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INTO THE CAVE ~闇に潜む魔物と生きた宝石~

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INTO THE CAVE ~闇に潜む魔物と生きた宝石~

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【第四章】

 エッツェルらが、佐野達と合流する少し前の事。
 藍色のフラッフィーモルフォと進んでいた冬蔦らは小さな泉の前に立っていた。
 水質を調べて居たエオリアが戻ってくる。
「問題なさそうですよ」
「さぁお嬢さん、菌が這入らいうちに手を」
「うん」
 エースに言われ、冬蔦がそっと水に手を入れる。
「いたっ!」
 傷に水が染みわたり、痛みに顔を歪めて思わず手を自ら出してしまった。
 その彼女の小さな手を見て、エースが驚きの声を上げる。
「傷が!」
「……痛くないですぅ」
「いや、消えてるんだ」
 エースはいいかい、と断って冬蔦の手を取ると怪我をしていたはずの部分を藍色の光に照らしてもらい確認する。
「痛みが……傷跡自体が無くなってる」
「これは……何か癒しの力が宿っているんでしょうか」
「見た所は普通の水なんだが」
 エースは言いながら指の先を槍の切っ先でチョンと突き小さな傷跡を作ると、そのまま水へ入れてみる。
 数秒ほど待って指を水面へ上げてみると、矢張り傷は跡形もなく、無くなっていた。
「また消えた。これは間違いなさそうだな」
「不思議です……エースちゃん、私もっともっと試してみたいですぅ」
「はは。でもこれ以上怪我をするのはごめんだな。何か他に……ん?」
 唯一の照明になっていた藍色の光に色が混じる。
 見上げると別のフラッフィーモルフォが空を飛んでいた。
「あれは……赤色のフラッフィーモルフォ!」
「皆に何かあったのか!?」



 所は変わって、モルフィーとオレンジ色のフラッフィーモルフォと共に、生徒達は再びモンスターの居る洞穴の前に着て居た。
 リースが箒でモンスターの前を挑発するように飛びまわり、白石が念力で遠くから岩の道を作り、リースを追いかけるモンスターの進む先を気づかれぬように一本道に変えて居る。
 それを見て、彼女達のパートナーのスキルの歌を聴きながら美緒はリース達の作戦を思い出していた。

 先程、彼女の前に急に現れたリース達は、手にした岩の欠片を見せて説明をしたのだ。
「この岩の欠片に、本当に小さい虫が住んでるんです。
 リョージュくんが気付いたんですが、この虫がいる場所は異常に湿度が高くて、住んで居ない部分とは大分生態系が違うんです。
 そして虫のいないところにはあのモンスターが通った形跡が無かった。
 それで詳しく調べて居たら、この虫の生息する洞穴に入ってきた蛙がカビ病に侵されたみたいに死んでしまったんです。
 もしかしたらこの虫はあのモンスターの弱点なのかもしれません。」
「だから私達がモンスターをこの虫の生息する洞穴に追い込みます。上手く行って動きが鈍ったら攻撃を仕掛けましょう」

 作戦の通りに追い込まれているモンスターは、虫の居る洞穴までやってきていた。
 途中でやっとその事実に気付いたものの、後ろは既に岩に囲まれ戻れない。
 追い込まれたモンスターは生徒達の姿をとらえ口から舌を出し攻撃を始めようとしていた。
「気を付けて下さい!またあれがきますわ!」
 美緒の声に樹月は漆髪から剣を抜いて構える。
 アコが氷術をモンスターの前に壁を作り時間を稼いでいると、上からリースの声が聞こえてくる。
「あの虫が効いているかどうかわかりません!少しして何もないようなら直ぐに引きましょう!」
 氷の壁が崩れる前にモルフィー達を襲う攻撃をミルゼアとパートナー達が退ける為に、彼女達はフラッフィーモルフォの前に陣形を組んだ。
 その間にも氷の壁はビキビキと割れ目が出来、崩れ落ちそうだ。
「ゴッドスピードをかけるわ!」
 ルカルカが最後の仕上げをしている間に、遂に氷はガシャンと大きな音を立てて壁が割れた。
 しかし破片の間から覗くモンスターに向かって、火村が発動させていたヒプノシスをすかさずにかける。
 モンスターは攻撃をしようと無数に枝分かれした舌を飛びださせるが、ヒプノシスを喰らったその動きは鈍い。
「遅い!」
 ミルゼアは目の前にきた数本の舌を落とした。
 その間にモンスターの後ろに綿貫が「今のうちや!」と回り込む。
 彼女を追いかけようと向きをかえようとしたモンスターだが、その腕を漆髪が銃を構えて居た。
「そこ……狙い撃つ!」
 漆髪の銃撃は見事に関節に当たり、モンスターは悲鳴を上げる。
 その瞬間をルカルカは逃さない。
 壁を利用して空中に飛び上がると、龍飛翔突を繰り出した。
 彼女の薙刀の刃に貫かれたままモンスターは何とか動こうともがくものの、虫に侵され始めた足が思うように動かず、もがけばもがくほど傷は深くなり、悲鳴が洞窟内に響きわたる。
 その悲鳴に負けない声量で綿貫が叫んだ。
「やっぱりさっきの虫が効いてるみたいや!ケツが何か変な色になってんで!」
 彼女の声に合わせて、樹月が閉じていた目を開いた。
 もはや誰かに向かって、ではない舌の攻撃を左腕の黒曜石の覇剣で軌道を逸らし受け流すと、その隙をついて右腕の光条兵器を構え思い切り身体をしならせた。
「終わりだ!!」
 突きはモンスターの顔面を貫き、モンスターは絶命する。
 ルカルカと樹月が剣を引き抜くと、虫病が全身に回ったモンスターは乾燥しきった皮膚をまるで砂の城のように崩れさせ、跡形も無く消えてしまった。



