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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

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「エリザベートさん♪ 幻灯会のお供に、こんなのはどう?」
 アイスフラワーに感動するエリザベートのもとに、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が笑顔でやってきた。
 その彼女が手に持っているのは――
「ん? それは……ワインですかぁ?」
 キンキンに冷えた、ワインのボトルだった。
「昔っから、欧州の貴族は暑気払いには避暑地か、こういう塩氷で冷したワインって感じだったみたいだよ? 魔法とかよりは効率悪いけど、昔の人の知恵ってのも馬鹿にできないよ♪」
 ニコリと微笑んでワインをグラスに注ぐミルディア。
 しかし、エリザベートはワインに口を付けない。
「たしかに、こういう納涼方法はヨーロッパにいた時代に見たことがありますけどぉ……ワインって、あまり美味しそうな気がしなんですよねぇ。なんだか、苦そうですぅ!」
 どうやら、エリザベートはワインを飲んだことがないので、不安なようだ。
 しかし、ミルディアはそんな可愛い心配をするエリザベートを見て微笑む。
「大丈夫、大丈夫♪ このワインはデザートワインっていう甘いワインだし、そのデザートワインの中でも評価の高い『貴腐ワイン』だから。糖度が高くて、飲みやすいよ?」
「ほ、本当ですかぁ?」
 ミルディアの言葉を受けて、エリザベートは恐る恐るワイングラスを煽ってみた。
 すると――
「あ……美味しいですぅ! ジュースのような甘さではありませんけど、それでも嫌いじゃない味ですぅ!」
 意外と、ワインはエリザベートと相性がよかったようだ。
「こういうお酒なら、どんどん飲みたいですぅ♪」
 すっかり、貴腐ワインの味に機嫌を良くしたエリザベート。
 だが、いささか飲むペースが早く、さすがにアーデルハイトが止めに入った。
「これ、もうその辺にしておくのじゃ。いくらデザートワインとは言っても、子供がそんなに飲んで良いものじゃないぞ」
「なに堅苦しいこと言ってるんですかぁ! 甘酒を飲んでも平気だったんですよぉ? これぐらい全然ヘッチャラですぅ!」
 アーデルハイトの忠告に対して、エリザベートは胡乱な目で返答し、そのままミルディアが持っていたワインボトルを奪い取った。
 そして――
「もう、グラスに注ぐのも面倒ですぅ!」
「あっ!?」
 そのままボトルをグイっと持ち上げると、アーデルハイトたちが止める間もなく、一気に中身を飲み干してしまった。
「ぷはぁああああ! 美味ちかったれすぅ!!」
 当然……ボトルを一瞬で空にしてしまったミルディアは、呂律が回らなくなりはじめる。
 彼女は、大事なことを忘れていた。さきほど本郷 涼介が用意してくれた甘酒は、彼がアルコールを控えめにして作った自家製の甘酒だ。今回の貴腐ワインに比べれば、はるかにアルコール度数が低い。
 そんな大事なことに気付かずワインを飲み干したエリザベートは――
「キャハハハハハ♪ なんらか、頭がフワフワしてフワフワれすぅ!」
 当然のように酔っ払ってしまったのだった。

「エリザベート校長……どうしちゃったのかな? 何だか、酔っ払ってるみたいだよ?」
 たった今、臨時校長室のドアを開けた五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、エリザベートの様子を見て思わず心配してしまった。
 ドアを開けた瞬間、自分の学校の校長――それも幼女が酔っ払っているのを見れば無理もない。
「足元、大丈夫? フラフラしてるじゃない?」
「平気れす、平気れすぅ! でも、頭がボーッとして熱くなってきちゃいましぁ♪」
「う〜ん……どう見ても、全然平気そうには見えないけどなぁ。ていうか、頭がボーッとして熱いのは、全然平気じゃない証拠だって!」
 終夏の心配を他所に、エリザベートはあっちへフラフラ、こっちへフラフラと常に波間を漂っているかのように揺れている。
 このままだと、倒れるのも時間の問題かも――と、終夏が思い始めたときだった。
「あ、そうだ! エリザベート校長。ちょうど今、良い帽子があるんだけど被ってみない?」
「えぇ? 帽子れすかぁ? 帽子は、大ババ様の専売特許れすよぉ?」
「う〜ん……たしかにアーデルハイト様は大きな魔女帽子を被ってるけど、エリザベート校長だって負けないぐらい似合うと思うんだけどな〜しかもその帽子、冷却装置つきだから被るだけで涼しくなれるよ?」
 終夏は、ここでワザと残念そうな演技をすることによってエリザベートを挑発する。
 もちろん、エリザベートは酔っ払ってることも手伝って――
「そ、そんなのぉ、当たり前の話しですぅ! その帽子を、早く持ってくるですぅ!」
 簡単に挑発へと乗った。どうやら彼女は、酔うと思考が普段の何倍も単純になるみたいだ。
「それじゃあ――はい、コレ♪」
 終夏が荷物の中から差し出したのは、数個の保冷剤そ仕込んだ虹色のアフロヅラだった。
「なんらか、変わった防止れすねぇ」
「そうそう。少し変わってるかもしれないけど、絶対にエリザベート校長は似合うと思うよ?」
「そうれすかぁ? それじゃあ、さっそく被ってみてぇ……っと。あぁ、何だかこの帽子ヒンヤリしてて面白いれすぅ♪」
 どうやら、エリザベートは虹色アフロを気に入ったようだ。酔いの影響もあるのだろうが、案外心から喜んでいる。
「キャハハハハ♪ なんらかぁ、楽しくなっれきちゃいましたぁ! みんなぁ、見て見てですぅ! 面白い帽子なんれすよぉ!」
 虹色のアフロヅラを被るエリザベートは、とんでもなく滑稽な姿だったのだが……どうやら本人がそれに満足しているようなので、周りはなんとも言えない状態が続いたのだった。