、やや曇った感じのする低いその音。
 風の音のようで、しかし自然のそれとは異なるそれの正体は――
「ではお答えを、どうぞっ!」
「エアコンの音に似てるから、多分それだ!」
 パチン、と指を鳴らしつつ回答するカオル。
「暖房器具が風を出す時の音だな……ストーブじゃなくコンディショナーの方な」
 だるそうな口調は変わらずも、何気にちゃんと答え続けるグリーン。
「掃除機の音ですわ。騒音を抑えたタイプでしょうが、わたくしは騙されませんわよ」
 やや眉根を寄せながらも、自信ありげに答えるアルダト。
「暖房や冷房から出る、風の音っ」
 そして直感と知識をフル活用し、答えを導き出した那那珂。
 結果は、
「はい、やはり少しわかりづらかったようですね。正解は……エアコンから風が出てくる音でした! 暖房や冷房という回答でも正解ですが。掃除機と答えた方は、残念でした」
「ま、間違い? このわたくしが? それこそ何かの間違いですわ!」
 唯一誤答してしまったアルダト。彼女の、低音、低周波が聞き取り辛いという弱点をつかれた結果だったのだが。それを認めないアルダトは、アイマスクを外すなりそのままの勢いで白井さんにくってかかりはじめる。
「訂正なさい! わたくしの方が正解に決まってます!」
「わ、ちょ、ちょっと困りますよ! わ、やめ……皆さん失格にしますよーっ!」
 アルダトは「のぞむところですわ!」と叫びなおも食い下がろうとしていたが、見かねた魅世瑠とラズによって、強制的に連れられていった。
 そうしてアルダトと交代してアイマスクをつけるのはフローレンス。
「さあて、シャンバラ人の本気を見せてやろうかねぇ」
 着席するなり彼女は、スキルの心頭滅却で精神を集中させ、雑音と雑念を排除していく。
 始まる続いての勝負。
「さて、ここからは更にレベルを上げて、ふたつの音を同時に聞き取って頂きます。どちらか一方でも間違えたら失格です。よろしいですね? では……いきますよ」

カッ、カッ
ギュイイイン!

 聞こえてきたのは、何かを叩き合わせたような高音の音色。
 もう一方は楽器の音。かなり刺激的な、ライブでよく耳にしそうな音。
「さあ、わかりましたか? では、お答えください!」
「わかった! ひとつはギター。もうひとつは、確か……ひょーしぎ、ってやつだよ!」
 博識を活用し、回答するフローレンス。
「これは、拍子木とギターの音」
「拍子木叩いた音と、エレキギターひいた時の音だな……」
 那那珂とグリーンも、どうにか遅れずに回答できていたが。
「ギターと………………く……ダメだ」
 唯一、カオルはここまでだった。
「正解はその通り、拍子木を打ち鳴らした音と、エレキギターの音でした!」
「くっそ……ネタ動画でそんな音使わねーもん」
 そんな一言を密かに呟きつつ、すごすごと引き下がるカオル。
「ではでは。間髪いれずに次にいきますよ!」

