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あなたに届け、この想い!

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あなたに届け、この想い!

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いとしい君だけを

『たとえ世界が終わりを迎えようと――』
 夜が深まり、澄んだ夜気に募る薔薇の香り。
『私が私であるかぎり、生涯ルナを愛し守り続けることを誓う』
 セディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)ルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)の手を取り、彼女を真っ直ぐに見つめ、”誓いの言葉”を紡いだ。
 これは、結婚式だった。
 正式な挙式の前に行う、二人だけの、ささやかな儀式。
 満月が柔らかな光で花嫁の白い髪と肌を包み込んでいる。
 ルナティエールが溢れそうな感情を抑えるように、口元を一度、きっ、と結んで彼女の潤んだ赤瞳に光が揺れた。
 握る手が少し強くなり――
『俺が俺であるかぎり。この命が尽きても、魂が朽ち果てても、セディを愛し続けることを誓う』
 互いの誓いを結ぶように、二人はくちづけを交わした。

 薔薇園の片隅に立って。
「俺は……この日、満月の夜に生まれたんだ」
 ルナティエールはセディの身体に背を預けるように寄り添い、二人の誓いを見守った月を仰ぎ見ていた。
「だからルナティエールって名前がつけられた。きっと、俺が生まれたのも、こんな夜だったんじゃないかと思う――そういえば、セディと出会ったときも満月だったな……」
 あの時、彼女は独り、誰もいない舞台で舞っていた。
 そこへセディが来た。
「お前は、それは美しく……けれど、とても哀しげに舞っていた。その舞いに、私は一目で恋に落ちた。そして、どうしても放っておけなくて――」
「お前は半ば強引に俺と契約を結んだ」
 くす、と笑いながら言ってやる。
 セディも小さく笑みを落としてから、しかし、真剣な声で続けた。
「傍にいてやりたい、守ってやりたいと思った。あの夜、お前を離せば……一生後悔すると、思った――だから、少々強引になってしまったな」
 ルナティエールは軽やかに身を反転させ、セディの体にふわりと腕を回しながら、彼の胸に額を置いた。
「感謝してるよ」
「……感謝しているのは、私も同じだ」
 セディの腕がルナティエールの身体を抱く。見上げた先で、微笑んでいた彼の言葉が「ルナ」と零す。
「私の一方的な想いを受け止めてくれたこと、本当に感謝している。私は、お前が舞いたいと望む舞台なら、如何なる場所であろうと共に赴こう」
 愛している。その言葉に引き寄せられるようにルナティエールは少し背伸びをした。抱き締められながらキスをする。
 少し離れた彼の顔越しに見えた満月。
「この夜に……お前と将来を誓い合えたのは何よりの宝物だ。最高の、誕生日プレゼント……ありがとう、セディ」
 幸せだった。
 一粒、溢れた涙が薄く頬を伝う。
 そして、ルナティエールは微笑んだ。
「……愛してる」


 アレフティナを無事助けたは、帰る者と泊まる者の確認を終え、エリオと他愛の無い会話を交わしていた。
「――ここに居ても、からかわれるだけだと分かった」
「ごめん、拗ねちゃったかな」
 くすくすと笑う直に頭を掻きながら溜め息を吐くと、エリオは1人で寮に戻ろうと部屋を出ようとする。
「ねぇエリオ、上を見てごらんよ」
 言われるまま見上げれば、今日何度となく見上げた月。
 室内でも十分に楽しめるようガラス張りになっている天井には、霧がかってもなお輝き続ける月があるけれど、エリオにとってはただ真上に来ただけで何かが変わったようには見えない。
「……そんなに、月が好きなのか?」
「うん。エリオは興味がないかな」
 美しいとは思うけれど、特別な想いを込めるほどではない。
 校長のように風情を楽しむことも、ルドルフのようにまじないに興味を持つこともなく、エリオは仮面を取り去って月を見上げる直を不思議そうな顔で見つめた。
「……月が綺麗だね」
 呟くように小さな声が、2人だけの部屋に響く。
 直の子供っぽい微笑みに、何がそんなに面白いのだろうかとエリオも空を見た。
「確かに綺麗だな。校長もお喜びになっていたようだし、他国の文化を体験出来るのは良い機会だったぜ」
「ふふ、ありがとう」
 故郷を褒められて嬉しいのか、幸せそうな顔をして笑う直に別れを告げ、エリオも庭園を去る。
 その背中を見送りながら、今夜この庭園を訪れた者は、誰を想い月に何を願ったのだろうかと想い耽る。

「あなたに、この想いが届きますように……」

 そんな願いを口にしながら、ヴィスタは煙草をくゆらせる。
 懐中時計の中で微笑む少女を見るその顔は、酷く穏やかなものだった。
 声が届かずとも、ただ慕っていたいと思うのに、ときにこの声に気付いて欲しくなる。
(さすがにもう、無理なのはわかってるんだがな)
 どんなに些細なことでもいい。女々しい自分を自嘲しながらも、月明かりを浴びると心をさらけ出しそうだった。
「ま、こんな願いから何から聞かされる月もたまったモンじゃねぇわな」
 柔らかな明かりで包み込み、静かに言葉を聞いてくれた月へ感謝の言葉を。
 月は心を洗い出して背中を押してくれるけれど、最後の1歩は自分で踏み出さなければならない。
 誰にでも等しく力を分けてくれるものだとしても、貰うばかりが当然じゃない。
「おまえさんは、いつも感謝の祈りを捧げてたっけか……」
 微笑んだ彼女を思い出して、ヴィスタは月を見上げながら懐中時計の蓋を閉じ、ありがとうと呟くのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

浅野 悠希

▼マスターコメント

 浅野悠希マスターの文章を期待されていた皆様、誠に申し訳ありません。
 浅野マスターが急病のため、代筆させていただいた村上収束です。

 本リアクションは、基本的には、浅野マスターのプロットと途中まで書かれていたリアクションを基に書かせていただきました。
 また、幾つかのシーンでは浅野マスターの書かれたものをそのまま使わせていただいています。

 浅野マスターが皆様へ返したかった想いを、少しでも伝えることが出来ていたら幸いです。

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2010/10/12 誤字脱字等の修正を行ないました(村上収束)