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リアクション
4章 山寺の跡
『……ゴーストたちの目をかすめた旅人たちは、【山寺】にたどりつきました。
「やれやれ、こんな夜ふけに、なんの用でございましょう?」
寺の坊主が、旅人たちに頭をさげます。
「まものをたいじしたので、お知らせにまいったのです」
「やや、なんと! あのまものたちを! どうやってたおされたのですか?」
旅人たちは自分たちのかつやくを話すと、坊主はなんべんも頭をさげて。
「では、お礼に、寺の宝をあなたがたにさずけましょう!」
そういって、【おっきな飛空艇】をさしだしたのでした。
めでたし、めでたし。
〜パラミタに伝わる民話・「魔の山」より〜』
■
「はあはあはあ……」
六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)は山中を1人で歩き続けていた。
スキルを駆使しつづけたばかりに、SPを使い果たし、体は重い。
「せめて、地図とか、道とか、王ちゃん達から聞いておくのでしたよ!」
そろそろ山頂――。
欅の木が見える。
「【ナラカの大蜘蛛】とは戦った後……先に着こうと思いましたのに……」
大蜘蛛達の動きは鈍い。
彼らを振り切って、鼎は【山寺】の前に立った。
「廃墟……戦いのなれの果て、ですか……」
■
「この辺りのはずですが……」
「まだ見つからないの?」
美羽にせかされつつ、ベアトリーチェは廃墟の中を彷徨っていた。
彼女の後ろからは、子供達がついてくる。
「しかたねえなあ、『おんなこども』だからな!」
とはりーだーの弁。
「大人達を頼らない!」 とはいえ、彼らには、彼らなりのルールがあるようだ。
「『おんなこども』は大人じゃねえからな! おれたちが守ってやらなくっちゃ!」
「あら、そうなんだ?」
「……て、いつも院長のじいさんがいってんだ!」
「孤児院の? いい院長さんなのね?」
へへへ……と子供達は顔を見合せて笑う。
「でも、小さなナイト達に守られる、ってのも気分いいかな!」
よろけた拍子に、壁に触れる。
やぶれた紙が至る所に貼られてある。
「お札? 魔よけの?」
「そうみたいですね、美羽さん」
「このおかげで、大蜘蛛達は近づけなかったんだね!」
「ここが一番の安全地帯って訳ですか」
【トレジャーセンス】に反応があった。
「ここです! 美羽さん!」
がらっと襖をあけ、一行は中へと入って行く。
「あそこにあるのですね!」
外から寺の様子を窺っていた鼎は、先回りしてお宝を狙う。
「では先に、【シャンバラ古王国時代の飛行戦艦】とご対面! と願いましょうか」
だが、先回りしていたのは鼎ばかりではなかった。
数分前――。
【小型飛空艇】で先回りしていた師王 アスカ(しおう・あすか)とルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)は、すでに「お宝の部屋」で待機していた。
「王ちゃんがお宝の場所分からなかったのは、計算外だったけどさぁ」
とは、アスカ。
「シー・イーはさすがだわぁ! 部屋の位置まで当たりをつけていたとはねぇ」
「パートナーとは、互いを補う者ですよ。我々のように」
ルーツは【薬学】を使い、毒を小瓶に入れる。
「ルーツ。何しているのぉ?」
「ああ、お宝泥棒対策ですよ。念には念を入れてね、ふふふ……」
……などという経緯を知らない鼎は「飛んで火に入る夏の虫」となってしまった。
鼎が部屋に入ってくる。
アスカは【投擲】で注意をそらす。
「何でしょう? 気のせいですかね?」
鼎がかがんだところで、背後からルーツが毒をふりかける。
「くっ! しびれ薬とは、卑怯な!!」
「子供達の夢を奪おうとする、泥棒ちゃんの方が、よっぽど卑怯よぉっ!」
「違っ……私は、ただ……っ!!」
「観念するのだ!」
動きの弱った鼎はルーツの【吸精幻夜】であえなく撃沈。
(飛行……戦艦……じゃない……?)
遠のく意識の中で、鼎はお宝の正体に愕然とするのだった。
「さ、こいつを片付けて、我々は退散するのだ!」
ほどなくして、美羽達に伴われた子供達が入ってくる。
「これは!!」
「【シャンバラ古王国時代の飛行戦艦】……ではないですね……」
ベアトリーチェが率直な感想を述べ、美羽は茫然と眺める。
そこにあったのは、ただの【小型飛空艇】。
だが、それでも子供達にとっては嬉しいらしく。
「【おっきな飛空艇】みっつけた!」
「わーい、わーい、わーい!」
【小型飛空艇】の前で、わらわらとはしゃぎまわる。
「【お宝】めーっけ! じゃ、はこぶぞ!」
おー! と仲間達がときの声を上げる。
「ちょっと、待ったあ――っ! 君達」
とうっ!
天井から降り立ったのは、風森 巽(かぜもり・たつみ)……いや、【仮面ツァンダーソークー1】。
銀のマスクに赤マフラーを風に揺らし、子供たちの目線の高さまでしゃがみ込む。
「まずは冒険成功おめでとう。小さな冒険者くん」
固い握手。
「でもね、夜中に勝手に抜け出したらいけないよ?」
「どうしてぇ?」
子供達は小首を傾げる。
「うん、だって、知らない所で君達に万一のことがあったら……」
「あったら?」
「そうだなあ……」
うーん、と巽は腕組みして考え込む。
「孤児院の院長先生が悲しむわ。それは嫌だよね?」
助け船を出したのは美羽。
そうだ! と巽は子供達に少々強い口調で諭した。
「院長さんのことが、好きなのかい?」
「うん、大好き!」
子供達は満面の笑みだ。
「じゃ、今回のことを院長さんが知ったら、どうするかな?」
「きっと【くうきょうけいさつ】に電話して……」
「電話して? それで?」
「……寝ないでわたしたちのこと捜すわ!」
「疲れきって、たおれちゃうよおおおお……」
子供達はしゅんとなった。
「じゃ、院長さんに気づかれる前に、帰らないとな」
うん、と子供達は頷く。
「これも、あきらめめなくちゃいけないね……」
りーだーは【小型飛空艇】を眺めた。
「みんなで運んで帰ったら、夜が明けちゃうもの」
「そうしたら、院長先生にばれちゃうよね?」
「いや、これは持って帰ろう!」
巽は気落ちした子供達の肩をたたく。
「おにいちゃん達も手伝うよ。それで、宿直のおにいちゃん達が起きないうちに、帰ろう! さ、急ぐぞ!」
「うん!」
子供達に明るい笑顔が戻る。
■
かくして、子供達はサポーター達に守られつつ、帰路を急ぐのであった。
【おっきな飛空艇】をその手に携えて……。
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