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ドラゴン・モスキート大発生!

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ドラゴン・モスキート大発生!

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第三章 真冬の蚊取り線香って風流ですか?


 焼却場の煙突は、空高くそびえていた。その為、ボウフラを焼いた時の嫌な臭いは無かった。しかし、濡れているボウフラは燃えにくいし、焼却炉の火も消えるかも知れないので、キッチンペーパーで水分を取ってから焼却炉に入れるのがベストだった。食堂の近くで本当に良かった。特大に長い菜箸もあるしね。こうして、焼却場の仕事は順調に進んでいた。
 アインシュベルトと、アーガス・シルバ(あーがす・しるば)オウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)は、キッチンペーパーの上に乗っているボウフラを菜箸で焼却する仕事をしていた。
「わしを老人呼ばわりしよって。ああ、何かもっと協力出来る事はないかのう……?」
「わしらが、年寄りに見えるで、ここに追いやられたんじゃ。きっと」
「拙者は、グラン殿のお手伝いが出来て、光栄でござる」
「おお、ありがとう、オウガ。しかし、まさかの菜箸じゃわ……」
 アインシュベルトは、そう言いながら池の方を見た。すると、何か揉めているような様子だった。アインシュベルトは、現場監督の雪華を呼び寄せ、
「ああ、ちょっとそこの現場監督さん」
「何や? おっちゃん」
「何か池の方で揉めてるみたいだが……行ってみてもええかい?」
「ホンマやな。よし、一緒にいこか」
 アインシュベルトと雪華は池の方に急いだ。
 
 池では、ボウフラを掬う者たちが、その作業の手を止め、言い合いをしていた。
「ちょっと、何があったんや?」
 最初に気づいたのは、池で作業する天城 一輝だった。
「雪華さん、ちょっと来て見てください。ボウフラが一向に減ってない気がするんだ」
 雪華や、池の周りでボウフラを掬っていた者たちが集まり、池を覗く。確かに、ボウフラは減っているようには見えない。かといって、増えている訳でもなく、最初と変わらない様子だ。
「なんでやねん」
 雪華の静かな突っ込みが入る。
「よっしゃ! ほな、フルパワーで掬い出すでぇ!」
「おお〜!」
 真っ先にアインシュベルトが答えて、ボウフラ掬いに加わった。
「グラン殿! 拙者をお忘れか!?」
 オウガもすかさずやって来て、参加する。
 一輝がコレットを呼んだ。
「コレット! レッサードラゴンは来ないから、こっち手伝ってくれ!」
「だって、あたし怖いんだもん。本当に大丈夫なの?」
 コレにより、今までよりハイペースで作業は進んだ。が、一向にボウフラの数は減りはしなかった。

「なんで俺がこんな事を…」
 せっせとリアカーでボウフラを焼却炉に運ぶ黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)。さすがに男でも気持ち悪い。ウジャウジャとリアカーの中で蠢いている。
(あれ、リリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)とすれ違わないな…。)
「リリィ来た?」
 焼却係の生徒に聞いても見て無いと言う。急いで探すとリリィの態度がおかしい。
「お前ボウフラどうしたっ!」
 口笛を吹いてごまかすリリィの後ろの茂みには真っ赤な巨大な蚊が……。
(やばい!内々に処理しないと……)が、飛んでる相手に打つ手無し。こうなれば!リリィのスカートをめくる!
「く、黒のレース…意外とエロい!」
 興奮したにゃん丸は、普段の倍の二酸化炭素排出量になり、それにつられるかのように、ますます寄って来るドラゴンモスキート!
「まずい……」
 光条忍刀を構えて……
「もらったぁ!」
 あ……ちゅ〜。血を吸われ、意識が遠のいて行く……。
「にゃん丸、エロい事考えてたでしょ?」
「え?」
 にゃん丸は、リアカーに寄りかかり居眠りをしていた。
「ち、ち、違うって」
「にゃん丸がサボるんだったら私もサボるから! スケベ!」
 リリィは、バケツをにゃん丸に投げつけた。にゃん丸は、顔からボウフラの大群を浴び、悲鳴を上げる。
「なにしやがんだよ!」
「キャハハ……」
 笑って池の方へ走るリリィだった。


