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【2020春のオリエンテーリング】バデス台地から帰還せよ!

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第三章 ダークドラゴンとの出会い

−−暗黒洞窟

「だめよ、こっちも塞がれてる」

 暗黒洞窟の別の入口へとたどり着いた蒼空学園ローグの守山 彩(もりやま・あや)は、確認のために外へと投げた制服の上着に二十数本の矢が突き刺さるのを見て叫んだ。
 洞窟の出口で待ち伏せを喰らったのはこれでもう4度目になろうとしていた。
「彩殿、下がって。奴らが来る」
 パートナーのオハン・クルフーア(おはん・くるふーあ)は矢の第二波が洞窟内へ射かけられたのを察知し、身を呈して彩をかばった。
「ありがとう、オーちゃん」
「なぁに、当然であろう」
 続けて外から洞窟内へ斬りこんできたゴブリンには、蒼空学園セイバーのグラン・アインシュベルト(ぐらん・あいんしゅべると)とパートナーであるアーガス・シルバ(あーがす・しるば)オウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)の三人が迎え撃った。
「わしの目の黒いうちは通さんぞ」
 グランはクレセントアックスを先陣を切ってきたゴブリンの鼻っつらへと叩きこんだ。洞窟内は狭いので少人数でも不利は少ない。
「毎回同じように突っ込んでくるパターンにはもう慣れたのだよ」
 アーガスはドラゴンアーツを使って、担ぎあげたゴブリンを敵の小隊へと投げつけた。
「二人とも、拙者の分を残しておいてくれてもよいでござろうに」
 戦う前に敵が退いたため、出番を失ったオウガは少々不満そうだ。
「オウガ殿が遅いのだよ」
「そうそう、こういうのは早い者勝ちじゃな」
 グランとアーガスからからかわれ、オウガはますます面白くなさそうだ。
「三人ともじゃれあってる場合じゃないわよ」
「その通りだ。ここもダメだったとすると、全ての出口で待ち伏せされているのであろう」
 彩やアーガスの指摘するように、ゴブリンたちが出口に罠を張って待ちかまえているのは明白だった。しかし、ゴブリンたちは洞窟内へも部隊を派遣しているので、立てこもって持久戦に持ち込むのは自ら状況を不利にするものでもあった。
「まずい、どうやらはさまれたようでござる」
 オウガの獣人だけが持つ超感覚が敵の気配を素早く感じ取った。
「前はあたしに任せて」
「では、後ろはわしが受け持とう」
 彩とグランは素早く目配せすると、お互いのポジションへとすばやく移動する。

「こちらへ」

 その時、全員の頭の中へ聞いたこともない声が直接こだましたかと思うと、彩たちの目の前の壁が消えて新たな道が突如現れた。
「これはいったいどういうことじゃ」
 躊躇するグランを、オハンが促した。
「前も後ろも敵。どっちにしても進むしかないであろう」
 彩を先頭にグランたち全員が現れた道へ進んだ途端、壁が音もなくまた現れて道を塞いでいく。目の前で起こったことは信じられないが、現実に壁一枚を隔てた向こうでは彩たちを見失って慌てふためくゴブリンたちの声が聞こえてきていた。
「味方と言うことでござるか?」
「そうであろうな」
 オウガとアーガスは目の前で起きた不思議な現象を確認し合うように顔を見合わせた。

 九死に一生を得たグランたちは再び地下五階の地底湖へと戻った。
「みんな、止まってくれ」
 制止をかけたのは、ずっと洞窟のマッピングを続けていた空京大学ウィザードの夜薙 綾香(やなぎ・あやか)だ。
「どうしたの?」
 彩の問いかけに、綾香はマッピングしていた図面を見せた。
「私たちは過去の文献にあった地下五階以降のルートを探ってみたが、どれも行き止まりだったであろう」
「どういうことじゃ、綾香殿?」
 合点のいかぬ顔をしたグランに綾香が説明を続ける。
「私は文献が嘘だったとは思わない。むしろさっきの不思議な現象でこの洞窟で感じていたものが確信にいたったのだよ」
 綾香に促されて、パートナーであるメーガス・オブ・ナイトメア(めーがす・ないとめあ)が前に出た。
「この洞窟からは我と同じような意識体の力を感じるな。やつは今もこちらをずっと見ているのであろう」
 英霊であるメーガスは誰よりもその気配を敏感に感じとっていた。
「おそらく、このダンジョンには強力な魔力を持ったダンジョンマスターがいるのであろう。そいつが人為的に洞窟内のルートを改変していると見て間違いない。だから誰も最深部へたどり着けなかったのだ」
 綾香の言葉に、彩も聞いていた噂を確認してみた。
「それってやっぱりダークドラゴン?」
「であろうな。我と違って、トカゲ臭い気配がしておるわ」
 メーガスが自分とは違って下級なものに対するような態度で応えた。
「それなら私の出番ですぅ」
 戦闘ばかりで仲間たちの後方に隠れていたイルミンスール魔法学校のメイドである咲夜 由宇(さくや・ゆう)が、ようやく自分の出番が来たと喜んだ。
「頼む、由宇。どれほど目くらましをしようと正しい道は一つのはずだ」
 由宇は綾香の言葉にうなずくと、目を閉じて超感覚へと全神経を集中させた。
「見つけたですぅ」
 そう言って、目を閉じたまま由宇が歩きだしたのは地底湖の方角だった。
「いや、そちらは」
 口を挟もうとしたオウガを、グランが手で制した。全員が見守る中で由宇は地底湖へと足を踏み出したが、次の瞬間信じられないことが起きた。由宇の足は沈むことなく湖面の上を一歩一歩ゆっくりと歩いていく。
「見つからないはずだ。地底湖に道があったとはな」
 綾香は言いながら、由宇の歩いた跡をたどって追いかけた。
「本当に大丈夫でござるか? あ、拙者を置いて行かないで欲しいでござる」
 まごまごして置いて行かれそうになったオウガは、慌てて由宇たちの後を追って見えない湖面の道を走って行った。



