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【特別授業】学校対抗トライアスロン

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【特別授業】学校対抗トライアスロン

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第二章 漕いで泳いで這って跳んで走るのさ

(1)『サイクリング』

『『さぁ、スタートから続いた『緩やかな登り坂』もあと僅か。間もなく『心臓破りの坂』へとさしかかろうとしています』』
 実況担当の和泉 絵梨奈(いずみ・えりな)は、『空飛ぶ箒』に跨りて先頭集団を追っていた。
『『ただ今の先頭は『黒崎 天音(くろさき・あまね)ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)ペア』と『卜部 泪(うらべ・るい)秋野 向日葵(あきの・ひまわり)ペア』ですが………………? あれは……?』』
 一台の2人乗り自転車、その前方に座るが、身を乗り出してマイクを向けた。
「さぁ……ハァ……間もなく……ハァハァ……心臓破りの坂ですが……ハァハァハァ……何か作戦などはあったりするので……しょうか?」
 ズイと向けられたマイクに天音は「うっ」と顔を歪めた。
「しつこいな、君も。もっとちゃんと競技に集中したまえ」
「どうして急に他人行儀なんですかっ! 距離を取ろうとしたって私は諦めませんよ!」
 レースのドキュメントを撮影しようと、スタート直後から天音たちに張り付いていた。取材対象に選んだのは彼らが先頭を行っていたからである。
「で? どうなんです? 作戦は……あるの……ですか?」
「そんな息も切れ切れの人に言われても……。君のようにならないよう、体力を温存しておく事が僕たちの作戦です」
「なっ、なるほどぉ……ゼィゼィ……」
「遂に『ゼィゼィ』って言い出したね。初めて聞いたよ、そんなにはっきりと『ゼィゼィ』言う人」
「ちょっと…………大丈……夫? ……ゼィゼィ」
「……あなたもですか」
 向日葵も同じに完全に息が上がっていた。
 撮影のための機材一式を2人はそれぞれ体に括りつけている。重いものは荷台に積んでいるものの、小柄な2人が天音たちに併走するには、それはもう全力疾走を続けなければならなかったわけで。しかも『手を繋いで』という無理な体勢が余計に体に負担を与えていた。
「もぅ……だめ……」
っ!!」
 向日葵と繋いでいない方の手、その手が握るハンドルが大きく右に振れて、
「なっ!!」
 天音の車体に大きく衝突した。
「うわっ」
天音!!」
「くっ」
 衝突した2つの車体が弾けて傾く。天音はとっさにパートナーであるブルーズの車体へと跳び移った。無論『手は繋いだまま』に。
「良い判断だ、天音
「当然。このまま行くよ」
「言わずもがな」
 転倒の危機を回避した『黒崎ブルーズペア』はそのまま『心臓破りの坂』へと突入していったのだった。
 一方のはと言えば、
っ、大丈夫?」
「むきゅ〜〜〜」
 体力の限界、地に倒れ伏して手も離してしまっていた。『卜部秋野ペア』ここで脱落である。
『『さぁ、レースも中盤! 参加者たちを待ち受ける最大の難関『心臓破りの坂』、次にに挑むのは『レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ミア・マハ(みあ・まは)ペア』果敢にも『ママチャリ』での挑戦になります!!』』
「よぉ〜しっ!! 行くよっ!!」 
 気合いを入れてレキは力一杯に漕ぎだした。
(大丈夫、このために体力を温存しておいたんだ、たったの2kmくらい一気に登りきってみせる!!)
「くっ……うっ……ぐぅ……」
「ほれほれどうしたんじゃ、まだまだ始まったばかりじゃぞ」
 意気込みは良かった、しかしやはりに全力で漕ぎ続けるのは無理がある。すぐにレキは足にきた。肉付きの良い太股は密度濃くプルプルと震えている。
「なんのっ、これしき……」
 タイヤが一回転するまで、というよりペダルが半回転するまでに10秒近くかかっている。車体が倒れないのが不思議な位だ。
(まったく仕方がないのう)
 背後から、パートナーのミアレキの太股に飲み水を雫してかけた。
「ひゃっ! 冷たっ!!」
「実力を見せるのではなかったのか?」
