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作ろう! 紙ペット動物園

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作ろう! 紙ペット動物園

リアクション


1、作業とバトル、開始

 外気が冷たさを纏い、色づき始めた葉を揺らす。
 イルミンスール魔法学校の敷地内、開けた場所に、校内外の者達が集まっていた。
 その間に、紙でできた手乗りサイズの小さな生き物たちが、うごめいている。
「さぁ〜、さっさとはじめるですぅ〜」
 ぱんぱん、とエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が楽しげに手を叩き、一斉に人々が動き始めた。
 小さなものたちのために、若者達は活動を開始する――。
 
 先頭を切って動き始めたのは、顔がブルドッグに酷似したドラゴニュートのネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)だ。
「さて、おまえら、立派なブルドッグ館を作るぜ!」
「おう!」
 掲げた拳に応じるのは、ハーレック興業の男達。
「わぅん!」
「おぉん!」
 それにつられるようにして、共に鳴くのは紙ブルドッグ達。
 白、灰色、黄色、赤、茶色、オレンジ色、紫色……と、自然に存在しない色まで多種多様。
 いずれも短い尻尾をぴこぴこ振っている。
「ハーレック興業の皆さん、作業を開始してください」
 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)の指示が飛ぶ。男たちはノコギリや木材を手に、グループを形成。
 木材を切る者、組み上げる者、形を整える者、削る者……など、いくつかのグループに分かれて制作を始めた。
「設計図はこれでいいんですよね、ネヴィル」
「ああ。どんどん作るぜ」
 にっと笑うネヴィル・ブレイロック。そして、男たちの作業を見渡す。
「おい、基礎作りのメンバー、スピードを上げてくれよ!」
 言いながら、彼の右手はノコギリを握る。
「俺も手伝ってやるからな!」
 元気に男たちの輪に加わる彼に顔をほころばせつつ、ガートルード・ハーレックは紙ブルドッグ達を撫でる。
「この子たちのために、頼みますよ」
 ハーレック興業の面々に呼びかける。男たちは怏々に頷いた。
 その傍らでは、ブルドッグの集団に目を向ける者が一人。
「これが紙ペットかー」
 穴があくほど、じっと見つめるのは佐伯 梓(さえき・あずさ)
 その様子を、イル・レグラリス(いる・れぐらりす)が白いうさぎのぬいぐるみを抱えつつ見守る。
 否、見守るというより、立ったまま見下ろしている形だ。
 見下ろされている本人は、駆け回る紙ブルドッグの様子に顔をほころばせている。
「よしっ、やろうかなー」
 赤く束ねた髪を振り、薄長い木材とノコギリを手に取ると、佐伯梓は立ち上がった。
「イル、やるよー」
「やだよ、面倒くさいもん」
「……わかった」
 即答され、反論の言葉も忘れて頷く。
「おかしいなー、絶対好きだと思ったのに……」
 小首をかしげつつ、作業に入る。
「まずはこれを……」
 木材に足をかけ、左手で抑えてノコギリを引き――。
「あっ」
 引くと同時に、親指に赤い線が走った。
「……手、ちょっと切った」
 幸い、傷は浅い。手を振ってごまかし、ノコギリを動かし続ける。
「大丈夫?」
 呆れた声でイル・レグラリスが問いかける。赤い髪を揺らして、頷く。なんとか板は四つに分けられた。
「あとはこうして、ああして……」
 短いものと長いものを組み合わせ、釘を当てる。
 トンカチを振り上げ、下ろす。
 その先には釘と……片手。
「! った!」
 手を思い切り打って悶絶する佐伯梓。
「なにやってるの……」
 深くため息をついて、がじがじと白ウサギの耳をかじるイル・レグラリス。
「まだまだ、これから――」
 なんとか気を取り直し、釘を叩く。先程のような失敗はせぬよう、打ちつけるときは慎重に下ろしていく。
 そうして出来上がったのは――。
「それ、何?」
 冷ややかな視線を向けるイル・レグラリス。佐伯梓が「できた」と言って握るのは、底の浅い小さな箱ほどの何かだ。
「えぇと……ベッド……とか?」
「……ベッドって……ちゃんと考えて作ってる?」
「あんまり大それたのつくれない……」
 佐伯梓が、しゅん、とうなだれる。
「あーもー! まず柵や、檻でしょ!」
 見かねたイル・レグラリスが歩み寄り、木材を集め始めた。
「イル……」
「ホラ手伝って。押さえてるから」
「あ、うん」
「他の人のも参考にして。しっかりしなよー」
 佐伯梓はただ頷いて、指示に従い作業を始めた。
「おぉー。思った通り、水辺の紙ペットもいいな」
 歓声を上げるのは、和原 樹(なぎはら・いつき)
 エリザベート・ワルプルギスに頼んで作ってもらった紙白鳥、紙ペリカン、紙フラミンゴ、紙ワニが小さな籠の中で各々動いている。