「あれ、行き止まりですぅ」
 超感覚を使って先頭を歩いていた由宇が立ち止まった。
「待て、光術を使う」
 綾香の手から放たれた光が洞窟の内部を大きく映し出す。
「これはずいぶん大きな空間ですね」
 蒼空学園ニンジャのウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が周囲を警戒しながら言った。
「嘘、もう終わりなの? これじゃ盛り上がらないよね」
 不満を口に出したのはイルミンスール魔法学校のクィーンヴァンガードである如月 玲奈(きさらぎ・れいな)だ。
「玲奈、またよからぬことを考えているのではないでしょうね?」
 パートナーのブレイク・クォーツ(ぶれいく・くぉーつ)の諫めるような口調に、玲奈は思わず笑ってごまかした。
「え、アハハ……」
 ウィングは光に照らされた洞窟内の埃の動きで風の流れを感じて、その先を見つめた。
「待って、何かがいます……」
「え、何? ダークドラゴンなの!」
 玲奈のはしゃいだ様子を制止して、ウィングはゆっくりと天井を指で指し示した。綾香が光を操ってその方向を照らしだすと、逆さになって天井に張り付いた巨大なダークドラゴンの姿が浮かび上がった。
「ドラゴン!」
 ブレイクは戦闘態勢に入るため、処刑人の剣へと素早く手をかけた。しかし、ドラゴンは地面に降りるどころか、微動だにさえしない。
「どういうことなのよ?」
 玲奈は盛り上がらない展開にイライラした。
「まさか、あれは……石化しているのか」
 ウィングの言葉通り、大広間の天井に存在するのは石化して巨大な竜の岩となって洞窟に一体化したダークドラゴンの姿だった。
「驚きじゃな、これほど巨大なドラゴンを石化させるとは……」
 グランがドラゴンを見上げながら驚嘆の声を上げた。
「おそらく何千年たっても消えないような強力な呪いが、徐々に身体を蝕んでいったのであろう」
 綾香はドラゴンの魔力を打ち消すほど強力な呪いに想像を膨らませた。

「人間よ、やってきてしまったのだな」

 再び全員の意識へとダンジョンの主であるダークドラゴンが呼び掛けた。
「ダークドラゴンよ、聞いてください。キミがこのダンジョンのマスターであるなら、私たちに力を貸してください」
 ウィングの叫びに呼応するかのように、ダークドラゴンの形をした岩の眼がゆっくりと開いた。
「人間よ、もう私を争いに巻き込まないでくれ。ただここで安らかに終わりの時を迎えたいのだ」
 言葉は穏やかだが、ダークドラゴンは協力への否定的な態度を崩さなかった。
「お願い、ダークドラゴン。私たち、一刻も早く外の仲間を助けにいかなきゃいけないの」
 彩は切実な願いをダークドラゴンにぶつけるが、彼は否定的な態度を繰り返すばかりだった。
「なぁんだ、ダークドラゴンていうから期待してたのに。これじゃ、ただのひきこもりよね」
 玲奈はダークドラゴンを侮蔑すると、手近にあった石を拾って天井へと投げつけた。
「貴様、私を愚弄する気か?」
 玲奈はバッグから仮面を取り出して顔にかぶると、高らかに言い放った。
「ひきこもりだから、ひきこもりって言ってるんでしょ。こっちだって遊びで来たんじゃないんだもん。仲間の命がかかっているんだから、どうあっても協力してもらうわ」
「玲奈、よせ」
 止めるブレイクの手を払うと、玲奈は乾坤一擲の剣を抜いてダークドラゴンへと向けた。
「そんなわからずやは、このマスク・ド・レイナがお仕置きよ」
 本人だけは決めたつもりのようだが、肝心のダンジョンマスターを怒らせてどうするのだと誰もが心の中で突っ込んでいた。
「愚か者どもめ!」
 ダークドラゴンは低い咆哮を放つと、石化していた身体を揺り動かし始める。ドラゴンの身体からはがれおちた石の破片が、大広間内へとバラバラ降り注ぐ。
「どうやら、本気のようでござる」
 オウガも素早く戦闘態勢に入った。
 地面へと降り立ったダークドラゴンのすさまじい重量が地震のような震動で洞窟全体を震わせる。
「やっぱ、こうでないとダンジョンは盛り上がらないわよね」
「玲奈、またか……でも、こうなっては仕方ありませんね」
 はしゃぐ玲奈にもはや何を言っても無駄なのは、パートナーであるブレイクが一番知っていた。

