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夜更けのゴーストバスターズ

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夜更けのゴーストバスターズ

リアクション

「ごめんなさい、ごめんなさい! シイナさんは実は……極度の方向音痴なんです」
 うるうると大きな瞳を潤ませ、ナナが両手を胸の前で組んでぴょこんっと頭を下げる。
 彼女は「偽カンナ」に逃げられた後、戻ってきて謝りまくっていた。

(そーいうことは早く言え! 早く!)
(てか、どんだけ方向音痴なんだっ!)

 一行は深い溜め息をつく。
 そりゃあ依頼を受けた時から、どことなく危なっかしい2人だ、とは思っていた。
 手榴弾以外のハプニングも想定しておいた方が良かったのかもしれない。
(制止や監視役だけじゃなくて、サポート役も必要だったかな?)
「あ、でもわたしがついていれば、迷うことはありませんから」
 ナナがニッコリと笑う。
 それでもなお不安は残ったが、その場は彼女の言葉を信じて一行は引き下がるよりほかはなかった。

 ◆ ◆ ◆

「もう1時か、早く作業にかからねば!」
 それが自分の所為だということは宇宙の彼方に葬り去って、シイナは音楽室のドアノブを回す。

 キイイイー……。
 
 音楽室の扉はなめらかに開く。
「開かなくて手榴弾展開!」を期待していた神代 明日香(かみしろ・あすか)は、とりあえず用意していたスリッパをスカートの中へ戻した。 
(えへへへへ……)
(でも、ツッコミといえば『スリッパ』だと思いますぅ〜。残念!)
 その頭を、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がピコピコハンマーで叩く。
「何やってんの? まだ早えって!」

 ◆ ◆ ◆
 
 一歩入ると、アルティマ・トゥーレの冷気が。
 くわっと目が赤く光る肖像画が!
 その周囲を鬼火が舞い、フワフワと漂ってピアノをほの赤く浮かび上がらせる。
 かと思えば、「自動演奏」のもの悲しく怪しげな旋律が。
 
 ジャッジャッジャッジャアアアアアアアアアアーン……。
 ジャッジャッジャッジャアアアア……。
 ジャッジャッ……ジャッ……ア……。
 ジャッ……ジャッ……。
 ジャ……。
 
 ……眠くなるようなテンポでフェードアウトして行く。
 鬼火の明りも消えて行く。
 肖像画の目も。
 
(何だ? これは?)
(『幽霊の脅し』にしては、中途半端だしなー……)

 作業担当者に任せて次の部屋へ行こうとしていた一行は、作戦変更。
 急きょ室内の安全を点検することとなった。
 というのも作業担当者達が、脅えて入れなくなってしまったから。
 調査に入ったのは【龍連連隊】と【護衛隊】の面々である。
 このうち、七日は万一に備えて「禁猟区」を張った。
「では皆様、私の後ろからついて来て下さい」
 しかしその台詞が言い終わらないうちに、七日の体は「悪意」を感じて輝きはじめる。
「何て悪意、この異常な冷気。1人ではないような……でもどうして?」
「ハッ、まさか!」 
 ひょいっと屈む。
 ヒュー、と頭上をコンニャクが通過。
 そのまま真後ろを歩いていた日比谷 皐月(ひびや・さつき)の顔面に命中する。

 そうして朔がトラッパーで作った執念の「コンニャクトラップ」は、次々と一同を襲う。
 数も1つや2つではない。
 数え切れない程で。
「仕方がない、ここは糸を切るしかないだろう」
 岩造の声で、全員が武器を抜きさる。
 スパスパと糸を断ち切って行く。
 あっという間に、ポリバケツ1個分程度のコンニャクの山が築かれた。

「一体、何者がこのような罠を、何の目的で張っていたのだろうか?」
 岩造がピアノの下に目を向けた、その時だ。
 暗がりからメモリープロジェクトと煙幕ファンデーションの幕がはがれ、犯人達の姿が浮かび上がった。
 【GHP】――朔、ブラッドクロス、エリヌース、スカサハの4名の姿である。
 全員天使の寝顔で、仲良く寝こけている。
 トラップを仕掛けたはいいが、到着が遅い上に疲れきって眠ってしまったらしい。
 寝言が流れてくる。
 ミランダ・ウェイン(みらんだ・うぇいん)は複雑な表情で、4人の額に掛かる髪を拭った。
「そっか……幽霊を助けたくて。それで、こんなことしちゃったんだね? 君達」
「しかしまあ、どんな理由にせよ、妨害者は『隔離』しといた方がよくね?」
 誰かの意見で、朔達4人の運命は決定されてしまった。
 【龍雷戦隊】の面々に手により拘束される。
 熟睡したまま、音楽室内の楽器倉庫へ。
「外からは鍵がかかって、中からは開けられない。何とも便利な仕様だな」
「脅威」が去った安心から【音楽室担当者】を残し、シイナ達は次の目的地へと向かう。
 廊下に、一行の明るい声が響き渡った。
「さ、この調子で、サッサと調査の方も終わらせようぜ!」

 その声を生返事で聞いて、雪華はヘルゲイトの耳元で囁いていた。
「さ、仕事や。誰よりも早く、部屋入って準備せにゃ!」
 
 音楽室の角で、フウっと影が揺らぐ。
「私も応援したのですけれどもね……誰も気づかなかったですね……」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)――その人である。
 彼はコンニャクトラップと、氷術の冷気でシイナ達をかく乱することに貢献していた。
 そのお陰で朔達が眠り込んでも、冷気とコンニャクだけは正常に機能したのだ。
 しかも、有り得ない程盛大に。
「まったく損な役回りです」
 言い終わらぬうちに、彼の気配は再び闇へと消える。
 