 毛繕いをしたり、鳴いたり、どしどし動いてみたり。
「エリザベート殿の再現力は凄いな」
 フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)がほう、と紙ペットを見遣る。
 と、二人の背後から袋を重そうに持って、セーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)が白い三つ編みの髪を揺らしてやってくる。
「マスター、フォルクス、造園用の砂をもらってきましたよ」
 彼が示すは、細かな砂と玉砂利。用意された品に満足し、和原樹は頷く。
「よし、じゃあ枯山水作り、始めるか」
「ああ」
 フォルクス・カーネリアも早速砂の入った袋を持ち上げる。
「これだけでは足りないでしょうから、もっと貰ってきますね」
 くるりと背を向け足早に戻っていくセーフェル・ラジエール。
 枯山水作りが始まろうとしている横で、ショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)が紙ペット達の入った籠を覗いている。
 腕にはペットの不思議な白ウサギを抱えている。
「この子は猫、この子はリス、この子はオコジョ」
 指をさしては不思議な白ウサギを見て、動物の名を教えていく。
「こっちの子は、貴方と同じ、ウサギね」
 満足そうに微笑むショコラッテ・ブラウニーの腕の中で、白ウサギはぴくぴくと鼻を動かして小首を傾げた。
 ふたりの視線の先の紙ペット達は、みょこみょこ動いている。
「みんな、紙ペットというの」
 説明を聞いているのかいないのか、不思議な白ウサギは小首を傾げるばかり。
 そんなふたりの背後で、枯山水作りが始められていた。
「あのあたりから、流していこう」
 和原樹とフォルクス・カーネリアは、袋から砂をザザッと出して広げていく。
 ある程度均等にならし、波の形を作っていく。美しく、綺麗に。
「こんな感じかな」
 和原樹が、作った波の形に満足して微笑む。
「……む、足跡を残さずに波型を作るというのは、存外難しいな」
 フォルクス・カーネリアの視線の先には、作り上げた波の形と、彼自身の足跡。せっかく作った波の形を目立たなくさせている。
 腕を組んで首を傾げる彼が視線を動かす。その先に映ったのはショコラッテ・ブラウニー。
「ショコラッテ」
「なに?」
「すまんが、あのあたりの足跡を消してくれ」
 足跡を指して示す。ショコラッテ・ブラウニーはこくりと頷いた。
「……わかった。足跡を消して、周りと同じような模様だけにすればいいのね。任せて」
 飛び上がったショコラッテ・ブラウニーは、丁寧に砂を整えていく。
「樹兄さん、これでいい?」
「大丈夫だよ。ありがとう、ショコラちゃん」
 こうして和気あいあいと三人は、枯山水を作り上げていく。
「砂の追加、もってきました」
 セーフェル・ラジエールが砂利を置いて、また戻る。
 水ではないが、水のように美しい砂の波が、広がっていく……。
 枯山水のすぐ横の水槽で、ぴょこんと真っ白な紙カエルが跳ねる。
 その後ろに、紙ヤモリ、紙ヘビ、紙カメレオン……などの紙両生類や紙爬虫類が控えている。いずれも真っ白だ。
「ふふー、かわいいですー」
 彼らを見て高峰 結和(たかみね・ゆうわ)がにっこりと微笑んだ。
「【資料検索】で調べた甲斐がありましたー」
「あとの色付けは僕に任せて」
 アンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)がスキル【絵画】を使用し、魔法紙で作られたばかりの真っ白な紙ペット達に色付けを始める。
「三号さん、なるべくリアルに頼みますー」
「任せて」
 にこにこ、と笑いあい、作業に取り掛かる。
「私はこの子たちの住処を作りますねー」
 大きめの水槽をよいしょ、と持ち上げ、移動すると高峰結和は袋を取り出した。
 その中には透明のビーズがたっぷり入れられている。
 それを水槽の中に流し入れ、木を組み合わせて配置していく。
 ビーズで水を表現しようというのだ。
「結和、これでいいかな?」
 茶色の髪を傾げ、アンネ・アンネ 三号が問いかける。彼が示す先には、程よくリアルに色付けされた紙爬虫類、両生類達。
 緑や茶色などのスタンダードな色のものから、赤、青、黄色、オレンジ色などの熱帯に住むものも表現している。
「はいー! 三号さんのおかげで、可愛さ倍増ですー」
「よかった。この調子で水槽も塗るね」
「おねがいしますー」
 作業を進めながら、高峰結和は顔を上げる。
「三号さんは、絵上手ですねー。羨ましいですー」
「これはスキルの力もあるからね。結和は絵を描かないの?」
「えぇと……」
 高峰結和は明後日の方向に視線を逸らす。
「大好きなお料理の見た目も……その、あんまりよくないから……ですねー……」
「料理と絵は違うよ。僕が教えようか?」
「本当ですか!?」
 高峰結和の瞳が輝く。
「うん。約束するよ」
「はい、約束ですー」
 優しく微笑みあいながら二人は、作業を進めていく。