「ミア……」
「お嬢様根性を見せるのじゃ」
「……あぁ! そうだねっ!!」
 ガッシリとミアが腰に腕を回してしがみつく、それを合図にレキが再びにエンジンを掛け直した。
「ふんぬぁぁあああああ……」
「そうじゃ! その調子じゃ!!」
 隙間すら無いほどにレキの背に体を委ねる、まるで一人であるかのように。応援するだけではない、いっしょに共に競技に臨んでいるのだ。
「もう少しじゃ! レキっ!!」
「んぁあああああああ!!!!」
 最後はペダルが踏み砕ける程に、力強く漕ぎ切って坂を登って見せた。全長2kmの『心臓破りの坂』、見事完走、いや登頂である。
「ふぁっ……ぶあっ……ふう……楽勝ぉ……」
「ふっ、よく言うわ」
「へへ……へへへへへ」
 登りきってしまえば残るコースは3kmの『急な下り坂』。少しは楽が出来る、そう思っただけでは……これまた甘い。
「ふぅ〜〜〜〜〜〜わぁあああああああ〜〜〜〜〜〜〜」
「落ち着けっ!! 落ち着ちやがれっ!!!」
 背後で騒ぐ白石 忍(しろいし・しのぶ)をどうにか落ち着かせようとリョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)は叫びたてていた。
 それが余計に不安を煽っていることに気付いたか否か、リョージュは声を抑えて太く言った。
「いいか、下り坂ってのはハンドル操作さえ間違えなきゃ問題無ぇ、つまり俺がハンドルを握ってる限り何の心配も無ぇってことだ」
「うぅ…………でも…………」
 ふぅ。ようやく落ち着いたか。と思った時だった。
 ガタン。
「は?」
 ガタン。ガタタタタタタガガガガガン!!
「ぬわっ」
「きゃあぁあああああああ」
 ただでさえ急な坂だというのに、急に道が荒れだした。明らかに色の違う石ころが敷き詰められている、しかも次のカーブまでずっと、距離にしておそらく800m。
(これも教諭の仕掛けか? くそっ)
 ゴツゴツした石が車体を上下に激しく揺らすものの、そこはに言った通り、ハンドル操作さえ誤らなければどうにか越えてゆける。しかし―――
「ってオイ!! 止めろ揺らすな!!」
 繋いだ右手が揺らされる、イコール、右ハンドルが大きくブレて車体も揺れるという事で、
「きゃあぁあああああああ!!!!!」
 余計にがパニックになるというヘビースパイラルに突入していた。
「くそっ……そうだ! 落ち着けっ!! 思い出せ! イコンに乗ってる時のことを思い出すんだ!!」
「イコン?」
「そうだ、イコンに乗って滑空する時の事を思い出せ! それに比べりゃ全然大したこと無ぇはずだ!!」
「イコン……滑空……」
 はイコンに搭乗すると、いや、操縦すると人が変わって攻撃的な性格になる。その時の感じを思い出してくれれば―――
「いやもうその状態でいい! っ! 『レビテート』を唱えやがれ!!」
「レビテート……? レビテートはもう使えないよ、さっき使ったし」
「落ち着け! あれは何度でも使えるんだ! いいから早くしろ!!」
「は、はぃい」
 まだ弱気なままのだったが、どうにか『レビテート』を唱える事はできた。
 僅かだが車体が浮いた。こうなればスピードだって意のままに操れる。
『『これは……『白石リョージュペア』、スキルを使って上手くコーナーを曲がりきりました!』』
「へっ?」
「ちっ、言うんじゃねぇよ。ったく」
 車体もハンドルも揺れた状態のままではコーナーを曲がりきる事は難しい、というより無理だ。あのまま滑り降りていては派手にコースアウトしていた事だろう。
リョージュ……その、ごめん」
「派手にクラッシュってのも悪かねぇとは思ったんだがな、リタイアってのは、どうもロックじゃねぇ」
 一瞬揺れたのは事実、だが! んなダセェ目立ち方したって何の意味もねぇんだよ!
「このままブッチぎりでゴールして、一気にファンを増やしてやるぜ!!」
 悪路エリアも突破した、あとは一気に下るだけだ。
「ぉ、ぉおー!」
 も控えめに同意した。イコンの感覚を思い出したのだろうか、少しは落ち着いたようだ。瞳に揺れは見られない。
「リョージュ、行けー!!」
「おぅよ!!」
 2人は一気に駆け抜けた。この長い長い下り坂を〜と。中略して、下ってく〜♪
 どのペアも決してゆっくりではないが、次々に坂道を下ってゆく。
 第一種目『完走者:3ペア』。
 失格『卜部秋野ペア』
 暫定順位、同率一位:シャンバラ教導団、百合園女学院、天御柱学院。