 そして彼は次のターゲットへと向かって行くのである。
 
 ◆ ◆ ◆

 だが、図書室に到着したのもやはり1時間後で、ナナの姿はない。
「申し訳ありませーん、廊下の穴に嵌って落ちてしまいました!」
 ハアハアと息を切らしながら、駆け込んでくるナナ。
 シイナがフォローを入れる。
「すまない。我がキャンパスは、度重なる本校からの経費削減でこのような有様なのだ」
「え? だって、ここ、一応蒼空学園だよね?」
 どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)は目を丸くして尋ねる。
 シイナは、ああ、と頷くが。
「だから、これは推測だが。極端な平和主義のため、本校から鬱陶しがられているのではないかと。そうした次第で、廊下も天井も注意してくれ」

 けれどこの2人に今後、何者かのサポート無くしては安心して任せられない。
 と言う訳で、どりーむがナナの足元を注意することにして、その場は落ち着いた。

「暗いね…ご、ごめんね、ちょっとだけこうしてて」
 ドリームはうふふ、とナナの腕にしがみつく。
「大丈夫ですか? 」
「うーん、少しねー……」
 首筋をぺろっと舐める。ビクッとするナナ。
「わぴゃっ!? どいーむさん?」
「きゃ〜ん、かわいい〜、うふふ、びっくりした?」
 どりーむの攻撃は留まることを知らない。
 その後彼女はナナの二の腕を気の済むまで堪能し、ふぇいと・たかまち(ふぇいと・たかまち)にからしばらく涙目で焼餅を焼かれた。
「だ、だめだからねっどり〜むちゃんはあたしのだからねっ」
「いいじゃない、ナナちゃんも気にしないで仲良くしましょ〜…うふふ」
「もぉ〜どり〜むちゃんは、あたしだけみてればいいの〜っ!」

 ◆ ◆ ◆

 ……そして図書室に入ったとたん、一行をかつてない「脅威」が襲いかかる。
 
 ◆ ◆ ◆

 図書室の扉を開けた時だった。
 急に七日の「禁猟区」が発動したのだ。
「ああっ! 危ない、皆さん入らないで下さい!」
 彼女の後ろについていた一行は助かった。
 ガランッと、天井から金ダライが落ちてくる。
「悪意が渦巻いているようですね?」
 音楽室同様、【龍雷連隊】と【護衛隊】が先に入って調査を行う。

 と言う訳で、彼らはその後しばらくエラノールが張った、「騒霊トラップ」と「本雪崩トラップ」の真っただ中で格闘する羽目に陥る。
 音楽室と同じく、一瞬光るものがあり、人々を罠へと誘い入れるのだ。
 だが光は次第に消えて行き、トラップは次々と発見されてゆく。

「おかしいですね?」
 七日は首を傾げる。
「悪意の元は感じられませんのに」
 トラップ以外に「禁猟区」は発動しない。
「犯人は既にここにはいない、ということなのでしょうか?」
 だが全員で調べた結果、ここでも騒ぎの主と思われる【GHP】唯乃、エラノールの2名の姿が現れた。
 彼女達もトラップを仕掛けたものの、疲れきって眠ってしまったようだ。
 手元に「迷彩塗装」で塗られたトラップの試作品があった。
 既に効果はなくなっている――。
「眠っているうちがチャンスだな」
 かくして2人は【龍雷連隊】フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)とミランダにより拘束され、仲間の待つ楽器倉庫へと連行されて行った。

 一方――。
 この騒ぎに乗じて目を覚ました者の姿もある。
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)はやはり待ちくたびれて寝ていたのだが、廊下の角に隠れていたことが幸いした。
「イタズラする為にあるような事件にイタズラしないなんて、もったいないよねえー」
 ニイ、と笑って闇に消える。
 その脇を弥涼 総司(いすず・そうじ)と、椿 薫(つばき・かおる)が静かに通り過ぎて行った。
 彼らが活躍するのは、もう少し後になってのことだが。
 差し当たって図書館の面々は【図書館担当者】を残すと、次の目的地へと向かうのだった。
 
 だが引率するのは、史上最悪の「トラブルメーカー」共だ。
 一行の命運は、ドリームの手腕にかかっている。
 しかも――。
「でも、夜の学校って、やっぱりこわいわー」
 当のどりーむはアリアも弾き込んで、楽しそうにナナの二の腕をぷにぷにしている。
「ナナさんの二の腕って、やわらかーい」
「いやーん、くすぐったいですー! どりーむさん」
 逃げようとするナナとアリアにどりーむが絡み、ふぇいとが焼餅を焼いて、何やら訳のわからないことになりつつある。

 果たしてどりーむは無事役目を果たし、一行を校舎の藻屑と消えぬ様出来るのであろうか?
 頑張れ! どりーむ! 皆の安全のために!

 ◆ ◆ ◆

 だが、数分後――。
 一行の心配をよそに学生食堂、つまり「学食」へはすんなりと到着した。
 どりーむが見事大役を果たすことが出来たということだ。
 やるべき時はやる。さすがはどりーむである。
「そうですよ、どりーむさんが偉いんですよ」
 ナナはそれとなくどりーむを立てた。
 彼女は何となくどりーむに好感を持ったらしい。
「また、歩きましょうね。アリアさんとふぇいとさんも一緒に、ウフフ」