ジャーン!
カッチ、カッチ

 最初いきなり響いてきた大音量に、思わず耳を塞ぎかける一同。
「さあさあ、わかりましたか〜? はやくしないと十秒が過ぎますよ〜」
 参加者達は再び顔をしかめていた。なにしろ、最初の音が大きすぎたせいでもうひとつの音がかきけされてしまっていたのだから。ここへきてイキナリの轟音。耳に集中していたぶん、ダメージは大きかった。
「さ! 十秒が経過しました。それではお答えをどうぞ!」
 それでもやはり、平等に時は訪れる。その結果は――
「シンバル叩いたのと、メトロノームか……あーもう……耳がキンキンしてら……」
「シンバルを叩いた音と……カスタネット!」
「シンバルと、柱時計の音だね、きっと」
 グリーン、那那珂、フローレンスと。前半は三人一致だが、後半は全員が違っていた。
 そして告げられたのは、
「お見事、グリーン! 正解は、シンバルを叩いた音とメトロノームの音です!」
 一気に盛り上がるゴブリン7達を見つつ、グリーンはただ頬をかいていた。
 一方。生徒達チーム、間違えてしまった那那珂とフローレンス。
「そんな……もう少しだった、のに……」
 ここまでなんとか当て続けた那那珂は、そのままショックのあまり倒れてしまう。
「ま、まさかあたしが間違えるとは……魅世瑠、あとは頼んだ……ぜ……ガクッ」
 精神集中が切れたフローレンスもまた、地面に倒れ伏してしまった(死んでません)。
「フル……敵はとってやるぜ」
 魅世瑠がフローレンス(何度も言いますが死んでません)へと声をかけ、那那珂の方も共に戦い抜いたカオルとアルダトに連れられていった。
 こうして、残ったのは大将の魅世瑠のみとなった。
(さあて。カタキをとるとは言ったものの……あそこまで音を正確に聞き分けるなんて、どんな耳してるんだよ……もしかしたら絶対音感とかまで持ってるんじゃねーか? そんなの相手に、どうすれば……あ、でも待てよ?)
 臨戦態勢となりいざアイマスクをつけようとしていた魅世瑠は、ふとあることを閃いた。スキルの超感覚と博識が、彼女にそれを思いつかせたのである。
「皆、ちょっと聞いて」
 ヒソヒソとパートナーや生徒達耳打ちする魅世瑠。
「え? でも、それじゃ魅世瑠も……」
「大丈夫。あたしは自力でなんとかするから」
 そう言い残し、アイマスクをして着席する魅世瑠。
「……なんの相談? 面倒だから注意して聞いてなかったけど、策でもあるとか?」
「ふふん、まあそんなとこだ。野生児の力、見せつけてやるから覚悟しろよ」
「ふーん……ま、どーでもいいけど……」
 そんな両者のやりとりがあり、
「さて、これでどちらかが間違えた時点で終了です。では早速……」
 白井さんは次の音を出そうとした。
 その直前、
「魅世瑠―っ! がんバってー!」
「負けたら承知しませんわよーっ!」
 ラズとアルダトの叫びが響いた。更に、早くも目覚めたフローレンスも交えてバカ騒ぎをし始める。今までに使った楽器類などをかきならし、そのへんの机をバンバンと叩き、踊りまで披露していく。
「がんばれ〜がんばれ〜魅世瑠さん♪」
 視覚対決の勝負の終わったペルディータも、チアガール姿で応援をしていた。ちなみに先程までも、この勝負の邪魔にならぬよう声は抑え目でちゃんとやっていたのだが。今度はなぜか声のボリュームを上げて声援を送っていた。
 そのうえ、カオルをはじめ他の生徒達も、なんやかんやと騒いでいく。
「ちょ、ちょっと皆さん。そんなんじゃ音が聞こえませんよ。お静かに、お静かに!」
 白井さんの注意に生徒達は若干静かになるが、それでもまだ声や音をあげ続ける。
 それに対し、初めてグリーンがなにやら焦った様子で耳をほじくっていた。
 魅世瑠は既にアイマスクをしているためその様子を伺うことはできなかったが、内心はそれを予想しほくそえんでいた。
(そう。ここまでうるさすぎると、聞こえ過ぎる耳が仇になるだろ。絶対音感を持つ人は、雑音にかなり気をとられる筈だし。後は……あたしが正解するだけだ!)
「では、いきますよ!」

ポローン
シャッ

 生徒達の騒ぎの中、響くふたつの音。
 ひとつはピアノにも似た、しかし若干異なる鍵盤音。
 そしてもうひとつは、布の衣擦れのような微かな音。
 グリーンはもう何も言わず考えている。魅世瑠もまた思考していた。
(ひとつはあの楽器で間違いない、そしてあとひとつは……)
 緊迫した十秒が流れ、そして、
「ではおふたりとも、お答えを、どうぞ!」
「キーボードで『ラ』を鳴らしたのと……巻き尺を、巻き取る音……だ」
 グリーンの答えと、
「キーボードの音と、そして…………カーテンをひいた時にする音だ!」
 魅世瑠の答えは分かれた。
 魅世瑠はスキルの至れり尽くせりで、流れからまた日常生活の中にある音がくるんじゃないかと出題傾向を読み、ハウスキーパーで家庭雑貨知識を総動員し、ランドリーで衣擦れ音を聴き分けて……結果後半の答えを叩き出していた。
「さあ! 答えがわかれました! 正解は、果たして!」

 ダラララララララ……

 ドラムロールがどこからか流れてくる。
 というか、白井さんがドラムの前に座って実際に鳴らしていた。
「答えは、キーボードの音と……」
 ゴクリ、と誰かの息を呑む音が聞こえ、
「カーテンの音です! 生徒達の皆さん、おめでとうございました!」
 正解が轟いた。
「よっしゃああああああああああああ! 野生の力の勝利だぜ!」
 アイマスクを外して飛び上がった魅世瑠の叫びを皮切りに、大歓声があがった。
「くそ…………だからメンドくせぇんだよ、負けたらこーいう気分になっからさぁ……」
 そんな音を背に、何気に勝負にはこだわっていたらしいグリーンは、ガシガシと頭をかきながら去っていくのだった。
 こうして、生徒達チームが1勝をあげた。

          *
《途中経過》
          生徒達VSゴブリン7
視覚対決       × ―― 〇
聴覚対決       〇 ―― ×
触覚対決   
嗅覚&味覚対決
第六感対決  
            1 ―― 1