ゴォォォ!

 バキバキと音を立てながら石化した口を大きく開いたダークドラゴンから高熱のファイヤーブレスが放たれた。
「みな、我輩の後ろに」
 オハンは盾である身体を活かして強烈なドラゴンのブレスを防ぐが、ストームにも近いそのブレスの圧力に次第に押され出した。
「僕に任せてください」
「ふふふ、マスク・ド・レイナの実力を見せてやろう」
 ブレイクと玲奈はオハンの左右にポジションを移し、同時に火術と爆炎波を放ってブレスを押し返した。
「いまじゃ、アーガス殿」
 ブレスの間隙を突いて飛び出したグランとアーガスはドラゴンアーツのスキルで渾身の一撃をドラゴンに叩きこんだ。しかし、石化したダークドラゴンの身体は一切の物理攻撃を受け付けない。
「ならばこれはどうですか」
 ウィングは闇属性であるダークドラゴンに則天去私の拳で光輝属性のダメージを与えた。
 続けて綾香が連続攻撃でブリザードを浴びせかけた。
「さっすが、効いてないみたいだわ。みんな、ガンガンいこうね」
 彩はSPリチャージを使って、全員の精神力の回復をさせていく。
「トカゲふぜいが生意気なのだよ」
 メーガスは両手に魔法力を集中させると、連続して光術をダークドラゴンへと放った。
 それぞれが持てるスキルをフルに活かして、ダークドラゴンへと攻撃をかけたが古代の竜がもつ強さはもはや次元が違っていた。
「愚かなり、人間どもよ」
 ダークドラゴンは尻尾を思い切り洞窟の地面へ振り下し、岩をえぐって削り飛ばした。無数の散弾のような大小の岩石がメンバーへと襲いかかり、壁へと打ちつけられた。
「由宇殿、大丈夫でござるか?」
 咄嗟に由宇をかばったオウガは、身体の下にいた彼女へ声をかけた。
「大変、血が出てますぅ」
 オウガの額から流れる血を、由宇は素早くハンカチで押さえて止血する。
「覚悟は良いか……」
 ダークドラゴンは倒れて動けないメンバーへ、ファイヤーブレスを浴びせるために再び口を大きく開いた。
「そ、そうはさせないですぅ」
 両手を広げてその前に立ちはだかったのは、この中でも一番か弱い由宇だった。
「小娘……お前に何ができる!」
 ダークドラゴンは洞窟を震わすような声で由宇へと恫喝を浴びせたが、彼女はひるまず強い視線を返した。
「待ってるんですぅ、大切な仲間が私たちの帰りを」
 立ち上がった彩とウィングが、由宇を庇うように前へ出た。
「負けられないの」
「退けない理由があるのです」
 グラン、アーガス、綾香、オハンが戦いの意思を示すように次々と戦闘態勢を取っていく。どれだけダークドラゴンが圧倒的な力を見せようと、一人としてひるむ者はいなかった。
「仲間か……お前たちはかつて共に戦った者たちと同じ魂の色をしている」
 ダークドラゴンはそう呟くと、身体をゆっくりと暗黒洞窟の地面へと伏した。
「わかった、我が力を貸そう」
 由宇たちの仲間を思う気持ちに動かされたダークドラゴンは、ようやく洞窟を抜けることへの協力を申し出てくれた。
「ダークドラゴンくん、ありがとうですぅ」
「よ、よさぬか」
 走って抱きついた由宇に、ダークドラゴンは少々面食らっているようだ。
「どうやら協力を得られたようですね」
「あぁ、そのようだ」
 ウィングと綾香は目的を達成したことを確認し合い、顔を見合わせた。
 しかし、中には調子に乗りすぎる人もいるようで……
「ふふふ、ダークドラゴン一番乗り!」
 マスク・ド・レイナになった玲奈は調子に乗って、ダークドラゴンへとまたがっていた。こめかみを震わせるダークドラゴンに、誰かあの人を止めてくださいと願うメンバーだった。