「私たちが原因を探りに行こうか?」
 声をかけて来たのは、イルミンスール魔法学校の朱宮 満夜(あけみや・まよ)と、ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)だった。
「そんな、危ない事……」
 亜夢は驚きの色を隠せない。
「興味あるんです。このボウフラの発生原因。ただの異常気象だけじゃないような……ね、いいでしょ?」
「満夜に何かあったら、我輩が氷術でボウフラを凍らせて守ろう」
「よし、決定ですね」
 言うなり、満夜とローゼンブルグは、火術で池を暖めてから池に飛び込んだ。
「ちょ、ちょっと!」
 亜夢の叫びが虚しく水面に響いた。
 深夜で、真っ暗。まるで、底なしの沼を連想させる不気味な池。固唾を飲んで見守る一同。すぐに、満夜とローゼンブルグが池から顔を出した。

「大変です! 大きな成虫が池の底に!」
「成虫?」
「成虫だって?」
 ざわめき出す生徒たちを必死に落ち着かせようと、雪華と亜夢が夢中になって満夜とローゼンブルグに説明を聞く。
「池の底で、大きな蚊が、次々とボウフラを生んでいるのです!」
「あんなデカイ蚊は始めて見る」

 声を聞いた環奈校長が呟いた……。

「ママモスキート……」

 生徒全員の視線が環奈校長に集まる。
「ママモスキート??」

 池の底には、成虫のママモスキートがいて、生み続けていたのだった。ママモスキートは、全長3メートルほどの蚊で、全てのボウフラのお母さんであった。それが、減らない原因だったのだ。

「何だよ! それじゃ、今までの仕事が無駄になるじゃないか!!」

 にゃん丸とリリィが声を上げる。
「にゃん丸ぅ……私たちっていったい、何をしてたの? 意味なかったんじゃない」
「せっかく重いバケツを運んでたのになぁ……」
「わたし、帰るわ」
 リリィが帰ろうとするので、慌ててにゃん丸が追いかけると、
「やっぱ、やめた。こうなったら、そのママモスキートってやつ、見てやるから」


 小型飛行艇でボウフラの運搬をしていた閃崎 静麻(せんざき・しずま)と、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が、
「おいおい、ボウフラ。減ってないのかよ。ったく……無意味だったのかよ」
「まあ、まあ、そう言わないでよ、静麻。まだ飛行艇だったからみんなよりマシじゃない」
「でも俺たち、その分、人の倍は運んでるぜ」
「文句ばっかり言わないでよ。わたしだってショックなんだから。それより、ママモスキートって何?」
「ママだから、お母さん的なものだろ。きっと」
 そう言いながら、池の周りに集まった。
「さて、いったいこれからどんな展開になるんだ?」


 それまで、黙々とバケツ運びをしていた風紀指導委員会の一員である朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)が、
「このままじゃ、朝までに終わらないんでしょ? じゃ、そのママモスキートを退治したらいいじゃない」
 正義感たっぷりに、朝倉はみんなに問いただすと、少し離れた所でそれを聞いていた、イルマ・レスト(いるま・れすと)は、内心、『終わらないなら、もう帰りましょうよ。眠たくて仕方ないのよ』と思いながらも、
「……そうですわね。退治。それも良いかもしれませんね……千歳……」
(また付き合わされるのか)と心の中で思いながらも、まぁまぁ爽快な笑顔を演技で繰り出すイルマだった。


「でも、あんな大きな蚊を退治……いったいどうやって……」
 みんなからの不満の声を聞いた、雪華と亜夢は解決策をみんなから募集するが、誰もいい案が思い浮かばない。

 その時!!

