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リアクション
4.
子ギツネは走った。日陰の多い校舎内と違い、外は太陽によってまんべんなく照らされている。
「あーっ! 子ギツネ発見!」
木陰を目指すあまり、気が付かなかった。小さな少女のそばを通ってしまい、見つかってしまった。
ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)の声に反応し、御神楽ヶ浜のえる(みかぐらがはま・のえる)が子ギツネを追って駆けだす。
「ボクに任せて!」
目指した木陰に飛び込んだ子ギツネは、そこでのえるに顔を向けた。
下から風が巻き起こり、ミニ丈のスカートがめくれあがる。
「別に気にならないもんね!」
パンツがまる見えの状態で子ギツネへ近づいて行くのえる。
「きゃああー!!」
突然響いた叫び声に、のえるはびくっとして後ろを振り返った。
ネージュが必死にスカートを押さえている。香苗とどりーむが彼女のスカートをめくったのだ。
「ナイスくまさん!」
びしっと親指を立て、逃げ出す香苗とどりーむ。
「もう、香苗ちゃんにどりーむちゃんってば……」
と、むくれるネージュ。
はっとしたのえるが前を見た時、そこに子ギツネの姿は見当たらなかった。
「パラミタアカギツネってぇ、本能で男性と女性を見分けられるって本当ですかぁ?」
ほとんどの生徒が街へ散った頃、雷霆リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は八森博士へそう尋ねた。
「え、そりゃあ動物だし、本当のはずだけど」
と、何故か自信なさそうに答えを返す。
「……たとえばぁ、匂いが女性だったら気がつかない、とか?」
リナリエッタはそう言って上目遣いに八森博士を見る。それはないと思うけど、と彼が答えを返す前に、リナリエッタは彼の白衣へ手をかけた。
「実験してみません?」
それを無理やり脱がし、自分もジャンパーを脱ぐ。
「え、え、何なに? ちょっと、キミっ!」
混乱する八森博士に構わず、強引に服を交換するリナリエッタ。あっという間に身ぐるみをはがされた八森博士は、気づくとリナリエッタの服を身に着けていた。
「……あれ?」
先ほどまで着ていたはずの服はなぜかリナリエッタが着ている。
「あとはぁ……やっぱり髪型よねぇ」
と、どこからか櫛を取り出し、八森博士の頭を梳かしはじめる。どこからどう見ても逆セクハラ、完全にリナリエッタに遊ばれている八森博士なのであった。
子ギツネを追っていたはずの薫だったが、路地を出たところでその姿を見失ってしまう。
「ど、どこに行ったでござる?」
きょろきょろと辺りを見回すが、そこには人間しかいない。薫はキツネに対する思いから、勘で道を歩きはじめる。
薫が背を向けた道の先では、人間に化けた子ギツネが慣れない二本足で走っていた。お尻にはもれなく尻尾が生えていたが、幼い少女にしか見えないおかげでそれも含めて可愛らしい。
角を曲がろうとして、どんっと子ギツネは誰かにぶつかった。
「大丈夫か?」
差しのべられた手はゴツゴツしていた。見上げれば、パワードスーツを着ていることが分かる。そう、子ギツネがぶつかったのは【ケンリュウガー・ザ・グレート】となった武神牙竜(たけがみ・がりゅう)その人だった。
初めて見る異質な人間に、子ギツネはしばし呆然としていた。そしてお腹が空腹を知らせる音ではっとする。
「もしかして、お腹がすいてるのか?」
子ギツネは頷いた。
普段着へと着替えた牙竜は、レストランで食事をほおばる幼女を微笑ましく見守っていた。
「ところで君、名前は?」
ライスをおかわりした幼女が、ぎこちなく掴んだフォークを止める。
「なまえ?」
人間に化けてはいても、頭の中は子ギツネだ。人間の社会なんて全く知らない。
「そう。たとえば、俺の場合は武神牙竜っていうんだけど」
幼女は悩んだ。三匹のうち、一番最後に生まれて発育も良くない自分。姉や父、母からはチビちゃん、なんて呼ばれていた気がするけれど、それは「なまえ」なのだろうか。
「……わかんない」
そう返して、幼女は再び食事を再開させる。
「そうか」
牙竜は彼女に名前がないのだと思った。ならば付けてあげよう、と。
そうして牙竜が頭を悩ませている最中、幼女は満腹になったせいでしっぽだけではなく、頭に耳まで生えてきた。どう見ても獣人である。
「そうだ、ルビーってのはどうだ?」
と、牙竜は言った。彼女の姿が半分キツネになっていることにも気付かずに。
「るび?」
「だって君の目、ルビーみたいに赤いからさ」
と、牙竜は笑う。幼女は何故だか嬉しくて、耳を隠すことを忘れて頷いた。
ルビー、ルビー、と呟きながら、幼女は店を出る。牙竜はまだ会計の途中だったが、ルビーは気分が高揚しすぎて駆けださずには居られなかった。
幼女からキツネの姿へと戻ったルビーは、どこへともなく走ってゆく。その姿を見た店員は、思わず牙竜の顔を覗き込んだ。
「あんた、さっきの子、キツネじゃ?」
「キツネ?」
外へ出た牙竜は、そこに誰もいないのを見てようやく気付く。
「ば、化かされた……!? 不幸だー!!!」
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