 洞窟の入り口へ戻ってきた美緒達を出迎えたのは――
「美緒おねえちゃん!」
 勢いよく美緒の胸に抱きついたのはヴァーナーだった。その後ろには如月と騎沙良の姿もある。
「まあ!無事でしたのね!」
「エースおにいちゃんたちがたすけてくれたんです!不思議なお水で身体を洗ったら傷がなくなったんですよ!」
 ヴァーナーの後ろでエースがウィンクする。
「癒しの泉を見つけたんだ。あとでそちらの負傷者も行った方がいいみたいだね」


「ホント、お気に入りの水着がボロボロだわ。新しい水着買わなきゃかしら」
 頬を膨らませるセレンフィリティにセレアナが溜息をつく。
「また水着なの?たまには肌を晒さないお淑やかな服でも買ったらどうなのかしら」
「だってこんなことできるの、今だけだし!」
「セレンって本当……露出狂」
 セレアナの言葉に美緒が慌てて両腕で胸を隠したので、全員が噴き出してしまった。

「皆ボロボロだけど元気そうだねぇ」
 とノンビリ現れたのは緑色のフラッフィーモルフォと行った清泉、白銀だった。
「そんな事ないよ。結構大変だったんだから」
 服の裾で眼鏡を拭きながら答える騎沙良に清泉は笑うと続けた。
「じゃあこれは頑張った皆へのご褒美になるかな?」
 彼の声を合図に清泉と白銀の後ろから数え切れない程のフラッフィーモルフォが飛び立った。
 七色の光はクリスタルに反射し、洞窟内がステンドグラスの様にキラキラと照らされる。
「……なんて美しいんですの……」
 光り輝く洞窟内で、生徒達は暫しの間彼等が守った幸せを、仲間達と分かち合った。



 その後の話しだが美緒達が洞窟から出ると、彼女を崩城が待ち受けていた。
 彼女の前には、リリィ、マリカ、テレサ、レキ、チムチムが正座で座っている。
「先生達にはお金なると思ったとか、申し訳ありませんとか出任せで誤魔化せたんですけど……崩城さんにはすぐ論破されてしまいましたわ」
「あたしは荷物が多すぎるって怪しまれて捕まっちゃった」
「(わたくしは初めからそうなるって分かってましたわ)」
「……チムチムのチャックを直しにきたって言ったんだけどバレちゃった」
「チムチム背中がかゆいアルって言ったのに駄目だったアル」
 こってり絞られる!と、思ったものの崩城は何も言わない。
 美緒が首をかしげていると、七瀬が禁止区域に侵入する申請書をそっと美緒にさし出した。
「危ない事をしてたのは確かなんだから、今度から無茶しないでね?」
 それに苦笑すると崩城は美緒のおでこを人差し指でトンとつついた。
「美緒、もしその生き物が美しい姿であなたを騙すような生き物だったらどうするつもりだったの?
 貴女だけでも十分危険なのに他の生徒まで巻き込むなんて、少し軽率だったんではないかしら。
 でも……まあ無事で何より。先生方には私からフォローを入れておくから、今回は反省文だけで何とかしてあげますわ」


***


 それから幾日経った、ある日の百合園女学院での出来事。

 泉 美緒とラナ・リゼットが校舎内にある庭園の東屋で午後のお茶の一時を楽しんでいると、柔らかな日差しに何かが煌めいているのが目に入った。
「あら? あれは何かしら」
 二人が目を凝らしていると、不思議な煌めく何かがこちらへ近づいてくるのが見えた。
 美緒は目を輝かせて立ち上がる。

「お姉様!」
「ええ、行きましょう美緒!」

新たな冒険が、始まろうとしていた。


担当マスターより

▼担当マスター

東安曇

▼マスターコメント

 ここまで読んでくださって本当に有難うございました。
 初めての事で不慣れな部分も多々あるかと思いますが、皆さんが楽しんで下さったら嬉しいです。
 それでは、またお会いできると嬉しいです。