「フンガー(蚊には蚊取り線香)!!」

 みんなの心の中に聞こえた。(蚊には蚊取り線香が聞こえた)炉不酢のフンガーが通じた。

リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)と、カセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)が、一緒に、
「あっ!」
と、叫ぶ。
「先程、学校の倉庫にボウフラ掬いの網を取りに行った時、蚊取り線香を見ましたですわ! ねぇ、リトルグレイ」
「ああ。なんか見た気がすんな。ロープもあったから、そのママ何ちゃらをひっぱり上げちゃおうじゃん!」
「ママモスキート! でも、去年の蚊取り線香でも大丈夫かしら? ママモスキートに通用するのかしら?」
「そんな事言ってる場合じゃねぇよ。このまま朝を迎えたら、ボウフラが孵って、学校が蚊だらけになっちゃうんだぞ!」
「そうですね……」

「ヒヒーン!!」

 愛馬のアルデバランに乗った鬼院 尋人(きいん・ひろと)が、
「引っ張りあげる?? だったら、それを使うまでだよ。オレに任せな!」
「なぜなら、私たちが、一番誰よりも早く行けるからです! お分かりですか?」
と、同じく愛馬のスパルナに乗った西条 霧神(さいじょう・きりがみ)が、誰よりも早く動いた。
 二人は、愛馬にまたがって倉庫へ向かった。尋人もまた、パラミタの動物に興味がありその生態を知りたかった。特に、ママモスキートなんて、めったにお目にかかれない。
「必ずその生物を見てやるからな!」
「なぜなら、私たちが、ママモスキートに興味があるからです! お分かりですか!」
 颯爽と白馬は駆ける。


 どよめきと歓声が上がる深夜の蒼空学園。食堂近くの池では、全員が作業を一旦ストップして、ママモスキートを引っ張り上げ、蚊取り線香で退治する事になった。
 大丈夫か?
 学校の倉庫に残っていた去年の蚊取り線香は、湿気ていないだろうか?
 ママモスキートは、引っ張り上げられるのだろうか?
 
 様々な思惑の中、尋人と霧神が帰って来た。

「私が火をつけます」
 エミナイル・フランディア(えみないる・ふらんでぃあ)が立候補したので、代表して蚊取り線香に火をつける事になった。冬の蚊取り線香の匂いは、みんなの季節感を狂わせ少しだけセミの鳴き声が聞こえてくるような気がした。

 ロープを持って、再び満夜とローゼンブルグが池に潜った。ママモスキートの足にロープを結びつけて再び戻ってくる。残りの全員でロープを引っ張り始めた。
 
「よいしょっ!」

 声を合わせて、
「よいしょっ!」

 声を合わせて、
「よいしょっ!」

 なかなか上がって来ないママモスキート。

 全長18m、戦車並の体重のシュペール・ドラージュ(しゅぺーる・どらーじゅ)もロープを掴んだ。
 その肩に乗っているランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)が、
「ドラージュ、本気見せてやりなさいよ」
「マスター……アイ・サー」
 ドラージュの一本釣りだ!
 ロープを持っていた皆が吹っ飛ぶほどの力で、池の中からママモスキートが飛び出す!

 ザッパッーン!!

 水しぶきが、あたり一面に飛び散り、さながらウォータースライダーで一番前にいた状態になり、大興奮で逃げ惑う生徒たち。

「やった!」
 ランツェレットが歓声を上げた。

 そのまま、轟音を響かせて地上に落下するママモスキート。ちょうど、虫嫌いのエヴァルト・マルトリッツの目の前に落下した。

「げ! 俺、虫は苦手なんだぜ……」
 ギロッと、ママモスキートが睨んだ。
「だから、池ごと焼いちゃえば良かったんだよ……」

 ロートラウト・エッカートと、デーゲンハルト・スペイデルが、身動きの取れないエヴァルトの為に、ママモスキートの足を掴んで移動する。
「ん? この生物はすでに命を失いかけておる」
 デーゲンハルトが、その事に気付いた。ママモスキートはすでに、死に掛けていたのだった。さらに、蚊取り線香の煙を受けるママモスキートは、何度か周囲をギロギロと見て、羽を動かせていたがいたが、次第にそれも静かになっていった。

 死に掛けているから、この蒼空学園に来たのか? その目的は判らないが、朝まで、もう時間が無かった。